浮気者の公爵令息に婚約破棄されましたが推しの王子を愛でるので問題ありません――と思っていたら、推しの王子とまさかの両想いでした。やったぁ…!

幌あきら

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第1章 浮気者の公爵令息に婚約破棄されましたが推しの王子を愛でるので問題ありません

【6.現実に認識してもらうの 後編】

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 ギルバートはその視線が少し痛くて、メルディアーナのドレスの端を引っ張った。
「ほら、みんなが君の姿を見ているよ。少し大人しくしたらどうだい?」

「あら、私は人の視線なんてどうでもいいわ。せっかく来たんだもの、きちんと(マーシェル王子と)話すまでは帰れないわよ」
 メルディアーナは本当に気にも留めない様子で答えた。

 ギルバートは余計にハラハラする。そして、「ダナンよ、頼むからここに居てくれるな」と心の中で祈った。
 こんな規模の大きな夜会でメルディアーナがダナンと接触するなんて、招待客たちの格好の余興になるのが目に見えているではないか! 皆、暇なのだから。

 そして、ギルバートの心配通り、嫌な人に見つかった。
 メルディアーナに婚約破棄を言い渡した張本人、ダナンである。
 ダナンはピンクブロンドのフリーダを横にはべらせている。フリーダも露骨に不快そうな顔をした。

 メルディアーナはダナンとフリーダに気付いただろうか。
 ギルバートは冷や汗をかき、メルディアーナの腕を無理矢理ぎゅっと引っ張ると、「中庭に出よう」と急に向きを変えて外に連れて行こうとした。

「ええ~、中にいたかもしれないのに」
 メルディアーナが不平そうに言う。

 ああ、いたよ(※ダナンが)、だから逃げるんじゃないか、とギルバートは心の中で毒づいた。
 そして問答無用とばかりにぐいぐいメルディアーナを引っ張って、結局中庭に出てきてしまった。

 すると、それが運よく奏功だったらしい。
 なんと、中庭で話し声がしたかと思ったら、マーシェル王子がいたのだ!

「あっ!」
 メルディアーナは歓喜の声をあげた。
 月明かりで薄暗いとはいえ、あの声は間違いなくマーシェル王子!

 マーシェル王子は数人の仲の良い友人たちと夜風に当たりながら、軽口など言い合って笑いあっていた。少しお酒でも入って気分がよくなっているのかもしれない。
 マーシェル王子は誰か来たことに気付いたようだ。
「あれ? 誰か来た? 暗くてよく見えないな」

 すると、メルディアーナが顔を紅潮させながらするすると歩いて行った。

 ギルバートは慌てて、
「あ、ちょ、待て! それはダナンじゃないぞ!」
と止めようとしたが、メルディアーナは聞いていない。

 メルディアーナはマーシェル王子の前に恥じらいもなく立つと、ドレスを披露するかのように腕を広げて、
「あのー、私のこと分かりますか?」
とにっこり微笑みかけた。

 マーシェル王子は月明かりの中姿を現した見ず知らずの女性が、いきなり馴れ馴れしく話しかけてきたので驚いた。
「……ええと? どちら様デスカ?」

 メルディアーナはショックを受けたかのような表情をした。
「まあ、私がお分かりにならない? あ、ええと、そうかあのときは声だけだったから……」

 メルディアーナが必死で説明しようとするところを、飛んできたギルバートがぎゅむっと後ろから首根っこを掴む。
「マーシェル王子、どうもすみません。僕の連れがとんでもない人違いをしたようで!」

「あれ? 君はギルバートじゃないか、ええと……?」
 マーシェル王子が混乱する頭を整理しようとしていると、何やらざわざわ周囲が騒がしくなった。

「?」
 ギルバートが不思議に思って振り返ってみると、いきなりワインがびしゃっと飛んできた。
「うわっ! え?」

「きゃっ」
 メルディアーナも横で小さく悲鳴を上げた。
 メルディアーナの方が被害が甚大じんだいだった。この日のために仕立てたとびきりのドレスが、前面びしゃりと赤ワインに染まってる。

 え、と思ったら、相手はピンクブロンド、フリーダだった。
 フリーダをかばうようにして、後ろには目を吊り上げたダナンがいる。

 フリーダはヒステリックな声をあげた。
「何しに来たのよっ! あんたはもうフラれたの! 場違いよ、出ていきなさいっ!」

 フリーダの両手には空になったワイングラスがそれぞれ握られていた。
 少しでもたくさんぶっかけるために2杯分持ってきたようだ。

 メルディアーナはあまりのことに訳が分からない顔をしていたが、やがてこの赤ワインがダナン絡みで飛んできたことを理解し、心外しんがいすぎて泣きたい目をした。
「ダナンとか違うわよ、そんなんじゃ……」
 せっかくのオシャレが台無し。マーシェル王子の目の前で。

 そのときようやくギルバートは、ダナンとフリーダとメルディアーナと3人揃ったところを一目見ようと、たくさんの見物人が集まっていることに気付いた。

 皆、遠巻きにして、事の成り行きを楽しそうに見ている。
「まあ、婚約破棄されたメルディアーナ様ですわよ。婚約破棄にご不満があったのかしら、こんなとこまで押しかけてきて。あんなになるまで赤ワインを引っかけられて気の毒ねエ」
「ダナン様も相当愛されておいででしたのねエ」
「でもこんな男女の痴話話で騒ぎが起こっちゃ、バイヤード公爵家も可哀そうだわア」

 ギルバートはそっとメルディアーナに耳打ちした。
「メルディアーナ。ほら、だから言ったこっちゃない。ここはもう帰ろうよ」
「待って、まだ(マーシェル王子に)気付いてもらってない」
「十分みんな気付いているよ。本人(※ダナン)だって聞く耳持ってないしさ」
「そんなことないわ、少し唐突とうとつ過ぎただけよ……」

 メルディアーナは、言いたいことを含み潤んだ目をマーシェル王子に向けた。

 マーシェル王子はなぜそんな目をされるのかと一瞬びくっとする。
「え……と」

 しかしギルバートは、居座ったら状況は悪くなるだけだと判断し、強引にメルディアーナの腕を取った。
 メルディアーナはまだ食い下がろうと抵抗したが、ギルバートの決心の前にはすべ無し。引きずられるように聴衆の輪から引きずりだされていった。

 ダナンとフリーダは、メルディアーナが去っていった方をまだ睨んでいる。
「あんなにはっきりと婚約破棄してやったのに。往生際おうじょうぎわが悪い」

 マーシェル王子は何だかよく分からずにポカンとしていたが、
「へえ、あの令嬢は婚約破棄されたのか」
と無関心そうに口先でつぶやいた。

 そして、ふと「あれ?」と思った。声が似ているのだ。
 ああ、あの婚約破棄された人、あの塔の女性に声が似ているのだ。

 そしてマーシェル王子はふと胸に寂しさを覚えた。
 ずっと彼女を探しているのにな。……会いたいと思っているのに。
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