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第2章
力も方便
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「荷物運びのお手伝いに、僕が使えるかをお見せ
します。僕の特技は物を滑らせる事です。この力で
遠征のお力になります」
全員が怪訝な顔をするなか、僕は披露するのに
最適な人を選んだ。
「カイルさん。あなたは多分この中で1番の力持ち
ですよね。ちょっとよろしいですか?」
彼は指で自らの顔を指し「俺!?」と驚くが、
次の瞬間には僕の前に進み出ていた。
「よし、何をすれば良い!?」
僕は無駄に暑苦しい彼に手を差し出し、彼の手を
つけてもらうようお願いした。僕とカイルの手が
触れ合う。体格が良い分、触れただけで手に圧を
感じる。僕は彼の足元に《滑れ》と念じる。
「カイルさん。僕を押してみてください」
「良いのか!?ふっ飛ぶぞ!?」
全員が見守る中、カイルが足に力を込め、強烈に
1歩踏み出す。地面が揺れたかのような錯覚を覚える
踏み込みも虚しく彼の足はずるりと後ろに下がった。
僕はぴくりとも動かず、カイルは相撲のぶつかり稽古
のように押し進める動きを"その場で"見せている。
「な……!」
隊長以外の全員が身を乗り出す。僕はそのまま
カイルの手を押し、ズルズルと後退させた。前進する
つもりで後退する不思議な現象に、皆目を丸くした。
「……運搬の有用性は、これで証明出来ましたで
しょうか」
僕の言葉に頷くメンバー。ルッソさんはまだなにか
言いたそうにしていたが、カイルは笑いながら足を
動かし続けた。彼を相手にしてよかった。鍛えられた
身体はその体幹も異常なまでに研ぎ澄まされており、
転ぶ事なくぶつかり稽古を続ける。
「これすごいな!!修練に使えるぞ!」
彼はどこまでも純粋に楽しそうだった。
・
・
・
「……で、なんでここに知らんやつが居るんだ?」
ジークさんが不思議そうに言った。僕はあの後、
急いで旅の食料と水を整え、明日の早朝に向けて
スコイルの溜まり場に戻ってきた。ジークさんは
ハディマルへの帰りがけに寄ったらしく、思いがけず
人口密度の高い室内を見て困惑していた。
この場にいるのはグナエさん、ヴェスパーさん、
カザットさん、何故か着いてきたカイル、ルアさん。
……どうしてこうなった。
「あんたがこの隊の隊長か!?悪い!俺金無いんだ!
出発まで居させてくれ!」
あ、うん、カイル……それは多分、ジークさんには
意味が分からないままだと思う。僕は彼のフォローを
する事にした。
「すみません、ジークさん。彼らはキャラバンの
護衛です。明日の商隊でご一緒させていただく事に
なりました。なんでも宿から追い出されたそうで、
行き場が無かったそうで……」
ジークさんの顔が余計困惑に包まれた。
「……いや、金ないとしても宿からつまみ出される
意味わかんねぇよ。キャラバン参加決まってんなら
報酬前借りして払えるだろ」
「いや!修練に壁殴ってたら、是非護衛に!って
誘われたんだ!」
ルアさんが頭を抱え、物事を正確に言い直す。
「あー、勘違いすんな。迷惑だから追い出されて、
弁償の代わりにタダ働きしろってだけだ」
グナエさんが頭を掻きながら立ち上がり、両手を
広げて一旦場を沈める。
「とりあえず、うちやジークは家戻るし、残るのは
ヴェスパーとカザットだけだから3人増えたところで
問題は無いわな。ここは自由に使っていいし、好きに
出入りして構わねぇよ。……だがカイル、だったか?
