奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡

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第一章

37 謝罪

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この裁判は既に筋書きが決まったものだった。



私も陛下の言葉に驚いたが、よくよく考えればそれもその筈だと納得した。


起訴したのはアネット様だ。



彼女が動いたのならば敵に一寸の隙も与えないだろう。



貴族ならば誰もが知っている。



アネット様は中途半端に物事を起こさない。


やるならば徹底的に。



だからこそ、貴族達には氷の女王と恐れられ、領民や陛下には功績者として讃えられているのだ。


「そんなっ、父上。貴方はルナリアとグラニエ家の味方だと言うのですか!我々の話を聞いては下さらないのですかっ!」
「儂は正しき方を認め、悪しき方を罰するに過ぎぬ。パトリスよ、お前達に勝ち目は無い。お前達が何かを言ったところで全て裏付けがされる事だろう。ルナリア嬢に冤罪を被せた時点でお前達には勝ち目がなかったのだ」
「冤罪?何のことですか?」
「次の論題で貴様等がどれだけ取り返しのつかないことをしたか自覚することだろう。裁判官、続けてくれ」
「はい」


裁判官は返事を返して審理を続けた。



「次にジェルマン殿、エゾン殿、エリク殿の女性暴行未遂について審議致します。御三方に問います。本日、学園内にてそちらの男子生徒達を使いルナリア嬢に暴行を働いた事に異論はありませんね」


裁判官は被告人席の少し奥にいる男子生徒達に目を向けて三人に問う。



否応無く、学園で行われた行為を思い出しカタカタと身体が震える。


震えを収めようと爪を立てて自身の両腕を掴む。


今でも鮮明に思い出す。


複数の男達に掴まれた手首も足も。


まさぐるように身体中に這う手の感触がまだ残っている。



暴れても力が適わなくて、叫んでも嘲笑で返され離してくれない。


「大丈夫よ。もう、大丈夫。本当に怖い思いをさせてしまってごめんなさい。何があっても私達が貴女を守るから。助けるのが遅くなってしまってごめんなさいね」


私の様子に気付いたアネット様が私の頭を抱えて抱き締める。



幼子をあやすように律動を刻んで背中を叩く。



優しい声音とアネット様の匂いに安心感が広がる。


「ほら、ディオンも何か言いなさいよ」
「人の役目をかっさらっておきながらそれを言いますか……」


アネット様の言葉に顔を上げてディオンに目を向けると彼は少しだけ此方に伸ばされていた手を頭部にやって、後頭部をかく。


「ルナリア……君は私が守る。だから、心配するな」


ディオン様はそう言うと私の頭を撫で優しく微笑んだ。


アネット様とディオン様のお陰で恐怖心がすぅっと引いていく。


まだ怖くはある。


だけど、もう大丈夫なのだと絶対的な安心感があった。


ディオン様もアネット様もクロエさんだっている。



もう大丈夫。



恐らく、この審議で私に話を振られる可能性は高い。



気をしっかり持たなくちゃ。



しっかりと証言をしなくちゃ。



「アネット様、ディオン様ありがとうございます」



私はアネット様の腕の中から、上体を起こして正面に向き直る。



膝の上に乗せた手をディオン様の大きな手が覆った。


私がついている。



そう、言ってくれているように思えた。


「先にルナリア嬢がアメリーに手を出したんだぞ……!」


周囲の声が戻って来ると同時にジェルマン様の怒鳴るような声が聞こえた。


「だからといって、女性暴行を行っていい理由にはなりませんよね?」
「ほ、本気じゃなかったんだ。私達だって途中で辞めるつもりだったさ。ルナリア嬢にアメリーの恐怖を少しでも知ってもらいたかっただけなんです」
「そ、そうですよ。何も本気で犯そうとは俺達だって考えてませんでしたよ。な?」


