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執着旦那と愛の子作り&子育て編
専属という立場は丁度良いからつけただけ。
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どこか上の空のシャリオン。
待つことしか出来ない歯痒さに、少しでも仕事をせねばとアンジェリーンの部屋に来たが、何度も心が離脱してしまい、ついにアンジェリーンに叱られる。
「ガリウスのことは『大丈夫だ』と、言ったのは貴方ですよ」
「・・・、」
「・・・まったくあの男は碌なことをしない」
呟かれた最後の言葉は聞き取れなかったが、文句を言ってるのだけは分かった。
「ごめん」
「悪いと思ってないのに謝らないで下さいな」
「悪いとは・・・思ってるよ」
ただ、どうしてもガリウスの事も、セレスの事も気になってしまうのだ。
大丈夫だと言ったが、ウルフ家の者にセレスの作った姿をみても違和感なく感じさせる魔法道具を持たせ、カルガリアに向かってもらった。
信じてはいるが、セレスの時の様に後手になってしまっては避けたい。
そのセレスだが、ジャンナから場所を知らせて貰い、
ゾルを見上げたがその視線だけで何を考えてるのか分かったらしく、思い切り眉間に皺を寄らせながら叱られた。
『行かせるわけがないだろう。お前は留守番だ』
行けるとは思ってなかったが、ゾルもついてきてくれるなら、良いと言ってくれるのではないかと少し期待した。
『行きたいだなんていわないよ。足手纏いになる』
なんて答えたがゾルは疑った視線のまま『そうか』
と、返事をするだけだった。
流石幼い頃からシャリオンを見ているだけのことはある。
セレスの場所が分かっても見るまでは心配が解けない。
救出にはウルフ家の者となんとジャンナもついて行ってくれる事になり、今助けに行っている最中だ。
近くまでリングで行けた様だが、すぐ前に飛べた訳ではなかった様で、今は歩きでセレスを捜索している。
呼び掛けがあったらシャリオンは、すぐ様ハイシア家に戻る。
これはレオンには報告済みである。
ふと前を見れば、不機嫌さ全開のアンジェリーンがこちらを睨んでいる。
どうやら何か言われていたのかもしれない。
「ご、」
謝ろうとしたが目が釣り上がったのが見えてシャリオンは口をつぐんだ。
そして、ため息をつくとそちらをみた。
「行方のしれなかった魔術師の行方が分かったんだ」
「!・・・そうですか」
それで合点があったのか、アンジェリーンの怒気は収まり、ため息をついた。
「なのに、あの男が捕まってしまうなんて」
相変わらず遠慮がない言葉だ。
シャリオンの顔色を見て察したらしいアンジェリーンは続けた。
「わざとではないのでしょう。
しかし、私は貴方を傷付けるものが最愛の伴侶で
も許せないのです」
「僕よりもガリィの方が」
「あの男。・・・失礼。
ガリウスは優秀な男です。
今頃情報を探ってるのでしょう」
「情報を、探る?」
「えぇ。ドラゴンの本拠地に連れて行かれたのですよ?
あの上空のものを一掃できる何かがあるはずです。
『清らかな歌声』をもつ女神官を説得するだとか、
そのほかの手段があってもおかしくありません」
ふと、『一緒にドラゴンをどうにかしましょう』と言った言葉を思い出す。
「無理、しないで、って言ったのに」
「それは貴方も言えないでしょう」
「ぅ」
嫌味の応酬は今のシャリオンにはきつい。
乾き笑いを浮かべつつ、シャリオンは話しを逸らす。
「そんなわけで、今日は一旦ハイシア家に戻るから」
しかし、アンジェリーンは良い顔をしない。
「そんな勝手が許されるのですか」
「父上には報告してあるよ」
そのレオンも大変ごねたが。
「・・・レオン様は宜しくても陛下は如何ですか?」
やたら帰してくれないアンジェリーンに、余裕のないシャリオンはついにカチンと来てしまった。
ガリウスのことも、セレスのことも。
「何故陛下の許可が必要なの?