お前、壁ぶっ壊したら流石になあなあにはできねぇ
からな、お行儀よく使えよ」
「任せろ!!」
カイルの元気な返事に、ジークさんが叫ぶ。
「グナエ、オレ不安だぞ!」
グナエさんはジークさんの肩に手を回し、一緒に
帰宅した。残った5人は妙な空気に包まれつつ、
ヴェスパーさんが用意してくれた夕食を囲んだ。
……困った。この場には、場をまとめる人が誰も
いない。
無言で食事を口に運ぶ中、まっさきに声を発した
のはカザットさんだった。
「……デニス。おめでとう……」
キャラバン参加に対するごく短い祝辞が温かい。
「ありがとうございます。皆さんが助けてくれた
おかげです。僕1人では、商人の信用は得られ
なかったです」
「お、オイラ達は、な、何もしてない、よ」
ヴェスパーさんが両手を小さく振りながら言った。
彼は続けてカイルやルアさんに言う。
「で、き、き君たちは、護衛、なんだよね?デニス君
を、よ、よろしく、ね」
ルアさんは食事の手を止めると、冷静に言う。
「ザバンまでの間だ。隊の参加者によろしくと言われ
るんならわかるが、第三者に子守りを任されるいわれ
はねぇよ」
棘のある言葉だが、真っ当だ。彼女はキャラバンの
護衛であって、誰か個人を守るわけではない。
ヴェスパーさんの優しさは嬉しいが、これが現実の
温度感なのだろう。もっとも、しょんぼりとした
ヴェスパーさんを見るのは忍びないが。
「ししょー!冷たいぞ。俺達は守り守られだ。少なく
とも、俺はししょーが危なければ助けるぞ!」
「馬鹿か。アタシが危ないならお前は既に死んでるわ。
あといい加減師匠呼ぶのやめろ。弟子をとった覚え
はねぇって言ってんだろ」
師弟ではないのか……2人の関係がよく分からない
が、一旦は置いておこう。それこそ深入りする事
ではないと思う。よく良く考えれば不思議な2人だ。
ルアさんは見た目的には子供のように見えるが、言動
や態度からしてどう考えてもそれなりの年齢だ。
エルフの成長について僕は詳しくないが、彼女が僕
より大人なのは間違いない。カイルが師匠と呼ぶのも
ある意味自然に見える。ただ謎なのは、ルアさんより
カイルの方が弱いと取れる言葉だ。肉体的にはどう
見てもカイルの方が鍛えられている。筋力が力の全て
とは思わないが、限度というものがある。
(不思議な2人ですね)
僕がダガーに話しかけると、彼女は肯定で返した。
ルアさんが僕の方をちらりと見ると、言った。
「……デニス、だったよな。お前戦闘はできるのか?」
「あ、あまり自信はないです」
彼女は何か見透かすように、一呼吸置くと、
「そうかい。腰の剣が飾りになっちまうぞ」
と言った。
・
・
・
辺りが全て夜に沈み、街の温度が下がる。所々
灯りの残る路地を抜けて、僕は静まる街の門を出た。
「なかなか話できませんね」
『まぁ仕方ないわい。意思疎通自体は問題ないから
別に困っとらん』
ダガーは穏やかに言った。ドタバタとした夕食の
あと、出発までの時間仮眠をする事になり、カイル
達が寝静まったのを確認してからスコイルの溜まり場
を抜け出してきたのだ。
短い草の生え揃う地面に座り、やや曇った空を
見上げ、草木が風に揺れる音を聞きながら、僕は
ダガーに零す。
「……なかなか、難しいものですね」
『何がじゃ?お前は見事に席を勝ち取ったじゃろ』
護衛の人々は、僕の能力的に問題がないと判断した
に過ぎない。信用という点で考えれば、ルッソさん
を始めルアさんや無愛想な2人からもそれを得ること
はできていない。カイルは……よく分からない。
「ハディマルでの生活が如何に庇護下だったか、実感
し始めています」
『たわけ。お前は前世を覚えておるのじゃろ。親元を
離れ世に揉まれたことくらいあるじゃろ』
……ハッとした。僕は18歳で前世を去った。考えて
みれば社会に出て深く世に関わる前に一生を終えてし
まったのだ。成人して、会社に勤め、結婚し、子供を
授かって、育てるような、責任ある大人としての世界
を見る前に今世を迎え、15年。つまり成人経験のない
まま33年分の記憶だけがある、とても中途半端な
状態に陥っているのだ。ジークさんに対し、「年齢的
には自分の方が歳上になってしまう」なんて一時でも
考えた自分が恥ずかしい。彼が大きく見えるのは
当たり前だったんだ。
「……どうやら僕は、歳だけとってしまった子供、
だったみたいです」
『なんじゃそりゃ。妙なことを言うのう。……なら、
同じく妙な奴に話を聞いてみたらどうじゃ?ワシ
や、あるいは今、近寄って来た者とかにのう」
風に靡く金髪、月の僅かな光を照り返す深い緑色の
瞳。音もなく僕の傍に居たのは、ルアさんだった。
「妙な奴、ってのは、聞き捨てならねぇな」
不機嫌を思わせる言葉にもかかわらず、彼女は
笑っていた。この人、ダガーの声が聞こえている。
『驚かんのじゃな』
「そりゃな。勝手に重さが変わる剣が、ただの武器
なわけねぇだろ」
……この人は、まさか気づいていたのか?夕食中、
1度だけダガーが肯定を示した重さ変化に。肯定合図
の直後に僕を見たのは、そういうことだったのか?
