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本文
ご褒美を所望されました。・・・けど、そんなことでいいのか?
1年後のトシマ区観光地化に向けてやることはたくさんあり、良く言えば『充実している』だが、目まぐるしい毎日が続いている。
思い通りにいかないことは少なくはなかった。
異世界に来たのだから今までの常識は通じない。
それは頭でわかっていても幸せそうに笑うΩ達が増える一方で、同様に助けを求めてやってくる傷ついたΩ達を見ると辛いものがあった。
それでも精神的に参らなかったのはルボミールが傍に居てくれたから。
弱音を吐くとそれが現実になりそうで言わないようにしていたのだが、ルボミールはそんな心の機微を拾ってくれて優しく慰めてくれた。『運命の番』はそんなこともわかってくれるらしい。
それを、数か月たって第二の如月化し京の秘書の様になってきていたニコに、「『運命の番』というのは精神安定効果があって便利だな」と良いというと、全力でαには言っていけないと注意された。
改めてバースのことを理解しきれてないなぁと思いつつも、ニコがそう言う発言をしてくれるようになって喜ばしいと思う。
落ち着いてきたのはニコだけでなく、この島に移り住むようになったラージャのΩ達も同様だ。
最初でこそ、生活様式が変わったことや、治験以外に島民に会話を教えることに戸惑っていたようだが2カ月もたつと慣れてきたようだ。
順応力が高いようで何よりである。
そんな彼等のおかげで島民の会話能力は著しく上がったと思う。
鑑定施設に助けを求めてやってきたそんな彼等は、日を増してくごとに自分にも出来ることがあると知り自信を持ち、輝きましていった。
ニコのやりたいことに上げた歌や踊りからヒントを得て、アイドルの真似事をさせてみたが・・・それは良いように進んだようだ。
ステージ上でキラキラとまぶしい笑みを浮かべて笑顔を振りまいている
やはり、『可愛いは正義』と言うのは真実だとしみじみ思う。
京がしたのはその場所を提供しただけで、踊りや歌を覚えたのは彼等の頑張りである他ない。
☆☆☆
開店日と同じ日はイベントデーと定めており、その日だけは必ず京も会場に向かっている。
本当はお客にもお礼が言いたいところだが、客は京よりもニコ達に会いたいだろう。
そのため出しゃばったことは控えゲストルームに向かったのだが、そこにはルボミールがいた。
連絡を貰っていなかったから驚いてしまった。
「言っておいてくれたら良かったのに」
「驚かせたかったんだ」
「うん。驚いた・・・」
薬は聞いているはずなのに、顔を見るだけでトクリと胸が高鳴り嬉しくなる。
ルボミールの近くによるとその隣に座った。
向かい合わせのソファーセットなのに、ごく自然に隣り合わせに座ってしまったことにハッとする。
最近夜になって部屋に連れ出される時、ルボミールの部屋に設置されたソファーセットは2人がけで慣れでそこに座ってしまったのだ。
立ち上がろうとするが、いつもは2人きりだったり酒の勢いで手を繋いだりをするのだが、それをナチュラルにやるルボミール。
「っ」
如月やほかのSPがいることもあるが、慣れで隣に座ってしまった自分が恥ずかしくて手を引っ込めようとしたが、キュッと握られ『ん?』と、視線を投げられた。
話して欲しいと口出すのは恥ずかしくていいよどんでいると、彼はくすりと笑ったあとに耳元で囁いた。
「そんな可愛い顔するな」
「!!!し、してない!」
そう言う京により笑みを深めるルボミール。
これ以上揶揄われたらかなわないと思っている心情をくみ取ってくれたのか、それ以上はなにも言われなかった。
その代わりに別の物に興味を示しそちらを指さした。
「ところであれはなんだ?」
何かと思えば、如月の持っていたのは電気ポットだ。
ルボミールをもてなす為に茶の準備をしていたのが、どうやら熱い湯気が出ているのが不思議だったらしい。
「アレは故郷で使われていてた電気ポットと言うんだ。ポータブル電源を使って・・・。
まぁ簡単に言うとお湯を沸かす機械だ」
「なるほど。時を止めているのかと思ったぞ」
「え」
「湯を島から持ってきたのかと。
まぁ。時の魔法は過去に青の国の大魔法使いが使えて以来、使えるものがいないのだがな。
お前たちのいう科学とやらは出来るのかと思った」
「時を研究する人たちはいたけど、そこまでは・・・どうだったんだろう実はいたのかもしれないけどおおぴらにはなかった。
時を止められたら悪用し放題だし」
「そうだな。
そうか・・・ここには炊事場がなかったな。必要なら手配しよう」
「あー、大丈夫だよ。こっちで準備するから」
「いや。ここは俺にさせてくれ」
「でも」
「俺はトシマクとの親善大使となっているんだ。なのだから炊事場ぐらい容易い」
国の問題なので口出ししてないが、Ωだけの島なのに攻めいられないのはルボミールが何かしてくれてるとしか考えられない。
対等な立場ではないはずなのに、ルボミールが特別視することで守られている。
本当にどれだけ人がいいのだろう。
そんなことまでさせてしまう『運命の番』を少し怖く思う。
もし京が薬を飲まなくなったらどうなるのだろうか?
