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1.国王の妾
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「すみませーん。エリオットさん、いる~?」
と若い女の声がした。
エリオットは「お? 女性?」と心なしか浮ついた気持ちで
「はーい、どちらさん?」
と扉を開けて外を窺ったが、相手の女性の顔を見て「げっ」と呟いた。
急いで扉を閉めようとする。
「入って来ないでください!」
しかし相手も女性はなかなかの強心臓の持ち主。
隙間にするりと足を滑り込ませると扉が閉められるのを強引に阻止した。
「あはー。そんな釣れない態度を取らなくてもいいじゃなくて?」
顔はにこやかな笑顔だ。
リーガン・サンドグレン。
国王の愛妾だ。
国王の妾とあってはエリオットも乱暴な真似はできず、仕方なく扉を閉めるのをあきらめた。
「何か御用ですかね」
「あなた国王陛下の幼馴染で今でも仲が良いのでしょう?」
お妾殿はこちらを少し値踏みするような目をした。
「はあ。お妾殿にまで名前を憶えていただけるとはね」
エリオットは厄介事は御免と言った顔で皮肉っぽく答えた。
「あなたのような堂々とした愛妾殿が私なんかに用事があるとは思えませんがね」
お妾殿の方は皮肉をそのまま受け取ったのかよく分からない態度でフフッと笑った。
「まあね。私、宝石やらドレスやらで国民の血税で散財する日々をひゃっはーってエンジョイしていたのだけど」
「包み隠す気ゼロですな」
「どうやら国王陛下が心変わりなさったみたいでねえ」
お妾殿は少し残念そうな声になる。
「そりゃーご愁傷様です」
エリオットは国王の女好きを知っているから、まあそんなもんだろうと納得の上つれない返事をした。
しかしお妾殿の方にとってみたら大問題だ。
「何よその言い方」
とぷりぷり怒っている。
「ははあ。陛下は自然消滅狙ってる感じですかねえ?」
「ばかっ! 私はねえ、公式の妾だっつの!」
「なんですか、その『公式の妾』ってやつは。『妾』と『公式』って何だか相いれない感じですけど。『公認の』くらいにしておいた方が……」
「うるさいわね、頭でっかち! とにかく王宮じゃ私の存在は皆知ってるんだからどっちでもいいでしょ」
お妾殿は口をとがらせて反論する。
エリオットは肩を竦めた。女のヒステリーチックな物言いは得意ではない。
お妾殿はきっと眉を吊り上げて早口で宣った。
「とにかく国王陛下(と贅沢な生活)を取り戻したいから、何で国王陛下が私を遠ざけているか聞いてもらえない?」
エリオットは露骨に嫌そうな顔をした。
「ええ~めんどくさいです。といいますか。私は王妃様とも知り合いなんですよ。妾と絡むとか、厄介事は勘弁……」
「なによっ! 国王陛下が一番気楽に下ネタ語り合えちゃうエリオット様と思って頼んでいるのよ!」
「なんですか、その白羽の矢。恥ずかしいこと言わないでください!」
エリオットは慌てて否定する。
するとお妾殿はニヤリと笑った。
「お礼にあなたの好きなアルテミア・バノン侯爵令嬢とのデートを確約するわ」
「デ、デート!? アルテミア嬢と?」
エリオットの声が思わず上擦った。
「やるの、やらないの?」
お妾殿はにやにやして挑発気味に聞いてくる。
「うう……」
エリオットは唇を噛んだ。
「デートは自力で掴み取ってこそ本望という奴で……」
するとお妾殿はわざとらしく意外そうな顔をして「あらあロマンチストね」と呟いてみせたものの、すぐに意地悪そうな顔になって
「協力しないならあなたの悪いことアルテミア嬢に吹聴してやるけど?」
とエリオットに迫った。
エリオットは青ざめた。
「うわあああ~やめてっ! なんという暴挙! やりまあす……」
お妾殿は満足そうに笑った。
「うふふ、ありがと。とりあえず国王陛下に私のことどう思っているか聞いてくれるだけでいいから。ね、簡単でしょ?」
エリオットは悔しそうにな目でお妾殿を睨む。
「はあ。本当にアルテミア嬢を紹介してくれるんでしょうね」
「ええもちろんよ。私がちゃんと国王陛下の寝所に呼ばれるようになったらね」
「うわ……直接的表現……」
「そのかわり、いつまでも国王陛下のお召しがないようなら、アルテミア嬢には別の男性紹介しちゃうからね」
お妾殿はエリオットにキッと鋭い視線を投げた。
「うわ~なかなか鬼畜ぅ~」
エリオットはため息をついた。
お妾殿の方はエリオットの承諾に満足して
「頑張ってね」
と謎のエールを送った。
と若い女の声がした。
エリオットは「お? 女性?」と心なしか浮ついた気持ちで
「はーい、どちらさん?」
と扉を開けて外を窺ったが、相手の女性の顔を見て「げっ」と呟いた。
急いで扉を閉めようとする。
「入って来ないでください!」
しかし相手も女性はなかなかの強心臓の持ち主。
隙間にするりと足を滑り込ませると扉が閉められるのを強引に阻止した。
「あはー。そんな釣れない態度を取らなくてもいいじゃなくて?」
顔はにこやかな笑顔だ。
リーガン・サンドグレン。
国王の愛妾だ。
国王の妾とあってはエリオットも乱暴な真似はできず、仕方なく扉を閉めるのをあきらめた。
「何か御用ですかね」
「あなた国王陛下の幼馴染で今でも仲が良いのでしょう?」
お妾殿はこちらを少し値踏みするような目をした。
「はあ。お妾殿にまで名前を憶えていただけるとはね」
エリオットは厄介事は御免と言った顔で皮肉っぽく答えた。
「あなたのような堂々とした愛妾殿が私なんかに用事があるとは思えませんがね」
お妾殿の方は皮肉をそのまま受け取ったのかよく分からない態度でフフッと笑った。
「まあね。私、宝石やらドレスやらで国民の血税で散財する日々をひゃっはーってエンジョイしていたのだけど」
「包み隠す気ゼロですな」
「どうやら国王陛下が心変わりなさったみたいでねえ」
お妾殿は少し残念そうな声になる。
「そりゃーご愁傷様です」
エリオットは国王の女好きを知っているから、まあそんなもんだろうと納得の上つれない返事をした。
しかしお妾殿の方にとってみたら大問題だ。
「何よその言い方」
とぷりぷり怒っている。
「ははあ。陛下は自然消滅狙ってる感じですかねえ?」
「ばかっ! 私はねえ、公式の妾だっつの!」
「なんですか、その『公式の妾』ってやつは。『妾』と『公式』って何だか相いれない感じですけど。『公認の』くらいにしておいた方が……」
「うるさいわね、頭でっかち! とにかく王宮じゃ私の存在は皆知ってるんだからどっちでもいいでしょ」
お妾殿は口をとがらせて反論する。
エリオットは肩を竦めた。女のヒステリーチックな物言いは得意ではない。
お妾殿はきっと眉を吊り上げて早口で宣った。
「とにかく国王陛下(と贅沢な生活)を取り戻したいから、何で国王陛下が私を遠ざけているか聞いてもらえない?」
エリオットは露骨に嫌そうな顔をした。
「ええ~めんどくさいです。といいますか。私は王妃様とも知り合いなんですよ。妾と絡むとか、厄介事は勘弁……」
「なによっ! 国王陛下が一番気楽に下ネタ語り合えちゃうエリオット様と思って頼んでいるのよ!」
「なんですか、その白羽の矢。恥ずかしいこと言わないでください!」
エリオットは慌てて否定する。
するとお妾殿はニヤリと笑った。
「お礼にあなたの好きなアルテミア・バノン侯爵令嬢とのデートを確約するわ」
「デ、デート!? アルテミア嬢と?」
エリオットの声が思わず上擦った。
「やるの、やらないの?」
お妾殿はにやにやして挑発気味に聞いてくる。
「うう……」
エリオットは唇を噛んだ。
「デートは自力で掴み取ってこそ本望という奴で……」
するとお妾殿はわざとらしく意外そうな顔をして「あらあロマンチストね」と呟いてみせたものの、すぐに意地悪そうな顔になって
「協力しないならあなたの悪いことアルテミア嬢に吹聴してやるけど?」
とエリオットに迫った。
エリオットは青ざめた。
「うわあああ~やめてっ! なんという暴挙! やりまあす……」
お妾殿は満足そうに笑った。
「うふふ、ありがと。とりあえず国王陛下に私のことどう思っているか聞いてくれるだけでいいから。ね、簡単でしょ?」
エリオットは悔しそうにな目でお妾殿を睨む。
「はあ。本当にアルテミア嬢を紹介してくれるんでしょうね」
「ええもちろんよ。私がちゃんと国王陛下の寝所に呼ばれるようになったらね」
「うわ……直接的表現……」
「そのかわり、いつまでも国王陛下のお召しがないようなら、アルテミア嬢には別の男性紹介しちゃうからね」
お妾殿はエリオットにキッと鋭い視線を投げた。
「うわ~なかなか鬼畜ぅ~」
エリオットはため息をついた。
お妾殿の方はエリオットの承諾に満足して
「頑張ってね」
と謎のエールを送った。
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