エゾン様が言い繕う。



その後に続いて、一人の男子生徒が同調してほかの者達にも同意を求める。



その問い掛けにほかの者達も首を上下に振って同意を示した。



「話になりませんね。だからといって、一人の子女を複数の男性が囲んで追い詰めて良い訳がないでしょう!そもそも、本当に辞める気があったかどうかも怪しいものです。」
「確かにやり過ぎたかもしれませんが、本当に辞める気はあったんです!実際、ディオン達が来た時には辞めようとしていたのです」
「そうですか。ですがエゾン殿、あなた方が何と言おうともルナリア嬢に恐怖を与えたのは事実。それに、ディオン殿達が駆け付けた時にはルナリア嬢を複数の男子生徒で組み敷いて制服が乱されていたそうではないですか」
「そ、それは……。私達は辞めようとしたのですがルナリア嬢が犯されると勘違いして急に暴れ出したんですよ。それで、落ち着かせようと取り押さえているところだったのと、制服が乱れていたのはルナリア嬢が事の他暴れたせいでして」
「ボタンが弾け飛ぶ程にですか?」
「そうです。暴れるものだから手とかに引っかかってボタンが外れたんですよ」


なんて酷い応答だ。



まるで、私に責任転嫁しているような内容ではないか。



そんな事を思っていると、握られていたディオン様の手に力が籠る。



彼に目を向けるとディオン様は今にもエゾン様に掴みかかりに行きそうな程に怒りの目と形相をしていた。


「では、ルナリア嬢の意見も聞いてみましょうか。ルナリア嬢、当時の事をお話し出来ますか?無理そうであれば──」
「いえ、……お話し致します」


私は椅子から立ち上がる。


ポツリポツリと当時の状況を詳細に話す。



部屋を出ようとすると、ジェルマン様に男達の元に突き飛ばされたこと。



無理矢理床に押さえつけられたこと。



やめてと叫んでもやめてくれなかったこと。



話すに連れて傍聴者達から同情の声が聞こえてきた。



それに対して、ジェルマン様、エゾン様、エリク様、男達には非難の目が向けられた。


「よく頑張ったわね」



話し終わると、アネット様が無意識に硬く握りしめていた私の手を包み込んだ。


手のひらには爪がくい込んでいたけど、痛くはなかった。


アネット様のお顔を見ていると、何だか安心してしまって泣きそうになったけど、今はまだ泣いては行けないと叱咤して真っ直ぐと対面する人物に目を向けて座った。



「ルナリア嬢がお話し頂いたことは上がってきた報告と相違は無いようですね。先程もお話ししたようにジェルマン様、エゾン様、エリク様には王家の影がついております。」
「儂から一つ良いか」


陛下が裁判官の進行を止めて口を挟む。


「王家の影は王族からの命が無い限り勝手には動けぬ。その縛りによって影は避けられた事態を見過ごしルナリア嬢を守るに至れなかった。ルナリア嬢にはトラウマを植え付けてしまったこと、申し訳無く思う」


あまりの事態に直ぐに反応することが出来なかった。



頭こそは下げる事はなかったが、陛下が民に謝罪をするなど大事である。



国の象徴ともなる王は例え、自分が悪くとも下の者に頭を下げることがあってはならない。



それは、王家の威厳を守る為。



本人が謝罪をしたくても、王家の威厳を示す為に頭を下げる事はあってはならないのだが、先程の陛下の言葉は謝罪するものだった。



その為、何時も冷静なアネット様でさえも目を見開き、傍聴者達は中には口を開けて驚いている者もいた。


「進行を妨げてしまったな。審議を進めてくれ」


陛下は私の返答を待たずして進行を促す。



驚きで返答出来なかった訳では無い。



返答をしてはいけないと分かっていたから答えなかったのだ。


平民の私が、陛下の謝罪を断る返答も受け入れる返答もしてはいけない。



陛下の言葉は自分の胸のうちにしまって、何事もなかったように審議へと移った。

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