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執着旦那と愛の子作り&子育て編
分かった気がした。
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ハイシア城に併設されている雑舎。
もう間もなく夕刻になる頃、セレスの見舞いの為に訪れた。
ヴィスタとの激戦で負傷したセレスは瘴気を帯びたドラゴンの血液を浴びてしまった。
人が立ち入ることが出来ない死山で戦闘が行われていたため、民に被害はない代わりに人の気配がないそこでは瀕死のセレスの発見が遅れてしまった。
ウルフ家の者達もそこには許可が無ければ立ち入らないのだ。
セレスは自身でドラゴンの血に帯びた瘴気が起こした状態異常を回復できないが、生命に関わる損傷を自動で治癒を行いなんとか命をつないでいた。
しかし、それもあと少し遅ければ手遅れになるかもしれなかった。
自己治癒を自動で行えるのは最強のように思えるが、実際はそうではないらしい。
『らしい』とは、国直属の治療に特化した高等魔術師には詳細は解らなかったのだ。
確実に言えるのは『どんな事も無限というのはあり得ない』ということ。
自動で自己治癒を行うためには魔力を使うが、セレスはその魔力も自動回復をしているらしいのだが、それは理を無視した術式で限界を超えたのではないか。と、言うのが彼らの見解で、・・・それが原因で魔力が回復しなくなったのそうだ。
膨大の魔力が保有できない。つまりは、黒魔術師ではなくなってしまったわけだ。
断定されないそれに不安ではあったが、ガリウスも解らないという事にシャリオンにはどうしようもない。
それでも一命を取り留めたセレスにシャリオンはホッとしたのだが。
意識を取り戻した後で本調子ではないのか、それともセレスの姿ではないからなのかどこか意気消沈している。
膨大にあった魔力がなくなったのも理由だろうが、なにか言いたげにしているセレスが気になり、時間が出来たらなるべく通うようにしていた。
そんな理由で訪れているので話しやすくなるように、取り留めない話をしていたのだが。
すると、部屋の中に動く影に2人揃って空を見れば、ヴィスタがどこからか戻ってきた様だ。
黙ってみているセレスは感情もなくただ見ているように見えた。
それはあまりにも感情が無さ過ぎて息を飲んだ。
今のセレスの姿はシャリオンがまだレオンの屋敷で暮らしていた頃に行商人として出入りしていた姿だ。
壮年の男性で黒髪に黒目。
セレスは過去の因縁から過去を思い出させるすべてのものを疎んでいるが、それは名前や容姿や声に至るまで。
それを解く原因であるドラゴンが領地に棲むことは不愉快に感じるだろう。と、シャリオンは察した。
それに命をはってハイシアを守ってくれたのだ。
「ごめん・・・」
「?・・・なにがですか」
「セレスがハイシアを守ってくれたのに。
ヴィスタ・・・ドラゴンがここに棲むことになって」
過去の贖罪の為に、シャリオンに従えるような誓約をして逆らうことは出来ないセレス。
確かに過去の罪はあるが、それを贖い終えたといい程の、利益をハイシアにもたらした。
出来ればセレスの願いは叶えたい。
ヴィスタに闘いを挑む前に『休暇が欲しい』と言ったことも、この『セレドニオ』の姿から『セレス』にも。
だが困ったことをしでかすヴィスタに、あの約束がなく『力』があったとしても倒すことが出来ないのも事実だ。
感謝をしているセレスに、自分に力がないばかりにこんな結果になったことを詫びた。
しかし、そんなシャリオンに驚いたのちにセレスは『また主は少しずれたことを考えているな』と、思ったが口に出さずに困ったように苦笑をした。
「争わず血を流すことなく収められたならそれが一番。
私は排除することばかりに目が行ってて、・・・対話など想像できなかった」
「外から呼びかけても応答がなかったし、そもそもドラゴンが村を支配しているだなんて考えないから仕方がないよ。あの頃は、不穏な輩が村を乗っ取っただとか、そういうことを考えていたでしょう。
それに忘れてしまった?
