14 / 56
本文
運命の番の話を聞かされました。③
荒い呼吸が落ち着くまでルボミールに優しく撫でられた。
それに安心していたのだが、次第に理性が戻ってくると恥ずかしくてたまらなくなる。
その視線から逃げるよう立ち上がると、スラックスと下着を拾い上げるそれを着る。
濡れた感触が気持ち悪いが見せたままなのは恥ずかしかったのである。
京は少し離れてソファーに座って視線を逸らす。
そして恨みがましく呟いた。
「・・・Ωの発情を疎んでるんじゃないのか」
きっと、ルボミールに帰せと言った時に帰してくれたなら、こんなことにはならなかった。
苛立った声で言うと苦笑が漏れた。
「一般的には。俺もシノノメ殿以外のΩの発情など不快なだけだ」
戻された呼び名に寂しくも思うがそのまま続ける。
先ほどのあれは「知らないこと」にしてくれるらしい。
自制は自分ではできなかった。優れていると言われるαなら抗ってほしい。
抗えないとすでに聞いているが、そんなことを思ってしまう。
ルボミールが抵抗剤を飲んでくれていなかったと思うとぞっとした。
「そこに俺も含めてくれ、お願いだから」
「それは難しいな。・・・今はそばにいるからそうでもないが、離れたらまた発情させることばかり考えるな」
「!?・・・ルルの所為だったのか?」
「恐らくは」
「っ半日に一回は飲むようにする」
なんて恐ろしいことなのだろうか。
「・・・まってくれ。もしかして毎日のように発情していたのはルルの所為・・・?」
しかしその言葉に眉を顰めるルボミール。
「毎日?」
「・・・うん。この世界に来て一回着た後はしばらくなかったけど、ラージャに来てから・・・。
そう言われてみればルルに会った日は大抵そうだったかもしれない」
余りにもくるから怖くなって毎日のように飲んでいたから、正確なことは分からないが前兆はルミボールが来る日が近かったように感じる。
一時は飲みすぎによる抗体?でもできてしまったのかと思ったが、原因が分かったなら余計に飲まなければと思った。
しかし、ルボミールは厳しい表情を浮かべる。
「それは止めた方がいい」
「なぜ?」
「俺に暴走されて閉じ込められたいか?」
「・・・、」
その言葉に唖然としてしまう。
すると、ルボミールは距離を置いて座っていたのを詰めてくると京の手を取る。
「!・・・手が汚れて・・・、え?」
すると、かさついていた手がスッと綺麗になった。
初めて見るものだがルボミールがしたのだと分かる。
そして綺麗な手を握ると指を絡めて握ってきた。
「・・・。まだ運命の番の話をしていなかったな」
『番』ということはバースに関係があるのだろうか。
先ほどの強制力は抗えなかった。
通常時では考えられないほど淫らなこと我慢できなくなってしまっていたのだ。
ルボミールの様子がおかしかったのは、彼にも働いていたのだろうか。
「シノノメ殿の薬はよく効く。我が国の抑制剤よりも遥かにきくようだ。
・・・それは俺にもな」
「え?」
発情期に効くかどうかの観点しか見ていなかったから、αにも風邪薬の抑制剤が効くとは思わなかった。
Ωの発情に効く抑制剤であり、αの抵抗剤にもなるなんて万能薬じゃないか。
思わず販売について考えてしまうが、ルボミールの真剣な表情に思考をもとに戻す。
「だが、その前に基本を説明する必要がありそうだ」
「以前聞いたこと以外にもあるのか?」
正直なところ、トシマ区で製剤する薬剤師や医師、研究者たちは現地のΩやβ達から調べているのだろうが、京はまだそこまで追い付いていないのが実情だ。
先ほども言った通り、トシマ区を潤おわせ安定させることに集中しており、困ったら抑制剤を飲んでる。
「Ωの発情周期は分かるか?」
「・・・えーっと、3か月に1回だったかな」
「そうだ。本来その周期で来てαを誘惑するフェロモンを纏う。
そのフェロモンはΩだけでなくαの正常な思考まで凌駕する。
Ωを抱き、突き上げ啼かせて・・・この項に噛み跡をつけることしか考えなくなる」
「っ」
ルボミールにするりと首筋を撫でられると体が震えた。
「っ・・・そこっ・・・ゃっ」
何度もそこを撫でられると収まったはずの興奮と、なぜか恐怖が沸いた。
「怖いだろう・・・?」
「ど、・・・して?」
「ここはΩにとって大事な場所の一つだからだ」
「項が?」
「あぁ」
そう言うと項から手を離された。
「αにここを噛ませることで番うことは話したな?