そもそも僕が城に住むなんておかしな話しでしょう。
一体なにを隠してるの」
しかし、そう尋ねるとアンジェリーンはプイッと顔をそらせた。
「頑固で聞き分けの悪いシャリオンには教えません。
あと、ハイシア家に戻ってもドラゴンの帰ってくる夜には城に帰ってくるのですよ。良いですね?」
「!なんでっ」
「貴方が我儘を言っても迎えの使いを出します!」
「っ」
そういうと、アンジェリーンは怒りながら席をたった。
残されたシャリオンは呆気に取られたが、すぐに怒りが込み上げる。
「なにあれ・・・っ僕我儘なんてっ」
そう言いたかった。
けれど、違うのかもしれない。
人命が掛かってるからと、かなり無理をさせている。
「お前のそれは我儘じゃない」
「っ」
普段だならこんな事でこんなに感情は昂ったりはしない。だが、寝不足な事や不安がおりまざりシャリオンは情緒不安定になっていた。
「・・・。少し早いがお前達の屋敷に帰ろうか」
ゾルのその言葉にシャリオンはコクリと頷いた。
☆☆☆
久しぶりの屋敷にはあの時のまま、刻を止めたかの様だった。
ハイシア領の屋敷とはまた違った香りに懐かしかさが込み上げる。
子供達はまだ数回しか来ていないのに、はしゃぎだした。
「ちちうえー」
「なかにわいきたいー」
中庭はシャリオンも好きな所だ。
「そうしようか」
子供達を引き連れて、中庭に訪れると植えられている花々に、目を細めた。
子供を授かった時、ガリウスから心配され屋敷から出ないで欲しいと願われたシャリオンは、殆どの時間を自分の執務室とこの中庭で過ごしたのが思い出される。
この屋敷にはガリウスとの思い出しかない。
日に焼けないように簡単な日除けの下にあるベンチに腰掛けた。
ここでも、ガリウスと沢山話した思い出が蘇る。
「っ・・・」
耐えていた筈なのに、遊んでいた子供達はいち早く気づくと、シャリオンにピタリとくっついた。
そして、テーブルにはシャリオンの好きな焼き菓子とお茶が出される。
皆がシャリオンを労ってくれているのが、また涙腺を弱くした。
目元を抑え、声を押し殺す。
「ちーち・・・なかないで」
「ちちうぇ・・・」
子供達の声まで涙声になってくるではないか。
「っごめ・・・」
「とーさま、おきたよ、だから」
「もーすぐかえってくるから」
「ありがとう。・・・2人とも」
「2人の方が大人だな」
「っ・・・そうだね。ゾルもみんな(ウルフ家)もありがとう」
「俺たち(ウルフ家)のことは気にするな。
俺たちはただ、シャリオンが笑ってくれればそれでいい。
その為にもガリウスの調査も、
セレスの救出もなんてことはないんだ。
だから、気にやむな。
皆お前のその優しさに、癒されている。
・・・アンジェリーン様も同じだ。
だから、お前には笑っていて欲しいし過保護になってしまうんだ」
「・・・、」
「お前は間違ってない」
その言葉は以前ガリウスにも言われた言葉だ。
『貴方は間違っていません』
ふと、頭に蘇るその言葉に、ホロリと涙が溢れた。
涙がとまるまで子供達に慰められた。
☆☆☆
もう間も無く夕方に差し掛かる頃。
ついに、セレス・・・いや。
変身の解けたセレドニオが屋敷に着いた。
目は閉ざされたまま。
赤黒い汚れが皮膚全体についている。
その中には真新しい傷もあって、その傷の多さにシャリオンは卒倒しそうになった。
「っ治療魔法は!」
「かけてますわっ」
「!・・・ひっ」
血が流れ過ぎている。
シャリオンはセレドニオの服を探り魔法道具を探したが、
その時パキッと何かが割れる音がした。
咄嗟に手を挙げると手が真っ赤に染まっていた。
赤黒いそれは今も流れ続けているというのか。
認識した途端、むせかえるほどの血の匂いに
悲鳴をあげそうになりながら尻餅をついた。
「邪魔です!」
ジャンナの怒りにシャリオンはハッとした。
「っセレドニオは増血リングを持ってるはずなんだ!」
「!」
その言葉にジャンナはしゃがみ込むと、セレドニオの体をさがす。
一個で足りる量には見えなくて振り返る。
「っこの家に造血リングは?!」
「っありません」
それはハイシア領で作ったものだ。
当然のことだった。
気まぐれで遊んでるわけじゃないと理解したジャンナは、先程邪険にしたのとは打って変わり、気を遣って声をかけられた。
