4429F

夏川 俊

文字の大きさ
3 / 18

3、運命の序章

しおりを挟む
 菊池の意外な言葉に、友美は恐怖を忘れた。
「 生き・・ 残った・・・? 」
「 君の話から推察すると、やはり小沢ユキは、君たちのグループと笠井氏、榊原氏に恨みを抱いていたと思える。 だから目の前に現われた関係者を、片っ端から抹殺したんだ。 どんな手段を使ったのかは想像の域だが、もしかしたら共謀者がいたかもしれない 」
「 ・・・私は・・・ 」
「 君は、グループの中では、幹部にあたる存在だったんじゃないのかい? リーダーは、事件で亡くなった君の義理の姉、洋子さん。 ・・君は、その片腕的な存在だった。 違うかい? 」
「 ・・・・・ 」
 友美は、あの日の記憶を思い出していた。
「 ・・・目の前で・・・ 目の前で、純一さんと洋子が、ユキに・・ ユキの、目に見えない力によって殺された後・・・ ユキは、私に近付いて来たわ・・! 次は、私が殺される番なのよ。 そんな目をしてた。 私は、『 助けて 』って言ったの。 それでもユキは、段々、近付いて来たわ・・・!  洋子にナイフで刺され、制服の白いブラウスが・・ 胸のところが、血で真っ赤に染まってた。 それでもユキは平然としてて・・ 私の目の前まで、ゆっくり歩いて来て、じっと私を睨んだわ。 怖かった・・! ものすごく怖くて、必死にユキに頼んだの。 『 助けて、助けて 』って・・・! そしたら・・・ 消えちゃったの! 」
「 ユキが、かい? 」
「 そう。 幻覚なんかじゃないわ。 ホントに消えたのよ! 私の前から・・・! 」
「 ・・消えた、か・・・ 」
 菊池は、こめかみ辺りを指先でかきながら、友美に尋ねた。
「 ユキが投身自殺した、と言う根拠は? 」
「 刑事さんに、ユキがマンション北側の歩道で死んでいる・・ と聞かされて・・ 」
「 推測判断か・・ まあ、給水塔の上からは、ユキの足跡と思われる靴跡も発見されている。 状況から見て、それは事実なんだろう 」
 菊地は、大きくため息をつきながら、再び腕組みをして言った。
「 ユキが飛び降りたとされる給水塔は、惨劇のあったマンション屋上の北側にある。 足場も無い4メートルもの高さの塔に、どうやって登ったのかも疑問だが、問題は、その給水塔の位置だ。 ・・警察が現場に駆けつけた時、君は、屋上出入り口脇で、放心状態で発見されているが、君は、その場を動いてはいないね? 」
 友美は、無言で頷いた。
「 だとすれば、ユキは、君がいたその場から給水塔の上へ移動した事になる。 それは無理だ。 給水塔へは、屋上出入り口からではなく、一階下の、作業用階段を使って行かなくてはならない。 当然、作業用階段への入り口は施錠して・・ 」
 菊池の発言を遮り、友美は叫んだ。
「 あの子は、バケモノなのよッ! 鍵なんて、要らないわ! どこへだって、瞬時に移動出来るのよっ・・! 」
「 ・・・やはり、そういう説明になるか・・・ 」
 沈黙が、しばらく2人の間に続いた。
「 確かに、私は・・・ 殺されていても不思議じゃないわ・・・ 」
 友美が言った。
「 ・・・だろ? 僕は、そこが引っ掛かるんだ。 もしかしたら、ユキには、君を見逃す要因があったのかもしれない 」
「 見逃す要因・・・? 」
「 失礼かとは思うけど、君が引き取られていた施設を調べさせてもらった。 知り合いに、探偵がいるんでね。 ・・君は、身寄りの無い孤児という事になっているらしいが、生まれて間もない君を、その施設に預けていった人物の存在が判明した 」
「 えっ! 本当ですか? 」
「 ああ。 手が掛からなくなる小学校の入学頃になったら、迎えに来る約束でね 」
「 ・・・小学校入学・・・? え? それは、もしかして・・・ 」
「 亡くなった君の養父、笠井製薬社長 笠井氏だ 」
 友美は目を点にして、菊地に言った。
「 そんな・・・! お養父さんは、身寄りの無い私を引き取ってくれたと聞いてます。 そんなはずは・・・! 」
「 おかしな話だが、これは事実だ。 託児委任契約書も残っていた 」