今こんなにも大切に思っているトシマ区や島民達を渡すことも出来たり、自分もルボミールが全てになるのだろうか。
ルボミールに渡しても悪いようにはしないというのは分かるのだが、自分がそんなことをするのかと思うと怖く思う。
「ここが儲かると思いもしない経済効果があったと聞いている」
「経済効果はまだ早過ぎじゃないか?」
最初はここでΩのショーをやると言った時、周りの反感がすごかった。
そこを一軒一軒周り、王太子の名の元にトシマ区産の抑制剤を使いΩには絶対に発情をさせないこと。
また、暴動はたとえあっても店の外までは出さず、近隣には迷惑をかけないことを書かれた証明書を見せ、必ず守ることを誓った。
最後まで難色は示していたが結局は王太子の証明を出されてしまえば、中流平民に口出しが出来るわけがない。
そうした中で、店はここで経営するだけでなく、キャストはΩなので、警備のために人を雇用したり、始まるまでに軽食を売るつもりだったので、周辺でそろえた。
ショーが儲かると軽食や飲み物を大量発注することや、ライブが終わった後の客が周辺の飲食店に行くようになった。結果ここら辺一帯が儲かっている。
今では顔を見れば気軽に挨拶をしてくれ、お得な情報を教えてくれるくらいには関係は良好だ。
京としては営業できればいいことであり、一番の目的は薬の効果を知らしめることで、経済が向上することは副産物に過ぎない。
その薬の効果は、Ωである彼等がほぼ毎日舞台に立つことで証明される。
流石に無休にはさせられないので、5日働いたら2日休むというようなサイクルだ。
もう、4カ月たっているからそろそろ気づいているようで、たまにメンバーを連れて近隣の飲食店に行くと、店主に良く聞かれる。
京の狙い通りである。
彼等が飲んでいるのは今嵐山たちが開発している薬ではなく、風邪薬であるがトシマ区の薬の効果を見せつけるには丁度いい。
幸い薬の材料はルボミール経緯で着々と揃いつつあるから今後も作り続けられるだろうと、嵐山から報告を受けている。
もうじき、この世界の材料だけで製薬された抑制剤も作られるそうだ。
「ここだとフェロモンが遮断されるから良くわからないかもしれないけど・・・、どう?建物に入ってからΩの発情期の気配を感じる?」
「いや。全く感じないな」
「それは良かった。周期的にはあの中には5人発情期の人がいるんだ」
「!・・・本当か?・・・全く・・・流石だな」
『運命の番』のフェロモンを断つほどの薬だから、そうとも言えるだろう。
「常に大体それくらいは立ち代わり入れ替わりでいるんだが、発情期が問題になったことはないんだ」
「・・・他のことではあるのか?」
「まぁこれだけ人が集まるから、完全に問題が起きないということはないよ」
Ωは卑しく淫乱な生き物だとみている人間はまだいて・・・というか、多くの初見でやってくる人間はここを風俗か何かだと思って来る輩がいるようだ。
店頭で説明しているというのに何故理解しないのか理解に苦しむが、それだけΩへの差別感情が強いのだろう。
そのことを店内に入りしり不満げにし金を返せ!と騒ぐのは音楽が鳴りだすまでだ。
見たことがない光景やアップテンポで盛り上がる楽曲に、あっという間にステージ上の彼等にみんな虜になっていった。
まぁサクラとしてトシマ区のアイドル好きをちりばめているのだが。
そんな彼等もトシマ区産の抑制剤を飲ませているから、周りには気づかれずに大いに楽しんでいるようだ。
キラキラと輝き笑顔で歌い踊るそんな彼等に、Ωだのなんだの思っている暇はないだろう。
そうしているうちに、会場の明かりが落とされ、ゲストルームの明かりも絞られる。
明かりが消えただけだというのに、一気に会場が盛り上がった。
音楽が流れゆっくり緞帳が上がると彼等の姿が浮かび上がってくると、大いに盛り上がり始めた。
皆がサイリウムのような魔法道具を振り、盛り上がる。
この空間だけではバース関係なく楽しんでいる。