番状態になると具体的にどういう事になるかは知っているか?」
「・・・わからない」
「αと番うことでΩは番以外のαを誘わなくなる」
「良いことじゃないか」
そう言うとルボミールは目を細め、少し冷気を纏わせる。
「っ・・・だって実際問題そうだろう?Ωとかαとか関係なく、自分がそういう病気になったと考えたらそう思う」
「・・・。それで俺以外のαと番って後悔するのは貴方だ。・・・簡単には逃がす気はないが」
「ルル以外のαとは考えてなかったな」
京がそう言うと、不機嫌な冷気がシュッと引っ込んだ。
「・・・でも、好意を受け取るつもりがないなら、ルルじゃない方が・・・冗談だ」
そう言いかけた途端再び冷えて思わず苦笑を浮かべた。
怖かったはずのこの冷たさや熱さは、自分に向けられた好意の形の様だ。
でも困ってしまう。ルボミールの気持ちを受け取ることは出来ない。
「そんなに俺が壊れて良いなら試すと良い」
「・・・その、ルルのそれはΩが抱き心地が良いからとか」
「シノノメ殿」
「仕方がないじゃないか。俺は分からないって知っているだろう?」
再び発する冷気に、怒られても京が知るわけもない。
むしろ体だけの関係なら・・・いや、俺もさっきので毒されたのかな
セックス前提なら、むしろセフレではなく受け入れた方が健全ではないか。
男にキスをされたのも後ろを弄られたことも嫌悪どころか気持ちよかったことが、そんな馬鹿な思考に陥らせてしまう。
「説明を続ける。
・・・Ωはαを番ことで安息を得ることが出来るが、番う行為は一度しかできない。
また、番った状態は、Ωから解消することは出来ないが、αから番を強制的に解除できる。
シノノメ殿にはこれがどういう意味なのかピンと来ていないとは思うが。
・・・番を解消されたΩは精神的ストレスに追われる。
解消後も性行為はそのαとしか出来ない上に、発情期は終わるわけではない。
・・・それがどういう事か分かるか?」
そういうルボミールに京は首を横に振った。
「精神崩壊をすると言われている。
そういう事があるせいか、Ωはαをおびき寄せるフェロモンを放つのに、一方で本能的に首を触れることに恐怖を感じるのだ」
「・・・、」
「これが普通のαとΩの番だ。・・・『運命の番』は少し違う。
『運命』の場合、発情期とは関係なく互いのフェロモンに引き寄せられ、必然的に愛し合い番同士は一緒にいることで最上の安息を得る」
「・・・。それなら俺は違うんじゃないか?・・・確かにルルといると安心することはあるけど、・・・その」
「『最上』ではないという事だろう?