「シャリオン様。
っこの血で生きているのはその魔法道具が作動しているからですわ。きっと」
確かに血液はそうなのかも知れないが、であればなぜ治癒魔法が効かないのか。
「・・・あ」
「なんです・・・?」
「直ぐに綺麗な水を!」
何かを思いつき動き出したシャリオンに皆が困惑をする。
「皆、あまりセレドニオに触らないで。
もしかしたら、ドラゴンの血を浴びているかもしれない」
「「「!」」」
魔物の血は瘴気を帯びている。
それはもれなくドラゴンも同じだ。
「シャリオンッッ」
血相を変えたのはゾルだ。
肩をシャリオンを自分の方に向かせると、自分の服を脱ぎその手に着いた血液を必死に拭う。
「大丈夫!僕にはあの魔法があるから。
みんなも落ち着いて。
子供達が頑張れる間はみんなにかけるから、安心して」
ゾルはそれを聞いてもちっとも安心できなかった。
子供達よりも先に枯渇するのはシャリオンの方だ。
ざっと見ても5~6人はいる。
ドラゴンの血から起こる瘴気にいったいどれほどの魔力を使うのか。
「屋敷中からタリスマンを集めてからだ!」
止めても止まらないのは理解している。
ゾルの最大限の譲歩だった。
その言葉にシャリオンはコクリとうなづいた。
・・・
・・
・
もう疲れ果てて動けなくなったころ。
ハイシア家や領地からもかき集めた、
ガリウスのタリスマンを全部使い切り、ジャンナを含めた全員の魔法をかけ終えた。
子供達は魔力が減ってというより、お昼寝をしなかったからだろうか、うとうとしているのを見ると、将来有望になる気がする。
乳母に抱かれた2人を見てホッとした後。
一番最初に掛けたセレドニオの方を見ると、ゾルが其方までシャリオンを運んでくれた。
やはり、瘴気のせいでうまくいっていなかった治癒魔法も、今はしっかり傷は塞がったようだ。
久しぶりに見るセレドニオの姿はなんだか不思議だ。
そう言えば年上だったと思い出す。
そんな事を思っていると、ジャンナから頭を下げられました。
「貴方のお陰で、この子は助かりました」
「お礼を言われることでは。
セレドニオにはうちの魔術師です。
当然のこと・・・なんですが、申し訳ありません。
もしや、黒魔術師は特別な繋がりがあったりするのですか?」
そう尋ねると、ジャンナはクスクスと笑い、ゾルは小さくため息をついた。
「いいえ。ただ、黒魔術師、いえ。
魔力が高いものは不幸になるケースが多いのです。
だからと言いますか、・・・彼を贔屓目でみてしまいましたの。
彼は私の事を見たこともなければ聞いたこともないはずですわ」
「そうなんですか」
てっきり因縁の仲だったりするのかと思ったが、違うらしい。
「・・・。彼の魔力は戻らないかもしれませんわ」
「そっか。じゃぁこの姿に戻るのか」
あまりこの姿は好きではないと言っていたのを思い出す。
「変身リングで前くらいまで姿を変えられるかな」
「本当に高等な魔術師が欲しかったわけじゃないのですね」
「いてくれてすごく助かったけれど」
「・・・。私が後任になりましょうか?」
その言葉はとても有り難くはある。
でも、セレドニオがダメになったから、直ぐにジャンナに決めると言う気にはなれなかった。
「ありがとう。でも、お断りします」
「宜しいですの?」
「はい。あ。ハイシア領に住みたいって言ってた話なら大歓迎ですよ」
そう言うとジャンナはクスクスと笑った。
「黒魔術師の住まいはあまり公言しないものなのですわ」
「そうですか。なら、観光がてらにたまには遊びに来て下さい」
「えぇ。そうします。・・・そろそろ私もお暇いたしますわ」
「ジャンナ様。ありがとうございました。
貴方が子供達から場所特定できなければセレドニオは助かりませんでした」
ジャンナはニコリと微笑んだ。
「こちらこそ。貴族にも貴方のような真っ当な方が居るのだとしれましたわ。
また、いつの日かお会いしましょう」
そう言うと、ジャンナはカテーシーをしながら、ゆっくりと消えていった。
戻ってきたセレドニオを見るとシャリオンはふと微笑んだ。
「屋敷でしばらくは休ませてやって欲しい」
「「「はい」」」
「あと、他の皆も瘴気が残ってていて状態異常が現れたら絶対に黙ってないで言ってね?
