婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

やっぱり一番だと思うんだ。②

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妖し気な光を瞳に宿らせながら見下ろすガリウスから目が離せなかった。
『嫌だ』と言ったはずなのだが、シャリオンの好奇心を見られているような気がした。
すっと手が伸びてくると頬を撫でた。

「貴方は快感に弱いですからね」
「っ!」

意地悪気な言葉に何も言えるはずもなく首を逸らせようとしたのだが、頬に添えられた手がそれを許してくれなかった。

「帰ったらいくらでも私を誘ってくださって構いません」
「!」
「私を貴方の好きにしていいですから」
「ぇっ」
「ここでは私以外の人間を誘ったらお仕置きですよ」
「!?」

そう言いながら耳にちゅっと口づけられたところで、部屋にノックが響いた。
もう時間切れなようだ。
カチンと緊張してしまったシャリオンをほどくように、唇を重ねるガリウス。

「・・・シャリオン。そんな顔をしていては私がゾルに怒られてしまいます」

その声は全く困ってなどいないのに、そんなことをいうガリウス。
城のなかでセキュリティは万全だと言ったのはガリウスだったのに、『これは危ない』などと言うとシャリオンの腰を抱き寄せ支えてくれるのだった。

☆☆☆

2人でホールへと向かう。
側近の仕事ではないが、ゾルが常に傍に居るのは今更であり、今日もすぐに助けられるように近すぎず遠からずの位置にいた。
シャリオン達も守られやすいように、あまり中央には寄らない。

この社交界ではいかに目立つかを競う輩や、話題にされることをステータスの様に感じている貴族もいたり、そもそも端にいることは、追いやられることで恥ずかしいものだとしている者居るらしい。
だが公爵家であるシャリオン達には不要なことである。
そんな一時の見栄には価値は無く、それよりも紳士に振舞うことを美徳としている。
それは、レオンの教えでもありシャリオンもそんなことは気にしたりはいなかった。

特にレオンはシャリオンにはシャーリーの警護のために必要な処置だという。
式典や祭典の時よりも視線を集めているシャーリーを見ればレオンの気持ちもよくわかる。

ホールの入口からも、皆の視線がレオンとシャーリーに注がれているのが分かる。
正確にはシャーリーにだが、皆レオンを恐れシャーリーを見つめるという愚かな行為はしていないようだ。

「なんだか父上の気持ちが分かるな・・・」
「レオン様の?」
「うん。・・・父様も久しぶりの夜会嬉しいのだろうか?
あんなに笑顔を振りまいて・・・父上も気が気じゃないかもしれない」
「そうでしょうねぇ」

そう言いながらもガリウスはクスクスと笑った。
レオンとシャーリーの後ろにはウルフ家の私用人が2人立っている。
もし何かあった場合、シャーリーを守れと命令されているのだろう。
彼等はレオンのために最善を自ら動くが、伴侶については別である。
疎んだりしているわけではなく、ウルフ家の者はそういうものであり、シャリオンのためにならガリウスの犬にでもなるゾル達が珍しいのだ。

「あんなに視線を集めているのを見ると、・・・伴侶を自領にという気持ちになるよ」

ホールに入っていきながら、視線の合った貴族と会釈をする。
知り合い程度の人間達はこちらに来ることは無いが、無視することもない。
皆にそうしながら、そう言いながらガリウスを見上げた。

周りの視線がガリウスに行っているのが分かる。
その視線の高さは絶対に自分ではない。
なんだかおもしろくない。
意外自分の心の狭さに驚きながらもシャリオン小さくため息をついた。

「それは私のことを仰っていただけているのですか?」
「それ以外何があるというの・・・?まさか、ガリウス、自分への視線に気づいていない?」
「まぁ、見られてはいますね。確かに」

ガリウスはシャリオンには言ってないが、婚約前はそれなりにモテてはいた。
こういった夜会では声が掛からないことは無かったし、夜会がなかったとしても婿養子にと声がかかることもあった。
しかし、言わなくてもわかるだろうが、ガリウスの心はシャリオンにしか向かっていなかった。
例えば、ガリウスが長男で自身が家を継がなければならない立場だったら、結婚せざる終えなかったが次男でる自分には思いの無い相手の対応など面倒なだけだ。
それを考えても自分が次男でつくづく良かった。

