婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

報告しないと面倒だと言うのは分かる。

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サーベル国での戴冠式を無事に終えてアルアディアに帰ってきた。
正直、領地の事が心配でそれどころでは無かったが、表面上を取り繕う。
シャリオンの様子がおかしいのが気付くのは同行した4人くらいだ。

領地に帰ると中心となって動いてくれていた執事と、実際に捜索に当たった隊の2人に早々に報告を聞いた。
帰還中に発見の連絡が得られずあまり良い返事は期待はしていなかったが・・・。

「消えた?」
「はい」

しっかりと聞こえていたのに理解しがたく繰り返し尋ねた。
しかし、もとより領主の前で冗談を言う人間達ではない。
シャリオンは小さくため息をついた。

「これではドラゴンがどうのという騒ぎではないな」
「ドラゴン・・・ですか?」

そう尋ねたのは、実際に操作に行った隊員だ。
ウルフ家の人間であれば思考共有をしているから知っている・・・いや。
この優秀な執事は情報漏洩を考え、不必要なことは言わない。
重要なの村民と砦の兵士、そして先行で向かった修理の部隊であることを理解し、余計な混乱をなくしたのだろう。
『ドラゴンがいるかもしれない』と言われてもアルアディアの人間は、幻の生き物を御伽噺の様にとらえる。
であればそのことを伏せ危険な『猛獣』とすることで、緊張感を持たせた。
現にそれを聞いた兵士は表情が一瞬訝し気に眉が顰められた。
シャリオンもまだ疑っているから、困った様に苦笑した。

「情報が不確かなところがあったため『猛獣』とだけ言っていたが。
・・・あの村がある地域で猛獣が出たとカルガリア国から情報があった」
「「!」」
「ただのモンスターなら城壁を超えることは出来ない。
しかし、ドラゴンとなると想像がつかない」
「・・・、」
「だが、その村や砦すら姿を消してしまったとは。
・・・わかった。ありがとう。
少し対策が必要みたいだ。
戻ってきた人間は今のところは一旦休んで」
「「はい」」

シャリオンの指示に敬礼をした後、隊員たちが去っていくのを見ながら、シャリオンは机の上の地図に目を落とす。

もっと早くに真剣に取り組んでいれば

これに出さずに猛省していると、視線で分かったのか、執事が横から否定する。

「あの状況で最善かと存じます」

そういう執事にシャリオンはありがたく思いながら、苦笑を浮かべる。
相変わらず彼等はシャリオンに甘い。
ゾルもそれに頷きながらもアドバイスをくれた。

「セレスを呼ばれては如何でしょうか。
そろそろお子様方の訓練の時間も終えます」
「そうだね。・・・そうだね。ここは専門家に聞いてみようか」

・・・
・・


執務室に訪れたセレスにこれまでの状況を説明する。
すると、彼は話を聞き終わると首を傾げた。

「消えた~?そんな感じはしなかったけど」

まるで見ていたかのような素振りにシャリオンも首をかしげる。
魔法適性がないから見当もついていない。

「・・・どういうこと?」
「村や砦、それにそれだけの人間が魔術で移転したなら、その分一気に移動するでしょう?・・・て、移動するんだけど、少なくともあとから追って行った人間が途中で消える気配はしなかったと思うよ」

簡単に言うがセレスはずっと領地の城にいたはずだ。

「・・・、ここから大分離れた村だけど」
「まぁ流石にいつも見てるわけじゃないけれど、追加で人間を送ったときは見てたよ」
「流石だね・・・セレス」
「いや、何もわかって無いからね?」

褒めたシャリオンにセレスは苦笑を浮かべた。
後腕を組みながら、シャリオンに問いかけながら自問自答を始める。

「んーでも不思議だね。
気になるなー。何が起きてるのかな。本当に動いたのかな?
というか、存在してたのかも怪しいね」
「え」
「だって痕跡なく消えるって可笑しいじゃない?橋も村も砦もさー」

存在してないと言う事はない。
先日シャリオンも行ったのだから。
そう言いたかったのだが、それすらも幻想と言いたいのだろうか?
それは確信を持っているというわけではなく、気になることをただ口にしている様だ。
そして、自問し可能性を打ち消していくセレス。
困ったな・・・。と、思ったところで、そのそっくりな人物を思い出した。