指示をしたのは僕だ」
アスピルコアドレインの指輪で村民の安否が不安だったが、実験を行いその上で許可したのだ。
シャリオンが却下したなら、同行したウルフ家の者たちが止めていたはず。
黒魔術師である彼を完全に止めるのは難しかっただろうが、彼らはシャリオンの考えつかない方法で止めていただろう。
だから、セレスが気にする必要はないのだ。
「それであのドラゴンがこの地にいることをキュリアスに知られてしまった」
「何か言われたの?
・・・というか知られてしまったのは僕の所為だ。
僕が・・・、・・・ドラゴンが継続的に使っていた魔法を解いてしまったから、あのドラゴンは各地を飛び回るようになってしまった」
シャリオンがミクラーシュの洗脳を解いてしまったことにより、ヴィスタに魔法の余力が出来てしまい、それを使いセレスの魔法を破壊してしまったのだ。
「遅かれ早かれガリウスは連れ去られてた。
シオドリック様は、ハイシアに大型魔物の出現を確かめてきていたという事は、キュリアスの人間もハイシアにドラゴンの目撃情報があったはずだ。
だから、セレスの所為じゃない」
改めてセレスに失態がなかったことを伝えると視線を落とした。
余計追いつめてしまったのだろうか。
セレスの手がきつく握られ震えている。
「・・・セレス」
どんな言葉を掛けるか探していたが、セレスが続けた言葉にまだ諦めるつもりがないのだと思った。
「・・・。私を国の魔法研究所に送ってください」
「魔法研究所に?・・・でも、あまりセレスの期待には沿えないと思う」
セレスの状態を正しく把握できなかったのだ。
しかし、シャリオンがそう言うとセレスは首を振る。
「いいえ。これまで魔力が突如なくなるような人間はいなかった。
きっといい実験サンプルになるはずだ」
「・・・!」
それは思ってもみない方向への覚悟だった。
そんな風に思わせてしまったことに努力がなかったとも思ったが、抑えようとした怒りが沸き起こった。
「・・・僕が・・・」
「・・・」
「魔力がないくらいで、そんなことをすると思ったの」
「・・・、」
「セレスにはこれまで通り、子供達の魔術の師だよ。
・・・アシュリーはルークの養子になって王族に。
ガリオンは次期公爵だから、しっかり教えてね」
「!」
そういうとセレスは驚愕の眼差しを送ってくるが、シャリオンは構わずに立ち上がるとゾルを引き連れて退出するドアの手前で止まると後ろを振り返る。
「子供達がね。・・・魔法だけはセレス以外から受けたくないって」
まもなく一歳の子供に気が早いが会話が出来る子供達に皆が様々な期待を寄せている。
ルークやアンジェリーンよりも、特にシャーリーやルーティが張り切っている状態だ。
皆が子供達の魔力の高さを理解しており、教育は必要だとし教師をつけようとした。
セレスが魔力が無いことが発覚した時点で、ガリウスのことで切羽詰ったシャリオンに周りが気を使ってくれた。
シャリオンは子供たちの師を変えるつもりは無かったが、子供達の未来を考えると意固地にはなれなかった。
誰か別の人間を、少なくともセレスが目を覚ますまではつける必要があるのではないかと考えたのだが。
子供たちはそれを拒否したのだ。
「僕もセレスが良いって思ってる」
「っ・・・」
シャリオンがそう言うと、セレスは息を飲んだ。
☆☆☆
【別視点:ガリウス】
その日の夜。
王城に与えられた部屋に戻る。
シャリオンのいるところがガリウスの帰る場所である。
前室に入ると使用人達に子供達はシャリオンへの夜の挨拶を終え休んでいるという。
顔を覗き起こすこともないだろう。
それだけでなく、使用人達の視線が余計なお世話なことだが早くシャリオンの元へ行けと訴えている。
それ以上に、シャリオンが思考共有でそう言ってきたのだ。
