奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡

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第一章

3 婚約破棄

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「婚約を破棄する!」


凛とした良く通る声が会場に響いた。

突き付けられる罪状の文字。

言い訳はしない。

だって、無駄だもの。


「ルナリア、何か言うことはあるか」

パトリス殿下からの最後の情け。

冤罪を晴らすなら此処だろう。

だけど、私が行った悪行は命に関わること以外は全て事実。

言い逃れの余地もない。


「では、お言葉に甘えて。アメリー様には心から申し訳ないと思っておりますわ。許されない事でしょうが、辛い思いをさせてしまい申し訳ございませんでしたわ」

私はアメリーに向かって深く頭を下げた。

周囲がザワつく。

高飛車で気丈に振る舞っていた私が頭を下げればそりゃあ、驚くよね。


なんて、他人事のように心の中で笑った。


「それと、パトリス様。わたくしは貴方様のことを心よりお慕い申しておりました。今となっては叶わぬ夢。どうか、アメリー様と御幸せに」


潤む瞳を誤魔化すように双眸を細めて微笑んだ。


さよなら。

私の初恋。


これで、やっとこの胸を切り裂くような苦しみから解放される。


呆然とする観衆たちを残して私は背筋を伸ばし会場を後にした。


「ふっ…うっ。うう~~」


会場を出た瞬間、緊張の糸が切れた。


恋がこんなに苦しいなんて。


知りたく無かった。


恋も知らずに終わった前世。


こんな事なら知らないままが良かった。



パチパチパチ


静寂が落ちる回廊で場違いな拍手が響く。


「うん。やっぱり、素敵だわ」


顔を上げると柔らかそうな亜麻色の髪に薄い水色の瞳をした女性が立っていた。


「はあ…やっと、この時が来た。長かったわ」
「アネット…様?」

目の前に佇むのはアネット・グラニエ。

ディオン様の姉君に当たる方だ。

ディオン様とは幼馴染の為、その姉君とも面識はある。


だけど、何だか様子が変?

それに、彼女は異例の業績を数多く残し領地経営まで任されている為領地に引き篭っていると聞いていた。


「ああ、やっぱりルナリアちゃん最高。ねぇ…貴方転生者でしょ」


突然言われた言葉に驚愕して目を見開く。

「安心して。私も転生者なのよ。私ね、前世からルナリアちゃんが大好きなの。アメジストの髪に緑の宝玉のような瞳。悪役令嬢としての気の強さ。何より、一途なところとか」

そう言って浮かべる彼女の表情は恍惚。

アネット様の手が私の髪を掬い上げる。


「うぇっ!?えっと…あの…」


驚き過ぎて言葉が出ない。


アネット様も転生者!?


え、でも何で私が転生者だって知ってるの?

分からないことばかりで頭が追いつかない。


「アネットお嬢様、ルナリア様がお困りです」

私の様子を見兼ねたアネット様の侍女が助け舟を出してくれた。


「あらやだ。ごめんなさいね。ルナリアちゃんが手に入ると思うと嬉しくって」


アネット様は無邪気に笑う。


ん?


手に入れる?


「誰が誰を?」
「私が貴女を」


彼女は惚れ惚れとするような笑みを浮かべる。


「私ね、気が強い子とか美しい子が大好きなの。このままだとルナリアちゃん奴隷になっちゃうしそれなら私が貰ってもいいよね?」


誰だ。


この方を氷の女王なんて呼んだ人は。


頬を赤らめて恍惚とした表情は氷の女王の二つ名からは程遠い。


「お嬢様。馬鹿丸出しですよ」
「クロエひどおい」

侍女の歯に衣着せぬ言葉に驚く。

プンプンと愛らしい音でもつきそうな怒り方をするアネット様。

私が呆然としていると、漸くアネット様は説明してくれた。


クロエさんはグラニエ家の影のような存在でずっと私を見張っていたらしい。


全然気付かなかった……

その為、私が倒れた日から人格が変わったのだと直ぐに気付いたとのこと。


そして、一番の衝撃的だったのは。


私が奴隷になるのは私の父の企みだと知らされたことだった。


「貴女を人商人に売って、奴隷として売れた貴女の売上の四割を受け取る手筈だったのよ」


包み隠さずに教えてくれた。

あの父親ならやりかねない。


昔から家庭よりも権力や地位、お金に執着する人だったし。


「そこで、貴女が奴隷になってしまう前に私が貴女を貰い受けようって魂胆なの」


奴隷になるのは私も嫌。


「ルナリアちゃんだって知らない人に飼われるより私に飼われる方がいいでしょ?」


彼女の言う通り知らない人に買われるよりは、同じ転生者であるアネット様について行った方がマシかもしれない。


「よろしくお願いします。アネットお嬢様」
「やったあ!じゃあ決まりね。これから宜しく。ルナリアちゃん」

差し出された手を私は握り返した。


聞いた話によると、侍女のクロエさんもアネット様に買われた身らしい。


元は盗賊であったリーダーの彼女を赤い瞳が綺麗だからと、しつこく口説いて手に入れたんだとか、



本当に私の人生……これで良かったのかな?


そう思わずにはいられなかった。
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