彼の日常が更に狂っていく。

快怜

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一章

美しい

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【一章】
6月10日。
東京には、豪雨が降り注いでいた。
空全体を薄黒い雲が覆い、ため息をこぼしたくなるような天候だ。
眼鏡をかけたこの男も雨に飽き飽きしていた。傘を玄関に置き机にコンビニで買った物を投げた。

名前は山田。
山田が住んでるこのアパートとは、築60年で壁は薄く、外観はサビだらけだ。
いつもの様にここに帰ってくると、山田は壁に耳を当てる。隣の203号室の海崎さんの音を聞くためである。
これが山田の唯一の楽しみだ。このために仕事を頑張っているとも言えた。
海崎さんの電話の声や物音。テレビを観てる時笑い声などを盗み聞きしては、山田は1人部屋でにんまりと笑みを浮かべていた。
山田がこの行為をするきっかけになったのは、今からおよそ2年前のことだ。

約5年前山田がアパートに引っ越してきて特に何もなく毎日を過ごしていた。
それから3年が経ったある日、夕方ここに帰ってくると山田の部屋の前でうろうろしてる女性がいた。
髪は、肩より長い。20代前半だろうか。薄ピンクのTシャツにジーパン、スニーカーを履いている。彼女は後ろ姿しか見えない。山田はどうしていいか分からず五分ぐらい隠れて見ていた。
すると、彼女は山田の部屋のインターホンを押した。
「ピンポーン」
自分に用があるのか…
「何か用ですか?」
すると彼女が振り返り山田を見るなり
「204号室の方ですか…?」
「そうですけど。」
そう言うと彼女は安堵したように嬉しそうな表情を浮かべた。
目尻があがりとても可愛らしい。
「隣に引っ越してきた 海崎です!これつまらないものですが…」
「あっありがと。」
「では、これからよろしくお願いします!」彼女は深いお辞儀をすると自分の部屋に入っていった。
それが彼女との出会いだ。
最初会った時はラフな格好だったが普段はヒールを履きオシャレをしている。
見るからに仕事ができそうだ。
山田は海崎の事が気になっていた。
彼女と出会ってから数ヶ月たったある日、
「きゃっ」
彼女の声が山田の部屋に聞こえた。
身体をどこかにぶつけたらしい。
「いったぁぁ」彼女の声を聞いた時、山田はもっと彼女の声を聞きたいもっと知りたいという欲望が彼の中で疼きだした。

これが始まりだ。
それから毎日のように壁に耳をあて彼女の部屋の音を聞いていた。
だが、山田にはポリシーがあって前からストーカーはしないと決めている。
それは、彼女がつけられていると気づいた時にヤバイからだ。捕まりたくない。
そのためいつも音を聞くか、部屋の窓から彼女が部屋から出てきた時を見ていた。
2年も続けると彼女の事も少しだが分かってきた。

①名前 →  海崎 凛 (かいざき りり)
②年齢 → 24歳  
③誕生日 → 7月20日
④職業 → ファッション関連の仕事
⑤好物 → ナッツ類とみかん、カレー
⑥趣味 → イラストを描くこと、お出かけ
⑦好きな人 → BIG BANG
⑧嫌いな人 → 細かい事を気にする人
⑨親友 → 土田 香織 (通称 かおりん )
⑩職場の上司 → 岩辺さん (部長)(ハゲらしい)

  基本的に、午前6時40分前後に家を出て、午後7時前後に帰ってくる。
週に3回ぐらいは10時ぐらいに帰ってくる。細かい事は他にもあるが後はノートに書いてある。
山田は毎日彼女がいつ家を出て いつ帰ってきたかの時刻、その日の服装・髪型 部屋から聞こえた事を書き記している。
ちなみに、ノートは今ので34冊目である。
山田は、今日の分の時刻を書き終えるとそっと壁に耳を当てた。雨の音がうるさくてよく聞こえない。
もっと耳を壁におしつけた。
すると妙な音が聞こえた。いつもの足音と比べて数が多い。誰か来てるのか。
「きゃっ!やめてよ。ねぇ、入って来ないでよ。もう帰ってよ!」
彼女の抵抗する声が聞こえる。
「うっせぇんだよ!」
声が聞こえた。低い男の声だ。
憤懣を感じないではいられなかった。
誰だ。あいつは。2年間聞いていたが、知らない。1時期彼氏がいた時があったが、別れたと友達を家に呼んで話していたじゃないか。荒だつ怒りと嫉妬を無理やり抑え壁に耳を当てた。
今度は彼女の泣き声が聞こえた。
男と激しく言い争っていた。
ノートなんかとる暇なかった。男の怒鳴る声と彼女の泣き叫ぶ声が耳に交差していた。
雨の音なんか耳に入らなかった。いてもたってもいられなくなった時
「ガン」
鈍い音が聞こえた。
大きな岩を壁に投げつけたような音だ。
その音が聞こえた瞬間 ピタリと音がやんだ。怒鳴り声も泣き声も一切なくなった。胸騒ぎがする。
嫌な予感がした山田はその音が聞こえた時には走り出して彼女の部屋の玄関を叩いていた。

「隣の山田です。音がしましたが、どうかしたんですか?」
雨で声が消されないよう、いつもより2倍ぐらい大きな声で言った。
普段こんな大声出さないので喉がつっかえて上手く喋れない。ドアノブに手をかけると鍵が閉まっていない事に気づいた。
キィィィィィィィィ…。
古くボロボロのドアがゆっくりと開く。

玄関で呆然と立ち尽くす血だらけの彼女がじっとこちらを見据えていた。
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