だとしたら洞察力が異常すぎる。今の全く気取らせ
ない接近も常人のものではない。何者なんだ、この
人は。
「……それに、"喋る剣"に因縁のある奴が、いつも
後ろにくっついてるからな。別に驚きゃしねぇよ」
因縁?後ろにくっついてる?カイルの事か?ダガー
はカイルと何かあったのか?
『あのカイルとかいうガキか?ワシはあんな奴知らん
ぞ」
ルアさんは「そうか、ならいい」と返し、僕の横に
並んで座った。
「妙ってのは、聞き捨てはならねぇが間違っちゃ
いねぇ。アタシみたいなエルフは珍しいだろ」
やっぱりエルフなのは間違っていなかった。でも、
"普通のエルフ"を知らない僕には、彼女の妙な部分
がいまいち分からない。
「ルアさんは、何か変わってるんですか?」
彼女は渇いた笑いを浮かべたあと、言った。
「そうか、一般的なエルフを見たことねぇんだな。
普通、エルフは恵まれた美しい身体を持ってるん
だよ。アタシみてぇなちんちくりんはいやしねぇ。
アタシは、エルフと"小人族"の混血だからな」
小人族……?彼女の子供のような容姿はそれに
起因するのか。エルフといい小人族といい、
ハディマルでは見た事もなかった。周りの人の反応を
見ていても、別にそこまでは珍しい者を見る目をして
はいなかった。この世界では前世で言う外国人くらい
の印象なのだろうか。
「ちなみに因縁があるやつってのはカイルだ。もし
アンタに心当たりがねぇってんなら、人違いならぬ
"剣違い"なんだろうな。なんせカイルがアンタを見て
も何も言っちゃいねぇんだから」
これはさり気なく、強力な情報だ。以前母さんの
言っていた「物から声が聞こえる、というのはたまに
ある事なのよ」では曖昧だったが、この証言でダガー
以外にも喋る剣が存在するという確証が得られたと
言ってもいい。
だが、今はそれよりも気になることがある。
「ルアさんは、なんで今ここに来たんですか?」
「別に深い意味はねぇよ。お前が急に外出たから、
何してんのか気になってな。だが、それが剣とお喋り
する為とはな。街の中では都合が悪かったのか」
「ええ、ダガーの声は、色んな人に届いてしまうので」
それを聞くとルアさんは「なるほど」と頷き、目を
細めて言った。
「そいつ、ダガーっていうのか。……賢明だったな。
カイルの前ではその剣喋らすな」
「え……?」
「アイツはキレると手がつけられねぇからな」
そういうと、ルアさんは立ち上がりおしりに着いた
砂を払う。
「明日は早い。ガキはさっさと寝るんだな。寝坊助は
容赦なく置いてかれるぜ」
彼女の姿は、夜の暗闇に溶けるように去った。
「……不思議な人ですね」
『食えん奴じゃ。ありゃ相当な実力者じゃな』
暗いうちから準備して、夜明けと共に馬車は出る。
僕は仮眠に戻るため、カイルさんの爆音いびきが響く
スコイルの溜まり場に戻ることにした。
します。僕の特技は物を滑らせる事です。この力で
遠征のお力になります」
全員が怪訝な顔をするなか、僕は披露するのに
最適な人を選んだ。
「カイルさん。あなたは多分この中で1番の力持ち
