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第一章
精鋭騎馬隊 その6
しおりを挟む「とのー、あのふたり、今日もいますよ」
都を出ると、従者のタクが言った。以前から見知っているティサンの部下。ニマとダワという双子の兵士は、都の外に出ると、どこからともなく現れるようになっていた。ニャムサンは目も向けずに言う。
「放っておけよ」
「へぇ? 昨日まで『うざくてしょうがない。ティサンどのだろうがゲルシクどのだろうが、命じた者が分かったらどやしつけてやる』っておっしゃってたじゃないですか。あ、もしかしてまた奥方さまに叱られたんですか?」
「うるさいな。プティは関係ないだろ」
「だって、目上の方に失礼なことをするなって、いっつも怒られてるじゃないですか」
「あのふたりのことはプティには言ってないよ。おまえも言うなよ。変に心配されたら面倒だから」
ティサンかゲルシクがどういうつもりで自分に警備をつけたのか、ニャムサンは察していた。
寺の工事を妨害している者がいる。それもかなりの人数が、組織だって動いているのだ。でなければ、大量の工事資材を川に投げ込んだり、広大な寺の基礎を一夜でメチャクチャにしたり出来るはずがない。まだ人的被害はないが、いつ、工事を監督する尚論たちに牙を向くかわからない。警護の兵を連れ歩いていないニャムサンなどは、格好の標的だろう。
黒幕は伝統派の尚論。それも、そこそこ力のある者。
目星はついているが、証拠がなかった。
襲って来たら、そのときに相手の尻尾をつかんでやる。
そう思っていたニャムサンにとって護衛は余計なお世話だったが、状況が変わった。
「あいつらをどうするか決めたんだ」
「ふーん。そういえば、今日はどこにいらっしゃるんです?」
「ナナムの牢」
「え? まさかあのふたりを入れちゃうんですか?」
「まあね」
「そこまでなさらなくてもいいじゃないですか」
「そこまでしちゃうんだよ」
ニャムサンがタクの馬の尻を蹴飛ばすと、驚いたタクの馬は勢いよく走り始めた。
「キャー! やめてください」
「急ぐぞ」
ニャムサンは馬の腹を軽く締めて速度をあげる。ニマとダワも遅れじと駆け出すのを確認して、ニャムサンはニヤリと笑った。
陽が遙か西に見える山並みに隠れかけたころ、四人はナナム領内にある山間の牢に到着した。ニャムサンとタクが馬を降りる。少し離れたところで馬に乗ったままこちらをうかがうニマとダワに、ニャムサンは手招きした。ふたりが馬を降りて近づく。
「ちょっとおまえたちに手伝って欲しいんだ。馬はそこに繋いでおいてくれ」
ふたりはニャムサンとタクの馬に並べて自分たちの馬を繋ぐと、命令を待つようにニャムサンの前に直立した。
「あんたたち、ティサンどのの部下のなかでは一番の腕利きなんだろ?」
「それほどではありませんが、まあ、使えるほうです」
背が高く痩せたニマが甲高い声で謙遜しているのだか自慢しているのだかわからない返事をよこす。
「拷問は?」
背が低く太ったダワは眉をしかめて低い声で答えた。
「あまり好きではありませんが、ご命令とあらば」
「オレだって出来ればやりたくないんだけど、もしかしたらお願いするかもしれない」
タクが、震える声で言った。
「あのぉ、わたしはここで馬の番をしています。どうぞ皆さん行ってください」
「ここでひとりで寝るのか? 真っ暗になるし寒いぜ」
「は? ここに泊まるんですか?」
「当たり前だろ。もう夜になるんだから」
「近くにご親戚とかナナムのご家来のおうちとかあるでしょう。そっちに泊めてもらいましょうよ」
「知らないよ。あったってオレが行ったらイヤな顔されるだろ。そんなところに行くもんか」
ニャムサンは肩をすくめて牢の入口に歩を進める。
タクは「ちょっとくらいイヤな顔をされたって、牢屋に泊まるよりはマシじゃないですか」と涙声で言いながらも追いかけてきた。
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