そんな風景を眩しいものを見るような表情で見つめる。
「・・・今、島で強制的に番を解消されたΩ達を引き取ってるんだ」
食べるものが無いなど比ではなかった。
泣き叫び荒れたかと思うと、むせび泣きながら謝罪を繰り返し、『会いたい』と泣く。
そんな彼等を引き取ったが、抑制剤を飲ませて発情期を来なくさせることしかできない。
それでも、心穏やかな時が一時でも来るようで、その時に遭遇すると泣いてお礼を言われる。
彼等が荒れるのは発情期中に番がいないことで余計に心身にストレスがかかるそうなのだ。
余りにも痛々しすぎて、京は自分が無力であることを感じてしまう。
島のトップとして色々やってはいるが、薬の事も防壁の事も何に関しても、ハカセや嵐山がいなかったら成せなかったことである。
そんな彼等が共通して言うことは、逆にトップに立つ人間じゃないからと断られてしまうのだが・・・。
彼等が認めてくれる間は島のことを頑張ろうと思っている。
「俺は彼等も笑顔にしたいし、・・・そんなΩが1人でも減れば良いと思っている」
京の願いをルボミールはいつもの様に穏やかに聞いてくれていた。
肩を抱き寄せ安心させるように慰めてくれる。
それは、ただの日常の一コマだと思っていた。
☆☆☆
その日の夜。
いつもの様に部屋にやってきてルボミールの部屋にやってくるなり言われた言葉に聞き返した。
「え?」
「だから、ご褒美をくれないか?」
「い、いや・・・そうじゃなくて・・・ね?・・・本当、なの、か?」
「Ωに人権を与えるという話なら本当だ」
さらりと言われた言葉に京は息を飲んだ。
今まで明確にされていなかった事だ。
ラージャの法律はα主体であり、次にβに続きΩは底辺だ。
全体数が少ないから当然なのかもしれないが、一方でαをラットに誘発したとしてΩが悪く見られたりすることがあるのだ。
それなのに、ルボミールはそれをすでに議会に通し許可を得たというではないか。
そんなこと今まで一言も言わなかったのに。
京が驚くのも無理はない。
「だが、タダとは言わない」
「あぁ。それは分かる。薬の・・・製造権か・・・?」
トシマ区の一番のメリットはαがΩの発情に誘惑されない薬の製造だ。
製薬会社で使っているマシンがどれほど使いこなせるかわからないが、そのレシピは知りたいものだろう。
他の誰かにだったら怖いが、『Ωに人権を』と言ってくれたルボミールになら良いと思った。
しかし、ルボミールは首を振った。
「・・・トシマ区の所有権か・・・?」
「もっといいものだ」
「ハカs」
「いらん」
「・・・、他に何かいいものなんてあったか?」
優秀なハカセかと思ったがそれも違うらしい。
本当に分からなくて首を傾げた。
「番うこと・・・?」
「どうした、熱でもあるのか?」
「え?」
「そういうことは、シノノメ殿は一番嫌いそうだからだ。
・・・、故郷では政略結婚として婚約者もいたのだったのだったか。
だが、それよりもだ」
言い切ったルボミールに京は本気で分からなかった。
色々考えたのだが全くわからなくて・・・まじまじとルボミールを見た。
「駄目だ。全っ然わからない」
そう言うとルボミールは本当に可笑しかったらしくてクスクスと笑い出した。
落ち着くと京を引き寄せた。
「『キョウ』と呼びたい」
「・・・。そんな、ことでいいのか?」
「そんなことではない。・・・俺にとっては大切なことだ」
本当にそう思っているようで、京に請うようにこちらを見てきた。
初めて会った時、そう呼びたいといったルボミールに拒否をしたのは京である。
だが、それにしては見返りが多すぎるではないか。
「良いよ。・・・けど、番はいいの?」
その言葉に本当に嬉しそうにほほ笑んだ後、京の体を抱きしめる。
安心する腕の中で心地よい声で囁かれた。
「それはまだいい。キョウに俺じゃないと駄目だと心の底から思われるまでは」
本当に壺売られてない???
そんなことを心の中で思った。
思い通りにいかないことは少なくはなかった。
異世界に来たのだから今までの常識は通じない。
それは頭でわかっていても幸せそうに笑うΩ達が増える一方で、同様に助けを求めてやってくる傷ついたΩ達を見ると辛いものがあった。
それでも精神的に参らなかったのはルボミールが傍に居てくれたから。
弱音を吐くとそれが現実になりそうで言わないようにしていたのだが、ルボミールはそんな心の機微を拾ってくれて優しく慰めてくれた。『運命の番』はそんなこともわかってくれるらしい。
それを、数か月たって第二の如月化し京の秘書の様になってきていたニコに、「『運命の番』というのは精神安定効果があって便利だな」と良いというと、全力でαには言っていけないと注意された。
改めてバースのことを理解しきれてないなぁと思いつつも、ニコがそう言う発言をしてくれるようになって喜ばしいと思う。
落ち着いてきたのはニコだけでなく、この島に移り住むようになったラージャのΩ達も同様だ。
最初でこそ、生活様式が変わったことや、治験以外に島民に会話を教えることに戸惑っていたようだが2カ月もたつと慣れてきたようだ。
順応力が高いようで何よりである。
そんな彼等のおかげで島民の会話能力は著しく上がったと思う。
鑑定施設に助けを求めてやってきたそんな彼等は、日を増してくごとに自分にも出来ることがあると知り自信を持ち、輝きましていった。
ニコのやりたいことに上げた歌や踊りからヒントを得て、アイドルの真似事をさせてみたが・・・それは良いように進んだようだ。
ステージ上でキラキラとまぶしい笑みを浮かべて笑顔を振りまいている
やはり、『可愛いは正義』と言うのは真実だとしみじみ思う。
京がしたのはその場所を提供しただけで、踊りや歌を覚えたのは彼等の頑張りである他ない。
☆☆☆
開店日と同じ日はイベントデーと定めており、その日だけは必ず京も会場に向かっている。
本当はお客にもお礼が言いたいところだが、客は京よりもニコ達に会いたいだろう。
そのため出しゃばったことは控えゲストルームに向かったのだが、そこにはルボミールがいた。
連絡を貰っていなかったから驚いてしまった。
「言っておいてくれたら良かったのに」
「驚かせたかったんだ」
「うん。驚いた・・・」
薬は聞いているはずなのに、顔を見るだけでトクリと胸が高鳴り嬉しくなる。
ルボミールの近くによるとその隣に座った。
向かい合わせのソファーセットなのに、ごく自然に隣り合わせに座ってしまったことにハッとする。
最近夜になって部屋に連れ出される時、ルボミールの部屋に設置されたソファーセットは2人がけで慣れでそこに座ってしまったのだ。
立ち上がろうとするが、いつもは2人きりだったり酒の勢いで手を繋いだりをするのだが、それをナチュラルにやるルボミール。
「っ」
如月やほかのSPがいることもあるが、慣れで隣に座ってしまった自分が恥ずかしくて手を引っ込めようとしたが、キュッと握られ『ん?』と、視線を投げられた。
話して欲しいと口出すのは恥ずかしくていいよどんでいると、彼はくすりと笑ったあとに耳元で囁いた。
「そんな可愛い顔するな」
「!!!し、してない!」
そう言う京により笑みを深めるルボミール。
これ以上揶揄われたらかなわないと思っている心情をくみ取ってくれたのか、それ以上はなにも言われなかった。
その代わりに別の物に興味を示しそちらを指さした。
「ところであれはなんだ?」
何かと思えば、如月の持っていたのは電気ポットだ。
ルボミールをもてなす為に茶の準備をしていたのが、どうやら熱い湯気が出ているのが不思議だったらしい。
「アレは故郷で使われていてた電気ポットと言うんだ。ポータブル電源を使って・・・。
まぁ簡単に言うとお湯を沸かす機械だ」
「なるほど。時を止めているのかと思ったぞ」
「え」
「湯を島から持ってきたのかと。
まぁ。時の魔法は過去に青の国の大魔法使いが使えて以来、使えるものがいないのだがな。
お前たちのいう科学とやらは出来るのかと思った」
「時を研究する人たちはいたけど、そこまでは・・・どうだったんだろう実はいたのかもしれないけどおおぴらにはなかった。
時を止められたら悪用し放題だし」
「そうだな。
そうか・・・ここには炊事場がなかったな。必要なら手配しよう」
「あー、大丈夫だよ。こっちで準備するから」
「いや。ここは俺にさせてくれ」
「でも」
「俺はトシマクとの親善大使となっているんだ。なのだから炊事場ぐらい容易い」
国の問題なので口出ししてないが、Ωだけの島なのに攻めいられないのはルボミールが何かしてくれてるとしか考えられない。
対等な立場ではないはずなのに、ルボミールが特別視することで守られている。
本当にどれだけ人がいいのだろう。
そんなことまでさせてしまう『運命の番』を少し怖く思う。
もし京が薬を飲まなくなったらどうなるのだろうか?
