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16.復讐を疑われても仕方ないんですよ……
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私は、さっきまで元夫の訪問を撃退するためにスカイラー様と控えていた部屋に、当局の派遣員を呼び入れた。なぜだか、元夫が当然の顔をして同席している。
「あの、何が起こったのでしょうか。どういった経緯で?」
私は当局の派遣員におずおずと尋ねた。
当局の派遣員は固い表情のまま、次のようなことを説明した。
本日午後、アンナリース・テルマン子爵令嬢から通報があった。
内容はラングストン伯爵家のご息女ディアンナ様(※私のこと)の飼い猫が手の甲を引っ掻いたため、謝罪などを希望する、とのことだった。
「もう少し詳しくお聞かせください。猫に引っ掻かれたとき、そのときアンナリースさんはどちらにいらっしゃったのですか? うちの猫がアンナリースさんのお邸まで行ったということでしょうか。それから、うちの猫だと分かった理由は? 首輪でしょうか。では、アンナリースさんは猫を保護してくださったというわけですかね?」
私は状況がいまいちよく分からなかったので聞き返してみた。
すると当局の派遣員は途端に困った顔になって、「それがね、こちらが詳細を聞いてもアンナリース様は誤魔化すばっかりであまり要領を得なかったのですよ」とため息交じりに応えた。
「えっ、では真偽のほどは……」
私が思わず疑いの声をあげると、私の隣のスカイラー様も目が鋭くなった。
当局の派遣員も申し訳なさそうな顔をした。
「ですから、これは私どもからのお願いと申しますか。どこまで本当か分からない案件をそのままこちらに持ってきたのは非常に申し訳ないと思うのですが、とりあえず先方はあなたの謝罪を強く要求していますので、話を聞いてやってもらえませんかね? その、あんまり質の悪い内容でしたら当局ももちろん介入いたしますから」
私とスカイラー様はどうしたものかと顔を見合わせた。
しかし、そこで当局の派遣員は言いにくそうな顔で私を見た。
「ところでね、世間では、マクギャリティ侯爵と婚約していたマリネット・ソダーバーグ男爵令嬢が事故で怪我をしたことが知られています。そして、この度、その……マクギャリティ侯爵と交際の事実があったアンナリース嬢が怪我をしたということであれば、復讐とか……そんな何かしらの関与がね、疑われても仕方ないんですよ……」
「ああ……」
私はげんなりした。
しかし、それまで一言もしゃべらなかった元夫が、急に大真面目な顔で腕を組みなおした。
「何、アンナリースのところにリリーちゃんがいるかもしれないってことだろう!? なら『行く』の一択だな! ディアンナが行かないというなら私だけで行くぞ」
「そんなっ! あなただけで行かせるわけにはいきませんよ」
私が思わず言うと、元夫はうんうんと頷いた。
「そりゃそうだな。おまえに謝れと言っているのだから、おまえも行かないと話にならないからな」
私は呆れて元夫の顔をしげしげと眺めた。
「あなたねえ。元浮気相手のところに、いったいどんな顔して訪ねるというの。気まずいなあ、とかそういうのはないんですか」
「ないぞ。もう別れたのだから。過去の女だ」
元夫はあっけらかんと答える。
私は唖然としてしまった。なにこの強靭な心臓……頭のネジが一本足りないんじゃないかしら。
が、まあ、リリーがアンナリースさんに怪我をさせたというのが本当なら、放っておいてよい案件ではない。
私は当局の要請通りにアンナリースさんの元を訪ねることにした。
スカイラー様も心配そうについてくると言ったけれど、それはきっぱりと固辞した。加害疑惑である以上、バーニンガム伯爵家を巻き込んではいけない。
「あの、何が起こったのでしょうか。どういった経緯で?」
私は当局の派遣員におずおずと尋ねた。
当局の派遣員は固い表情のまま、次のようなことを説明した。
本日午後、アンナリース・テルマン子爵令嬢から通報があった。
内容はラングストン伯爵家のご息女ディアンナ様(※私のこと)の飼い猫が手の甲を引っ掻いたため、謝罪などを希望する、とのことだった。
「もう少し詳しくお聞かせください。猫に引っ掻かれたとき、そのときアンナリースさんはどちらにいらっしゃったのですか? うちの猫がアンナリースさんのお邸まで行ったということでしょうか。それから、うちの猫だと分かった理由は? 首輪でしょうか。では、アンナリースさんは猫を保護してくださったというわけですかね?」
私は状況がいまいちよく分からなかったので聞き返してみた。
すると当局の派遣員は途端に困った顔になって、「それがね、こちらが詳細を聞いてもアンナリース様は誤魔化すばっかりであまり要領を得なかったのですよ」とため息交じりに応えた。
「えっ、では真偽のほどは……」
私が思わず疑いの声をあげると、私の隣のスカイラー様も目が鋭くなった。
当局の派遣員も申し訳なさそうな顔をした。
「ですから、これは私どもからのお願いと申しますか。どこまで本当か分からない案件をそのままこちらに持ってきたのは非常に申し訳ないと思うのですが、とりあえず先方はあなたの謝罪を強く要求していますので、話を聞いてやってもらえませんかね? その、あんまり質の悪い内容でしたら当局ももちろん介入いたしますから」
私とスカイラー様はどうしたものかと顔を見合わせた。
しかし、そこで当局の派遣員は言いにくそうな顔で私を見た。
「ところでね、世間では、マクギャリティ侯爵と婚約していたマリネット・ソダーバーグ男爵令嬢が事故で怪我をしたことが知られています。そして、この度、その……マクギャリティ侯爵と交際の事実があったアンナリース嬢が怪我をしたということであれば、復讐とか……そんな何かしらの関与がね、疑われても仕方ないんですよ……」
「ああ……」
私はげんなりした。
しかし、それまで一言もしゃべらなかった元夫が、急に大真面目な顔で腕を組みなおした。
「何、アンナリースのところにリリーちゃんがいるかもしれないってことだろう!? なら『行く』の一択だな! ディアンナが行かないというなら私だけで行くぞ」
「そんなっ! あなただけで行かせるわけにはいきませんよ」
私が思わず言うと、元夫はうんうんと頷いた。
「そりゃそうだな。おまえに謝れと言っているのだから、おまえも行かないと話にならないからな」
私は呆れて元夫の顔をしげしげと眺めた。
「あなたねえ。元浮気相手のところに、いったいどんな顔して訪ねるというの。気まずいなあ、とかそういうのはないんですか」
「ないぞ。もう別れたのだから。過去の女だ」
元夫はあっけらかんと答える。
私は唖然としてしまった。なにこの強靭な心臓……頭のネジが一本足りないんじゃないかしら。
が、まあ、リリーがアンナリースさんに怪我をさせたというのが本当なら、放っておいてよい案件ではない。
私は当局の要請通りにアンナリースさんの元を訪ねることにした。
スカイラー様も心配そうについてくると言ったけれど、それはきっぱりと固辞した。加害疑惑である以上、バーニンガム伯爵家を巻き込んではいけない。
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