長安陥落~ ཀེང་ཤྀ་ཕབ།

りゅ・りくらむ

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第二章

進軍 その1

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 九月、二十万の大軍は動き出した。
 少なくとも関内に入るまでは本格的な戦闘はない。ルコンのその予測は当たりそうだ。これまでにない大軍に震え上がった鄯州と蘭州は反撃する将もなく、らくらくと落ちた。そこで兵を半分に分け、ゲルシクは大震関から鳳翔、盩厔へと続く南方を進み、ルコンは涇州から咸陽に出る北方の道を行く。
 十万の兵は、隊列を整えゆうゆうと唐の領土を進んでいる。ゲルシクは手応えのなさに退屈しているにちがいない。降伏した将に訊くと、郭子儀とともに内乱鎮圧に大功のあった名将李光弼は宦官の讒言を恐れ、唐主に呼ばれても徐州から出てこないという。朔方を守る僕固懐恩も動く様子がない。いずれも今回の対戦は望めないだろう。がっかりしているゲルシクの顔が思い浮かんだ。
 功績があっても宦官から警戒され、讒言によって官職や兵権を剥奪されたり、死を賜った者が多くいる。それを恐れて働くことを拒否している将軍は他にも沢山いるだろう。ルコンが思っていたよりもはるかに簡単に、長安は手に入るかもしれない。
 ありがたいが、つまらぬいくさだ。
 雑兵にだっていのちがある。それを無駄にしなくてよければ、それに越したことはないのだ。だから、ゲルシクにも戦闘は避けるよう命じていた。
 それでも、出来れば久しぶりの戦場で思い切り暴れてみたいという気持ちが湧いてくる。
 まだそんな気概が残っていたのか。
 北原にいた頃は、死んでもいいとすら思っていたのに。
 ルコンは自分で驚いていた。
 青空のもとにはためく旗を振り仰ぐ。そこにあるのはゲンラム家の紋章ではない。
 鮮やかな真紅の旗には白く『馬重英』と染め抜いてある。
 いまはまだ官職を持たぬルコンは「レン」を名乗るわけにはいかなかった。ならばとツェンポの許しを得て、若き日に先代のツェンポの命で唐に遊学していたときに名乗っていた偽名を旗印とすることにしたのだ。
 かつての自分を知っている人間が、この名を記憶しているかもしれない。
 多くの人間は鬼籍に入っているだろう。だが、生きていることが確実にわかっているひとりの男の顔を思い出して、ルコンは莞爾と笑った。
 彼が京師にいることはわかっている。
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