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14.誤解
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何事かと次々と人が集まって来た。
後から加わった者へ説明する言葉の中に「王妃様がシルヴィア様に…」といった声も所々聞こえてきた。
トラウマとも呼べる恐怖が蘇る。侮蔑、嘲笑、嫌悪、軽蔑、蔑視、猜疑といった負の感情が向けられる。立ち尽くすロズリーヌの身体は小刻みに震えていた。
「シルヴィア嬢、不注意とは?もっと詳しく聞かせて貰えるか?」
クラースは周囲を一瞥し、シルヴィアへと視線を戻し尋ねた。
シルヴィアは一瞬、まばたきをし、微かに目を伏せた。そして、あくまで控えめに、けれど聞き手の心にさざ波を立てるような口調で応じる。
「ええ……陛下。王妃殿下とお話をしていた際に、私が少し過去の話を持ち出してしまいましたの。それで……もしかすると、王妃殿下のお気を悪くさせてしまったのかもしれませんわ」
彼女の言葉は、まるでロズリーヌが感情的になった末の行動だったかのように聞こえた。
「その直後でしたわ。王妃殿下が急に一歩こちらへ……それで、このようなことに。私の不注意というのは、陛下の前でそのような話を持ち出してしまったという意味でございます。まさか、そのことで王妃殿下を動揺させてしまうとは……」
静かに言いながら、シルヴィアは周囲に「わたくしにも非があったのです」と訴えるように目線を落とした。だが、それでもロズリーヌが原因だったという印象は強く残る。
クラースはロズリーヌへと目を向けた。彼女の顔は青ざめ、唇は固く結ばれている。その肩は小さく震え、今にも声を失いそうなほどだった。
──あのロズリーヌが、故意に誰かを傷つけるような真似をするはずがない。
シルヴィアの言葉は、確かに嘘ではないのかもしれない。だが、それはあくまで彼女の見た「一側面」でしかない。何よりも、ロズリーヌの表情がすべてを物語っていた。こんな顔をする者が、自ら仕掛けたとは思えない。
クラースは静かに、だが威厳をもって口を開いた。
「……誤解が生じているようだな」
その声に、ざわついていた空気が少し落ち着く。
「王妃が感情を乱すようなことがあったとすれば、それを気遣えなかったのは私の落ち度でもある。シルヴィア嬢、君の話が悪意のないものであったのは理解している。だが、君の話方ではロズリーヌがわざとぶつかったとも取れる言い方だ」
クラースの鋭い視線がシルヴィアに刺さる。
「私は事故だと思っているが、どうだろうかシルヴィア嬢?」
クラースは周囲の者たちにも聞こえるように声を張り上げ、シルヴィアへと問いかけた。
シルヴィアはその問いに一瞬言葉を失い、周囲の視線が集まる中でかすかに肩を震わせた。けれどもすぐに微笑を作り、静かに応じる。
「……ええ、陛下。確かに、事故……だったのかもしれませんわ」
その返答は明確な肯定とは言い難かったが、場に漂っていた「王妃が意図的にぶつかった」という疑念を一歩後退させるには十分だった。シルヴィアの態度に曖昧さが残るとはいえ、国王の言葉に異を唱える者は誰もいない。
そのとき、ヴィオラが前に進み出る。
「失礼いたします、陛下。僭越ながら、私からもひとつ、申し上げたきことがございます」
クラースが頷きで許可を示すと、ヴィオラは会場の中心に立ち、はっきりと声を響かせた。
「王妃殿下がよろめかれたのは、他の女性とぶつかったためです。私がその場をはっきりと目撃しておりました」
その言葉に、場の空気が再び一変した。
「つまり、王妃殿下が故意にシルヴィア嬢にぶつかったというのは、誤解でございます」
ざわ……と貴族たちがざわめく。
「なんですって……?」
「そんなことが……」
クラースはヴィオラをじっと見つめ、そして短く問う。
「確かか?」
ヴィオラは静かに、しかし力強く頷いた。
「ええ、間違いありません。私は、王妃殿下が他人の影響でバランスを崩し、それでも転ばぬよう耐えた結果、偶然シルヴィア嬢に触れてしまったのをこの目で見ております」
クラースは目を伏せて一瞬考えた後、視線をシルヴィアに向ける。
「そうか。ならば、王妃の行動に誤解が生じていたようだな。……シルヴィア嬢、謝罪する必要はないが、この件は事実として、皆にも正しく伝わるようにしてほしい」
静かな口調の中に、王としての厳しさが滲んでいた。
それは「シルヴィアの策略」に気づきつつも、公の場では角を立てずに収める一手。
だが、同時に「この王妃を守る」という強い意思表示でもあった。
「私は王妃と席を外す。皆は残りの時間存分に楽しんでくれ」
そう言い残してクラースはロズリーヌの肩を抱いて奥へと消えた。これを皮切りに集まっていた人々も散開していく。