・・・それはおそらく、貴方の飲んでいる抑制剤の影響だ」
「え」
「この部屋に訪れた時、俺は抵抗剤を飲んでいたからさほどあてられなかったが、確かにフェロモンに引き寄せられた。貴方を抱きたくて、・・・この項に噛み跡を付けたくてたまらなくなった」
「っ」
「毎日服用しているから効果が強まっているのか分からないが、・・・それとも『運命』だから拒否することに冷静になったのか、あの時は止まれた。
だが、貴方に薬を飲ませる時、俺も口にしたわけだが、その途端ラットが急激に収まった。
・・・ただ貴方に触れたいとそれだけになったのだ」
「・・・それが、抑制剤の影響だと?」
「あぁ。・・・シノノメ殿には難しいかもしれない。・・・しかし、番とは・・・『運命』とはそういうものなのだ」
苦笑を浮かべながら頬を撫でられる。
この安心感や、発情したときに離れたくないと感じたあれは、ルボミールはもっと強く感じていたということなのだろうか。
「さっき、ルルが壊れると言っていたのは・・・?」
「普通の番はαから解消できる。
・・・しかし、運命のαはまず番を解消しようとは思わない。
だが、もしすでに運命のΩが番っている場合、そのΩを連れ去ってでも・・・たとえそのΩが狂うと分かっていても手に入れようとする」
「・・・」
「Ωも運命だと分かれば惹かれあうのは止められない。
・・・しかし、発情期の時に性交渉をすることは出来ず、拒否を示す。
・・・その、心の反応はαにもストレスになると言われており、・・・互いに精神を壊すと言われている。
現に・・・俺はシノノメ殿を誰にも譲る気はない。
だが、シノノメ殿の「抑制剤」はシノノメ殿のフェロモンを著しく抑える。
俺からのフェロモンもわからないだろう?」
「・・・?・・・まずフェロモンと言うのが分からない」
その言葉に苦笑を浮かべるルボミール。
「そうか。この地に来てすぐにその抑制剤を飲んでいたのだったな。・・・試してみるか?」
「・・・俺は・・・初めての発情期の時にあんなに自制が効かなくなったのが怖かった」
ルボミールが怖いのではないと示しながらも、京は首を横に振った。
「そうか。・・・フェロモンに応えれないというのは、αからすると拒否をされているような感覚に陥るのだ」
「・・・それが、暴走につながったと」
コクリと頷くルボミール。
「俺からの・・・想いは期待しないって」
「・・・そうだな。だが諦めたとは言っていない」
「・・・?」
「シノノド殿からの想いは期待しないが愛されたいと思うことはあきらめていない」
「・・・」
困ってしまいながら苦笑を浮かべた。
期待してないなんて嘘ではないか。
「番うならルルが良いと思う」
「・・・」
「ルル以外にαの知り合いは少ないし親しくはないし。男性でも女性でもな。
・・・けど、俺達の世界では体を重ねるのは愛し合っているもの同士がするものなんだ」
「この世界でも同じだ」
「・・・。ルルには惹かれているのが、・・・愛情なのかなんなのかまだわからない」
説明を聞いても正直理解できておらず、『そういうものなんだ』という認識だ。
そう正直に言うと頬を撫でられた。
「・・・本当なら、飲むのをやめた方が良いのかもしれない。けど、・・・
ルル以外のαも引きよせるかもしれないと思ったら、・・・怖いんだ」
「そうだな・・・。シノノメ殿のすることを考えるのであれば、それが最善だ。
だが・・・もっと頻繁に会いたい。ピアスを使えばお前の場所へ飛ぶことはたやすい」
その言葉にハッとした。
「・・・これってもしかして」
「そうだ。番に送るものだ」
「!」
「ハカセのものと違うのはデザインだけではない。
・・・これはシノノメ殿の気持ちや、先ほどの様に座標を記憶させ飛ぶことも出来る」
「・・・音や動画よりもずいぶん立派なものがついているように思えるが」
「アレには移動はついていない。
その上でも、言っていたものを使えるようにするのはとても有効なことだ。
耳につけているだけで録音ができるなどいいことずくめた」
諜報観点なことを言っているらしいことは分かるのだが。
「シノノメ殿。・・・それよりももう一つお願いがある」
「・・・、なに?」
「ピアスを俺に開けさせてくれ」
当初つけてもらう予定だったがガーネットのそれは、なんだかルボミールの所有になったみたいに感じてしまった。
それを瞬時に嬉しく想ってしまった自分に愕然とし、恥ずかしくて『つけなくても話せるし痛いのが嫌だ』と断り続けていたのである。
「・・・。・・・あの、勝手なことなんだけど」
「なんだ?」
「本当に・・・結婚相手はいないのか?」
「いない」
「・・・本当に?・・・ルル。貴方いくつだ?」
ふと違和感を感じて尋ねる京にルボミールは嬉しそうにほほ笑んだ。
京がルボミールに興味を示したからである。
「33だ」
国の・・・それも大陸一大きい国の王太子に、その歳で婚約者がいないわけがない。
むしろ結婚して子供がいてもおかしくない歳だ。
見てもいない誰かに視線を向けていると思ったら、胸が締め付けられそうな痛みが走る。
「ルル。・・・嘘をつかないでくれ。・・・貴方にそうされると痛い」
ルボミールにはすでに相手がいると思うと心に喪失感を感じた。
嘘をつかれているのも辛く感じてしまう。
「嘘?」
「王太子でその歳で結婚相手がいないなんておかしい。
俺の為・・・?
