さようなら。悪いのは浮気をしたあなたですから

亜綺羅もも

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「アリエス! アリエスはどこだ!?」
「ユ、ユージン様……どうか致しましたか?」

 お父様が屋敷に駆け込んできたユージン様の姿を見て、驚きながら彼を出迎える。
 お母様も奥の部屋から出て来て、お父様と同じようにユージン様の前に立つ。

 私は玄関の方からユージン様の背中を眺めていた。

「それで、どうするつもりだ?」
「そんなの決まっております」

 私は何度か深呼吸し、勇気を出してユージン様の方へと歩き出す。
 するとユージン様は私に気づいたらしく、振り返り私の方を見る。

「アリエス……先日我が屋敷に来てくれたようだな」
「ええ……」
「……それで、俺がその……」
「見知らぬ女性の方と抱き合っていたのを見てしまいました」

 やはりと肩を落とすユージン様。
 大丈夫。私はなんとも思っていない。
 傷ついていない。
 でもきっとこれはグレイ様のおかげだ。

 知らぬうちに私の心を癒し、守ってくれていた。
 それが今分かる。
 あのまま家に帰っていたら、きっと今も泣いていたと思う。
 良かった……グレイ様がいてくれたおかげで、私はこうして真っ直ぐユージン様と向き合っていられるのだ。

「一つだけ君に言っておきたいことがある」
「なんでございましょう?」
「俺は君が一番だ。他の女に現を抜かすこともあるかもしれない……だけど君だけが俺にとって大事なことは忘れないでほしい。浮気ぐらい、貴族の中では当たり前のことなんだ」
「…………」

 虫唾が走るとはこういうことであろうか。
 以前は端正な顔立ちに、淡いときめきを覚えたような気もするが……
 今は害虫でも見ている気分。
 こんな人と、私は結婚しようとしていたのか。

「な、なんの話かは知らんが……アリエス。ユージン様のことは許して差し上げなさい。いいな?」
「…………」
「聞いているのか、アリエス!」

 お父様が私を怒鳴り付ける。
 子供の頃からの暴力の所為で、私の身体は無意識に恐怖心を抱き始めた。
 ガタガタ震えながら、お父様の言葉に従おうとしている自分がいる。

 ユージン様はそんな私の様子を見て、ニヤリと笑った。
 このまま言いくるめれると考えているのだろう。
 今私は理解した。
 何があってもこの人とは結婚したくない!
 絶対に嫌だ!

 だけど声が出ない……
 お父様に従おうとしている自分がいる。
 
 助けて……誰か、助けて……

「アリエス。大丈夫だ。俺がいるよ」

 優しくそう言って、泣き出しそうな私の肩を抱いてくれる人がいた。
 それはグレイ様だ。
 彼は物陰に隠れていたが、私の様子を見て飛び出して来てくれたのだ。

 ああ。
 彼がいてくれるだけで私は大丈夫。
 彼だ肩を抱いてくれるだけで安心感を覚え、震えが止まる。

「グ、グレイ様……」

 そんなグレイ様のお顔を見たユージン様は、驚愕に顔を歪ませていた。
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