思惑を阻まれたシルヴィアは一人、悔しそうに唇をかみ締めた。
後から加わった者へ説明する言葉の中に「王妃様がシルヴィア様に…」といった声も所々聞こえてきた。
トラウマとも呼べる恐怖が蘇る。侮蔑、嘲笑、嫌悪、軽蔑、蔑視、猜疑といった負の感情が向けられる。立ち尽くすロズリーヌの身体は小刻みに震えていた。
「シルヴィア嬢、不注意とは?もっと詳しく聞かせて貰えるか?」
クラースは周囲を一瞥し、シルヴィアへと視線を戻し尋ねた。
シルヴィアは一瞬、まばたきをし、微かに目を伏せた。そして、あくまで控えめに、けれど聞き手の心にさざ波を立てるような口調で応じる。
「ええ……陛下。王妃殿下とお話をしていた際に、私が少し過去の話を持ち出してしまいましたの。それで……もしかすると、王妃殿下のお気を悪くさせてしまったのかもしれませんわ」
彼女の言葉は、まるでロズリーヌが感情的になった末の行動だったかのように聞こえた。
「その直後でしたわ。王妃殿下が急に一歩こちらへ……それで、このようなことに。私の不注意というのは、陛下の前でそのような話を持ち出してしまったという意味でございます。まさか、そのことで王妃殿下を動揺させてしまうとは……」
静かに言いながら、シルヴィアは周囲に「わたくしにも非があったのです」と訴えるように目線を落とした。だが、それでもロズリーヌが原因だったという印象は強く残る。
クラースはロズリーヌへと目を向けた。彼女の顔は青ざめ、唇は固く結ばれている。その肩は小さく震え、今にも声を失いそうなほどだった。
──あのロズリーヌが、故意に誰かを傷つけるような真似をするはずがない。
シルヴィアの言葉は、確かに嘘ではないのかもしれない。だが、それはあくまで彼女の見た「一側面」でしかない。何よりも、ロズリーヌの表情がすべてを物語っていた。こんな顔をする者が、自ら仕掛けたとは思えない。
クラースは静かに、だが威厳をもって口を開いた。
「……誤解が生じているようだな」
その声に、ざわついていた空気が少し落ち着く。
「王妃が感情を乱すようなことがあったとすれば、それを気遣えなかったのは私の落ち度でもある。シルヴィア嬢、君の話が悪意のないものであったのは理解している。だが、君の話方ではロズリーヌがわざとぶつかったとも取れる言い方だ」
クラースの鋭い視線がシルヴィアに刺さる。
「私は事故だと思っているが、どうだろうかシルヴィア嬢?」
クラースは周囲の者たちにも聞こえるように声を張り上げ、シルヴィアへと問いかけた。
シルヴィアはその問いに一瞬言葉を失い、周囲の視線が集まる中でかすかに肩を震わせた。けれどもすぐに微笑を作り、静かに応じる。
「……ええ、陛下。確かに、事故……だったのかもしれませんわ」
その返答は明確な肯定とは言い難かったが、場に漂っていた「王妃が意図的にぶつかった」という疑念を一歩後退させるには十分だった。シルヴィアの態度に曖昧さが残るとはいえ、国王の言葉に異を唱える者は誰もいない。
そのとき、ヴィオラが前に進み出る。
「失礼いたします、陛下。僭越ながら、私からもひとつ、申し上げたきことがございます」
クラースが頷きで許可を示すと、ヴィオラは会場の中心に立ち、はっきりと声を響かせた。
「王妃殿下がよろめかれたのは、他の女性とぶつかったためです。私がその場をはっきりと目撃しておりました」
その言葉に、場の空気が再び一変した。
「つまり、王妃殿下が故意にシルヴィア嬢にぶつかったというのは、誤解でございます」
ざわ……と貴族たちがざわめく。
「なんですって……?」
「そんなことが……」
クラースはヴィオラをじっと見つめ、そして短く問う。
「確かか?」
ヴィオラは静かに、しかし力強く頷いた。
「ええ、間違いありません。私は、王妃殿下が他人の影響でバランスを崩し、それでも転ばぬよう耐えた結果、偶然シルヴィア嬢に触れてしまったのをこの目で見ております」
クラースは目を伏せて一瞬考えた後、視線をシルヴィアに向ける。
「そうか。ならば、王妃の行動に誤解が生じていたようだな。……シルヴィア嬢、謝罪する必要はないが、この件は事実として、皆にも正しく伝わるようにしてほしい」
静かな口調の中に、王としての厳しさが滲んでいた。
それは「シルヴィアの策略」に気づきつつも、公の場では角を立てずに収める一手。
だが、同時に「この王妃を守る」という強い意思表示でもあった。
「私は王妃と席を外す。皆は残りの時間存分に楽しんでくれ」
そう言い残してクラースはロズリーヌの肩を抱いて奥へと消えた。これを皮切りに集まっていた人々も散開していく。
思惑を阻まれたシルヴィアは一人、悔しそうに唇をかみ締めた。
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