そんなことをして自分の立場が悪くなったらどうするんだ」
相手がいることに辛いと思ったことには蓋をした。
今現時点で破棄に向けて動いているのか、それともこれからなのかどちらなのだろうか。
そういうと、なぜか嬉しそうにほほ笑んだ。
「俺のことを考えてくれているのだな」
「っ・・・そういうことじゃ、なくて」
「ただ、ちょっとまだ方向性を間違えているぞ?」
「・・・?」
「本当に今はもういない」
「・・・それって」
自分の所為で婚約解消したのか?と言う言葉は出せなかった。
ルボミールに惹かれ始めてはいるが『運命』なんて不確かなもので、婚約破棄をされた相手のことを考えてしまうと、相手がいないことにホッとしているのに、破棄させてしまったことは罪悪感にかられる。
「この説明は、シノノメ殿には分からない感覚かもしれないな」
ルボミールは困った様にほほ笑んだ。
「どう説明したものか・・・。
まぁ結果のみ言うと、相手は別に何とも思ってない」
「そんなことあるのか・・・?」
「もちろんこちらから破棄を申し込んだのだ。
それなりの詫びをしたのは事実だ。
だが・・・そうだな。彼女はロマンチストなところがあったからよかったと言えるだろう」
「え?」
「実のところ『運命の番』と言うのはほとんどいない。証明のしようもないし、下手に離すことは出来ないからな。
そして彼女はその『運命の番』と言うのを信じ、あこがれているような節もある。
・・・当初からもし自分に『運命』が現れたら別れるとまで言っていたくらい『運命の番』の話を信じている」
「・・・それで?」
「つまり、俺に『運命の番』が出来たと話したら祝福し進んで婚約破棄を受け入れ、賠償金にしっかり金額を付け、すでにほかの貴族と婚約を結んでいる」
「・・・・」
そんなことってあるのだろうか。京は困惑してしまう。
だが、ルボミールも苦笑を浮かべていて、その少しあきれて困っているような反応は嘘には見えなかった。
・・・本当なんだ・・・
王族との婚約を簡単に破棄するなんて京の常識から考えた想像も出来ない。
だがこの世界の常識は未だに理解しきれていないのだから、疑ってかかるのは良くないだろう。
そう思うなんだか心が軽くなる。
この地に来て本当に情緒が不安定な気がする。
小さくため息をついた。
「シノノメ殿。俺は無駄なことはしない主義だ。だから『運命』には抗わない」
「・・・、」
「だが、性分として『運命』だけで貴方と番のではなくちゃんと愛したい」
「・・・!」
「だから私を存分に愛してくれて構わないからな?」
そう言われて京は何も言えなかった。
「・・・。ピアスはやっぱりしっかり気持ちがわかってからでいいよね」
「ん?」
ルボミールはにっこりとほほ笑むだけで何も答えなかった。
┬┬┬
意外と長くて昨日上げられませんでした。。。
見に来てくださった方すみません。。。
それに安心していたのだが、次第に理性が戻ってくると恥ずかしくてたまらなくなる。
その視線から逃げるよう立ち上がると、スラックスと下着を拾い上げるそれを着る。
濡れた感触が気持ち悪いが見せたままなのは恥ずかしかったのである。
京は少し離れてソファーに座って視線を逸らす。
そして恨みがましく呟いた。
「・・・Ωの発情を疎んでるんじゃないのか」
きっと、ルボミールに帰せと言った時に帰してくれたなら、こんなことにはならなかった。
苛立った声で言うと苦笑が漏れた。
「一般的には。俺もシノノメ殿以外のΩの発情など不快なだけだ」
戻された呼び名に寂しくも思うがそのまま続ける。
