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第一章
5 発熱
しおりを挟む手続きやらは私が知らないうちにアネット様によって円滑に進められた。
気が付いたら二日後には学生寮のディオン様の部屋に押し込められていた。
「じゃあ、明日の朝ルナリアちゃんを迎えに来るから準備して待っててね。二人で仲良くするんだよ~」
アネット様はにこやかに手を振って部屋から出て行った。
部屋に取り残された私と部屋主であるディオン様。
「待ってください」
慌てて後を追いかけるが既にアネット様とクロエさんの姿は無かった。
「諦めろ」
「ディオン様はどうしてそう落ち着いておられるのですか!」
これから、一緒に暮らすというのに!!
ディオン様はソファに凭れ長い脚を組み本を開いて目を落とす。
無視ですか!!
「一度下がらせて頂きます」
私に用意されたのは広過ぎる部屋の奥にある従者の部屋。
これから、この部屋でディオン様のお世話する事となった。
頭を下げて奥の部屋へと引っ込む。
「どうしてこんな事に……」
頭を抱えた。
アネット様のお世話をさせて頂くのかと思えば何故かディオン様の侍女にされ。
それを、グラニエ家の人間はあっさりと受け入れるし。
目まぐるしく変化する環境に頭が追いつかない。
「…おい。おい!」
ドンドンと戸を叩く音と苛立たしい声が聞こえ目を開ける。
いつの間にか眠ってしまっていた。
「すみません。今開けます……っ、?」
一瞬立ちくらみした気がした。
って、それよりも早くディオン様のところに行かなくちゃ。
私は急いで部屋の扉を開けた。
「申し訳ございません。ディオ──」
頭を下げようとして動きが止まる。
ディオン様の手が私の額に当てられていた。
「やっぱりか」
「あの?」
「今日はこのまま休め」
「え、いや…しかし」
「今日はもういいと言ってるんだ」
自分で呼んどいてもういいって……
だけど、主人よりも先に休む侍女が何処にいるだろうか。
「では、せめてお茶の用意だけでも…っ、」
そう言って足を踏み出すと目眩がして身体が前に傾く。
「……だから無理するなと言っただろ」
その言葉は初めて聞きました。
傾いた身体をディオン様が受け止め、不機嫌そうな声が頭上から聞こえた。
「申し訳ございません…」
謝罪して離れようとした時。
「きゃっ…。ちょ、あの…ディオン様!?」
ディオン様にお姫様抱っこされていた。
うひゃーっ!おおおお姫様抱っこ!?
私今人生初のお姫様抱っこされてる!?
カーッと熱が頬に集まる。
「んぶっ……」
ベッドの上に放られ、布団を顔まで被せられた。
「ほらみろ。顔が赤くなって熱が上がったんじゃないか」
ベッドの開いたスペースに腰掛け影が落ちる。
目の前には見蕩れる程端正な顔が近付いてくる。
くるんとした上向きの長いまつ毛に
切れ長の目。
色素の薄いキメ細やかな肌。
鼻筋は綺麗に整い
線が細いと思った身体は意外にも骨格がしっかりとしている。
パトリス様が陽だまりのような陽の王子様なら
ディオン様は冷たい氷を纏った陰の王子様のよう。
そんな事を考えている間にも、ディオン様の顔がかなりの至近距離まで近付いていた。
ディオン様の右手が私の頭部を押さえ付け前髪を押し上げている。
ちょ、ちょ……
「ちょっと待って下さい!い、今何しようと?」
ディオン様の肩を掴みグイッと上に突っぱねる。
「何って、熱を測ろうとしただけだが」
測り方!!
測り方がいちいちあざとい!
何処の乙ゲーのキャラですかっっ
って。
乙女ゲームに似た世界なんだった…
「大丈夫です。熱はないので。恐らく、環境の変化に身体が追いついていないだけなので」
本当に無駄に顔が整っているだけ心臓に悪い。
こんなイケメンを間近で直視する方が熱が上がる。
何とか身体を離してくれたことにホッと息をつく。
「君は……」
ん?
ディオン様の端麗な眉宇が僅かに寄った。
「無理に行かなくてもいいんだぞ」
何処に…?
と、考えて直ぐに思い至った。
彼は学園の事を心配してくれているのだろうか。
まあ、婚約破棄されたばかりだしディオン様の侍女として行くなら殿下とも顔を合わせることになるだろう。
「大丈夫ですわ。わたくしはアネット様に拾われディオン様の侍女としての任を任されました。私情は挟みませんのでご安心下さい」
目まぐるしい状況のお陰か婚約破棄の事などすっかり忘れていた。
それに、もう私の中で折り合いもついている。
まだ、あの二人を見るのは辛いかもしれないが私から関わることが無ければ向こうも気にも止めないだろう。
「……何故笑える……」
「え?」
「いや、何でもない」
ボソリと何か呟いた気がしたけど気の所為だっただろうか?
ディオン様は何時もの冷たい空気を纏って立ち上がる。
「明日からは俺の侍女としてこき使ってやるからしっかりと体調治しとけよ」
俺?こき使って…??
ディオン様はフッと笑って部屋から出て行った。
誰だ今のは!?
ディオン様の急変(?)に理解が及ばず目を白黒とさせた。
情報処理が追いつかなかった脳内はキャパオーバーを起こしてそのまま深い眠りに落ちた。
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