今こんなにも大切に思っているトシマ区や島民達を渡すことも出来たり、自分もルボミールが全てになるのだろうか。
ルボミールに渡しても悪いようにはしないというのは分かるのだが、自分がそんなことをするのかと思うと怖く思う。
「ここが儲かると思いもしない経済効果があったと聞いている」
「経済効果はまだ早過ぎじゃないか?」
最初はここでΩのショーをやると言った時、周りの反感がすごかった。
そこを一軒一軒周り、王太子の名の元にトシマ区産の抑制剤を使いΩには絶対に発情をさせないこと。
また、暴動はたとえあっても店の外までは出さず、近隣には迷惑をかけないことを書かれた証明書を見せ、必ず守ることを誓った。
最後まで難色は示していたが結局は王太子の証明を出されてしまえば、中流平民に口出しが出来るわけがない。
そうした中で、店はここで経営するだけでなく、キャストはΩなので、警備のために人を雇用したり、始まるまでに軽食を売るつもりだったので、周辺でそろえた。
ショーが儲かると軽食や飲み物を大量発注することや、ライブが終わった後の客が周辺の飲食店に行くようになった。結果ここら辺一帯が儲かっている。
今では顔を見れば気軽に挨拶をしてくれ、お得な情報を教えてくれるくらいには関係は良好だ。
京としては営業できればいいことであり、一番の目的は薬の効果を知らしめることで、経済が向上することは副産物に過ぎない。
その薬の効果は、Ωである彼等がほぼ毎日舞台に立つことで証明される。
流石に無休にはさせられないので、5日働いたら2日休むというようなサイクルだ。
もう、4カ月たっているからそろそろ気づいているようで、たまにメンバーを連れて近隣の飲食店に行くと、店主に良く聞かれる。
京の狙い通りである。
彼等が飲んでいるのは今嵐山たちが開発している薬ではなく、風邪薬であるがトシマ区の薬の効果を見せつけるには丁度いい。
幸い薬の材料はルボミール経緯で着々と揃いつつあるから今後も作り続けられるだろうと、嵐山から報告を受けている。
もうじき、この世界の材料だけで製薬された抑制剤も作られるそうだ。
「ここだとフェロモンが遮断されるから良くわからないかもしれないけど・・・、どう?建物に入ってからΩの発情期の気配を感じる?」
「いや。全く感じないな」
「それは良かった。周期的にはあの中には5人発情期の人がいるんだ」
「!・・・本当か?・・・全く・・・流石だな」
『運命の番』のフェロモンを断つほどの薬だから、そうとも言えるだろう。
「常に大体それくらいは立ち代わり入れ替わりでいるんだが、発情期が問題になったことはないんだ」
「・・・他のことではあるのか?」
「まぁこれだけ人が集まるから、完全に問題が起きないということはないよ」
Ωは卑しく淫乱な生き物だとみている人間はまだいて・・・というか、多くの初見でやってくる人間はここを風俗か何かだと思って来る輩がいるようだ。
店頭で説明しているというのに何故理解しないのか理解に苦しむが、それだけΩへの差別感情が強いのだろう。
そのことを店内に入りしり不満げにし金を返せ!と騒ぐのは音楽が鳴りだすまでだ。
見たことがない光景やアップテンポで盛り上がる楽曲に、あっという間にステージ上の彼等にみんな虜になっていった。
まぁサクラとしてトシマ区のアイドル好きをちりばめているのだが。
そんな彼等もトシマ区産の抑制剤を飲ませているから、周りには気づかれずに大いに楽しんでいるようだ。
キラキラと輝き笑顔で歌い踊るそんな彼等に、Ωだのなんだの思っている暇はないだろう。
そうしているうちに、会場の明かりが落とされ、ゲストルームの明かりも絞られる。
明かりが消えただけだというのに、一気に会場が盛り上がった。
音楽が流れゆっくり緞帳が上がると彼等の姿が浮かび上がってくると、大いに盛り上がり始めた。
皆がサイリウムのような魔法道具を振り、盛り上がる。
この空間だけではバース関係なく楽しんでいる。
そんな風景を眩しいものを見るような表情で見つめる。
「・・・今、島で強制的に番を解消されたΩ達を引き取ってるんだ」