ですよね。ちょっとよろしいですか?」
彼は指で自らの顔を指し「俺!?」と驚くが、
次の瞬間には僕の前に進み出ていた。
「よし、何をすれば良い!?」
僕は無駄に暑苦しい彼に手を差し出し、彼の手を
つけてもらうようお願いした。僕とカイルの手が
触れ合う。体格が良い分、触れただけで手に圧を
感じる。僕は彼の足元に《滑れ》と念じる。
「カイルさん。僕を押してみてください」
「良いのか!?ふっ飛ぶぞ!?」
全員が見守る中、カイルが足に力を込め、強烈に
1歩踏み出す。地面が揺れたかのような錯覚を覚える
踏み込みも虚しく彼の足はずるりと後ろに下がった。
僕はぴくりとも動かず、カイルは相撲のぶつかり稽古
のように押し進める動きを"その場で"見せている。
「な……!」
隊長以外の全員が身を乗り出す。僕はそのまま
カイルの手を押し、ズルズルと後退させた。前進する
つもりで後退する不思議な現象に、皆目を丸くした。
「……運搬の有用性は、これで証明出来ましたで
しょうか」
僕の言葉に頷くメンバー。ルッソさんはまだなにか
言いたそうにしていたが、カイルは笑いながら足を
動かし続けた。彼を相手にしてよかった。鍛えられた
身体はその体幹も異常なまでに研ぎ澄まされており、
転ぶ事なくぶつかり稽古を続ける。
「これすごいな!!修練に使えるぞ!」
彼はどこまでも純粋に楽しそうだった。
・
・
・
「……で、なんでここに知らんやつが居るんだ?」
ジークさんが不思議そうに言った。僕はあの後、
急いで旅の食料と水を整え、明日の早朝に向けて
スコイルの溜まり場に戻ってきた。ジークさんは
ハディマルへの帰りがけに寄ったらしく、思いがけず
人口密度の高い室内を見て困惑していた。
この場にいるのはグナエさん、ヴェスパーさん、
カザットさん、何故か着いてきたカイル、ルアさん。
……どうしてこうなった。
「あんたがこの隊の隊長か!?悪い!俺金無いんだ!
出発まで居させてくれ!」
あ、うん、カイル……それは多分、ジークさんには
意味が分からないままだと思う。僕は彼のフォローを
する事にした。
「すみません、ジークさん。彼らはキャラバンの
護衛です。明日の商隊でご一緒させていただく事に
なりました。なんでも宿から追い出されたそうで、
行き場が無かったそうで……」
ジークさんの顔が余計困惑に包まれた。
「……いや、金ないとしても宿からつまみ出される
意味わかんねぇよ。キャラバン参加決まってんなら
報酬前借りして払えるだろ」
「いや!修練に壁殴ってたら、是非護衛に!って
誘われたんだ!」
ルアさんが頭を抱え、物事を正確に言い直す。
「あー、勘違いすんな。迷惑だから追い出されて、
弁償の代わりにタダ働きしろってだけだ」
グナエさんが頭を掻きながら立ち上がり、両手を
広げて一旦場を沈める。
「とりあえず、うちやジークは家戻るし、残るのは
ヴェスパーとカザットだけだから3人増えたところで
問題は無いわな。ここは自由に使っていいし、好きに
出入りして構わねぇよ。……だがカイル、だったか?
お前、壁ぶっ壊したら流石になあなあにはできねぇ
からな、お行儀よく使えよ」
「任せろ!!」
カイルの元気な返事に、ジークさんが叫ぶ。
「グナエ、オレ不安だぞ!」
グナエさんはジークさんの肩に手を回し、一緒に
帰宅した。残った5人は妙な空気に包まれつつ、
ヴェスパーさんが用意してくれた夕食を囲んだ。
……困った。この場には、場をまとめる人が誰も
いない。
無言で食事を口に運ぶ中、まっさきに声を発した
のはカザットさんだった。
「……デニス。おめでとう……」
キャラバン参加に対するごく短い祝辞が温かい。
「ありがとうございます。皆さんが助けてくれた
おかげです。僕1人では、商人の信用は得られ
なかったです」
「お、オイラ達は、な、何もしてない、よ」
ヴェスパーさんが両手を小さく振りながら言った。
彼は続けてカイルやルアさんに言う。
「で、き、き君たちは、護衛、なんだよね?デニス君
を、よ、よろしく、ね」
ルアさんは食事の手を止めると、冷静に言う。
「ザバンまでの間だ。隊の参加者によろしくと言われ
るんならわかるが、第三者に子守りを任されるいわれ
はねぇよ」
棘のある言葉だが、真っ当だ。彼女はキャラバンの
護衛であって、誰か個人を守るわけではない。
ヴェスパーさんの優しさは嬉しいが、これが現実の
温度感なのだろう。もっとも、しょんぼりとした
ヴェスパーさんを見るのは忍びないが。
「ししょー!冷たいぞ。俺達は守り守られだ。少なく
とも、俺はししょーが危なければ助けるぞ!」
「馬鹿か。アタシが危ないならお前は既に死んでるわ。
あといい加減師匠呼ぶのやめろ。弟子をとった覚え
はねぇって言ってんだろ」
師弟ではないのか……2人の関係がよく分からない
が、一旦は置いておこう。それこそ深入りする事
ではないと思う。よく良く考えれば不思議な2人だ。
ルアさんは見た目的には子供のように見えるが、言動
や態度からしてどう考えてもそれなりの年齢だ。
エルフの成長について僕は詳しくないが、彼女が僕
より大人なのは間違いない。カイルが師匠と呼ぶのも
ある意味自然に見える。ただ謎なのは、ルアさんより
カイルの方が弱いと取れる言葉だ。肉体的にはどう
見てもカイルの方が鍛えられている。筋力が力の全て
とは思わないが、限度というものがある。
(不思議な2人ですね)
僕がダガーに話しかけると、彼女は肯定で返した。
ルアさんが僕の方をちらりと見ると、言った。
「……デニス、だったよな。お前戦闘はできるのか?」
「あ、あまり自信はないです」
彼女は何か見透かすように、一呼吸置くと、
「そうかい。腰の剣が飾りになっちまうぞ」
と言った。
・
・
・
辺りが全て夜に沈み、街の温度が下がる。所々
灯りの残る路地を抜けて、僕は静まる街の門を出た。
「なかなか話できませんね」
『まぁ仕方ないわい。意思疎通自体は問題ないから
別に困っとらん』
ダガーは穏やかに言った。ドタバタとした夕食の
あと、出発までの時間仮眠をする事になり、カイル
達が寝静まったのを確認してからスコイルの溜まり場
を抜け出してきたのだ。
短い草の生え揃う地面に座り、やや曇った空を
見上げ、草木が風に揺れる音を聞きながら、僕は
ダガーに零す。
「……なかなか、難しいものですね」
『何がじゃ?お前は見事に席を勝ち取ったじゃろ』
護衛の人々は、僕の能力的に問題がないと判断した
に過ぎない。信用という点で考えれば、ルッソさん
を始めルアさんや無愛想な2人からもそれを得ること
はできていない。カイルは……よく分からない。
「ハディマルでの生活が如何に庇護下だったか、実感
し始めています」
『たわけ。お前は前世を覚えておるのじゃろ。親元を
離れ世に揉まれたことくらいあるじゃろ』
……ハッとした。僕は18歳で前世を去った。考えて
みれば社会に出て深く世に関わる前に一生を終えてし
まったのだ。成人して、会社に勤め、結婚し、子供を
授かって、育てるような、責任ある大人としての世界
を見る前に今世を迎え、15年。つまり成人経験のない
まま33年分の記憶だけがある、とても中途半端な
状態に陥っているのだ。ジークさんに対し、「年齢的
には自分の方が歳上になってしまう」なんて一時でも
考えた自分が恥ずかしい。彼が大きく見えるのは
当たり前だったんだ。
「……どうやら僕は、歳だけとってしまった子供、
だったみたいです」
『なんじゃそりゃ。妙なことを言うのう。……なら、
同じく妙な奴に話を聞いてみたらどうじゃ?ワシ
や、あるいは今、近寄って来た者とかにのう」
風に靡く金髪、月の僅かな光を照り返す深い緑色の
瞳。音もなく僕の傍に居たのは、ルアさんだった。
「妙な奴、ってのは、聞き捨てならねぇな」
不機嫌を思わせる言葉にもかかわらず、彼女は
笑っていた。この人、ダガーの声が聞こえている。
『驚かんのじゃな』
「そりゃな。勝手に重さが変わる剣が、ただの武器
なわけねぇだろ」
……この人は、まさか気づいていたのか?夕食中、
1度だけダガーが肯定を示した重さ変化に。肯定合図
の直後に僕を見たのは、そういうことだったのか?
だとしたら洞察力が異常すぎる。今の全く気取らせ
ない接近も常人のものではない。何者なんだ、この
人は。
「……それに、"喋る剣"に因縁のある奴が、いつも
後ろにくっついてるからな。別に驚きゃしねぇよ」
因縁?後ろにくっついてる?カイルの事か?ダガー
はカイルと何かあったのか?
『あのカイルとかいうガキか?ワシはあんな奴知らん
ぞ」
ルアさんは「そうか、ならいい」と返し、僕の横に
並んで座った。
「妙ってのは、聞き捨てはならねぇが間違っちゃ
いねぇ。アタシみたいなエルフは珍しいだろ」
やっぱりエルフなのは間違っていなかった。でも、
"普通のエルフ"を知らない僕には、彼女の妙な部分
がいまいち分からない。
「ルアさんは、何か変わってるんですか?」
彼女は渇いた笑いを浮かべたあと、言った。
「そうか、一般的なエルフを見たことねぇんだな。
普通、エルフは恵まれた美しい身体を持ってるん
だよ。アタシみてぇなちんちくりんはいやしねぇ。
アタシは、エルフと"小人族"の混血だからな」
小人族……?彼女の子供のような容姿はそれに
起因するのか。エルフといい小人族といい、
ハディマルでは見た事もなかった。周りの人の反応を
見ていても、別にそこまでは珍しい者を見る目をして
はいなかった。この世界では前世で言う外国人くらい
の印象なのだろうか。
「ちなみに因縁があるやつってのはカイルだ。もし
アンタに心当たりがねぇってんなら、人違いならぬ
"剣違い"なんだろうな。なんせカイルがアンタを見て
も何も言っちゃいねぇんだから」
これはさり気なく、強力な情報だ。以前母さんの
言っていた「物から声が聞こえる、というのはたまに
ある事なのよ」では曖昧だったが、この証言でダガー
以外にも喋る剣が存在するという確証が得られたと
言ってもいい。
だが、今はそれよりも気になることがある。
「ルアさんは、なんで今ここに来たんですか?」
「別に深い意味はねぇよ。お前が急に外出たから、
何してんのか気になってな。だが、それが剣とお喋り
する為とはな。街の中では都合が悪かったのか」
「ええ、ダガーの声は、色んな人に届いてしまうので」
それを聞くとルアさんは「なるほど」と頷き、目を
細めて言った。
「そいつ、ダガーっていうのか。……賢明だったな。
カイルの前ではその剣喋らすな」
「え……?」
「アイツはキレると手がつけられねぇからな」
そういうと、ルアさんは立ち上がりおしりに着いた
砂を払う。
「明日は早い。ガキはさっさと寝るんだな。寝坊助は
容赦なく置いてかれるぜ」
彼女の姿は、夜の暗闇に溶けるように去った。
「……不思議な人ですね」
『食えん奴じゃ。ありゃ相当な実力者じゃな』
暗いうちから準備して、夜明けと共に馬車は出る。
僕は仮眠に戻るため、カイルさんの爆音いびきが響く
スコイルの溜まり場に戻ることにした。
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