今日は流石に無理だけど・・・、1日1人くらいなら出来そうだよね・・・?」
その言葉にゾルは眉間に皺を寄せたまま複雑そうにしながらもうなづいた。
「えぇ。しかし、もうガリウス様のタリスマンがない事を忘れないで下さいね」
側近口調でムッスリと答えるゾル。
市販品は?と、尋ねようとしたが、今は大人しくうなづいておいた。
しかし、これからはセレスの作ったガリウスのタリスマンもないと言うことは慎重にしなければならない。
時間を置くと足元のふらつきもおさまってきた。
シャリオンは自分の足で立つと、振り返る。
「そろそろ、今日はお城に帰ろうかな?あんまり遅くなると怒られちゃうからね」
そうおどけてみせると、皆がほほ笑む。
余程心配を掛けていたらしい。
それにしても、今日はとても疲れた。
子供達が頑張ってくれて、ゾルがサポートしてくれたからだ。
しかし、その苦労があっても、セレスが無事に帰ってきてくれて本当に良かったと思う。
それにあとは、ガリウスのことに集中できる。
そう思った所だった。
パキパキパキパキッと、王都に響き渡った。
結界が割れたのだと瞬時に窓の外を見上げた。
夕暮れに染まった空には、・・・ドラゴンがこちらに向かってくるところだった。
待つことしか出来ない歯痒さに、少しでも仕事をせねばとアンジェリーンの部屋に来たが、何度も心が離脱してしまい、ついにアンジェリーンに叱られる。
「ガリウスのことは『大丈夫だ』と、言ったのは貴方ですよ」
「・・・、」
「・・・まったくあの男は碌なことをしない」
呟かれた最後の言葉は聞き取れなかったが、文句を言ってるのだけは分かった。
「ごめん」
「悪いと思ってないのに謝らないで下さいな」
「悪いとは・・・思ってるよ」
ただ、どうしてもガリウスの事も、セレスの事も気になってしまうのだ。
大丈夫だと言ったが、ウルフ家の者にセレスの作った姿をみても違和感なく感じさせる魔法道具を持たせ、カルガリアに向かってもらった。
信じてはいるが、セレスの時の様に後手になってしまっては避けたい。
そのセレスだが、ジャンナから場所を知らせて貰い、
ゾルを見上げたがその視線だけで何を考えてるのか分かったらしく、思い切り眉間に皺を寄らせながら叱られた。
『行かせるわけがないだろう。お前は留守番だ』
行けるとは思ってなかったが、ゾルもついてきてくれるなら、良いと言ってくれるのではないかと少し期待した。
『行きたいだなんていわないよ。足手纏いになる』
なんて答えたがゾルは疑った視線のまま『そうか』
と、返事をするだけだった。
流石幼い頃からシャリオンを見ているだけのことはある。
セレスの場所が分かっても見るまでは心配が解けない。
救出にはウルフ家の者となんとジャンナもついて行ってくれる事になり、今助けに行っている最中だ。
近くまでリングで行けた様だが、すぐ前に飛べた訳ではなかった様で、今は歩きでセレスを捜索している。
呼び掛けがあったらシャリオンは、すぐ様ハイシア家に戻る。
これはレオンには報告済みである。
ふと前を見れば、不機嫌さ全開のアンジェリーンがこちらを睨んでいる。
どうやら何か言われていたのかもしれない。
「ご、」
謝ろうとしたが目が釣り上がったのが見えてシャリオンは口をつぐんだ。
そして、ため息をつくとそちらをみた。
「行方のしれなかった魔術師の行方が分かったんだ」
「!・・・そうですか」
それで合点があったのか、アンジェリーンの怒気は収まり、ため息をついた。
「なのに、あの男が捕まってしまうなんて」
相変わらず遠慮がない言葉だ。
シャリオンの顔色を見て察したらしいアンジェリーンは続けた。
「わざとではないのでしょう。
しかし、私は貴方を傷付けるものが最愛の伴侶で
も許せないのです」
「僕よりもガリィの方が」
「あの男。・・・失礼。
ガリウスは優秀な男です。
今頃情報を探ってるのでしょう」
「情報を、探る?」
「えぇ。ドラゴンの本拠地に連れて行かれたのですよ?