食べるものが無いなど比ではなかった。
泣き叫び荒れたかと思うと、むせび泣きながら謝罪を繰り返し、『会いたい』と泣く。
そんな彼等を引き取ったが、抑制剤を飲ませて発情期を来なくさせることしかできない。
それでも、心穏やかな時が一時でも来るようで、その時に遭遇すると泣いてお礼を言われる。
彼等が荒れるのは発情期中に番がいないことで余計に心身にストレスがかかるそうなのだ。
余りにも痛々しすぎて、京は自分が無力であることを感じてしまう。
島のトップとして色々やってはいるが、薬の事も防壁の事も何に関しても、ハカセや嵐山がいなかったら成せなかったことである。
そんな彼等が共通して言うことは、逆にトップに立つ人間じゃないからと断られてしまうのだが・・・。
彼等が認めてくれる間は島のことを頑張ろうと思っている。
「俺は彼等も笑顔にしたいし、・・・そんなΩが1人でも減れば良いと思っている」
京の願いをルボミールはいつもの様に穏やかに聞いてくれていた。
肩を抱き寄せ安心させるように慰めてくれる。
それは、ただの日常の一コマだと思っていた。
☆☆☆
その日の夜。
いつもの様に部屋にやってきてルボミールの部屋にやってくるなり言われた言葉に聞き返した。
「え?」
「だから、ご褒美をくれないか?」
「い、いや・・・そうじゃなくて・・・ね?・・・本当、なの、か?」
「Ωに人権を与えるという話なら本当だ」
さらりと言われた言葉に京は息を飲んだ。
今まで明確にされていなかった事だ。
ラージャの法律はα主体であり、次にβに続きΩは底辺だ。
全体数が少ないから当然なのかもしれないが、一方でαをラットに誘発したとしてΩが悪く見られたりすることがあるのだ。
それなのに、ルボミールはそれをすでに議会に通し許可を得たというではないか。
そんなこと今まで一言も言わなかったのに。
京が驚くのも無理はない。
「だが、タダとは言わない」
「あぁ。それは分かる。薬の・・・製造権か・・・?」
トシマ区の一番のメリットはαがΩの発情に誘惑されない薬の製造だ。
製薬会社で使っているマシンがどれほど使いこなせるかわからないが、そのレシピは知りたいものだろう。
他の誰かにだったら怖いが、『Ωに人権を』と言ってくれたルボミールになら良いと思った。
しかし、ルボミールは首を振った。
「・・・トシマ区の所有権か・・・?」
「もっといいものだ」
「ハカs」
「いらん」
「・・・、他に何かいいものなんてあったか?」
優秀なハカセかと思ったがそれも違うらしい。
本当に分からなくて首を傾げた。
「番うこと・・・?」
「どうした、熱でもあるのか?」
「え?」
「そういうことは、シノノメ殿は一番嫌いそうだからだ。
・・・、故郷では政略結婚として婚約者もいたのだったのだったか。
だが、それよりもだ」
言い切ったルボミールに京は本気で分からなかった。
色々考えたのだが全くわからなくて・・・まじまじとルボミールを見た。
「駄目だ。全っ然わからない」
そう言うとルボミールは本当に可笑しかったらしくてクスクスと笑い出した。
落ち着くと京を引き寄せた。
「『キョウ』と呼びたい」
「・・・。そんな、ことでいいのか?」
「そんなことではない。・・・俺にとっては大切なことだ」
本当にそう思っているようで、京に請うようにこちらを見てきた。
初めて会った時、そう呼びたいといったルボミールに拒否をしたのは京である。
だが、それにしては見返りが多すぎるではないか。
「良いよ。・・・けど、番はいいの?」
その言葉に本当に嬉しそうにほほ笑んだ後、京の体を抱きしめる。
安心する腕の中で心地よい声で囁かれた。
「それはまだいい。キョウに俺じゃないと駄目だと心の底から思われるまでは」
本当に壺売られてない???
そんなことを心の中で思った。
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雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>