「シャリオンへの視線の方が多いですよ」
「僕のは・・・ほら。色々あったから」

そう言うとガリウスは苦笑する。
何か言いたげだったが、結局それは言われなかった。

「ジャスミンに聞きましたよ?」
「ん?」
「私が他に目が行くと疑われたそうで」
「え」

その様なことは言ったが、なんだかニュアンスが違うような気がする。

「酷いですねぇ。・・・私は貴方をこんなにも愛しているのに。
ありていな言葉で言えばあなた以外皆ジャガイモと変わりませんよ」
「そ、それは」

よりによってこんな皆から聞こえそうなところで言わなくてもいいだろうに。
慌てて止めようとしたのだが、シャリオンよりも先に止める者が現れた。

「言いすぎだろう?」
「!」

ガリウスの友人であるアルベルト・アーメント次期伯爵と、伴侶だ。
シャリオンはそちらに視線を向けるとにこやかに笑みを浮かべる。

「こんばんわ。アルベルト様」
「こんばんわ。シャリオン様、ガリウス」

そう言いながら、優雅にボウ・アンド・スクレープをしてくれる。
シャリオン達もそれを返した。

「確かにシャリオン殿は美しいが、ジャガイモはないだろう。せめて動物にしてくれないか」
「ならば、犬で如何でしょうか」
「犬!・・・まぁ君は今更だけどね」

次期伯爵と呼ばれる男にそんな態度を示すガリウス。
彼等は幼い頃からの友人なのだ。

「アルベルト様。わたくし少々あちらにおりますので」
「あぁ。わかった」

アルベルトの伴侶はそう言うとお辞儀をすると、下がって行った。

「良いのか?」
「良いよ。別に。挨拶も済ませたし。あっちはあっちで忙しいと思うから」
「忙しい?」

夜会は確かに挨拶などで忙しいが、もう終わったからと言っていたからだから2人で居る必要が無いという事だろうか。

「・・・、終わったら行く?」
「私がこれまで貴方と参加した夜会で1人にさせたことはありましたか?」
「ないけど、気を使ってくれてたんじゃないのかなって」
「いいえ。貴方の傍に居たいから居たのですよ」
「そっか。・・・離れたいときは大丈夫だけど、・・・言ってね?」

そう言いながら嬉しそうにそう言えば、コクリと頷くガリウス。

「そうですね。無いとは思いますが、どうしても離れなければならないときは相談します」
「いやいやいやいや。甘い雰囲気作らないでくれるか?」
「すみません。それは無理です。これが私達の普通なので」
「!・・・もしかして、どこかおかしいところがあるのでしょうか」

気付かないうちに変なことをしてしまっただろうか。
シャリオンが心配して尋ねるとガリウスは否定してくれるが・・・。

「いいえ。どこも可笑しくありませんよ。可笑しいのは伴侶がいるにつれていない方が可笑しいと思います。
ほら、シャリオン。周りを見てください。皆パートナーと一緒でしょう??」
「が、・・・ガリィ。流石に僕でもそれが嫌味だってわかるよ」

キっと睨むがガリウスはしれっとしている。
代わりにシャリオンがアルベルトに謝罪をする。

「申し訳ありません。アルベルト様」
「いえいえ。とても仲が良いようで安心しました。ガ」
「貴方が呼んだらどうなるか分かってますか」

長年の付き合いだから分かるのか、揶揄おうとしたアルベルトを冷たく睨むガリウス。

「こ、こら!ガリィ・・・ガリウスッここは2人きりで会っている空間じゃないのだから、もっと口調を気を付けて」
「シャリオン様。今やこいつは次期公爵様の伴侶なので。
それに次期宰相でもあるのですから、そう言ったことを気になさるのは、同等の公爵様くらいなのでお気になさらずに」
「そう・・・でしょうか」
「アルベルト卿の言う通りそうですよ?シャリオン。私が貴方に嘘をついたことは無いでしょう?」
「・・・ない」
「ですから、気にしなくていいのです。呼び名も元に戻してくださいね」

ちらりとアルベルトの方を見れば苦笑をしている。
呆れられているようでなんだか恥ずかしい。

「シャリオン様。是非いつも通りに呼んでやってください。でないと、私が後からこいつに叱られます。
・・・お前も『卿』なんてつけるな。気持ちが悪い」
「そうですか?流石に今日は『様』を付けます」
「それも気持ちが悪いが・・・仕方ないな。・・・私もガリウス様と呼ぶか」

その言葉にガリウスは一瞬ピクリと眉を動かしたのちに・・・。

「人が来た時だけでよいのでは」
「だったら、俺もそうだろう」
「・・・」
「・・・」

素で話している2人はよほど自分達に『様』を付けるのが嫌なのだろう。
そんな様子がおかしくてクスクスと笑った。

「なんだか最近こんなことがあった気がします」
「あぁライガー殿下か」
「ライガー殿下??・・・え、ガリウス・・・どういうことだ」
「シャリオンの幼馴染である彼と、私も仲良くさせていただいているのですよ」
「そこで、『殿下呼びを止めろ』と、言われたみたいで」

シャリオンが声を潜めて言いながらクスクスと笑った。
すると、アルベルトは同情の眼差しをガリウスに向けたが、事態は深刻そうなものじゃないと分かったアルベルトは笑顔に切り替えた。

「まぁ。嫌われるより断然良いな」
「・・・。まぁそうですが」
「問題はアレだな」
「問題?」
「まぁ。俺の思い違いだと願ってるよ。・・・おっと。俺もあいつ伴侶が呼んでるみたいだから」

そう言うと、アルベルトはパートナーの元へ向かう。
なんだかんだで、パートナーの方は気にしていたみたいでシャリオンは安心した。

「問題って何だろう」
「・・・きっと思い過ごしです。いくら殿下でもそのようなことはしないはずです」

どうやら、ガリウスには思い当たる節があるようだが、かたくなに否定をしているのだった。


☆☆☆


それから知人に挨拶をしたり、こういった場でしか中々会わない親族に挨拶をする。
王都にいるのだが、屋敷から出ない。おまけに最近シャリオンは社交界に進んで出ていないから挨拶は結構多かった。

少し疲れたなと感じる頃、ガリウスが声を掛けてくれて休みに行こうとしたときだった。

「やぁ!こんばんわ!シャリオン殿」

その声には聞き覚えがあり、体がビクンと震えた。
彼の声は中々通る。
本当はとっくに気が付いていたのだが、シャリオンはなるべくそちらを見ないようにしていた。
出来れば話さないでおこうと思ったのだが、ガリウスの立場を考えると難しいことは理解している。

「ごきげんよう。カイザー様」

ボウ・アンド・スクレープをしながらそう挨拶をした後、シャリオンを抱き寄せる腕が強くなり、それにホッと安心する。
先日のアレは悪気がなかったと頭では理解しているが、どうしても脳裏に抑えつけられたゾルが思い浮かんでしまう。

「ごきげんよう。シャリオン様、ガリウス様。・・・お前は帰ったらマナー講師を付けよう」
「は!?嫌だって言ったじゃん!」
「大丈夫だ。絶対にうるさくない人間を付ける」
「そんなこと言って貴族は絶対見下してくるからぜぇったい嫌だー」
「その文句も聞くから。・・・声のボリュームも少し下げてくれないか」

ポンツィオはこめかみのあたりを抑えながらそういうが、カイザーは納得してない様子だった。

「お前の大きい声はシャリオン様が驚くと言っただろう?」
「ぁ。そうだった。・・・ごめ・・・いや。すまない」
「申し訳ありません。・・・だ」
「申し訳ありません?」
「語尾はあげない」
「申し訳ありません!」

何度も言われた所為か、声が大きくなったカイザーにポンツィオは小さくため息をついた。
だが、そんな様子にシャリオンはクスリと笑った。

「いいえ。私も過剰に反応してしまいました。・・・申し訳ありません」

そう言いながら会釈をして顔を上げると、今度は何かに感激したようにこちらを見てくるカイザー。
なんというか、既視感だ。
そんなことを思っていると爆弾を投下される。

「俺、マナー講師、シャリオン様が良い」
「何を言っているんだお前は」
「良いじゃん。例の件手伝う代わりにそれにしてもらってよ」
「わかりました。でお受けいたします」