「あ」
「ん?」
「・・・。セレス。悪いけれど考えて置いてくれる?」
「いいけど。何かあった?」
「ちょっと、この件は報告しておかなきゃいけないと思うんだ」
「あーかもね。でも彼を使ってお願いすれば?」
「いや・・・今回はちゃんと言っておかないと駄目なような気がするんだ」
「そうなの?うん。わかった。まぁボクは執事さんと策を練ってるよ」

子供達の件があったときに敵視していたように見えたのだが、大丈夫なのだろうか。
ふと執事を見たのだが、その心配は無用だったようだ。
その言葉に執事は返事をし頷いた。

「お任せください。セレス殿と模索しております」
「ありがとう。じゃぁすぐに戻るから」

そういうとシャリオンはゾルと部屋を出る。
気分が乗らないが遠回しで知られたら面倒になることは目に見えている。

☆☆☆

王都の城につくと、まずは執務室に向かった。
事前に訪問をすることを言っていたからかレオンはいてくれた。
そして、報告を終えると次は王太子の執務室に向かう。
ガリウスはついて行こうかと言ってくれたが、シャリオンは一人で行くことを伝えた。
訪問の前触れは出していないが、・・・忙しかったら手紙を渡してもらおう。

サーベル国で様子の可笑しかったルークは、次にあった時にはもう普通だった。
けれど、あれからシャリオンの目を見てはくれない。
こんなことは初めてでシャリオンも驚いているし、心のわだかまりになっているのだ。

扉をノックし、現れた使いの者に謁見を願った。
すると、待合室で腰を掛けた瞬間に扉が開かれて、そこにはルークがいた。

「ど、どうしたの」

髪が少し乱れているのは執務室からここまで走ってきたからなのだろうか。

「それはこっちのセリフだよ~」

そう言うと、シャリオンの前に掛けるルーク。
ちなみにゾルは今は側近と言うより従者の様に壁際に立っている。

「突然来ちゃってごめんね」
「ううん。大丈夫」

何故今日はこんなに緊張するのだろうか。
困った様にしながらもシャリオンはつづけた。

「今日はあの件で報告に来たんだ」
「・・・、あー・・・。わざわざごめん」

シャリオンは王都には滅多に来ない。
それで来た理由が分かったのだろう。

「帰ってきた捜索隊に話を聞いてみたら、・・・村も砦もなくなってた」
「え」

そういうとルークはピシリと固まるが、すぐに何かを考える様に椅子に深く座った。
シャリオンはセレスが魔力の移動が無いと言っていたことも併せて伝えると、少し驚いたようだったが一つの答えを出したのかこちらを見てくる。

「もともとあったあたりには入ってみた?」
「?・・・どうだろう聞いてないけど」
「セレスほどの魔術師が魔力の流れを感じなかったと言っているのが気になるね」
「・・・うん」
「存在してないんじゃなくて、存在しているんじゃないの」
「・・・、・・・」

そう言われてもシャリオンにはその言葉の意味が理解できなかった。
思わず固まるとルークが苦笑をする。

「たぶんもうセレスが答えを出しているだろうけれど、『姿を消した』の言葉の通り見えないだけでそこにあるんじゃないかな」
「え」
「だとしても何故そんなことをしたのか。第三者がしたのか。それをしたのか調べる必要があるね」
「うん。・・・ありがとう。ルー」

王族として魔術も嗜んでいるからなのだろう。
少し考えただけで出てきたそれにシャリオンは感心したように言った。

「そんなの。セレスも・・・ガリウスもきっと検討ついたんじゃないかな」
「僕も魔術の事避けてたら駄目だな・・・」

意図的に避けていたわけではないが、取り入れようともしていなかったツケがここに来て出来てしまった。
子供達のこともあるし、基礎知識くらいはつけておかねばならないと今になって焦燥感が出てくる。

「適材適所と言うのがあるからね。
それより・・・リオ。こないだはごめんね」

謝罪は先日の事だ。
そう言うと、シャリオンに視線を合わせてくれて、ホッとする。

「・・・、そう呼ばれたのは随分久しぶりだね」

ライガーが婚約者になり、ルークは遠慮してからなのかシャリオンと呼ぶようになった。

「そうかもね。まぁでも兄上もそう呼んでるし。俺も良いんじゃないかな」
「良いよ?別に」
「・・・。アンジェリーンにも困ったものだ」
「お土産くらい良いよ。ちょっと驚いたけれど」
「けど、・・・ハイシア家はアルカス家を支持していると思われてしまうかもしれないよ?」
「そこら辺は大丈夫。・・・あぁというかそうだ。城に来るんだったら持ってくるんだったな・・・。
あ。いや持てないかな」
「?そんな大きなものなの?」
「サーベル国の民族衣装が欲しいっていうんだ」
「・・・。・・・はぁ」
「まぁ滅多に行くこともないだろうから、良いんだけどね」

シャリオンは苦笑を浮かべる。

「そういうの断って良いよ?
『道中荷物になる』とでも言えばいいし、遊びで行っているんじゃない。
それに、アルカス家だったら自分で行けるほどの財力はあるだでしょ」

普段より厳しい物言いに少々驚く。

・・・と言う事は、もしこの2人が結婚したとなったら双方嫌い同士と言う事になるのか・・・

そんなことを思わず思ってしまう。

「とにかく、アンジェリーンのことは甘やかさなくていいから。
俺に聞いてみるとかそう言えばいい」
「本当に困ることを言われたらね」

シャリオンの返答にルークはつまらなそうに眉を顰めたが、諦めたのかため息をついた。

「あいつは昔からそう。リオに突っかかって・・・本当に」
「今度理由聞いてみようかな」

同じ公爵家としてライバル視されているのかと思っていたのだが。
しかし、ルークはそれに首を振った。

「止めて置いた方が良い。どうせ何も考えてないし、可笑しな我儘言うだけだよ。
大方崇高な貴族な血が流れているから合格とかそういう了見なんだ」

確かに以前のアンジェリーンなら言いそうなことである。

「でも最近変わったよね。あんなに変わるとは思わなかったな。それほど大した事じゃないと思うんだけど」
「・・・なにか言ったの~・・・?」

嫌いだと言った事は伏せて『王配になるのに足りない事』を聞かれたことを話した。

「・・・リオの言う事は聞くのかあの男は」

心底嫌そうな顔をするルーク。

「僕の言う事っていうか『王配』になるために必要だからだと思う。
でも、あそこまで態度が変わるとは思わなかったな」
「・・・本当にね」

アンジェリーンが目を惹かれるのは確かだ。
あの容姿もだが所作も美しく、よく他の貴族たちに噂されているのは聞く。

「・・・はぁ。そんなに王配になりたいなんてどんな裏があるんだか、考えるだけでも怖い」
「そこまで言ったら・・・可愛そうなんじゃない?
貴族として国民に何かしたいと思ったのかもしれないし」
「・・・、・・・、・・・リオは・・・一体どんなもの食べたらリオみたいになるの?」
「・・・え?僕みたいって・・・?」
「なんでもないよ。・・・わかった。
アンジェリーンが変わった原因も。
・・・それよりも村のことは気になるから引き続き報告が欲しい。
次はいつも通りガリウスで良いよ。
リオが来てくれてもいいけれど、あまり呼び出していると次期宰相様にめちゃくちゃ怒られる」

そう揶揄う様にいうルークにシャリオンはクスリと笑った。

「ガリィは言ったらちゃんと理解してくれるよ?」
「・・・いや、・・・いや。なんでもない」

何かを言いかけたのだが、ルークは苦笑してため息をついた。
それが不思議だったがシャリオンはそれ以上尋ねなかった。


☆☆☆

用も終わったし王都のガリウスとの屋敷に戻る前に、ガリウスとレオンに顔を出してからにしようと向かっているところだった。
最近よく合うようになったアンジェリーンが、まるで待ちかまえるかのように廊下に立っていた。

