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2.国王に話してはみたが
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国王のお妾殿から面倒な頼みごとを引き受けたエリオットは、そうとはいっても公務で忙しい日々の合間、いつ国王にその話題を持ち掛けるか困っていた。
いくら友人とはいえ公人である国王に自分の都合で雑談しに行くわけにはいかない。
しかもこんなつまらない内容で。
エリオットは心の中で「今夜あたり妾のこと思い出してお召しになってくれればね。そうすれば俺は何もせずに済むってものなのに」とぶつぶつ思っていた。
エリオットは時間を見つけては国王陛下のおられるところをウロウロしていたが、国王も忙しいのかエリオットと顔を合わせても「ようっエリオット、元気か」と声をかけるだけで忙しそうにそそくさと行ってしまう。
どっかの舞踏会で酒の勢いで絡むしかねーな、とエリオットが思いはじめた頃、ようやく国王から声がかかった。
「なんか最近お前の顔を頻繁に見かけるようになって、久しぶりに飯とか食いたくなったよ」
エリオットは待ってましたと喜んだ。
ランチに呼ばれたエリオットは国王と水入らずの空気で食卓を囲みながら楽しい気分だったが、唯一懸念事項のお妾殿のことをさっさと片づけてしまわなければならないと、早々に話題に出すことにした。
「陛下。最近女性の趣味でも変わりましたか?」
国王はエリオットがいきなり女の話をしてきたので「ん?」といった顔をした。
「何だよ急に。別に変わらないよ。昔から髪かき上げ系美女が大好きだ。エリオットこそどうなの。未だに黒髪のお堅め清楚系が大好きなのか?」
エリオットはにこやかに答えた。
「ははは! やっぱり黒髪でしょう!」
「なになに、金髪には負けるとも!」
「ははははは~」
「ははははは~」
いい歳こいてもこの話題。和やかに笑いあう二人だったが、エリオットは「いや和やかに笑っている場合じゃない。さっさと用件を済ませてしまおう」と切り出した。
「ところで例の、あの妾はどうしたんです」
「ん? リーガンのことかい?」
国王は天真爛漫な顔で聞き返す。
エリオットは内心「あれ?」と思いながら、
「そうそう。最近お見掛けしませんので」
ともごもごと言い訳した。
そのエリオットの様子に何か不審なものを感じた国王は急に眉を顰めた。
「リーガンのことなんて話題にしたことなかったじゃないか。急になんだよ。まさかおまえ……リーガンのことを……」
「と、とんでもない! 彼女のことは何とも思ってませんよ! ただちょっと……」
エリオットは慌てて否定したが、否定ついでに口走ってしまった「ただちょっと」の続きがないことに自分で気づいた。
うおお~しまったあ~理由を考えてくるの忘れた~! 行き当たりばったりが半端ない!
しかし国王はきょとんとした顔で、
「ただちょっと、なんだい」
と無邪気な顔で聞いてくる。
エリオットは体中から汗が噴き出るのを感じた。
そして、
「え、えと……いや~ははは、リーガン様から女性を紹介してもらう約束で」
と思わず本当のことを言ってしまった。
しかし窮地な様子のエリオットとは裏腹に、俄然国王の目が輝きだす。
「おおっ! それはなんて大事な用件なんだ!」
「え? は? ああ、そういえば、こーいう理由お好きでしたね」
「当たり前じゃないか! 色恋こそ我が人生! わかった、リーガンに会ったらしっかり言っておくよ。エリオットも隅にはおけんねえ。まあ、まだ独身だもんな!」
国王は任せておけと胸を張った。
男友達のこういう頼みを聞いてやるのは国王の一番の誇りでもあるのだった。
「は、はあ……」
なんだか要点がずれた話題にエリオットは内心困ったなと思っていたが、国王はそれには気づかない。
お妾殿とご無沙汰だった理由を聞かなければならないのだが、兄貴面で胸を張っている国王の前で軌道修正するのは難しかった。
エリオットは今日のところは諦めることにした。
国王の方は友人のコイバナに何だかウキウキしている。
「それでそれで? 女はやっぱり黒髪清楚系か?」
「もちろんでっす!」
エリオットは鼻息を荒くして答えた。
「ははは、好みがかぶらなくて何より。ちょっと興味が出ちゃいそうだったから」
「この色欲大魔神め~」
「ははははは~」
「ははははは~」
そこへ国王の侍従が恭しく入って来る。
国王は侍従を見るなり彼に頷いた。そしてエリオットに向かって、
「時間のようだ。悪いなエリオット、午後の執務の準備があるから早めに出なきゃならん。だがリーガンの件は任せておきたまえ」
と言い残して立ち上がった。
エリオットは慌てた。
「あ、ちょっと、陛下。あの一つだけ、(今夜あたりでも)お妾殿と仲良く……」
「ははは、オッケーオッケー。ちゃんと会ったときに言っとくから!」
国王陛下はエリオットに片手を挙げて見せると、笑顔で部屋を出ていってしまった。
「……だからちゃんとお妾殿に会ってくれってことなんだけど……今の流れでそうとは汲み取ってくれてないよな……」
残されたエリオットは国王の出ていった扉をぼんやりと眺めながら呟いた。
これ、俺、ちゃんとお妾殿のお使い、できた?
国王陛下は『会ったらしっかり言っておく』と言っていた。では会う気はあるということだ。お妾殿も国王と会えれば本望なんだから別にこれでいいってことじゃないか?
そう無理矢理納得しようとしたエリオットだったが、ふうっとため息をついた。
否、無理だろう。
絶対あの流れでは国王はお妾殿にちゃんと会ってくれとは汲み取ってくれていない。
いくら友人とはいえ公人である国王に自分の都合で雑談しに行くわけにはいかない。
しかもこんなつまらない内容で。
エリオットは心の中で「今夜あたり妾のこと思い出してお召しになってくれればね。そうすれば俺は何もせずに済むってものなのに」とぶつぶつ思っていた。
エリオットは時間を見つけては国王陛下のおられるところをウロウロしていたが、国王も忙しいのかエリオットと顔を合わせても「ようっエリオット、元気か」と声をかけるだけで忙しそうにそそくさと行ってしまう。
どっかの舞踏会で酒の勢いで絡むしかねーな、とエリオットが思いはじめた頃、ようやく国王から声がかかった。
「なんか最近お前の顔を頻繁に見かけるようになって、久しぶりに飯とか食いたくなったよ」
エリオットは待ってましたと喜んだ。
ランチに呼ばれたエリオットは国王と水入らずの空気で食卓を囲みながら楽しい気分だったが、唯一懸念事項のお妾殿のことをさっさと片づけてしまわなければならないと、早々に話題に出すことにした。
「陛下。最近女性の趣味でも変わりましたか?」
国王はエリオットがいきなり女の話をしてきたので「ん?」といった顔をした。
「何だよ急に。別に変わらないよ。昔から髪かき上げ系美女が大好きだ。エリオットこそどうなの。未だに黒髪のお堅め清楚系が大好きなのか?」
エリオットはにこやかに答えた。
「ははは! やっぱり黒髪でしょう!」
「なになに、金髪には負けるとも!」
「ははははは~」
「ははははは~」
いい歳こいてもこの話題。和やかに笑いあう二人だったが、エリオットは「いや和やかに笑っている場合じゃない。さっさと用件を済ませてしまおう」と切り出した。
「ところで例の、あの妾はどうしたんです」
「ん? リーガンのことかい?」
国王は天真爛漫な顔で聞き返す。
エリオットは内心「あれ?」と思いながら、
「そうそう。最近お見掛けしませんので」
ともごもごと言い訳した。
そのエリオットの様子に何か不審なものを感じた国王は急に眉を顰めた。
「リーガンのことなんて話題にしたことなかったじゃないか。急になんだよ。まさかおまえ……リーガンのことを……」
「と、とんでもない! 彼女のことは何とも思ってませんよ! ただちょっと……」
エリオットは慌てて否定したが、否定ついでに口走ってしまった「ただちょっと」の続きがないことに自分で気づいた。
うおお~しまったあ~理由を考えてくるの忘れた~! 行き当たりばったりが半端ない!
しかし国王はきょとんとした顔で、
「ただちょっと、なんだい」
と無邪気な顔で聞いてくる。
エリオットは体中から汗が噴き出るのを感じた。
そして、
「え、えと……いや~ははは、リーガン様から女性を紹介してもらう約束で」
と思わず本当のことを言ってしまった。
しかし窮地な様子のエリオットとは裏腹に、俄然国王の目が輝きだす。
「おおっ! それはなんて大事な用件なんだ!」
「え? は? ああ、そういえば、こーいう理由お好きでしたね」
「当たり前じゃないか! 色恋こそ我が人生! わかった、リーガンに会ったらしっかり言っておくよ。エリオットも隅にはおけんねえ。まあ、まだ独身だもんな!」
国王は任せておけと胸を張った。
男友達のこういう頼みを聞いてやるのは国王の一番の誇りでもあるのだった。
「は、はあ……」
なんだか要点がずれた話題にエリオットは内心困ったなと思っていたが、国王はそれには気づかない。
お妾殿とご無沙汰だった理由を聞かなければならないのだが、兄貴面で胸を張っている国王の前で軌道修正するのは難しかった。
エリオットは今日のところは諦めることにした。
国王の方は友人のコイバナに何だかウキウキしている。
「それでそれで? 女はやっぱり黒髪清楚系か?」
「もちろんでっす!」
エリオットは鼻息を荒くして答えた。
「ははは、好みがかぶらなくて何より。ちょっと興味が出ちゃいそうだったから」
「この色欲大魔神め~」
「ははははは~」
「ははははは~」
そこへ国王の侍従が恭しく入って来る。
国王は侍従を見るなり彼に頷いた。そしてエリオットに向かって、
「時間のようだ。悪いなエリオット、午後の執務の準備があるから早めに出なきゃならん。だがリーガンの件は任せておきたまえ」
と言い残して立ち上がった。
エリオットは慌てた。
「あ、ちょっと、陛下。あの一つだけ、(今夜あたりでも)お妾殿と仲良く……」
「ははは、オッケーオッケー。ちゃんと会ったときに言っとくから!」
国王陛下はエリオットに片手を挙げて見せると、笑顔で部屋を出ていってしまった。
「……だからちゃんとお妾殿に会ってくれってことなんだけど……今の流れでそうとは汲み取ってくれてないよな……」
残されたエリオットは国王の出ていった扉をぼんやりと眺めながら呟いた。
これ、俺、ちゃんとお妾殿のお使い、できた?
国王陛下は『会ったらしっかり言っておく』と言っていた。では会う気はあるということだ。お妾殿も国王と会えれば本望なんだから別にこれでいいってことじゃないか?
そう無理矢理納得しようとしたエリオットだったが、ふうっとため息をついた。
否、無理だろう。
絶対あの流れでは国王はお妾殿にちゃんと会ってくれとは汲み取ってくれていない。
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