先ほどのあれは「知らないこと」にしてくれるらしい。
自制は自分ではできなかった。優れていると言われるαなら抗ってほしい。
抗えないとすでに聞いているが、そんなことを思ってしまう。
ルボミールが抵抗剤を飲んでくれていなかったと思うとぞっとした。
「そこに俺も含めてくれ、お願いだから」
「それは難しいな。・・・今はそばにいるからそうでもないが、離れたらまた発情させることばかり考えるな」
「!?・・・ルルの所為だったのか?」
「恐らくは」
「っ半日に一回は飲むようにする」
なんて恐ろしいことなのだろうか。
「・・・まってくれ。もしかして毎日のように発情していたのはルルの所為・・・?」
しかしその言葉に眉を顰めるルボミール。
「毎日?」
「・・・うん。この世界に来て一回着た後はしばらくなかったけど、ラージャに来てから・・・。
そう言われてみればルルに会った日は大抵そうだったかもしれない」
余りにもくるから怖くなって毎日のように飲んでいたから、正確なことは分からないが前兆はルミボールが来る日が近かったように感じる。
一時は飲みすぎによる抗体?でもできてしまったのかと思ったが、原因が分かったなら余計に飲まなければと思った。
しかし、ルボミールは厳しい表情を浮かべる。
「それは止めた方がいい」
「なぜ?」
「俺に暴走されて閉じ込められたいか?」
「・・・、」
その言葉に唖然としてしまう。
すると、ルボミールは距離を置いて座っていたのを詰めてくると京の手を取る。
「!・・・手が汚れて・・・、え?」
すると、かさついていた手がスッと綺麗になった。
初めて見るものだがルボミールがしたのだと分かる。
そして綺麗な手を握ると指を絡めて握ってきた。
「・・・。まだ運命の番の話をしていなかったな」
『番』ということはバースに関係があるのだろうか。
先ほどの強制力は抗えなかった。
通常時では考えられないほど淫らなこと我慢できなくなってしまっていたのだ。
ルボミールの様子がおかしかったのは、彼にも働いていたのだろうか。
「シノノメ殿の薬はよく効く。我が国の抑制剤よりも遥かにきくようだ。
・・・それは俺にもな」
「え?」
発情期に効くかどうかの観点しか見ていなかったから、αにも風邪薬の抑制剤が効くとは思わなかった。
Ωの発情に効く抑制剤であり、αの抵抗剤にもなるなんて万能薬じゃないか。
思わず販売について考えてしまうが、ルボミールの真剣な表情に思考をもとに戻す。
「だが、その前に基本を説明する必要がありそうだ」
「以前聞いたこと以外にもあるのか?」
正直なところ、トシマ区で製剤する薬剤師や医師、研究者たちは現地のΩやβ達から調べているのだろうが、京はまだそこまで追い付いていないのが実情だ。
先ほども言った通り、トシマ区を潤おわせ安定させることに集中しており、困ったら抑制剤を飲んでる。
「Ωの発情周期は分かるか?」
「・・・えーっと、3か月に1回だったかな」
「そうだ。本来その周期で来てαを誘惑するフェロモンを纏う。
そのフェロモンはΩだけでなくαの正常な思考まで凌駕する。
Ωを抱き、突き上げ啼かせて・・・この項に噛み跡をつけることしか考えなくなる」
「っ」
ルボミールにするりと首筋を撫でられると体が震えた。
「っ・・・そこっ・・・ゃっ」
何度もそこを撫でられると収まったはずの興奮と、なぜか恐怖が沸いた。
「怖いだろう・・・?」
「ど、・・・して?」
「ここはΩにとって大事な場所の一つだからだ」
「項が?」
「あぁ」
そう言うと項から手を離された。
「αにここを噛ませることで番うことは話したな?