「ごきげんよう。アンジェリーン様」
「ごきげんよう。そして、おかえりなさい。シャリオン」

シャリオンに用事があったのだろうが、丁度良かった。お土産の話が出来る。
いや、そもそもアンジェリーンは催促に来たのかもしれない。

「ただいま戻りました。アンジェリーン様、お土産を買ってまいりましたが、お屋敷に贈らせていただいて宜しいでしょうか」

結局お土産は衣装を2着にした。
一つは従来通りのサーベル国のもの。
もう一つはジャスミンが張り切って作ったサーベル国の民族衣装を取り入れた特製の衣装だ。

「今日持っていらしたの?」
「いえ。ハイシアからお送りいたします」
「そう。ならそちらに伺うわ」
「え?」
「貴方の都合のいい日を教えて頂戴」
「あー・・・えっと」

そう言い濁したシャリオンにアンジェリーンは途端に呆れたような表情になった。

「・・・まさか、トラブルに巻き込まれているのでは?」
「っ・・・はい」

隠していても仕方がない。
シャリオンが苦笑を浮かべながら言うと、小さくため息をついた。

「まぁ、約束通り無事に帰ってきたのだから良しとしましょう」
「ありがとう、ございます?」

疑問形で返したというのに、アンジェリーンはどこか嬉しそうに笑った。

「もう。貴方は。・・・私はまだ『王配』ではないのですよ?
それなのにこんな風に言われて何故抗議しないのかしら」
「・・・わかってされていたのですか」
「あら。ちゃんと感じていたのですか」
「っ・・・、・・・もしかして僕は、・・いえ。私は揶揄われていたのですか?」
「やっと気づいた」

そう言ってクスクスと楽しそうに笑うアンジェリーン。
その笑みは昔によく見た笑い方だ。
思わず本音が漏れてしまう。

「・・・酷いです」
「酷いのはシャリオンです。
こちらがどんなに崩して接してもいまだに口調も固いままで」
「・・・もしかして、・・・それで意地悪な態度だったのですか?」
「私は意地悪をしたつもりはありませんが」

本気でそう言っているらしく、意地が悪いのは地の様だ。

「まぁそうですね。貴方が口調を改めて下さるのであれば、考えて差し上げなくてもありません」

それはどういう願いなのだろうか。

「そもそも。私達は歳が近く、同じ公爵なのですよ?
むしろ貴方は次期公爵で上の立場なのに何故敬語なの」
「それは・・・。まぁでもアンジェリーン様が王配になられたら問題ないでしょう」
「あら。私を推して下さるのかしら」
「いえ。そう言う事もありません」
「随分はっきり言いますね」

アンジェリーンは可笑しそうに笑った。
今日は機嫌が良い様で本当によく笑う。
シャリオンにもそれが移り、口元に笑みを浮かべた。

「僕は優しいアンジェリーン様が良い」
「そう。なら、仕方がないね。貴方の為に優しく振舞ってあげましょうか」

上から目線な発言ではあるが、敬語が消えた口調はまだなんだかむず痒い。
話しをまとめると、ずっと気付かなかったが彼なりに仲良くしたいと思っていたという事らしい。
アンジェリーンの親の影響で、シャリオンも頑なに口調を崩さなかったところもあった。
本人はひたすら『アンジェ』と呼んで欲しがっていたのに、無視をしていたのだから。
かと言って今さら『アンジェ』とは呼べないが。

「それと今夜晩餐会があるの殿下から聞いているでしょう?」
「聞いてない・・・けど」

それだけじゃなくとも、シャリオンは帰って領のことを進めたいところだった。
しかし、この流れはお誘いがあるのだろう。

「それに、僕はガリィがいない夜会には出ないよ」
「残念ながら、その夜会は貴方の伴侶も出ます」
「え」

シャリオンの返事に何故か勝ち誇ったかのようなアンジェリーン。

「これで一緒に出ますね?」
「、・・・うん」

なんと用意周到なのだろうか。
シャリオンは思わず苦笑を浮かべながらも返事をする。
何でも、サーベル国から無事に帰ったことによるものなんだそうだ。
帰ってきて早々貴族たちはサーベル国の話を聞きたいらしい。

少しだけ親しくなったアンジェリーンは、宣言してくれたように言葉の棘は消えた。
それにホッとしたのもつかの間だった。

晩餐会は簡易的なもので数時間食事をしたらお開きと言うようなものだったのだが、・・・そこでまた思っても見ないことが起きてしまうのだった。
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