5 / 28
4. 事務員の仕事
しおりを挟む「初めまして、天女様~。僕は事務員のアータミ・ハルトネンって言いますよろしくお願いしますね~」
栗色のくせっ毛を四方に跳ねさせニコニコと人の良い笑みを向けて挨拶をする男性。身長は私と同じくらいだろうか。彼は20歳なのだが小柄な身長だ。
「私は雪原志帆です。これからよろしくお願いします」
「シホさんですね、よろしくお願いします~。では、管理主任のところまで案内します~」
ほわほわとした雰囲気で柔らかそうなくせっ毛を跳ねさせながら前を歩く。私は彼の後をついて行くが先程から視線が痛い。
今、私は事務員を纏める管理主任に会いに行くために学園の廊下を歩いているのだが、生徒達が遠巻きにずっと此方を見て小声で何かヒソヒソと話しているのが聞こえる。
居心地が悪い。私は親友が鬱になりやすくその親友を助ける為に人の感情には機敏になっていたから分かる。彼等は私の事を天女様といいながらも誰一人として私を受け入れてくれていない。前の天女様がどんな人だったのかは知らないし今その人達がどうしているのかも分からない。だけど、帰り方が分かるまでは此処で過ごさなくてはならない。
早くこの世界での生活に慣れて学園から出ていくかしないといけないなぁ。ぼんやりとそんな事を思っているとどうやら目的地に着いたようだ。
アータミくんはドアをノックして室内に入る。室内には管理主任と思われる中年の女性が座っていた。
「貴方が天女様ね。早速だけど今日から働いてもらうけどいいかしら」
女性は鋭い目付きて問う。
彼女はレア・ラスクさん。アータミくんの上司で厳しい人だが、よく失敗をするアータミくんを叱りつつも決して見捨てることのない根気強くて優しい人だと私は漫画の知識で知っている。
「はい、大丈夫です。何をすればいいですか」
しかし、気にせずに真っ直ぐ女性を見つめて答えると管理主任は目を丸くして驚いている。
何か驚くような事を言っただろうか?怪訝な表情を作ると彼女は慌てて咳払いをして指示を出す。
「では、先ず貴方には事務員の服装に着替えて貰い校舎裏の掃き掃除に草刈り、それが終わったらアータミくんと一緒に書類の生理を御願いね。分からない事があればアータミくんに聞いて頂戴」
「はい、分かりました。では早速掃除のしやすい格好に着替えて来ますね」
指定された洋服を持ち頭を下げて部屋の端に設置されている更衣室に向かった。
用意された服は2種類。
ラスクさんが着ていたものと同じ白いドレスと時代錯誤じゃないかと思うほどの工事現場の人が着るつなぎを渡された。
つなぎはいい。動きやすくて草刈りなどには適切な服装だろう。だが、何故事務服がドレスなのか。
学園長の服装から男性のスーツがある事は分かったが、もしかして女性用のスーツは無いのだろうか。
私は取り敢えず、校舎裏の清掃に相応しいつなぎの格好に着替え更衣室から出る。
「わあ、シホさんよくその服が正解だと分かりましね~」
一通り今着替えた服とドレスを持って更衣室から出るとアータミくんはパチパチと手を鳴らして褒め称える。ラスクさんはまたも呆然としていた。
「正解って…。今から校舎裏の清掃ですよね?ドレスなんか着たら汚れるじゃないですか」
何を当たり前の事を、と思いつつそう述べるとまたもやアータミくんが驚愕するような事を述べた。
「今までの天女様は全員事務服に着替えて出てきたんですよ~。着替えるように言ってもなかなか作業着に着替えてくれなくて困りましたよぉ」
草刈りもあると分かっている校舎裏の清掃にドレスを着て挑もうだ何てその人達は本当に私と同じ世界から来た人達なのだろうか。
「お喋りはここ迄です。わたくしの発言から作業着に着替えるという発想に至った事は褒めましょう。後はアータミくんに任せますので何かあれば直ぐにアータミくんに聞くように」
彼女はそれだけ言うと部屋から出ていってしまった。
残された私はアータミくんからこれから使うロッカーを聞いて服を置いてアータミくんの案内で校舎裏に向かう。
校舎裏に着く前に倉庫によると魔道具で出来た草刈機なるものと箒を持って再び校舎裏に向かった。
「えーと…此処の草を刈ればいいんだよね?」
「はい。そうですよ~」
校舎裏に着いてアータミくんから清掃の仕方を聞いたのだが、驚きに再度確認をする。
草刈りというから平原のような場所でもあるのだろうと思ったら、広過ぎる平原がある事にはあるのだが、私が担当する場所にあるのはどう見ても花壇だ。
その周りの草をこの草刈りで刈れと言っているのだ。
「アータミくん、聞いていいかな。この雑そ…草は此処に必要なものなの?」
「あはは~、シホはおかしな事を言うんですね~。必要な草を切るわけないじゃないですかぁ」
うん。だよね。知ってる。
だったらナンデ?
不要と言うならただの雑草だよね。刈るだけじゃ駄目なんじゃないかな~
「アータミくん、それなら草を刈るより毟る方がいいんじゃない?」
「毟る?毟るってなんですか?」
…………は?
草むしりを知らない……だと?
「いやいやいや、草むしりだよ?草を根っこから引き抜く作業だよ?!」
「んー、すみません。よく分からないです~。草むしりってどうやるんですかぁ?」
なんてことだ。
本当に草むしりを知らないとは。
雑草は根っこから排除しないと意味が無い。それに花たちにとっても必要な成分を雑草に横取りされてしまうから刈っただけでは意味が無いのだ。
「いい?草むしりってこうするの」
私は花壇の傍に座り込めば素手で雑草をむんずと掴み根っこから引き抜く。
「わあぁ、シホさんそんなはしたない座り方しては駄目ですよ~」
しかし、アータミくんは両手で顔を隠して顔を赤くし慌てている。
どうやら、この世界では所作については中世ヨーロッパのような上品な所作が一般的らしい。だから、淑女がう〇こ座りなんて以ての外なのだろう。
「大丈夫です。パンツ履いてますしつなぎだからパンツ見えないし」
「な、な、な。なんてこと連呼してるんですか!シホさんは痴女ですか!」
いや、確かにパンツ連呼はレディとして元の世界でもあるまじき発言だろうが、ここまで狼狽えなくてもと思わなくもない。
このまま、話していても仕事が終わらないと踏んだ私はアータミくんに必要なものがこの世界にないか聞いてみる。
「アータミくん、手袋はありますか?手袋を頂きたいのですが、」
そういうと、アワアワしていたアータミくんは漸く正気に戻り持っていると答え手袋を探る。
「良かったです。シホさんにもちゃんと女性らしいところがあったんですね。女性にとって手は大切ですもんね。汚れたら大変です」
何処かほっとした様子で答えるアータミくんに首を傾げながらも差し出された手袋を受け取る。
そこにはグローブが握らされていた。
「これは?」
「グローブですよ~?」
違う。そうじゃない!
私が言った手袋は軍手の方だ!!
何故パーティグローブが出てくるのか。この学園の方針が心配になってくるレベルだ。
ちなみに、軍手と言ってみたところ案の定知りませんでした。
私は仕方なくグローブを手に着け汚すのが勿体ないが値段が高くないことを心の中で願いながら草を毟っていく。
アータミくんが何か喚いていたが、取り敢えず雑草を抜くという行為の有効性を話せば「シホさんは物知りですね~」なんて尊敬の眼差しを向けられたが説き伏せる事に成功した。
後は、アータミくんには自分の仕事に戻って貰って草むしりに集中することにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
621
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる