6 / 21
第1章 浮気者の公爵令息に婚約破棄されましたが推しの王子を愛でるので問題ありません
【6.現実に認識してもらうの 後編】
しおりを挟む
ギルバートはその視線が少し痛くて、メルディアーナのドレスの端を引っ張った。
「ほら、みんなが君の姿を見ているよ。少し大人しくしたらどうだい?」
「あら、私は人の視線なんてどうでもいいわ。せっかく来たんだもの、きちんと(マーシェル王子と)話すまでは帰れないわよ」
メルディアーナは本当に気にも留めない様子で答えた。
ギルバートは余計にハラハラする。そして、「ダナンよ、頼むからここに居てくれるな」と心の中で祈った。
こんな規模の大きな夜会でメルディアーナがダナンと接触するなんて、招待客たちの格好の余興になるのが目に見えているではないか! 皆、暇なのだから。
そして、ギルバートの心配通り、嫌な人に見つかった。
メルディアーナに婚約破棄を言い渡した張本人、ダナンである。
ダナンはピンクブロンドのフリーダを横に侍らせている。フリーダも露骨に不快そうな顔をした。
メルディアーナはダナンとフリーダに気付いただろうか。
ギルバートは冷や汗をかき、メルディアーナの腕を無理矢理ぎゅっと引っ張ると、「中庭に出よう」と急に向きを変えて外に連れて行こうとした。
「ええ~、中にいたかもしれないのに」
メルディアーナが不平そうに言う。
ああ、いたよ(※ダナンが)、だから逃げるんじゃないか、とギルバートは心の中で毒づいた。
そして問答無用とばかりにぐいぐいメルディアーナを引っ張って、結局中庭に出てきてしまった。
すると、それが運よく奏功だったらしい。
なんと、中庭で話し声がしたかと思ったら、マーシェル王子がいたのだ!
「あっ!」
メルディアーナは歓喜の声をあげた。
月明かりで薄暗いとはいえ、あの声は間違いなくマーシェル王子!
マーシェル王子は数人の仲の良い友人たちと夜風に当たりながら、軽口など言い合って笑いあっていた。少しお酒でも入って気分がよくなっているのかもしれない。
マーシェル王子は誰か来たことに気付いたようだ。
「あれ? 誰か来た? 暗くてよく見えないな」
すると、メルディアーナが顔を紅潮させながらするすると歩いて行った。
ギルバートは慌てて、
「あ、ちょ、待て! それはダナンじゃないぞ!」
と止めようとしたが、メルディアーナは聞いていない。
メルディアーナはマーシェル王子の前に恥じらいもなく立つと、ドレスを披露するかのように腕を広げて、
「あのー、私のこと分かりますか?」
とにっこり微笑みかけた。
マーシェル王子は月明かりの中姿を現した見ず知らずの女性が、いきなり馴れ馴れしく話しかけてきたので驚いた。
「……ええと? どちら様デスカ?」
メルディアーナはショックを受けたかのような表情をした。
「まあ、私がお分かりにならない? あ、ええと、そうかあのときは声だけだったから……」
メルディアーナが必死で説明しようとするところを、飛んできたギルバートがぎゅむっと後ろから首根っこを掴む。
「マーシェル王子、どうもすみません。僕の連れがとんでもない人違いをしたようで!」
「あれ? 君はギルバートじゃないか、ええと……?」
マーシェル王子が混乱する頭を整理しようとしていると、何やらざわざわ周囲が騒がしくなった。
「?」
ギルバートが不思議に思って振り返ってみると、いきなりワインがびしゃっと飛んできた。
「うわっ! え?」
「きゃっ」
メルディアーナも横で小さく悲鳴を上げた。
メルディアーナの方が被害が甚大だった。この日のために仕立てたとびきりのドレスが、前面びしゃりと赤ワインに染まってる。
え、と思ったら、相手はピンクブロンド、フリーダだった。
フリーダを庇うようにして、後ろには目を吊り上げたダナンがいる。
フリーダはヒステリックな声をあげた。
「何しに来たのよっ! あんたはもうフラれたの! 場違いよ、出ていきなさいっ!」
フリーダの両手には空になったワイングラスがそれぞれ握られていた。
少しでもたくさんぶっかけるために2杯分持ってきたようだ。
メルディアーナはあまりのことに訳が分からない顔をしていたが、やがてこの赤ワインがダナン絡みで飛んできたことを理解し、心外すぎて泣きたい目をした。
「ダナンとか違うわよ、そんなんじゃ……」
せっかくのオシャレが台無し。マーシェル王子の目の前で。
そのときようやくギルバートは、ダナンとフリーダとメルディアーナと3人揃ったところを一目見ようと、たくさんの見物人が集まっていることに気付いた。
皆、遠巻きにして、事の成り行きを楽しそうに見ている。
「まあ、婚約破棄されたメルディアーナ様ですわよ。婚約破棄にご不満があったのかしら、こんなとこまで押しかけてきて。あんなになるまで赤ワインを引っかけられて気の毒ねエ」
「ダナン様も相当愛されておいででしたのねエ」
「でもこんな男女の痴話話で騒ぎが起こっちゃ、バイヤード公爵家も可哀そうだわア」
ギルバートはそっとメルディアーナに耳打ちした。
「メルディアーナ。ほら、だから言ったこっちゃない。ここはもう帰ろうよ」
「待って、まだ(マーシェル王子に)気付いてもらってない」
「十分みんな気付いているよ。本人(※ダナン)だって聞く耳持ってないしさ」
「そんなことないわ、少し唐突過ぎただけよ……」
メルディアーナは、言いたいことを含み潤んだ目をマーシェル王子に向けた。
マーシェル王子はなぜそんな目をされるのかと一瞬びくっとする。
「え……と」
しかしギルバートは、居座ったら状況は悪くなるだけだと判断し、強引にメルディアーナの腕を取った。
メルディアーナはまだ食い下がろうと抵抗したが、ギルバートの決心の前には為す術無し。引きずられるように聴衆の輪から引きずりだされていった。
ダナンとフリーダは、メルディアーナが去っていった方をまだ睨んでいる。
「あんなにはっきりと婚約破棄してやったのに。往生際が悪い」
マーシェル王子は何だかよく分からずにポカンとしていたが、
「へえ、あの令嬢は婚約破棄されたのか」
と無関心そうに口先で呟いた。
そして、ふと「あれ?」と思った。声が似ているのだ。
ああ、あの婚約破棄された人、あの塔の女性に声が似ているのだ。
そしてマーシェル王子はふと胸に寂しさを覚えた。
ずっと彼女を探しているのにな。……会いたいと思っているのに。
「ほら、みんなが君の姿を見ているよ。少し大人しくしたらどうだい?」
「あら、私は人の視線なんてどうでもいいわ。せっかく来たんだもの、きちんと(マーシェル王子と)話すまでは帰れないわよ」
メルディアーナは本当に気にも留めない様子で答えた。
ギルバートは余計にハラハラする。そして、「ダナンよ、頼むからここに居てくれるな」と心の中で祈った。
こんな規模の大きな夜会でメルディアーナがダナンと接触するなんて、招待客たちの格好の余興になるのが目に見えているではないか! 皆、暇なのだから。
そして、ギルバートの心配通り、嫌な人に見つかった。
メルディアーナに婚約破棄を言い渡した張本人、ダナンである。
ダナンはピンクブロンドのフリーダを横に侍らせている。フリーダも露骨に不快そうな顔をした。
メルディアーナはダナンとフリーダに気付いただろうか。
ギルバートは冷や汗をかき、メルディアーナの腕を無理矢理ぎゅっと引っ張ると、「中庭に出よう」と急に向きを変えて外に連れて行こうとした。
「ええ~、中にいたかもしれないのに」
メルディアーナが不平そうに言う。
ああ、いたよ(※ダナンが)、だから逃げるんじゃないか、とギルバートは心の中で毒づいた。
そして問答無用とばかりにぐいぐいメルディアーナを引っ張って、結局中庭に出てきてしまった。
すると、それが運よく奏功だったらしい。
なんと、中庭で話し声がしたかと思ったら、マーシェル王子がいたのだ!
「あっ!」
メルディアーナは歓喜の声をあげた。
月明かりで薄暗いとはいえ、あの声は間違いなくマーシェル王子!
マーシェル王子は数人の仲の良い友人たちと夜風に当たりながら、軽口など言い合って笑いあっていた。少しお酒でも入って気分がよくなっているのかもしれない。
マーシェル王子は誰か来たことに気付いたようだ。
「あれ? 誰か来た? 暗くてよく見えないな」
すると、メルディアーナが顔を紅潮させながらするすると歩いて行った。
ギルバートは慌てて、
「あ、ちょ、待て! それはダナンじゃないぞ!」
と止めようとしたが、メルディアーナは聞いていない。
メルディアーナはマーシェル王子の前に恥じらいもなく立つと、ドレスを披露するかのように腕を広げて、
「あのー、私のこと分かりますか?」
とにっこり微笑みかけた。
マーシェル王子は月明かりの中姿を現した見ず知らずの女性が、いきなり馴れ馴れしく話しかけてきたので驚いた。
「……ええと? どちら様デスカ?」
メルディアーナはショックを受けたかのような表情をした。
「まあ、私がお分かりにならない? あ、ええと、そうかあのときは声だけだったから……」
メルディアーナが必死で説明しようとするところを、飛んできたギルバートがぎゅむっと後ろから首根っこを掴む。
「マーシェル王子、どうもすみません。僕の連れがとんでもない人違いをしたようで!」
「あれ? 君はギルバートじゃないか、ええと……?」
マーシェル王子が混乱する頭を整理しようとしていると、何やらざわざわ周囲が騒がしくなった。
「?」
ギルバートが不思議に思って振り返ってみると、いきなりワインがびしゃっと飛んできた。
「うわっ! え?」
「きゃっ」
メルディアーナも横で小さく悲鳴を上げた。
メルディアーナの方が被害が甚大だった。この日のために仕立てたとびきりのドレスが、前面びしゃりと赤ワインに染まってる。
え、と思ったら、相手はピンクブロンド、フリーダだった。
フリーダを庇うようにして、後ろには目を吊り上げたダナンがいる。
フリーダはヒステリックな声をあげた。
「何しに来たのよっ! あんたはもうフラれたの! 場違いよ、出ていきなさいっ!」
フリーダの両手には空になったワイングラスがそれぞれ握られていた。
少しでもたくさんぶっかけるために2杯分持ってきたようだ。
メルディアーナはあまりのことに訳が分からない顔をしていたが、やがてこの赤ワインがダナン絡みで飛んできたことを理解し、心外すぎて泣きたい目をした。
「ダナンとか違うわよ、そんなんじゃ……」
せっかくのオシャレが台無し。マーシェル王子の目の前で。
そのときようやくギルバートは、ダナンとフリーダとメルディアーナと3人揃ったところを一目見ようと、たくさんの見物人が集まっていることに気付いた。
皆、遠巻きにして、事の成り行きを楽しそうに見ている。
「まあ、婚約破棄されたメルディアーナ様ですわよ。婚約破棄にご不満があったのかしら、こんなとこまで押しかけてきて。あんなになるまで赤ワインを引っかけられて気の毒ねエ」
「ダナン様も相当愛されておいででしたのねエ」
「でもこんな男女の痴話話で騒ぎが起こっちゃ、バイヤード公爵家も可哀そうだわア」
ギルバートはそっとメルディアーナに耳打ちした。
「メルディアーナ。ほら、だから言ったこっちゃない。ここはもう帰ろうよ」
「待って、まだ(マーシェル王子に)気付いてもらってない」
「十分みんな気付いているよ。本人(※ダナン)だって聞く耳持ってないしさ」
「そんなことないわ、少し唐突過ぎただけよ……」
メルディアーナは、言いたいことを含み潤んだ目をマーシェル王子に向けた。
マーシェル王子はなぜそんな目をされるのかと一瞬びくっとする。
「え……と」
しかしギルバートは、居座ったら状況は悪くなるだけだと判断し、強引にメルディアーナの腕を取った。
メルディアーナはまだ食い下がろうと抵抗したが、ギルバートの決心の前には為す術無し。引きずられるように聴衆の輪から引きずりだされていった。
ダナンとフリーダは、メルディアーナが去っていった方をまだ睨んでいる。
「あんなにはっきりと婚約破棄してやったのに。往生際が悪い」
マーシェル王子は何だかよく分からずにポカンとしていたが、
「へえ、あの令嬢は婚約破棄されたのか」
と無関心そうに口先で呟いた。
そして、ふと「あれ?」と思った。声が似ているのだ。
ああ、あの婚約破棄された人、あの塔の女性に声が似ているのだ。
そしてマーシェル王子はふと胸に寂しさを覚えた。
ずっと彼女を探しているのにな。……会いたいと思っているのに。
37
あなたにおすすめの小説
『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』
ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」
そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。
さらに王太子は宣言する。
「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。
履行履歴も整えず、契約も軽視し、
新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。
――ですが。
契約は宣言では動きません。
信用は履歴の上にしか立ちません。
王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、
やがて止まったのは王太子の未来でした。
自ら押した承認印が、
自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。
公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。
救済なし。
やり直しなし。
契約通りに処理しただけですのに――
なぜか王太子が廃嫡されました。
無能と婚約破棄された公爵令嬢ですが、冷徹皇帝は有能より“無害”を選ぶそうです
鷹 綾
恋愛
「君は普通だ。……いや、普通以下だ」
王太子にそう言われ、婚約を破棄された公爵令嬢フォウ。
王国でも屈指の有能一族に生まれながら、彼女だけは“平凡”。
兄は天才、妹は可憐で才色兼備、両親も社交界の頂点――
そんな家の中で「普通」は“無能”と同義だった。
王太子が選んだのは、有能で華やかな妹。
だがその裏で、兄は教会を敵に回し、父は未亡人の名誉を踏みにじり、母は国家機密を売り、妹は不貞を重ね、そして王太子は――王を越えようとした。
越えた者から崩れていく。
やがて王太子は廃嫡、公爵家は解体。
ただ一人、何も奪わず、何も越えなかったフォウだけが切り離される。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、隣国の若き冷徹皇帝。
「有能は制御が難しい。無害のほうが使える」
駒として選ばれたはずの“無能な令嬢”。
けれど――
越えなかった彼女こそ、最後まで壊れなかった。
白い結婚のはずでしたが、冷血辺境伯の溺愛は想定外です
鍛高譚
恋愛
――私の結婚は、愛も干渉もない『白い結婚』のはずでした。
侯爵令嬢クレスタは王太子アレクシオンから一方的に婚約破棄を告げられ、冷徹と名高い辺境伯ジークフリートと政略結婚をすることに。 しかしその結婚には、『互いに干渉しない』『身体の関係を持たない』という特別な契約があった。
形だけの夫婦を続けながらも、ジークフリートの優しさや温もりに触れるうち、クレスタの傷ついた心は少しずつ癒されていく。 一方で、クレスタを捨てた王太子と平民の少女ミーナは『真実の愛』を声高に叫ぶが、次第にその実態が暴かれ、彼らの運命は思わぬ方向へと転落していく。
やがて訪れるざまぁな展開の先にあるのは、真実の愛によって結ばれる二人の未来――。
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―
ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。
その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。
だが、思惑はことごとく空回りする。
社交界での小さな失態。
資金繰りの綻び。
信用の揺らぎ。
そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。
決して大事件ではない。
けれど積み重なれば、笑えない。
一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。
血筋とは何か。
名乗るとは何か。
国家が守るものとは何か。
これは、派手な復讐劇ではない。
怒号も陰謀もない。
ただ――
立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。
そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。
世界は静かに、しかし確実に動いている。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
『婚約破棄?――では、その責任は王国基準で清算いたしましょう』 ~義妹と継母に追い落とされた令嬢は、王妃となって制度ごと裁きます~
しおしお
恋愛
「お前との婚約は破棄する。俺は“真実の愛”を選ぶ」
王立舞踏会の中央でそう宣言したのは、王太子。 隣には涙ぐむ義妹。背後には満足げに微笑む継母。
公爵令嬢アウレリアは、家を奪われ、名誉を奪われ、居場所を奪われた。
――ですが。
「では、契約に基づき、責任を清算いたしましょう」
泣き崩れることも、取り乱すこともない。 彼女が差し出したのは“感情”ではなく、完璧な契約書。
婚約破棄には代償がある。 署名には意味がある。 信用には重みがある。
それを軽んじた者たちが支払うのは―― 想像を超える“王国基準”の清算。
義妹は称号を失い、 継母は社交界から排除され、 元婚約者は王太子の座すら危うくなる。
そして彼女は―― 「奪われた」のではない。 “選ぶ側”へと立場を変える。
これは、感情で騒がず、 制度で叩き潰す令嬢の物語。
徹底的に。 容赦なく。 そして、二度と同じ愚行が起きぬように。
最強の強ザマァ、ここに開幕。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる