オメガバースの世界にトシマ区ごと異世界転生したけど、みんなオメガなのになかなかオメガバースしない話。

みゆきんぐぅ

文字の大きさ
22 / 56
本文

なだめるはずだったのに、なだめられた。

港を管理している者からルボミールが来航したことを報告を聞いたときには驚いた。
ラージャで京がいるところに突然現れることはあるのだが、トシマ区に来たことは初めてだったからである。

ピアスに向かって話しかけてはいるが、本気で怒らせてしまっているのか一切返答がなかった。
おまけに距離が近くなるほどに、ルボミールの怒気を感じる。

「キョウ様、あまり動かないほうが」

Ω歴の長いニコの言葉は正しいのかもしれない。
それでもそわそわする。

「っ・・・でも、ルルがなんか荒れてる」

連絡が来てから30分は立っている。
もうこちらに向かっていることとはおもうのだが・・・。
気配を追いながら、ようやく姿を見るとルボミールからブワッとオーラが飛ばされガクリと腰から崩れ落ちた。
しかし、京が床に膝をつくことはなくルボミールに抱きあげられていた。
周りを見れば全員床に倒れこみ、如月やニコは顔面蒼白で動けなくなっている。
そんな中で動けるのルボミールだけで、思わずその顔を見上げる。

「・・・、ルル・・・?」

その表情は能面のようで息を飲む。
力が入らない体できるのは、ただ身を任せる事とこの部屋から離れることが一番だ。

「部屋に連れててくれ。ルル」




☆☆☆




ラージャにある恐らく城の中にある、ルボミールの部屋にたどり着く。
見慣れた部屋で半日前にも居た部屋だ。
連れて行かれたのはベッドの上で、その上に転がされて体を覆い被された。
見上げるとガーネットが燃えるよう揺らめいている。
なんで怒らせているのかは分からないし、聞いてみようとは思うのだが。

「少し、弱めてくれないか?これじゃ触ることも出来ない」

しかし、その言葉に反応してくれないルボミールに苦笑した。

「・・・トイレ行くまでには機嫌直してくれよ」

その言葉にルボミールはただ京の体をきつく抱きしめるだけだった。




☆☆☆



窓から入ってくる光が無くなり、夜になりかかっている頃。
いまだにルボミールの機嫌は直らなかった。
人の怒りの継続時間は2時間程度と言われているが、こんなに時間がかかるとは思わなかった。

あれから見下ろしていたルボミールは抱きしめたり、撫でたり、口づけたりと止まらなかった。
体に匂いをこすりつけるように、すり寄らせてくる。
なんだか、猫や犬が毛づくろいをしているようなことを連想しながらも甘受していた。
一日仕事が出来なかったわけで、進めなきゃいけなかったことが頭に浮かんだが、怒りよりも肌に触れる熱になぜか安心してしまう。
それなのに仏頂面で無言のままである。
いまだにピアスを介した返事もしてくれないのは困ってしまうが。
そんなことを繰り返し、もう半日はたっているのではないだろうか。

「ルル」
「・・・トイレか」
「やっと返事をした」
「・・・、・・・キョウ」

そういうと苦虫を潰したような表情をするルボミール。
京の胸にすり寄り再び顔をうずめてしまった。

「漏らしてもいい」
「・・・本気?・・・俺はそのベッドで寝たくない」

京が心底嫌そうな声を出すと、クスクスと笑う声が漏れてきた。
その拍子にルボミールのオーラの支配がぬける。
自由になった腕を動かし胸の上のルボミールを撫でると、自分よりも体格のいい大きい男がビクッと動く。
でも嫌ではないようだ。

「聞いてもいい?」
「なんだ?」
「何か怒らせることをした?」
「・・・」
「なぜそんなに怒っているんだ」

のそりと顔をあげたルボミールの表情はとても辛そうな面持ちだった。

「・・・キョウにはわからないのか」
「わからない。ルルが言ってくれなきゃ」
「っ・・・」

京には感じていない何かを、ルボミールは感じているのは分かった。
それが分からないのは異世界から来たイレギュラーな自分だからだろうか。
何もわからないのに、ルボミールにこんな顔をさせているのはつらかった。

「教えてくれ。ルル。何が不満なんだ」

上半身を起こして額に口づける。

「俺が・・・昨日何かしてしまった・・・?」

その問いかけに何も答えてくれないのが、肯定されているようだ。
昨日、ルボミールに嫌悪している様子はなかったがそれくらいしか、いつもと違うことがないのだ。
この世界の人間にはあれはふしだらで良くないとされている行為なのかもしれない。
嫌そうに見えなかったのは京のフェロモンに充てられてしまったからなのかもしれない。

「・・・っ・・・ごめん」

そう思ったら後悔が止まらなくなってしまう。
この世界でαはΩのフェロモンに耐えられないということを教えられていたというのに。
薬が切れかかっていたのは感じていた。
けど、名前を呼べることに喜ぶルボミールは可愛くて・・・そう。愛しさに似た何かがこみ上げていた。
だから、自分も止められなくなってしまったのだが。

「今度からちゃんとくすり」
「違うっ」
「・・・ルル?っ・・・?」

ぎゅっと抱きしめられる、頭だけ動かして見上げる。
その時の事を思い出していてうれしそうにしているルボミールと視線が混じる。

「昨日のことは最高に嬉しかった。良かった。
普段清楚で清廉潔白のようなキョウが淫らに可愛く誘ってきてくれたのは幸せだった」
「みっ!?・・・淫らって・・・」

否定されるよりはいいのだが恥ずかしくて視線を逸らす。
しかし、両頬を抑えられて覗き込まれた。

「欲情が掻き立てられてたまらなかった」
「っ・・・」

なぜそんなに恥ずかしいことを言うのだろうか。

「俺が薬を飲んでほしい理由を忘れたのか?」
「・・・俺がやりたいことをするため」
「そうだ。俺としては早く番になって俺以外のαを振りまいてほしくないんだ。
フェロモンに関係なく、・・・あんな風に誘ってくれて嬉しかった」
「・・・ちょっとフェロモンに煽られてたよ」
「俺がキョウのフェロモンに煽られてたら止まらない。
キョウの意識を無視して噛み跡を作って子が孕むまで抱いてる」
「っ~・・・嫌じゃないのは分かったよ。・・・でもなんで怒ってるんだ」

そういと不機嫌そうにするルボミールに困ってしまう。
しかし、小さくため息をついたのちに耳元をピアスごとに撫でられる。

「キョウには怒っていない。・・・だが、俺に余裕がないだけだ」
「本当に怒っていないのか?」
「あぁ」
「・・・でも、ならなんで応えてくれないんだ」
「どういうことだ」
「ピアスに・・・問いかけても・・・」
「!」
「・・・っ・・・それが、だんだん不安になってくるし」
「キョウも感じていたのか・・・」
「・・・怒っていた理由はそれだったの?」

その言葉にコクリと頷くルボミール。
理由が分かったのは良かったのだが・・・。

「俺が・・・普通のΩじゃないから・・・?」
「そういう言い方は止めろ。俺はキョウのことを」
「でも、『運命の番』じゃなかったら、ルルは俺のことを歯牙にも留めなかっ」
「!!」

京が発した途端ブワっと溢れたオーラに息を止めた。
その瞳は怒りに満ちている。
だが、それに怖気づくような質ではない。

「・・・俺はこの世界に来てルルの『運命の番』でよかったと思ってるよ。
ルルじゃなかったらきっと俺達は滅んでた。
・・・ただのΩには興味を示さないだろう?」
「っ・・・そんなことは、ない」

苦しそうに顔をゆがめて言うルボミールに、胸が痛む。
だが『運命の番』だから愛されるというのは、思いこまされているようなそんな風に感じてしまう。
こんなに愛しいと思っている感情は偽物なんじゃないかと怖くなる。

この気持ちがいつか溶けてしまうのじゃないかと、・・・それも自分だけ残されるのじゃないかと思ってしまうのだ。

でも・・・今ならまだ会って一年も経っていない。
それも番っていないからダメージは少なくないのかもしれない。・・・などと思ってしまう。
外したくないが、外したい。

「なら『運命の番』を外してみるか?」
「!・・・、そんなこと、できるのか」
「わからない。・・・けど、研究」

そう言った途端冷えた空気に地に這うような声でルボミールはこちらを見てくる。

「そんなに外したいのか」

研究を始めたのはハカセの独断であり、少なくとも話を聞いた時は反対だった。
しかし、このままでいることも怖かった。

「っ・・・怖いんだ。『運命の番』が」
「・・・」
「『運命の番』だから愛されているというのが」
「俺はそれだけで愛しているわけではない」
「でも、俺が異世界に来たのだってイレギュラーだ。
だったら、ルルの気持ちが俺から気持ちが離れてしまう可能性だってあるじゃないか!」

ルボミールはそう以前もそう言ってくれていた。でもその言葉は信じるのは難しかった。
恋人同士の感情が次第に離れていくのとはわけが違う。
ある日突然興味を失せられたらと思うと恐怖を感じてしまうのは仕方がなかった。

「・・・。『運命の番』が外せたならキョウのその不安はなくなるのか」
「・・・、」
「俺は『運命の番』でなくなったとしても、キョウを愛すことを止めないし、番にしたい気持ちは変わらない」

そう言い切ってくれるのは嬉しい。
だが、不安はぬぐいされない。
その表情から京の考えを読み取ったのか、ルボミールはしばらく無言だったが頷いた。

「わかった。その研究に俺も協力しよう。金額面も必要な物資もすべてそろえよう」
「・・・ルル」
「それで、『運命の番』じゃなくなったら、俺と番ってもらう。
キョウがバースすらも怖いというなら番わなくてもいい。
薬を飲んだままフェロモンを抑えて結婚しよう」
「!」

そう言いながらルボミールに抱きしめられ強く抱きしめられる腕の中で、京はしがみつくように抱き着き返した。

『運命の番』だけで愛されるのが怖い。
けど、『運命の番』を取るのも不安で。
・・・そんな風に考えが矛盾することに、自己嫌悪してしまうのだった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

人気俳優と恋に落ちたら

山吹レイ
BL
 男性アイドルグループ『ムーンシュガー』のメンバーである冬木行理(ふゆき あんり)は、夜のクラブで人気俳優の柏原為純(かしわばら ためずみ)と出会う。  そこで為純からキスをされ、写真を撮られてしまった。  翌日、写真はネットニュースに取り上げられ、為純もなぜか交際を認める発言をしたことから、二人は付き合うふりをすることになり……。  完結しました。  ※誤字脱字の加筆修正が入る場合があります。