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二章
殺意が強いのは
しおりを挟む【二章】
山田は3,4度だけ彼女に自分から喋りかけたことがある。その日の夜は嬉しさで夜眠れなかった。
たまたま帰る時間が同じになったのだ。今ここで喋らなきゃ後悔するぞ、仲良くなれないぞって自分に言い聞かせた。
彼女はドアに鍵を差し込むところだった。
「あの…こんばんは」
「あっ山田さん こんばんはー!」
笑顔が、やはり素敵だ。
今その笑顔が自分へ向けてだと思うほど美しく感じた。しかも名前を覚えていてくれた。山田はもっと話したかった。
でも、内容なんて考えていない。結局会話はそれで終わってしまった。
それでも夢のような時間だった。
だからこそ、彼女が血だらけの状態が信じられない。幻覚かと思った。
でも、そんな状態の彼女も大変愛おしく思えた。いろんな彼女を見る度もっもっと見たいという気持ちが強くなる。
地面を見ると男がうつ伏せになって倒れていた。高そうなスーツを身にまとっている。
また、日焼けをしている。頭からの出血が酷い。彼女が彼を殺したのか。
近くに赤く汚れた石が落ちていた。これで殺したと言わんばかりだ。
玄関を開けた状態のせいで部屋の中に雨音が響いていた。
バタン。
扉をしめた。
山田は男に駆け寄り、息をしてるか確認した。予想はしていたが、息絶えていた。
「この男は誰?」
山田はそれしか気になっていない。
「も、元彼なの。別れたけど友達でいようって言われた。時々みんなで飲みに行ったりしただけ、それ以外何も無かったの。本当よ!そ、そしたら昨日急に家に行くってメールが来て…」
「それで?」
「もちろん、断ったの!でも来るって言ってき、聞かなくて…合鍵失くしたって言ってたのに私に嘘ついて持ってたみたいで…玄関で揉めてたら…」
「それでカッとなって殺したのか?」
「ち、違う!…私じゃない。私が殺したんじゃない。違うの。私は何もしてないの…違うわ私じゃない信じて!ねぇ信じて…」
過呼吸になりかけてた。
嘘ついてるようには見えない。
ボサボサに乱れている髪。彼女は完全に正気を失っていた。
「じゃあ誰が……」
彼女は後ろを向いた。
後ろにはリビングに続くドアがある。右手でそっとドアを指さした。
「向こうから急にい、石が飛んできた…分からないの!避けたりする時間なんて無かった…」
えっ待てよ…それって………
「誰かいる…」
「そんな事が、あるわけ…」
「本当なの!信じて!ドアの隙間から石が飛んできの。そして頭にあたった瞬間ドアが閉じて…」
「…………」
山田は彼女と顔を見合わせて、そっとドアに近づいた。
ガチャ。
リビングには、女の子らしい可愛い小物があり部屋は綺麗に整頓されていた。
海崎さんの部屋に入れたという歓喜ときたら堪らなかったが、そんな事言ってる暇はない。
当たりを見渡すが人の気配がない。
嘘だったのかなと彼女を問い詰めようとした時、
「ふんーふーんふふっふふー」
鼻歌が聞こえた。
彼女が言ってるのではない。鼻歌が聞こえる方向は、見なくても分かる。
押入れだ。
二人の間に緊張が流れる。
山田ゆっくり押入れに近づいた。
「ふふっふーんふーふっーふー」
確実に押入れにいる。
山田は決心して思いっ切りあけた。
ガタンっ
「バァっ!!」
「!?」
「びっくりしたー笑?」
なんだこいつ。
中には男がいた。黒髪に赤のメッシュが入っている。左耳には金色のピアスがついていた。パーカーにジャージで土足だ。
20代前半。まだ若い。
「お前誰だよ。何者なんだ!?」
山田は、すかさず叫んだ。
怖さで震える足を無理やり抑える。
「えっと僕は殺人鬼だよ。」
えっ もう1度聞き返したかった。
訳が分からない。
何で彼女の部屋に殺人鬼がいる。
おかしいだろ。
「僕ね、ある目的があってここに来たんだけど君たちには無関係なんだよね。僕、関係ない人巻き込まない主義なんだけど、ここから外へは降りられないし、玄関は君が居るから出られなくって…さぁ…僕、顔バレたらまずいんだよねー。」
彼女の顔がみるみる青ざめていった。
「じゃあ、それって…」
「死んでくれる?」
男は、いつ出したのか手にはナイフが握られていた。
「きゃあああああああああああああああ。」
彼女は玄関に向かって走り出した。
だが、足がよろよろだ。力が入ってない。
スグに、あいつが先回りしてドアを閉められた。
すると、あいつは彼女を思いっ切りグーで殴った。
彼女が倒れた。
「や、やめろ…そ、その子に手を出すな。やめろやめろやめろ」
「おや?君、この子が好きなの?そんな事言われたらもっと痛めつけたくなるじゃないか。」
今度は彼女のお腹を目掛けて何回も蹴った。山田は見ていられなくなりあいつに飛びかかった。だが当然殴り返される。
その衝撃で眼鏡が割れてしまった。
「あぁ!新しい服汚れちゃったじゃないか。」
「だ、黙れ…彼女に手を出すな……」
目の前の光景が信じられなくなった。何故彼女が倒れなければならない。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
山田の頭にはこの二文字しか思い浮かばなかった。
プチン
音をたてて山田の理性がぶっ飛んだ。
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