唐突なカイザーの言葉に驚いていると、ガリウスはそう言って引き受けた。
思わず驚いて固まってしまうが、ガリウスに回された腕のお陰で何とか平気だった。

・・・そうだな、悪い人間じゃないのだから

それに、『例の件』と言うのは十中八九、ガリウスの仕事にかかわることだろう。
ガリウスの足を引っ張るわけにはいかないと、こくりと頷くシャリオン。

「・・・えぇ」
「やったー!」


にっこりと微笑みながら言えばカイザーはこくこくと頷く。
なんだか、カインの初日を見ているようである。


☆☆☆


ずっと話っぱなしで疲れてしまってきたころ。
人気を避けるようにテラスに来ると、使用人が飲み物を持ってきてくれた。
ガリウスかゾルが手配してくれたようだ。
そのグラスを受け取ると、口を付けるとホッと息をついた。
思っていた以上に喉が渇いていて、アルコールだというのに半分も一気に飲んでしまった。

「アルコール無い物にしましょう」

ガリウスがそう言うと使用人が取りに下がった。
建物の入り口のところにはゾルが見えた。
それをぼんやりと見つつ、そっと息をつく。

「疲れましたか」
「うん・・・ちょっと」
「・・・。明日から領地に戻りますか?」
「え?」

その言葉は思っても見ない言葉で、ガリウスを見上げる。
多忙極めるガリウスの枷にはなりたくないとは思っていて、シャリオンのために昼間に毎日戻ってっ来てくれるのを、悪いと思いつつ嬉しく思っていた。
でも大変なのは当然で、ガリウスが大変だと言ったら止めて良いと言えるようにしないとと、・・・思ってはいたのだが。

その言葉はそう言う意味なのだろうか。
確かにシャリオンはガリウスと比べても体力も魔力もない。
だから・・・。

そんなマイナス思考にとらわれそうなとき、シャリオンの手のひらに手を重ねられた。

「あの男がまだどう動くのか予測できません。実力はあるようなのですが」
「・・・あの男?」
「ポンツィオ王子といた男です。とても腕の立つ男と聞いてはいるのですが、・・・彼は貴族ではないのでその分変化球で読みにくい」
「でも、さっき」
「さっき?・・・まさか、あの男の講師をシャリオンにさせると思ったのですか?」
「違うの?」
「当然です。私はあの時『ハイシア家』と言ったでしょう?
例え子を授かってないにしても私が貴方をあの男に付けるなんてありえないです」
「・・・そう、か」

先ほど頑張らないとと奮い立たせてはいたが、そう聞いてホッとする。

「不安にさせてしまいましたか?」
「ううん。・・・僕がするんだろうなって思ってたけど、その分ガリウスが何かしてくれるんじゃないかって思ってたからそんな不安に思ってなかったよ」
「・・・。そう私を頼ってくれるのは嬉しいですが。
そう言う考えではなくて『他の男と二人きりになる可能性』を私が作るわけないと信じて欲しかったですが」
「!・・・もう。でも、『例の件』てさっき言っていたけど、何か重要なことがあったんじゃないの?」
「確かに彼等はキーパソンではありますが。・・・貴方を差し出せと言うのであれば断りますよ」
「だ、・・・駄目だよ」

ガリウスの仕事と言えば、国にかかわることだ。
シャリオンは首を振りつつも、その気持ちが嬉しかった。
しかし、ガリウスの視線が鋭くなる。

「シャリオンは理解していませんね。
・・・私は貴方以外どうでもいいのです」
「・・・」

確かにそんなことを以前から言っている。

「私がこの職務に就いた理由はレオン様が見出してくれたので就いているところがあります。
ですが、貴方を悲しませたり辛い思いをさせるくらいなら捨てられます。
そして・・・貴方が思っている以上に私は嫉妬深く執念深い」

なんだか怖い言葉を並べられているのは自分を怖がらせたいのだろうか?
ガリウスは自分に酷いことなど一度もしたことは無い。
聞き訳がないと思ったことなど、・・・いや。婚約当時はあったかもしれないが。