番状態になると具体的にどういう事になるかは知っているか?」
「・・・わからない」
「αと番うことでΩは番以外のαを誘わなくなる」
「良いことじゃないか」
そう言うとルボミールは目を細め、少し冷気を纏わせる。
「っ・・・だって実際問題そうだろう?Ωとかαとか関係なく、自分がそういう病気になったと考えたらそう思う」
「・・・。それで俺以外のαと番って後悔するのは貴方だ。・・・簡単には逃がす気はないが」
「ルル以外のαとは考えてなかったな」
京がそう言うと、不機嫌な冷気がシュッと引っ込んだ。
「・・・でも、好意を受け取るつもりがないなら、ルルじゃない方が・・・冗談だ」
そう言いかけた途端再び冷えて思わず苦笑を浮かべた。
怖かったはずのこの冷たさや熱さは、自分に向けられた好意の形の様だ。
でも困ってしまう。ルボミールの気持ちを受け取ることは出来ない。
「そんなに俺が壊れて良いなら試すと良い」
「・・・その、ルルのそれはΩが抱き心地が良いからとか」
「シノノメ殿」
「仕方がないじゃないか。俺は分からないって知っているだろう?」
再び発する冷気に、怒られても京が知るわけもない。
むしろ体だけの関係なら・・・いや、俺もさっきので毒されたのかな
セックス前提なら、むしろセフレではなく受け入れた方が健全ではないか。
男にキスをされたのも後ろを弄られたことも嫌悪どころか気持ちよかったことが、そんな馬鹿な思考に陥らせてしまう。
「説明を続ける。
・・・Ωはαを番ことで安息を得ることが出来るが、番う行為は一度しかできない。
また、番った状態は、Ωから解消することは出来ないが、αから番を強制的に解除できる。
シノノメ殿にはこれがどういう意味なのかピンと来ていないとは思うが。
・・・番を解消されたΩは精神的ストレスに追われる。
解消後も性行為はそのαとしか出来ない上に、発情期は終わるわけではない。
・・・それがどういう事か分かるか?」
そういうルボミールに京は首を横に振った。
「精神崩壊をすると言われている。
そういう事があるせいか、Ωはαをおびき寄せるフェロモンを放つのに、一方で本能的に首を触れることに恐怖を感じるのだ」
「・・・、」
「これが普通のαとΩの番だ。・・・『運命の番』は少し違う。
『運命』の場合、発情期とは関係なく互いのフェロモンに引き寄せられ、必然的に愛し合い番同士は一緒にいることで最上の安息を得る」
「・・・。それなら俺は違うんじゃないか?・・・確かにルルといると安心することはあるけど、・・・その」
「『最上』ではないという事だろう?