あの上空のものを一掃できる何かがあるはずです。
『清らかな歌声』をもつ女神官を説得するだとか、
そのほかの手段があってもおかしくありません」
ふと、『一緒にドラゴンをどうにかしましょう』と言った言葉を思い出す。
「無理、しないで、って言ったのに」
「それは貴方も言えないでしょう」
「ぅ」
嫌味の応酬は今のシャリオンにはきつい。
乾き笑いを浮かべつつ、シャリオンは話しを逸らす。
「そんなわけで、今日は一旦ハイシア家に戻るから」
しかし、アンジェリーンは良い顔をしない。
「そんな勝手が許されるのですか」
「父上には報告してあるよ」
そのレオンも大変ごねたが。
「・・・レオン様は宜しくても陛下は如何ですか?」
やたら帰してくれないアンジェリーンに、余裕のないシャリオンはついにカチンと来てしまった。
ガリウスのことも、セレスのことも。
「何故陛下の許可が必要なの?
そもそも僕が城に住むなんておかしな話しでしょう。
一体なにを隠してるの」
しかし、そう尋ねるとアンジェリーンはプイッと顔をそらせた。
「頑固で聞き分けの悪いシャリオンには教えません。
あと、ハイシア家に戻ってもドラゴンの帰ってくる夜には城に帰ってくるのですよ。良いですね?」
「!なんでっ」
「貴方が我儘を言っても迎えの使いを出します!」
「っ」
そういうと、アンジェリーンは怒りながら席をたった。
残されたシャリオンは呆気に取られたが、すぐに怒りが込み上げる。
「なにあれ・・・っ僕我儘なんてっ」
そう言いたかった。
けれど、違うのかもしれない。
人命が掛かってるからと、かなり無理をさせている。
「お前のそれは我儘じゃない」
「っ」
普段だならこんな事でこんなに感情は昂ったりはしない。だが、寝不足な事や不安がおりまざりシャリオンは情緒不安定になっていた。
「・・・。少し早いがお前達の屋敷に帰ろうか」
ゾルのその言葉にシャリオンはコクリと頷いた。
☆☆☆
久しぶりの屋敷にはあの時のまま、刻を止めたかの様だった。
ハイシア領の屋敷とはまた違った香りに懐かしかさが込み上げる。
子供達はまだ数回しか来ていないのに、はしゃぎだした。
「ちちうえー」
「なかにわいきたいー」
中庭はシャリオンも好きな所だ。
「そうしようか」
子供達を引き連れて、中庭に訪れると植えられている花々に、目を細めた。
子供を授かった時、ガリウスから心配され屋敷から出ないで欲しいと願われたシャリオンは、殆どの時間を自分の執務室とこの中庭で過ごしたのが思い出される。
この屋敷にはガリウスとの思い出しかない。
日に焼けないように簡単な日除けの下にあるベンチに腰掛けた。
ここでも、ガリウスと沢山話した思い出が蘇る。
「っ・・・」
耐えていた筈なのに、遊んでいた子供達はいち早く気づくと、シャリオンにピタリとくっついた。
そして、テーブルにはシャリオンの好きな焼き菓子とお茶が出される。
皆がシャリオンを労ってくれているのが、また涙腺を弱くした。
目元を抑え、声を押し殺す。
「ちーち・・・なかないで」
「ちちうぇ・・・」
子供達の声まで涙声になってくるではないか。
「っごめ・・・」
「とーさま、おきたよ、だから」
「もーすぐかえってくるから」
「ありがとう。・・・2人とも」
「2人の方が大人だな」
「っ・・・そうだね。ゾルもみんな(ウルフ家)もありがとう」
「俺たち(ウルフ家)のことは気にするな。
俺たちはただ、シャリオンが笑ってくれればそれでいい。
その為にもガリウスの調査も、
セレスの救出もなんてことはないんだ。
だから、気にやむな。
皆お前のその優しさに、癒されている。