「貴方が・・・ライガー様やルーク様に心が奪われることを、心のそこでは面白く思っていません」
「・・・ラ・・・、彼等は」
「えぇ。幼馴染ですね。
私はそれを理解した上で関係を続けてくださいと言いましたが、それはあくまで貴方に良い顔をしたいからです」
「・・・が、りぃ」
「軽蔑・・・見損ないましたか?」

自嘲気に微笑むガリウスにシャリオンは首を横に振った。
ライガーやルークとそれほど親し気にしないようにしようとしていたのは、そもそも自分の所為である。
だから、彼等と以前の様に話せなくなったのは寂しかったが、それも仕方がないと思っていた。
それはガリウスの言い分もわかるからだ。
けれど、ガリウスはシャリオンの気持ちを汲み取って以前のままで良いと言ってくれた。
ライガーにさえシャリオンへの愛称呼びを許してくれた。
その時はガリウスの心の広さがそうさせたのだと思っていた。
だが、そうではなくシャリオンの為に無理をしているからと言って、何故見損なうのか。

「ライガー様が思っていたよりもまっすぐで、人の良い人間なのだというのはこの一年でよくわかりました。
私も勘違いをしていたところがあったと。・・・今ではそう思っています。
その上で友人ともなりましたし、それに関しては本当にそう友好関係を結べています。
彼等と口喧嘩をしたとしても、立場など関係なく修復しようと努めるでしょう。
ですが・・・貴方のこととなると私の心は厄介なんです」

そう言いながら頬を撫でる。
夜風に当たり少し冷えた肌には、その掌が心地よかった。

「・・・。今朝。
貴方が殿下たちがいないことに気付いた時、心配で一杯になっていましたね」
「え?・・・ぁ、うん」
「私は、あの時、裏の事情を知っていました。
そして彼等の言い分もわかります。
けど、同時に貴方が心配する切っ掛けを作る彼等にいら立っていました。
幼馴染で私よりもあなたを近くにいて、長い時間見ているのに、何故そんな感づかれる小手先の嘘をつくのか」

酷い良いようにシャリオンは思わず苦笑する。

「絶対にそんなことは無いのに『気を引きたいのか?』とも。
案の定。心配している貴方を見て、面白くなかったのです」

あの時はおどけたように言っていたのだが。
様子が可笑しくなったのはそう言う事だったのかと理解した。

「殿下達でさえ、あぁなのです。私が異国のよくわからない男と二人きりにするわけない」

思い返してみればガリウスはあのジャスミンでさえ、2人きりになることも着替えを手伝わせることもしない。
そう思いながら少し嬉しくなってしまうシャリオン。

「・・・。・・・・僕も同じだよ」

その言葉にまっすぐ見てくるガリウス。

「今日皆がガリウスを見るから、僕・・・嫉妬しちゃったみたいって・・・言ったでしょう?」

それまで苦い表情をしていたというのに、シャリオンの言葉で嬉しそうにするガリウス。
そしてふわりとシャリオンの体を抱きしめる。

「・・・。もうこのまま帰ってしまいましょうか」
「いいの?」
「お子がお腹を空かせたということにすれば誰も何も言わないですし、

そんな風に露骨に言われてシャリオンの頬が熱くなる。

「・・・、でも最後に踊っていきたいな」
「ダンスですか?・・・貴方がそう言うとは意外です」
「勿論うまい訳じゃないし、習ったくらいしかできないけれど。
・・・多分、子供が生まれたら僕領地に帰るでしょう?」
「・・・、」

その途端ガリウスの表情が一瞬固まり。
抱きしめられている腕がぎゅうっと強くなった。
暫くした後に腕を緩められると体を一歩引かせ足を跪き、驚いているシャリオンの手を取ると甲に口づけた。

「あの、・・・がりぃ?」
「私と踊ってくれませんか?」

まるでプロポーズの様に自分の服が汚れるのも気にせずにそう言うガリウスに驚いたのちに、シャリオンはコクリと頷いた。

「うん」

引き上げるように手を引けばガリウスは立ちあがり、シャリオンの腰に手を添える。
ホールから漏れてくる音に合わせながら二人だけの舞踏会が始まったのだった。
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