・・・それはおそらく、貴方の飲んでいる抑制剤の影響だ」
「え」
「この部屋に訪れた時、俺は抵抗剤を飲んでいたからさほどあてられなかったが、確かにフェロモンに引き寄せられた。貴方を抱きたくて、・・・この項に噛み跡を付けたくてたまらなくなった」
「っ」
「毎日服用しているから効果が強まっているのか分からないが、・・・それとも『運命』だから拒否することに冷静になったのか、あの時は止まれた。
だが、貴方に薬を飲ませる時、俺も口にしたわけだが、その途端ラットが急激に収まった。
・・・ただ貴方に触れたいとそれだけになったのだ」
「・・・それが、抑制剤の影響だと?」
「あぁ。・・・シノノメ殿には難しいかもしれない。・・・しかし、番とは・・・『運命』とはそういうものなのだ」
苦笑を浮かべながら頬を撫でられる。
この安心感や、発情したときに離れたくないと感じたあれは、ルボミールはもっと強く感じていたということなのだろうか。
「さっき、ルルが壊れると言っていたのは・・・?」
「普通の番はαから解消できる。
・・・しかし、運命のαはまず番を解消しようとは思わない。
だが、もしすでに運命のΩが番っている場合、そのΩを連れ去ってでも・・・たとえそのΩが狂うと分かっていても手に入れようとする」
「・・・」
「Ωも運命だと分かれば惹かれあうのは止められない。
・・・しかし、発情期の時に性交渉をすることは出来ず、拒否を示す。
・・・その、心の反応はαにもストレスになると言われており、・・・互いに精神を壊すと言われている。
現に・・・俺はシノノメ殿を誰にも譲る気はない。
だが、シノノメ殿の「抑制剤」はシノノメ殿のフェロモンを著しく抑える。
俺からのフェロモンもわからないだろう?」
「・・・?・・・まずフェロモンと言うのが分からない」
その言葉に苦笑を浮かべるルボミール。
「そうか。この地に来てすぐにその抑制剤を飲んでいたのだったな。・・・試してみるか?」
「・・・俺は・・・初めての発情期の時にあんなに自制が効かなくなったのが怖かった」
ルボミールが怖いのではないと示しながらも、京は首を横に振った。
「そうか。・・・フェロモンに応えれないというのは、αからすると拒否をされているような感覚に陥るのだ」
「・・・それが、暴走につながったと」
コクリと頷くルボミール。
「俺からの・・・想いは期待しないって」
「・・・そうだな。だが諦めたとは言っていない」
「・・・?」
「シノノド殿からの想いは期待しないが愛されたいと思うことはあきらめていない」
「・・・」
困ってしまいながら苦笑を浮かべた。
期待してないなんて嘘ではないか。
「番うならルルが良いと思う」
「・・・」
「ルル以外にαの知り合いは少ないし親しくはないし。男性でも女性でもな。
・・・けど、俺達の世界では体を重ねるのは愛し合っているもの同士がするものなんだ」
「この世界でも同じだ」
「・・・。ルルには惹かれているのが、・・・愛情なのかなんなのかまだわからない」
説明を聞いても正直理解できておらず、『そういうものなんだ』という認識だ。
そう正直に言うと頬を撫でられた。
「・・・本当なら、飲むのをやめた方が良いのかもしれない。けど、・・・
ルル以外のαも引きよせるかもしれないと思ったら、・・・怖いんだ」
「そうだな・・・。シノノメ殿のすることを考えるのであれば、それが最善だ。
だが・・・もっと頻繁に会いたい。ピアスを使えばお前の場所へ飛ぶことはたやすい」
その言葉にハッとした。
「・・・これってもしかして」
「そうだ。番に送るものだ」
「!」
「ハカセのものと違うのはデザインだけではない。
・・・これはシノノメ殿の気持ちや、先ほどの様に座標を記憶させ飛ぶことも出来る」
「・・・音や動画よりもずいぶん立派なものがついているように思えるが」
「アレには移動はついていない。
その上でも、言っていたものを使えるようにするのはとても有効なことだ。
耳につけているだけで録音ができるなどいいことずくめた」
諜報観点なことを言っているらしいことは分かるのだが。
「シノノメ殿。・・・それよりももう一つお願いがある」
「・・・、なに?」
「ピアスを俺に開けさせてくれ」
当初つけてもらう予定だったがガーネットのそれは、なんだかルボミールの所有になったみたいに感じてしまった。
それを瞬時に嬉しく想ってしまった自分に愕然とし、恥ずかしくて『つけなくても話せるし痛いのが嫌だ』と断り続けていたのである。
「・・・。・・・あの、勝手なことなんだけど」
「なんだ?」
「本当に・・・結婚相手はいないのか?」
「いない」
「・・・本当に?・・・ルル。貴方いくつだ?」
ふと違和感を感じて尋ねる京にルボミールは嬉しそうにほほ笑んだ。
京がルボミールに興味を示したからである。
「33だ」
国の・・・それも大陸一大きい国の王太子に、その歳で婚約者がいないわけがない。
むしろ結婚して子供がいてもおかしくない歳だ。
見てもいない誰かに視線を向けていると思ったら、胸が締め付けられそうな痛みが走る。
「ルル。・・・嘘をつかないでくれ。・・・貴方にそうされると痛い」
ルボミールにはすでに相手がいると思うと心に喪失感を感じた。
嘘をつかれているのも辛く感じてしまう。
「嘘?」
「王太子でその歳で結婚相手がいないなんておかしい。
俺の為・・・?