・・・アンジェリーン様も同じだ。
だから、お前には笑っていて欲しいし過保護になってしまうんだ」
「・・・、」
「お前は間違ってない」
その言葉は以前ガリウスにも言われた言葉だ。
『貴方は間違っていません』
ふと、頭に蘇るその言葉に、ホロリと涙が溢れた。
涙がとまるまで子供達に慰められた。
☆☆☆
もう間も無く夕方に差し掛かる頃。
ついに、セレス・・・いや。
変身の解けたセレドニオが屋敷に着いた。
目は閉ざされたまま。
赤黒い汚れが皮膚全体についている。
その中には真新しい傷もあって、その傷の多さにシャリオンは卒倒しそうになった。
「っ治療魔法は!」
「かけてますわっ」
「!・・・ひっ」
血が流れ過ぎている。
シャリオンはセレドニオの服を探り魔法道具を探したが、
その時パキッと何かが割れる音がした。
咄嗟に手を挙げると手が真っ赤に染まっていた。
赤黒いそれは今も流れ続けているというのか。
認識した途端、むせかえるほどの血の匂いに
悲鳴をあげそうになりながら尻餅をついた。
「邪魔です!」
ジャンナの怒りにシャリオンはハッとした。
「っセレドニオは増血リングを持ってるはずなんだ!」
「!」
その言葉にジャンナはしゃがみ込むと、セレドニオの体をさがす。
一個で足りる量には見えなくて振り返る。
「っこの家に造血リングは?!」
「っありません」
それはハイシア領で作ったものだ。
当然のことだった。
気まぐれで遊んでるわけじゃないと理解したジャンナは、先程邪険にしたのとは打って変わり、気を遣って声をかけられた。
「シャリオン様。
っこの血で生きているのはその魔法道具が作動しているからですわ。きっと」
確かに血液はそうなのかも知れないが、であればなぜ治癒魔法が効かないのか。
「・・・あ」
「なんです・・・?」
「直ぐに綺麗な水を!」
何かを思いつき動き出したシャリオンに皆が困惑をする。
「皆、あまりセレドニオに触らないで。
もしかしたら、ドラゴンの血を浴びているかもしれない」
「「「!」」」
魔物の血は瘴気を帯びている。
それはもれなくドラゴンも同じだ。
「シャリオンッッ」
血相を変えたのはゾルだ。
肩をシャリオンを自分の方に向かせると、自分の服を脱ぎその手に着いた血液を必死に拭う。
「大丈夫!僕にはあの魔法があるから。
みんなも落ち着いて。
子供達が頑張れる間はみんなにかけるから、安心して」
ゾルはそれを聞いてもちっとも安心できなかった。
子供達よりも先に枯渇するのはシャリオンの方だ。
ざっと見ても5~6人はいる。
ドラゴンの血から起こる瘴気にいったいどれほどの魔力を使うのか。
「屋敷中からタリスマンを集めてからだ!」
止めても止まらないのは理解している。
ゾルの最大限の譲歩だった。
その言葉にシャリオンはコクリとうなづいた。
・・・
・・
・
もう疲れ果てて動けなくなったころ。
ハイシア家や領地からもかき集めた、
ガリウスのタリスマンを全部使い切り、ジャンナを含めた全員の魔法をかけ終えた。
子供達は魔力が減ってというより、お昼寝をしなかったからだろうか、うとうとしているのを見ると、将来有望になる気がする。
乳母に抱かれた2人を見てホッとした後。
一番最初に掛けたセレドニオの方を見ると、ゾルが其方までシャリオンを運んでくれた。
やはり、瘴気のせいでうまくいっていなかった治癒魔法も、今はしっかり傷は塞がったようだ。
久しぶりに見るセレドニオの姿はなんだか不思議だ。
そう言えば年上だったと思い出す。
そんな事を思っていると、ジャンナから頭を下げられました。
「貴方のお陰で、この子は助かりました」
