奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡

文字の大きさ
46 / 65
第一章

46 望む強さ

しおりを挟む
ルナリアと分かれた後、アネット、ディオン、クロエの三人は別室へと向かっていた。


「何処に行くつもり」


踵を返すディオンの腕をアネットが掴む。


「ルナリアの元ですよ」
「乙女の園を覗くつもり?何時からそんな変態になったのかしら」
「それは嘘でしょう」


アネットの冗談に真顔で返すディオン。


アネットの双眸が鋭く光る。


「……行ってどうするの」
「ルナリアの事だ一人で泣いている」
「だから?」
「姉さんが言いたい事は分かっていますよ。ルナリアは……私の従者だから守りたい……それが理由で良いでしょう」


眉宇を歪め弱った表情を浮かべた。



その表情にアネットは深い溜息を零す。


「分かっているならいいわ。だけど、貴方の想いを伝える事は許さないわ」
「直接は伝えませんよ……今はまだ……」
「そう……」
「だけど、姉さん。これだけは覚えておいてください。男は一人でも生きていけます。しかし、女は誰かが守らなければ生きて行けない。俺はルナリアを守る為に姉さんの言う通り力を付ける。……それに、目の前で涙を流す好きな女の涙も拭えないような甲斐性なしにはなりたくないんですよ」


それだけ言うとディオンはアネットに背を向けて、ルナリアの後を追った。


「宜しかったんですか?」
「んー……まあ、いいんじゃない?」


クロエはアネットの二歩程後ろについて歩きながら問う。


「それにしても青春ね~!そして、ディオンがあーんなキザ男だったとは。いや、攻略対象だからこそキザいのか?それに、漸く私に歯向かうようになって来たじゃない?これからどう成長するのか楽しみね」
「キザ男や攻略対象というものが何か分かりませんが、お嬢様が随分と楽しんでおられることだけは分かりました」
「そうね。ディオンにはグラニエ家を継いで貰わなければならないもの~。……だけど、あの子はまだまだ子供ね。あの子のルナリアちゃんに抱く想いが生半可なものじゃないことはさっきの言動で分かった。だけど、あのままじゃルナリアちゃんを傷付けるわ」
「互いに想い合っているのに……ですか?」
「だからよ。女は誰かに守られなければ生きて行けない。ディオンの言う通りだわ。それに、この世界では特にその言葉が身に染みるわね。互いに想い合うからこそ、ディオン自身がルナリアちゃんを一番傷付けてしまうのよ……」
「では何故止められなかったのですか?」
「私がでしゃばるものじゃないでしょ。それにね、姉心としては好きな女の涙も拭えないようなヘタレじゃなくて安心してるっていうのもあるのよ!」


アネットは振り返り快活に笑った。


それ以上、クロエが何かを聞くことは無かった。



#


どうしよう……


私は今、この現状をどう脱するか脳をフル回転させていた。



ディオン様に頭を抱えるようにして抱き締められたまま、顔を埋めて固まっていた。



私とディオン様は従者とご主人様。


先の言葉もアネット様のように従者を守れるようになるという意味合いだと理解している。



そう、深い意味合いは無い。



都合のいいように受け取ってしまいそうになる考えを振り払う。


然れど、頬には熱が集まり動悸が早くなる。


ディオン様の背中に手を回して縋ってしまいたい。



だけど……


それじゃ駄目なんだ。


「ありがとうございます……。ですが、わたくしも守られるだけの"従者"ではいられません。主をお護りすることもまた侍女の務めですので」


胸板に手をついて、彼の体を彼方に押しやりながら距離を取って笑顔で告げる。



私は強くならなくちゃいけない。


ディオン様とアネット様に恩返しが出来る程に。

「……ルナリア。主人を護ることが侍女の務めではない。俺は君にそんな危ないことを望んでいるんじゃない」
「侍女は主の傍にお仕えし補佐する事だと重々理解しております。ですが、わたくしが目指す御方はクロエさんなのです。ですので……どうかあまり、わたくしを甘やかさないで下さいませ」


主の補佐だけではなく、その身を護れる程に強くなること。


それが、私が目指すべき場所。


ディオン様はお優しい方だから、命をかけてまで護らなくていいと言ってくれるだろう。



だけど、それでは駄目なのだ。



私とアネット様は知っている。



この先の出来事を。



アメリーやパトリス殿下達が居なくなった事で、変わったこともある。



だけど、時代が刻む歴史までは変えることは出来ないだろう。



その為に、強くならなくてはいけないのだ。


そして、グラニエ家に仕える私の存在が公爵家の名に傷を付けるものではなく、利点であると周囲の者達に認めさせる為に。
しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...