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まよねちゃん、疑問を抱く
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そうして買い出しだの何だのしている内にあっという間に数日が過ぎ、気付けば白河くんの誕生日を明日に迎え、意気揚々とキッチンに乗り込んだ挙句が冒頭の惨事である。私はすっかり打ちのめされて、全てを散らかして放り出したままリビングのソファに身を沈めた。本当のことを言えば、私もひとまずは最低限の片付けをしようと思ったのだが、果たしてメタルモアイ達が燃えるゴミなのか燃えないゴミなのかの判断が付かず、やがて何もかもが面倒になってしまったのだった。
中にアクターのいないヒーローショーの怪獣さながら、座るというよりはぐにゃぐにゃとソファに垂れ下がった私の傍に、ルーシーが飛び乗って来て身を丸めた。ルーシーはチョコレート色に輝く毛並を持つミニチュアダックスフントで、世界一可愛いという特徴がある。
「やっぱり由紀子たちに来てもらえば良かったかな」
つぶやく私を気遣うようにつぶらな瞳で見上げるルーシーを、膝の上に乗っけて撫でくり回す。
そう、由紀子達から「手伝いに行こうか?」という申し出はあったのだ。そして私はそれを断った。プレゼントとして手渡すものは自分独りで作りたかったし、レシピを見る限り意外と簡単そうで、これならできると思っていた。何より、由紀子はともかくなるべく咲を家に入れたくなかったのが本音だった。
咲は動物を愛し、動物に愛される星の下に生まれた女だ。人間は大嫌いと公言する人格破綻者でもある。咲の男女不問の高い人気は述べた通りだが、親しくなりたいと近寄る者共を一顧だにせず、にべもなく突き放す様は恐ろしいほどである。それがまたクールで格好いいと評判になるのだからわからないものだ。私と由紀子が彼女と親しくしているのは実に不思議なことで、おそらく私達は人間にカウントされていない可能性がある。神様は咲から社交性、いやもはや社会性を取り上げた代わりに、あらゆる動物をたちどころに手懐ける能力を授けた。路地裏で遭遇したいかにも警戒心の強そうな野良猫を、ちょいとしゃがむや否や瞬く間に懐柔する。朝の登校時に歩いていると飛んで来た小鳥が肩にとまるなどというファンタジックなシーンも、咲にとっては創作物の中の出来事ではない。
そんな彼女を家に招いたらおしまいである。「ルーシー」と低い声で呼ばれ、ぞんざいな手つきで二、三度わしわしと身体を掻かれただけで、我が愛犬は舌もしまい忘れて痙攣しながらヘソ天する羽目になる。目の前でそれを見せつけられる私の心は、どういうわけだかバケツ一杯の墨汁を飲み干したかのごとき暗澹とした汚辱感にまみれる。あの何とも言えない厭な気持ちはできることなら味わいたくはない。由紀子だけを家に呼べたら構わなかったのだが、グループチャットで一連の相談をしていたのに、突如咲を省いて由紀子だけに来てもらうのはさすがに気まず過ぎた。
「はあ」
ため息を漏らす私を、膝の上のルーシーが首を傾げて見つめている。一点の曇りもない無垢な瞳とじっと向かい合っていると、ふと私の口から思いもよらない台詞がぽろりと転がり出た。
「私、人間じゃないのかなあ」
突然私は何を言い出したのだろうか。自分で自分に驚きひどく慌てると共に、ずっと胸の奥につっかえていた何かが外れてごとんと床に落下したかのような感触もある。そもそも無意識に口に出たということは、心のどこかではずっとそれを感じていたということなのだろう。
つまり、普通の人間はクッキーを焼いても何かのはずみでメタルモアイを生成したりしない。どんなに失敗してもせいぜい黒焦げの炭化物ができ上がるのが関の山だ。そこには何らかの人智を超えた力が働いているのは明らかで、それが私に起因するものだとするならば、畢竟私はまともな人間ではないということになる。
事が今回の一件だけならばそれも論理の飛躍と言えないことはない。こんな奇天烈なクッキングリザルトは、自分のせいだと考えるよりは外部に要因を求める方があるいは自然かもしれない。しかし、思えば何だかヘンな事態が色々と私の身の回りには起こり過ぎるのだ。
