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第一章
40 パトリス殿下のトラウマ
しおりを挟む「折角ですのでこのまま、ルナリア嬢に対するもう一つの冤罪についても私からお話致しましょう」
ナゼール様は目下の被告人達を見下ろしながら話を進めた。
「アメリー嬢は暴行未遂だけでなく、ルナリア嬢に階段から突き落とされたとして傷害罪の誣告を行っております」
「貴様は何を言っている。その件に関しては私が直接この目で確認したのだぞ。階段から落とされて倒れているアメリーを発見したのはこの私だ」
「ではパトリス殿下、ルナリア嬢がアメリー嬢を突き落としている瞬間をご覧になられたということですか?」
「ルナリアは遺憾なことにアメリーを突き落として直ぐに逃げたんだ。西棟の階段を上っていると悲鳴が聞こえ慌てて上るとアメリーが倒れていたんだ」
「話になりませんね」
自信満々に答えるパトリス殿下にナゼール様が一刀両断する。
「なんだと!」
「アメリー嬢が階段から落とされたとされる日、ルナリア嬢には多数の目撃証人がいます」
「西棟に向かっていたという証言だろう。それは、私達が調査を行い書類に書いていたはずだ」
「いえ、違います。ルナリア嬢が当日放課後直ぐに帰寮されているという目撃証人が多数おります」
「何!?そんなはずはない!」
「これは事実です。学園に通う生徒、学年、学科関係無く調査した結果です。調査を行ったのはディオンですが。そして、学生寮の警備兵にも話を伺い、ルナリア嬢は学校が終わって直ぐに寮に戻られた事と、戻って来てから外出された目撃が一切無いことからルナリア嬢が犯人では無いと推測されます」
「だが、ルナリアが西棟に行くところを見たという証言もあるのだぞ!」
「ええ。そのようですね。ですが、随分と偏った調査を行われていたのですね。調査対象は同じクラスの生徒のみ。それも、全員あなた方と何かしら繋がりがある方達だ。こんな調査方法では口裏合わせを行ったと疑われても仕方の無い方法ですね」
「パトリス殿下達が行った証言者達が此方です」
ナゼール様の指摘に裁判官が手元の資料を傍聴席にも見えるように掲げる。
その証言をしたとされる者達は、全て同じクラスの者達で両手で足りる数の人数だった。
その次にディオン様が行った調査の資料には、パトリス殿下達の五倍近くの人数に調査を行い、全て直筆で署名がされていた。
「なっ、いつの間にこんな人数を。だ、だが、事実アメリーは怪我をしたし、ディオンの行った調査だって怪しいものだ。どうせ、権力でも使って適当に通りかかった生徒達に声を掛けて無理矢理書かせたんだろう!」
パトリス殿下がディオン様を指差して喚く。
しかし、ディオン様は相手にすること無く冷めた目を返すだけだった。
「その怪我ですが、アメリー嬢はかすり傷程度を随分と大袈裟に重傷であるかのように見せていたようですね」
「何を言っている。アメリーは本当に大怪我をしたんだぞ!危うく死ぬところだったんだ!それに、私が保健室に連れて行きその怪我の具合いも見ている」
「ほう、殿下も御一緒だったのですか。では何故その時におかしいと思わなかったのか尚更疑問ですね。保健医はアメリー嬢の怪我の具合いはかすり傷程度で二三日もすれば治ると言われませんでしたか?」
「ああ、言っていたな。あの保健医は薮医師だ!アメリーが少し触られただけでも辛そうに痛がっていたのに、異常は一切無くかすり傷だけだと抜かしたのだぞ!骨に響いているかもしれないと進言したのにアイツはそれは無いからといって適切な手当もしようとしなかった」
「それで殿下とアメリー嬢は他の医師にみてもらったりはしたのですか?」
「いや、アメリーが私に迷惑をかけられないからと言って同伴は断られたが、アメリーのかかりつけ医にみてもらったら至る所に打ち身があって下手をすれば骨折、或いは死に至っていたと言われたそうだ」
「そうです!私危うく死ぬところだったんです!それに、ルナリアが私を階段から突き落としたのは本当のことです!」
貴族の令息令嬢そして王族までもが通う学校の保健医を薮医師呼ばわりとは……
保健医として務める者は王宮の専属医師直轄の弟子達が推薦で学園に派遣されて数年務めた後、王宮の専属医師に昇格出来るようになっている。
町医者とは訳が違う。
その医師の言うことではなく、子爵令嬢のかかりつけ医の言葉を信じるとは何とも浅慮である。
「ふ…ふふっ。ふふふふふ」
唐突にアネット様が扇子で口元を隠しながら笑い出した。
反論をしていたパトリス殿下とアメリーも何事かとアネット様に目を向ける。
「これは失礼致しました。あまりにも程度の低い言い訳を思いつくものだとわたくし関心してしまって。つい、笑いが出てしまいましたわ」
「なっ!?アネット嬢それはどういう意味だ」
「どういう意味もこういう意味も言葉の通りですわ。アメリー嬢に一つお聞きしますが、階段のどの辺から落とされたのか教えて頂けるかしら?」
「一番上からですけど……それが何ですか」
「では、その階段、踊り場まで何段あるかご存知?大体の数でいいわ。貴女は何段くらい落ちたと思います?」
「二十段くらいだと思いますけど……」
それが何なのだと、アメリーはアネット様を睨み付ける。
「大体当たりね。段数は十八段数よ。じゃあ、その高さから落とされて打ち身だけで本当に済むと思っているのかしら。ねえ?パトリス殿下?貴方、階段から落ちるとどうなるのか一番分かっているのでは無くて?」
「あっ……ああっ」
「パトリス殿下……わたくしは聞いているのです。さっさと答えて下さらないかしら?階段から落ちた。それも、貴方の肩が当たって十段以上の高さから不意に落とされたご令嬢がどうなったのか。」
「あれはちがっ……私のせいでは。あれは事故で……」
アネット様の問いかけにあからさまにパトリス殿下が狼狽え始める。
怯えた表情を浮かべて首を左右に振って頭を抱えた。
「パトリス様、パトリス様どうされたのですか?パトリス様!」
パトリス殿下の取り乱し様にアメリーが問いかけるも彼には聞こえていないようだった。
「貴女パトリス様に何したのよ!」
アネット様をキッと睨み付ける。
「わたくしは質問しただけですわ。六年前殿下に階段から落とされた令嬢は後頭部を縫合する大怪我を負った。それに、ルナリアは五段以上の高さからでも捻挫する程の怪我を負っていますわ。二十段近くある高さから落ちて打ち身だけっていうのもおかしな話だと言いたかっただけなのだけれど……パトリス殿下はトラウマでも思い出してしまわれたのかしら?先程から自我を失った精神患者のようですわ。心配ですわね」
アネット様は眉宇を寄せて心配する素振りを見せてはいるが、扇子の下に隠された口元は口角を上げて弧を描いていた。
パトリス殿下の深層心理のトラウマを引き出したのは彼女だ。
しかし、素知らぬ顔で悠然と心配事を述べる彼女の姿をそっと胸の内にしまって見なかった事にした。
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