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17.嘘
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さて、テルマン子爵家の邸にアンナリースさんを訪ねると(元夫も当然のようについてきたのだが)、アンナリースさんのご両親が「ああ、やれやれ」と言った顔で私たちを出迎えた。その感覚、とってもよく分かるわ!
マリネットさんのときと違う点は、マリネットさんは元夫と婚約していたけど、アンナリースさんは元夫のただの浮気相手でしかなくて、二人の関係についてはご両親も冷ややかに思っていただろうということ。それが、ご両親の表情からありありと伝わってくる。
アンナリースさんもご両親にはたぶん浮気のことは相当否定的に言われていた様子で、凄い勢いで応接室に飛び込んでくると、まだ私がご両親にまともに挨拶もさせてもらっていないタイミングで、無理矢理にご両親を応接室から追い出してしまった。
凄い気迫……。よっぽどご両親を前には恥ずかしいのでしょうね。
アンナリースさんはご両親を追い出すとほっとしたように息を吐き、そしてくるりと私たちの方を向いた。私たちに文句をいっぱい言ってやりたいと思っているような目つきだった。
「このたびは、大変申し訳ございませんでした」
私はすぐに謝った。
するとアンナリースさんは一瞬気まずそうな顔をした。私は「あれ?」と思った。私が不審そうに見ていることに気付いたのか、アンナリースさんは、唇をぎゅっと結んで、しかし私には目を合わせないままに、右手を私の方へ突き出した。
確かに手の甲全体に白い包帯がまかれている。利き手がこんな状態では確かに日常生活に支障が出そうだった。
私は申し訳なく思って、
「怪我のおかげんはいかがですか? 本当にすみません。ご不便ですよね。治るにはどれくらい時間がかかると言われましたか?」
とそっと聞いた。
しかし、アンナリースさんは返事もしない。
確かに……。まあ、いきなりこんな怪我をさせられては、怒りたくなる気持ちも分かる……。
かといって、ずっと返事をしてもらえない状況は、私としてもとても居心地悪く、せめて何か説明してもらえないかと質問を繰り返すしかなかった。
「あの……うちの猫はどんな状況でそのような傷を負わせたのですか? そして今うちの猫はどこに?」
すると、今までまるでそこにいないかのように黙っていた元夫が、急に
「そうだ、リリーちゃんはどこなんだっ!」
と叫んだ。
私は、この状況でもリリーのことしか考えていない元夫に呆れ返ってしまった。
そして、
「猫の前に言うことがあるんじゃないですか!?」
と窘めた。
アンナリースさんもバッと顔を上げ、怒気を含んだ目で元夫を睨みつけていた。
そりゃそうなりますよね、と私が思っていたとき。
急にアンナリースさんが大股で元夫の方にずかずかと近寄り、
「あなたは私を一方的にふって、許せない! 今だって、猫が何!? 私より、猫!?」
と喚き始めた。
すると、あろうことか、元夫は憮然とした顔でアンナリースさんを真正面から眺めて、
「仕方ないだろ、君に飽きたんだから」
と言ってのけたのだ!
ちょっと、そんなこと言っちゃあいけませんよね! 私はすぐさま心の中で突っ込み、場をどうやって収集するか、急いで頭の中をフル回転させ始めた。
が、あまり考える必要はなかった。
アンナリースさんはものすごいスピードで腕を振り上げると、バチッと元夫の頬を叩いたのだった。
「え?」
元夫はさすがに叩かれるとは思っていなかったようで、驚いた目でアンナリースさんの方を見返した。
が、もっと驚いたのは私の方だった。
「ちょっと、その手……」
バチッとすごい勢いで叩いたときに、元夫の頬で擦れたのだろう、アンナリースさんの手の甲の包帯がずいっとズレていた。
包帯の下には美しい、傷一つない肌が見えていた。
え、ええと!? まさかの、無傷!?
ちょ、ちょっと、どういうこと!?
当局にも、私にも、アンナリースさんはまともに怪我の経緯を説明しなかった。それってやっぱり、言えなかったってこと? 虚言だったから?
元夫もアンナリースさんが怪我をしていないことに気付いたようだ。
「君、その手……」
元夫は絶句した。
さて、この状況、私はどうしたらいいのかしら。ええと、少なくとも、全部アンナリースさんの嘘だったということははっきりさせないといけませんよね?
そこで、私がなぜうちの猫が怪我をさせたなどと嘘をついたのかアンナリースさんに問い詰めようとしたとき、急に応接室の扉が開き、テルマン家の執事に案内されるようにしてスカイラー様が入ってきた。
「えっ? えええっ!? スカイラー様。なぜここに?」
私は混乱してしまった。
マリネットさんのときと違う点は、マリネットさんは元夫と婚約していたけど、アンナリースさんは元夫のただの浮気相手でしかなくて、二人の関係についてはご両親も冷ややかに思っていただろうということ。それが、ご両親の表情からありありと伝わってくる。
アンナリースさんもご両親にはたぶん浮気のことは相当否定的に言われていた様子で、凄い勢いで応接室に飛び込んでくると、まだ私がご両親にまともに挨拶もさせてもらっていないタイミングで、無理矢理にご両親を応接室から追い出してしまった。
凄い気迫……。よっぽどご両親を前には恥ずかしいのでしょうね。
アンナリースさんはご両親を追い出すとほっとしたように息を吐き、そしてくるりと私たちの方を向いた。私たちに文句をいっぱい言ってやりたいと思っているような目つきだった。
「このたびは、大変申し訳ございませんでした」
私はすぐに謝った。
するとアンナリースさんは一瞬気まずそうな顔をした。私は「あれ?」と思った。私が不審そうに見ていることに気付いたのか、アンナリースさんは、唇をぎゅっと結んで、しかし私には目を合わせないままに、右手を私の方へ突き出した。
確かに手の甲全体に白い包帯がまかれている。利き手がこんな状態では確かに日常生活に支障が出そうだった。
私は申し訳なく思って、
「怪我のおかげんはいかがですか? 本当にすみません。ご不便ですよね。治るにはどれくらい時間がかかると言われましたか?」
とそっと聞いた。
しかし、アンナリースさんは返事もしない。
確かに……。まあ、いきなりこんな怪我をさせられては、怒りたくなる気持ちも分かる……。
かといって、ずっと返事をしてもらえない状況は、私としてもとても居心地悪く、せめて何か説明してもらえないかと質問を繰り返すしかなかった。
「あの……うちの猫はどんな状況でそのような傷を負わせたのですか? そして今うちの猫はどこに?」
すると、今までまるでそこにいないかのように黙っていた元夫が、急に
「そうだ、リリーちゃんはどこなんだっ!」
と叫んだ。
私は、この状況でもリリーのことしか考えていない元夫に呆れ返ってしまった。
そして、
「猫の前に言うことがあるんじゃないですか!?」
と窘めた。
アンナリースさんもバッと顔を上げ、怒気を含んだ目で元夫を睨みつけていた。
そりゃそうなりますよね、と私が思っていたとき。
急にアンナリースさんが大股で元夫の方にずかずかと近寄り、
「あなたは私を一方的にふって、許せない! 今だって、猫が何!? 私より、猫!?」
と喚き始めた。
すると、あろうことか、元夫は憮然とした顔でアンナリースさんを真正面から眺めて、
「仕方ないだろ、君に飽きたんだから」
と言ってのけたのだ!
ちょっと、そんなこと言っちゃあいけませんよね! 私はすぐさま心の中で突っ込み、場をどうやって収集するか、急いで頭の中をフル回転させ始めた。
が、あまり考える必要はなかった。
アンナリースさんはものすごいスピードで腕を振り上げると、バチッと元夫の頬を叩いたのだった。
「え?」
元夫はさすがに叩かれるとは思っていなかったようで、驚いた目でアンナリースさんの方を見返した。
が、もっと驚いたのは私の方だった。
「ちょっと、その手……」
バチッとすごい勢いで叩いたときに、元夫の頬で擦れたのだろう、アンナリースさんの手の甲の包帯がずいっとズレていた。
包帯の下には美しい、傷一つない肌が見えていた。
え、ええと!? まさかの、無傷!?
ちょ、ちょっと、どういうこと!?
当局にも、私にも、アンナリースさんはまともに怪我の経緯を説明しなかった。それってやっぱり、言えなかったってこと? 虚言だったから?
元夫もアンナリースさんが怪我をしていないことに気付いたようだ。
「君、その手……」
元夫は絶句した。
さて、この状況、私はどうしたらいいのかしら。ええと、少なくとも、全部アンナリースさんの嘘だったということははっきりさせないといけませんよね?
そこで、私がなぜうちの猫が怪我をさせたなどと嘘をついたのかアンナリースさんに問い詰めようとしたとき、急に応接室の扉が開き、テルマン家の執事に案内されるようにしてスカイラー様が入ってきた。
「えっ? えええっ!? スカイラー様。なぜここに?」
私は混乱してしまった。
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