例えば、去年の年末頃にはこんなことがあった。
その日は素晴らしく天気の良い日で、午後の体育は持久走の予定だった。私も由紀子も咲も運動は苦手だ。特に咲は見た目だけはいかにもスポーツが得意そうに見えるのだが、とんでもない運動音痴である。なまじスタイルが良いだけにその無様な動きは滑稽を通り越してちょっと気持ち悪い。搭載している肉体制御用のOSがいかれているとしか思えない。そんななので、私達は持久走なんて大嫌いだった。
「あー、雨降らないかなー」
雨が降ればおそらく体育館でバスケになる。バスケであればどうせ同じチームの誰もが私達に期待などしないので、パスも回ってこないし、コートの邪魔にならないところで適当にやり過ごしていればいい。
「まよの髪、うねうねにならないのかよー」
私の髪には緩い天然パーマがかかっていて、普段は労せずしてふわふわとガーリィにまとまっているのだが、天気が崩れて湿度が高くなるともしゃもしゃに爆発してしまう。うっとうしいことこの上ない。この髪は実に天候の変化を敏感に察知して、雨が降りそうな折などはちょっとした予報になる。が、今日のからっと晴れ渡った空には雲もほとんどなく、髪型は朝に軽くセットしたままのベストな状態を保っていた。
「逆にまよの髪をくしゃくしゃにしたら雨降るんじゃない?」
咲はふざけて私の髪に指を差し込んで来た。乱れるのが嫌だったので抵抗したが、お構いなしにぐしゃっとやられる。すると、にわかに教室が暗くなった。窓の外を見ると、太陽に真っ黒な雲がかかっている。
「えっ」
びっくりして咲が私の頭から手を離すと、あっという間に雲が薄くなり、角砂糖が溶けるように消えていった。
「……」
もう一回咲が私の髪を掴む。どこからともなく再び黒雲が現れて太陽を覆い隠す。
「えっやばい怖い」
咲は素早く手を引っ込めた。再び世の中は快晴に戻り、それから今日に至るまで咲は一度も私の髪に触ったことがない。
私の思うに、天候の悪化と髪の乱れといったような事柄の関係性は、不可逆的であるべきだ。
一部始終を眺めていた由紀子は、ニコニコして言った。
「まよねちゃんってすごいね!」
あるいは、遡って夏休みにはこんなこともあった。
それまで一度も行ったことがなかったのだが、由紀子達に連れられて私は初めてカラオケ屋さんに足を踏み入れた。ドリンクバーでジュースを注いで、自分達の部屋に入る。照明は暗く、隣の部屋の人が歌っている声がかすかに聞こえてくる。ほんの少し不良になったような、いかにも女子高生っぽい遊びをしている気がして、私の胸は高鳴った。
勝手がわからないので、最初は大人しく由紀子や咲が歌っているのを聞きながら、機械の操作方法を見ていた。二人とも流行りのアイドルグループの歌なんかを歌っていたと思う。由紀子は素晴らしく歌がうまく、咲は酷かった。
一曲終わるたびに採点があり、総合得点が百点満点で表示される他、音程だのビブラートだのの細かい項目も評価されるのには驚いた。画面の下部には仙人を模したようなキャラクターがいて、吹き出しに寸評やアドバイスが載っていた。由紀子が歌うとほぼ満点に近い得点が出て、仙人も笑顔になり「素晴らしい歌声じゃ!」などと褒めてくれる。咲が歌うと七十点台の得点が出て、仙人は渋い顔で「音程が良くないわい!」などと辛口の評価だ。これは忖度のない正当な評価を下す人物だと私は彼に信頼を感じた。
いよいよ私の歌う番になった。由紀子に教えてもらって選曲を送信する。イントロが流れ出し、ますます私の鼓動は早まった。曲は、レベッカのフレンズ。伴奏付きで思い切り歌うのがこんなに楽しいとは思わなかった。初めてにしてはかなりの熱唱だった。由紀子のようにはいかなかったが、我ながら悪くなかったのではないかと思う。二人の反応も上々だ。