 菊地はそう言うと、1枚のコピーを取り出し、友美の前に差し出した。 友美は、震える手でそれを手に取ると、書類に目を通した。 ・・間違いなく、筆跡は養父のものだった。 託児期間は、本人が6才の誕生日を迎える日まで、とある。 委託人には、養父の名前があり、間柄は父と記されていた。
 ・・・友美は訳が分からなくなった。 なぜ、父は自分を施設に預けたのか。 なぜ、引き取った後までも、孤児としていたのか・・・?
 間を見計らって、菊地が言った。
「 こんな事、僕が君に言っていいのか判断に迷うが・・ 笠井氏の愛人の子だった、とも考えられるね。 だが、この契約書でハッキリしたと思うが、君は間違いなく孤児じゃない。 笠井氏の娘なんだ 」
 友美は、ゆっくり、畳の上にコピーを置くと、放心したように宙を見つめた。
 ・・親の存在を初めて知ったが、既に、その親は死んでいる。 元々、愛情の無い家庭生活だっただけに、親が死んだという悲しみは、友美の心には湧いてこない。 ただ、思いもよらない事実の判明に、友美は動揺した。
「 ちょっと、ショックだったかな・・・? 」
 菊地が、心配そうに聞いた。
「 いえ・・・ 笠井の家は、ほとんど家族としての対話が無かったですから。 ただ、意外な事実に驚いています・・・ 」
「 実は、もう1つ、判明した事があってね。 こっちの方が重要なんだ・・・ 」
 畳の上に置かれたコピーの、ある部分を指差し、菊池は言った。
「 ・・ここに、出生地の欄があるだろう? 病院名が記されている。 笠原総合病院とあるが、この病院は、笠井氏と榊原氏が、共同出資して設立されたものだ。 場所は、長野県にある笠井製薬長野工場の敷地内。 現在は廃院となって、封鎖されている 」
「 小学校低学年の時に、一度、連れて行ってもらった覚えがあります。 確か、高山で、病院の医薬会か何かあった時のついでに寄った記憶が・・・ 」
「 ユキの実家も、高山だ・・・! 」
「 え・・・? 」
「 出生も調べてみた。 生まれた病院は、何と、笠原総合病院だ・・・! 」
「 ・・・それは・・ え? ・・・どういう・・・ 」
「 君もユキも、同じ病院で、近い年代に生まれているんだ。 これは、単なる偶然なのかもしれない。 でも、何か気になる事実だ 」
「 私が・・ あのユキと、同じ生まれ・・・! 」
 友美にとって、恐怖の対象となっていた、小沢ユキ・・・ そのユキが、友美と、まったく同じ病院で産まれていたという事実は、友美にとって、ある意味、大きなショックであった。
 2人の間には、しばらく沈黙が続いた。
 じっと、書類のコピーを見つめていた友美が顔を上げ、菊地に何かを言おうとした瞬間、突然、誰かが、激しくドアを叩いた。
「 ちょっと、アンタ! いつまで居る気だいっ? いい加減にしなよっ! 」
 何と、トヨおばさんのようである。
「 参ったな・・ あのオバさん。 仕方ないか・・・ 友美ちゃん、今日はこのくらいにしておいた方が良さそうだ。 名刺、渡しておくから、時間がある時に連絡くれるかな 」
 菊地はそう言うと、友美に名刺を渡し、ドアに向かって言った。
「 オバさ~ん、今、出ます。 頼むから、ホウキはやめてくれよ! 」
「 まったく、何時まで居座ってるつもりなんだい? 最近の若いモンは、遠慮ってモンを知らないねえ 」
 菊地が、ドアを開けると、先程の折れたホウキの柄を、槍のようにして構えているトヨおばさんがいた。
「 わあっ、タンマ、タンマ! 何もしてないよ。 今、帰ります! 」
 トヨおばさんは、友美の部屋の中をじろりと見渡し、友美に言った。
「 何も、されなかっただろうね? 」
 友美は、玄関先まで出て来ると言った。
「 大丈夫よ、トヨおばさん。 この人は心配ないから 」
「 最初はみんなそうなのさ。 後で本性表すから、タチ悪いんだ 」
「 参ったなあ。 信用してよ、おばさん 」
「 おまえは早く帰えんなっ! 馴れ馴れしく話しかけんじゃないよっ! 」
 菊地は、アパートの階段を、すっ飛んで降りて行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...