「お礼を言われることでは。
セレドニオにはうちの魔術師です。
当然のこと・・・なんですが、申し訳ありません。
もしや、黒魔術師は特別な繋がりがあったりするのですか?」
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「いいえ。ただ、黒魔術師、いえ。
魔力が高いものは不幸になるケースが多いのです。
だからと言いますか、・・・彼を贔屓目でみてしまいましたの。
彼は私の事を見たこともなければ聞いたこともないはずですわ」
「そうなんですか」
てっきり因縁の仲だったりするのかと思ったが、違うらしい。
「・・・。彼の魔力は戻らないかもしれませんわ」
「そっか。じゃぁこの姿に戻るのか」
あまりこの姿は好きではないと言っていたのを思い出す。
「変身リングで前くらいまで姿を変えられるかな」
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「いてくれてすごく助かったけれど」
「・・・。私が後任になりましょうか?」
その言葉はとても有り難くはある。
でも、セレドニオがダメになったから、直ぐにジャンナに決めると言う気にはなれなかった。
「ありがとう。でも、お断りします」
「宜しいですの?」
「はい。あ。ハイシア領に住みたいって言ってた話なら大歓迎ですよ」
そう言うとジャンナはクスクスと笑った。
「黒魔術師の住まいはあまり公言しないものなのですわ」
「そうですか。なら、観光がてらにたまには遊びに来て下さい」
「えぇ。そうします。・・・そろそろ私もお暇いたしますわ」
「ジャンナ様。ありがとうございました。
貴方が子供達から場所特定できなければセレドニオは助かりませんでした」
ジャンナはニコリと微笑んだ。
「こちらこそ。貴族にも貴方のような真っ当な方が居るのだとしれましたわ。
また、いつの日かお会いしましょう」
そう言うと、ジャンナはカテーシーをしながら、ゆっくりと消えていった。
戻ってきたセレドニオを見るとシャリオンはふと微笑んだ。
「屋敷でしばらくは休ませてやって欲しい」
「「「はい」」」
「あと、他の皆も瘴気が残ってていて状態異常が現れたら絶対に黙ってないで言ってね?
今日は流石に無理だけど・・・、1日1人くらいなら出来そうだよね・・・?」
その言葉にゾルは眉間に皺を寄せたまま複雑そうにしながらもうなづいた。
「えぇ。しかし、もうガリウス様のタリスマンがない事を忘れないで下さいね」
側近口調でムッスリと答えるゾル。
市販品は?と、尋ねようとしたが、今は大人しくうなづいておいた。
しかし、これからはセレスの作ったガリウスのタリスマンもないと言うことは慎重にしなければならない。
時間を置くと足元のふらつきもおさまってきた。
シャリオンは自分の足で立つと、振り返る。
「そろそろ、今日はお城に帰ろうかな?あんまり遅くなると怒られちゃうからね」
そうおどけてみせると、皆がほほ笑む。
余程心配を掛けていたらしい。
それにしても、今日はとても疲れた。
子供達が頑張ってくれて、ゾルがサポートしてくれたからだ。
しかし、その苦労があっても、セレスが無事に帰ってきてくれて本当に良かったと思う。
それにあとは、ガリウスのことに集中できる。
そう思った所だった。
パキパキパキパキッと、王都に響き渡った。
結界が割れたのだと瞬時に窓の外を見上げた。
夕暮れに染まった空には、・・・ドラゴンがこちらに向かってくるところだった。
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