そして採点が始まる。得点の出る前にいつもドラムロールがあるのだが、今回だけ妙に長い。たっぷり気を持たせてからじゃーん、の音とともに表示された得点は、三百十七点。表示部分の百の桁はもともと一しかないので、三が枠をはみ出している。細かい項目は文字化けして読めず、仙人の吹き出しは空欄。彼の表情は普段点の多寡に伴って変化するはずのところ、全くの無表情だった。
「こんなの見たことないんだけど」
咲はひとしきりゲラゲラ笑い転げてから、室内の壁に据え付けてある電話からお店の人を呼んだが、せっかく来てくれた金髪のギャルっぽい店員さんも首をひねるばかり。次からは採点機能をオフにして下さいと至極ごもっともな指示を下した後、帰りがけに「いやーキモいっすね」と言い残して行ったので咲はさらなる呼吸困難に陥った。
採点画面を何枚も撮影していた由紀子は、やはりニコニコして言った。
「まよねちゃんってすごいね!」
考えるほどに自信がなくなってきた。もしかしたら本当に私は人間ではないのかもしれない。だとすれば人間嫌いの咲が友達でいてくれるのも合点がいく。ただそうなると、由紀子の方はいったい何者なのかという別の問題も浮上してくるのだが。
「ねえルーシー、私って人間じゃないのかな?」
喉のあたりを掻いてやりながら尋ねてみるが、ルーシーはやはり首を傾げてじっと私を見つめるばかり。
ルーシーには仔犬の頃から何かを質問されると首を傾げる癖があって、それがこの上なく可愛いのでいつもついつい質問攻めにしてしまうのだった。
「やっぱり私って人間かな?」
ルーシー、首を傾げる。得も言われぬ可愛さである。
「人間じゃないかな?」
やっぱり首を傾げる。ルーシーにもどっちとも判別が付かないのかもしれない。
「ルーシーって犬なの? 犬じゃないの?」
趣向を変えてみるが、もちろんルーシーは首を傾げる。
「もしかしてルーシーって人間なの?」
ルーシー、首を傾げる。
「じゃあルーシーって猫なの?」
「猫ではないです」
「ルーシーって猫じゃないの?」
ルーシー、首を傾げる。
「ルーシーって猫なの?」
「猫ではないです」
「ルーシーってタコなの?」
「誰がタコやねん」
「ルーシーっておこなの?」
「私をキレさせたら大したもんですよ」
なるほど。
私が人間かどうかはよくわからないままだが、少なくともルーシーは犬ではない。犬は喋らない。
突如私のスカートのポケットの中でスマホが鳴動したので、ルーシーは驚いてソファから飛び降りて去って行った。取り出してみると、私の送った画像に対して由紀子の返事が届いていた。
「まよねちゃんってすごいね!」
中にアクターのいないヒーローショーの怪獣さながら、座るというよりはぐにゃぐにゃとソファに垂れ下がった私の傍に、ルーシーが飛び乗って来て身を丸めた。ルーシーはチョコレート色に輝く毛並を持つミニチュアダックスフントで、世界一可愛いという特徴がある。
「やっぱり由紀子たちに来てもらえば良かったかな」
つぶやく私を気遣うようにつぶらな瞳で見上げるルーシーを、膝の上に乗っけて撫でくり回す。
そう、由紀子達から「手伝いに行こうか?」という申し出はあったのだ。そして私はそれを断った。プレゼントとして手渡すものは自分独りで作りたかったし、レシピを見る限り意外と簡単そうで、これならできると思っていた。何より、由紀子はともかくなるべく咲を家に入れたくなかったのが本音だった。
咲は動物を愛し、動物に愛される星の下に生まれた女だ。人間は大嫌いと公言する人格破綻者でもある。咲の男女不問の高い人気は述べた通りだが、親しくなりたいと近寄る者共を一顧だにせず、にべもなく突き放す様は恐ろしいほどである。それがまたクールで格好いいと評判になるのだからわからないものだ。私と由紀子が彼女と親しくしているのは実に不思議なことで、おそらく私達は人間にカウントされていない可能性がある。神様は咲から社交性、いやもはや社会性を取り上げた代わりに、あらゆる動物をたちどころに手懐ける能力を授けた。路地裏で遭遇したいかにも警戒心の強そうな野良猫を、ちょいとしゃがむや否や瞬く間に懐柔する。朝の登校時に歩いていると飛んで来た小鳥が肩にとまるなどというファンタジックなシーンも、咲にとっては創作物の中の出来事ではない。
そんな彼女を家に招いたらおしまいである。「ルーシー」と低い声で呼ばれ、ぞんざいな手つきで二、三度わしわしと身体を掻かれただけで、我が愛犬は舌もしまい忘れて痙攣しながらヘソ天する羽目になる。目の前でそれを見せつけられる私の心は、どういうわけだかバケツ一杯の墨汁を飲み干したかのごとき暗澹とした汚辱感にまみれる。あの何とも言えない厭な気持ちはできることなら味わいたくはない。由紀子だけを家に呼べたら構わなかったのだが、グループチャットで一連の相談をしていたのに、突如咲を省いて由紀子だけに来てもらうのはさすがに気まず過ぎた。
「はあ」
ため息を漏らす私を、膝の上のルーシーが首を傾げて見つめている。一点の曇りもない無垢な瞳とじっと向かい合っていると、ふと私の口から思いもよらない台詞がぽろりと転がり出た。
「私、人間じゃないのかなあ」
突然私は何を言い出したのだろうか。自分で自分に驚きひどく慌てると共に、ずっと胸の奥につっかえていた何かが外れてごとんと床に落下したかのような感触もある。そもそも無意識に口に出たということは、心のどこかではずっとそれを感じていたということなのだろう。
つまり、普通の人間はクッキーを焼いても何かのはずみでメタルモアイを生成したりしない。どんなに失敗してもせいぜい黒焦げの炭化物ができ上がるのが関の山だ。そこには何らかの人智を超えた力が働いているのは明らかで、それが私に起因するものだとするならば、畢竟私はまともな人間ではないということになる。
事が今回の一件だけならばそれも論理の飛躍と言えないことはない。こんな奇天烈なクッキングリザルトは、自分のせいだと考えるよりは外部に要因を求める方があるいは自然かもしれない。しかし、思えば何だかヘンな事態が色々と私の身の回りには起こり過ぎるのだ。
例えば、去年の年末頃にはこんなことがあった。
その日は素晴らしく天気の良い日で、午後の体育は持久走の予定だった。私も由紀子も咲も運動は苦手だ。特に咲は見た目だけはいかにもスポーツが得意そうに見えるのだが、とんでもない運動音痴である。なまじスタイルが良いだけにその無様な動きは滑稽を通り越してちょっと気持ち悪い。搭載している肉体制御用のOSがいかれているとしか思えない。そんななので、私達は持久走なんて大嫌いだった。
「あー、雨降らないかなー」
雨が降ればおそらく体育館でバスケになる。バスケであればどうせ同じチームの誰もが私達に期待などしないので、パスも回ってこないし、コートの邪魔にならないところで適当にやり過ごしていればいい。
「まよの髪、うねうねにならないのかよー」
私の髪には緩い天然パーマがかかっていて、普段は労せずしてふわふわとガーリィにまとまっているのだが、天気が崩れて湿度が高くなるともしゃもしゃに爆発してしまう。うっとうしいことこの上ない。この髪は実に天候の変化を敏感に察知して、雨が降りそうな折などはちょっとした予報になる。が、今日のからっと晴れ渡った空には雲もほとんどなく、髪型は朝に軽くセットしたままのベストな状態を保っていた。
「逆にまよの髪をくしゃくしゃにしたら雨降るんじゃない?」
咲はふざけて私の髪に指を差し込んで来た。乱れるのが嫌だったので抵抗したが、お構いなしにぐしゃっとやられる。すると、にわかに教室が暗くなった。窓の外を見ると、太陽に真っ黒な雲がかかっている。
「えっ」
びっくりして咲が私の頭から手を離すと、あっという間に雲が薄くなり、角砂糖が溶けるように消えていった。
「……」
もう一回咲が私の髪を掴む。どこからともなく再び黒雲が現れて太陽を覆い隠す。
「えっやばい怖い」
咲は素早く手を引っ込めた。再び世の中は快晴に戻り、それから今日に至るまで咲は一度も私の髪に触ったことがない。
私の思うに、天候の悪化と髪の乱れといったような事柄の関係性は、不可逆的であるべきだ。
一部始終を眺めていた由紀子は、ニコニコして言った。
「まよねちゃんってすごいね!」
あるいは、遡って夏休みにはこんなこともあった。
それまで一度も行ったことがなかったのだが、由紀子達に連れられて私は初めてカラオケ屋さんに足を踏み入れた。ドリンクバーでジュースを注いで、自分達の部屋に入る。照明は暗く、隣の部屋の人が歌っている声がかすかに聞こえてくる。ほんの少し不良になったような、いかにも女子高生っぽい遊びをしている気がして、私の胸は高鳴った。
勝手がわからないので、最初は大人しく由紀子や咲が歌っているのを聞きながら、機械の操作方法を見ていた。二人とも流行りのアイドルグループの歌なんかを歌っていたと思う。由紀子は素晴らしく歌がうまく、咲は酷かった。
一曲終わるたびに採点があり、総合得点が百点満点で表示される他、音程だのビブラートだのの細かい項目も評価されるのには驚いた。画面の下部には仙人を模したようなキャラクターがいて、吹き出しに寸評やアドバイスが載っていた。由紀子が歌うとほぼ満点に近い得点が出て、仙人も笑顔になり「素晴らしい歌声じゃ!」などと褒めてくれる。咲が歌うと七十点台の得点が出て、仙人は渋い顔で「音程が良くないわい!」などと辛口の評価だ。これは忖度のない正当な評価を下す人物だと私は彼に信頼を感じた。
いよいよ私の歌う番になった。由紀子に教えてもらって選曲を送信する。イントロが流れ出し、ますます私の鼓動は早まった。曲は、レベッカのフレンズ。伴奏付きで思い切り歌うのがこんなに楽しいとは思わなかった。初めてにしてはかなりの熱唱だった。由紀子のようにはいかなかったが、我ながら悪くなかったのではないかと思う。二人の反応も上々だ。
そして採点が始まる。得点の出る前にいつもドラムロールがあるのだが、今回だけ妙に長い。たっぷり気を持たせてからじゃーん、の音とともに表示された得点は、三百十七点。表示部分の百の桁はもともと一しかないので、三が枠をはみ出している。細かい項目は文字化けして読めず、仙人の吹き出しは空欄。彼の表情は普段点の多寡に伴って変化するはずのところ、全くの無表情だった。
「こんなの見たことないんだけど」
咲はひとしきりゲラゲラ笑い転げてから、室内の壁に据え付けてある電話からお店の人を呼んだが、せっかく来てくれた金髪のギャルっぽい店員さんも首をひねるばかり。次からは採点機能をオフにして下さいと至極ごもっともな指示を下した後、帰りがけに「いやーキモいっすね」と言い残して行ったので咲はさらなる呼吸困難に陥った。
採点画面を何枚も撮影していた由紀子は、やはりニコニコして言った。
「まよねちゃんってすごいね!」
考えるほどに自信がなくなってきた。もしかしたら本当に私は人間ではないのかもしれない。だとすれば人間嫌いの咲が友達でいてくれるのも合点がいく。ただそうなると、由紀子の方はいったい何者なのかという別の問題も浮上してくるのだが。
「ねえルーシー、私って人間じゃないのかな?」
喉のあたりを掻いてやりながら尋ねてみるが、ルーシーはやはり首を傾げてじっと私を見つめるばかり。
ルーシーには仔犬の頃から何かを質問されると首を傾げる癖があって、それがこの上なく可愛いのでいつもついつい質問攻めにしてしまうのだった。
「やっぱり私って人間かな?」
ルーシー、首を傾げる。得も言われぬ可愛さである。
「人間じゃないかな?」
やっぱり首を傾げる。ルーシーにもどっちとも判別が付かないのかもしれない。
「ルーシーって犬なの? 犬じゃないの?」
趣向を変えてみるが、もちろんルーシーは首を傾げる。
「もしかしてルーシーって人間なの?」
ルーシー、首を傾げる。
「じゃあルーシーって猫なの?」
「猫ではないです」
「ルーシーって猫じゃないの?」
ルーシー、首を傾げる。
「ルーシーって猫なの?」
「猫ではないです」
「ルーシーってタコなの?」
「誰がタコやねん」
「ルーシーっておこなの?」
「私をキレさせたら大したもんですよ」
なるほど。
私が人間かどうかはよくわからないままだが、少なくともルーシーは犬ではない。犬は喋らない。
突如私のスカートのポケットの中でスマホが鳴動したので、ルーシーは驚いてソファから飛び降りて去って行った。取り出してみると、私の送った画像に対して由紀子の返事が届いていた。
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