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しおりを挟むある日、若者は暗くて不気味な場所で、ひとり立ち尽くしていました。
地の果てまでつづいているかのような、どこまでも遠く広がるその光景に若者は気が遠くなるのを感じました。
周りには何もなく、心は淋しさでいっぱいでした。風は冷たく、景色は暗く、心は重く感じられました。
「ぼくは、だれからも愛されていないんだ。」
若者はそうつぶやき、まぶたを閉じました。
若者は小さな部屋でひとりで暮らしていました。
ベッドから起き上がり、カーテンをあけると、窓の外には暗い夜景が広がっています。若者の心もまた同じように、暗い夢の中に閉じ込められていました。
若者はいつもひとりぼっちで、だれかに愛されることを知らずに育ってきたのでした。
毎朝、同じ時間に起き、支度をして、勤めている会社へ向かい、上司からの指示に従い、仕事のプレッシャーに悩み、夜遅く部屋に戻り、身体を休め、そして翌朝、同じ時間に起きました。
「おはようございます。」
会社のオフィスについた若者は上司や同僚に朝のあいさつをしました。
そしてデスクにある書類の整理をはじめ、仕事にとりかかります。
「どうしたの?顔色がよくないよ。」
となりの席の同僚が言いました。それがきこえた上司もまた、若者の顔をのぞきこみました。
「体調がよくないなら、休んだらどうだ?」
「いえ、平気です。」
若者は言いました。そして、手を止めていた仕事をまたはじめました。
若者は今日もまた、ひとり立ち尽くしていました。
そこは暗い夢の中で、若者は砂漠にいました。ただただ広がる砂丘と暗い空がどこまでもつづいています。
風で舞い上がった砂が、顔にあたるたびにな痛みを感じました。
しかし、その日はいつもとは違いました。
砂が目にはいり、手で目をこすってまぶたをひらくと、目の前に小さな男の子がいました。
「だいじょうぶ?おにいちゃん。」
とつぜん現われた小さな男の子が、明るい笑顔で近づいてきました。
「これ、おにいちゃんにあげる。」
小さな男の子は手の中にチョコレートを持っていました。そのチョコレートからは、甘い香りがただよっていました。
「このチョコレートは魔法のチョコレートなんだ。」
小さな男の子が自慢げに言いました。
「そんなにすごいチョコレートなら、ぼくじゃなくてきみが食べたらいいよ。おにいちゃんはいらないから。」
「ぼくはたべちゃいけないんだ。ぐあいがわるくなっちゃうからだめって。だから、おにいちゃんにあげる。魔法のチョコレートだよ。」
若者は興味津々でチョコレートを受け取りました。
チョコレートを口に入れると、甘くてほんのりとした幸せな気持ちが広がりました。心が温かくなり、寂しさが少し和らぎました。チョコレートの甘さが口の中に広がり、幸せな気持ちが全身に広がっていくのを感じました。
「ぼくはきえる妖精なんだ。だから、ずっといっしょにいることはできないけど、このチョコレートがあればいつでもしあわせなきもちになれるよ。」
小さな男の子の妖精はにこにこ笑って言いました。
「ありがとう。このチョコレートがあったら、ぼくはいつでも心が温かくなれるね。」
若者から自然と笑みがこぼれました。
「うん。またね、おにいちゃん。」
小さな男の子の妖精は微笑みながら消えていきました。それと同時に若者の周りは明るい風景に変わりました。
若者は緑溢れる森の中にいました。
森はまるで、大地の息吹を感じさせるような生命力に満ちていました。木々の葉は太陽の光を浴びて輝き、新緑は風に揺れるたびに波うちます。
そこには小さないきものたちが集まり、木々の間から差し込む陽光を浴びながら、鳥たちは美しい旋律を奏でていました。
明るい風景が広がる中で、若者は大事な時間を思い出しました。そして、やわらかい草原や可憐な花々は心を和ませ、若者にまた一層幸せな気持ちを与えてくれるのでした。
「おーい。昼休み終わったぞ。」
夢から目覚めた若者は会社のオフィスにいました。
目の前に上司の顔がありました。どうやら上司が昼寝から若者を起こしてくれたようです。
「大丈夫かい?何かあったらいつでも話をきくから。」
上司は微笑みながら、デスクの上にチョコレートを置きました。
「差し入れだよ。」
「ありがとうございます。」
若者は上司に感謝の気持ちを伝えました。
窓から差し込む明るい日差しは、まるで心を癒やしてくれるようでした。
そして、オフィスの中に明るさと温もりをもたらしていました。
帰宅後、若者は自分の部屋に写真たてを飾り、大事な写真を入れました。
若者は机の上に飾った写真たてをみつめました。その写真たてには、愛らしい犬と若者の姿が写っていました。若者はその写真をみつめながら、心がほっと和んでいくのを感じました。
写真たての中で笑う愛らしい犬の存在は、若者にとってなくてはならない存在でした。
若者は思い出を辿りました。そして、かつて一緒に過ごす幸せな日々があったことを思い出しました。
そこには可愛らしい子犬がいました。
その子犬は、若者に向かって尻尾をふりながら近づいてくるのでした。
了
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