そんなことをして自分の立場が悪くなったらどうするんだ」
相手がいることに辛いと思ったことには蓋をした。
今現時点で破棄に向けて動いているのか、それともこれからなのかどちらなのだろうか。
そういうと、なぜか嬉しそうにほほ笑んだ。
「俺のことを考えてくれているのだな」
「っ・・・そういうことじゃ、なくて」
「ただ、ちょっとまだ方向性を間違えているぞ?」
「・・・?」
「本当に今はもういない」
「・・・それって」
自分の所為で婚約解消したのか?と言う言葉は出せなかった。
ルボミールに惹かれ始めてはいるが『運命』なんて不確かなもので、婚約破棄をされた相手のことを考えてしまうと、相手がいないことにホッとしているのに、破棄させてしまったことは罪悪感にかられる。
「この説明は、シノノメ殿には分からない感覚かもしれないな」
ルボミールは困った様にほほ笑んだ。
「どう説明したものか・・・。
まぁ結果のみ言うと、相手は別に何とも思ってない」
「そんなことあるのか・・・?」
「もちろんこちらから破棄を申し込んだのだ。
それなりの詫びをしたのは事実だ。
だが・・・そうだな。彼女はロマンチストなところがあったからよかったと言えるだろう」
「え?」
「実のところ『運命の番』と言うのはほとんどいない。証明のしようもないし、下手に離すことは出来ないからな。
そして彼女はその『運命の番』と言うのを信じ、あこがれているような節もある。
・・・当初からもし自分に『運命』が現れたら別れるとまで言っていたくらい『運命の番』の話を信じている」
「・・・それで?」
「つまり、俺に『運命の番』が出来たと話したら祝福し進んで婚約破棄を受け入れ、賠償金にしっかり金額を付け、すでにほかの貴族と婚約を結んでいる」
「・・・・」
そんなことってあるのだろうか。京は困惑してしまう。
だが、ルボミールも苦笑を浮かべていて、その少しあきれて困っているような反応は嘘には見えなかった。
・・・本当なんだ・・・
王族との婚約を簡単に破棄するなんて京の常識から考えた想像も出来ない。
だがこの世界の常識は未だに理解しきれていないのだから、疑ってかかるのは良くないだろう。
そう思うなんだか心が軽くなる。
この地に来て本当に情緒が不安定な気がする。
小さくため息をついた。
「シノノメ殿。俺は無駄なことはしない主義だ。だから『運命』には抗わない」
「・・・、」
「だが、性分として『運命』だけで貴方と番のではなくちゃんと愛したい」
「・・・!」
「だから私を存分に愛してくれて構わないからな?」
そう言われて京は何も言えなかった。
「・・・。ピアスはやっぱりしっかり気持ちがわかってからでいいよね」
「ん?」
ルボミールはにっこりとほほ笑むだけで何も答えなかった。
┬┬┬
意外と長くて昨日上げられませんでした。。。
見に来てくださった方すみません。。。
あなたにおすすめの小説
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
人気俳優と恋に落ちたら
山吹レイ
BL
男性アイドルグループ『ムーンシュガー』のメンバーである冬木行理(ふゆき あんり)は、夜のクラブで人気俳優の柏原為純(かしわばら ためずみ)と出会う。
そこで為純からキスをされ、写真を撮られてしまった。
翌日、写真はネットニュースに取り上げられ、為純もなぜか交際を認める発言をしたことから、二人は付き合うふりをすることになり……。
完結しました。
※誤字脱字の加筆修正が入る場合があります。