自分に相談したがっているのが分かる。
煽るウルフ家の者達も着替える余裕はくれ、執務用の服から室内着に着替えると部屋に向かった。
主室に入るとそこには悩みにふけったシャリオンがいた。
隣に掛けるまでガリウスに気づかなかったようで、勢いよくあげられた顔は驚きで染まっていた。
他の男で憂いを帯びていることは不愉快だが、精いっぱい耐えるとシャリオンの話を聞く。
それは事前に聞いていたがセレスの話だった。
実父から救ったシャリオンにあの男は奴隷のような誓約内容でも復讐どころか恩義を感じている。
その為か今回のことをかなり悩んでいたようだ。
シャリオン以外に冷酷だと自覚があるガリウスだが、セレスが言った研究所の実験体になる発言は驚いた。
実験体となれば研究者が望むことをしなければならない。
志願者もいるがどちらかと言えば犯罪者が多い。
それは辛く厳しいものだからだ。
彼らは新たな魔法を製造するのは苦手だが究明することにはたけている。
シャリオンは期待はしていなかったようだが、彼らならセレスの症状も正しくわかるかもしれないと思っている。
国直属の高等魔術師達は魔法研究所の力を借りることがあるが、研究員の知識をすべて理解しているわけではないのだ。
それこそ、抹消されたファングス家にいた時と同じように人権などなくなるだろう。
いや、優秀であったセレスは特別扱いだった為それ以下の扱いになる事は明白。
それだけシャリオンに忠義を果たしたいと思っていることは褒めれることだが、直接いうのはいただけない。
勿論ガリウスに言われたとしても、実験体にはさせない。
シャリオンがこんな風に気に病むからだ。
セレスが本心から言っており、それが目的ではないことはもうわかっているが・・・。
ガリウスは記憶を総動員させ忘れていた情報を掘り起こす。
「ヴィンフリート様に相談をしてみましょう」
「・・・お師匠様に・・・?」
そう繰り返すシャリオンは少しだけ希望に満ちている。
ガリウスはそれに微笑みながら頷きつつも、ヴィンフリートに心の中で悪態をついた。
『件の魔術師が見つかったら寄こすがよい。面倒を見てやる』そう言った、ヴィンフリートはこうなることを予測していたのだ。
・・・本当に性格が悪い人だ。
腕は確かで最終的には頼りになるのだが。
理由を聞いても答えなかったヴィンフリートに舌打ちしたい気持ちを精いっぱい抑えていると、腕の中に飛び込んできた愛しい存在にすべてがリセットされる。
「ありがとうっ・・・ガリィ・・・!」
「元に戻せるといいのですが」
少々気が早い様子のシャリオンに苦笑をする。
シャリオンに助けを求められたら全力で応えたいが、叶えるのはヴィンフリートである為会ってみないとどうなるかはわからない。
特にヴィンフリートは前回のことがあるからだ。
しかし、シャリオンは純粋だ。
「どんな結果になったとしてもガリィのお陰。
だって僕には考えられなかったことだから」
そう言って期待で満ちた笑顔を向けるシャリオンに、ガリウスの心は癒されていく。
我慢していた口づけを甘えるようにもらいながら、もしもの時の為にヴィンフリートの逃げ道を塞ぐことを考えるガリウスだった。
☆☆☆
【シャリオン視点】
ガリウスは多忙極める人間で、つい先日まで宰相とその執務を担える次期宰相が同時に不在となったため怒涛のように仕事が来ている。
それはシャリオンとは比べ物にならないほど激務だろうが、ガリウスは時間を作ってくれた。
王族となるアシュリーのこともあるからだろう。
次のガリウスの休暇にヴィンフリートの元へ訪れることになり、それまでシャリオンも仕事を調整するべくより仕事を頑張った。
セレスのこともあり、なるべくハイシア領で仕事をこなしていたのだが、そんなときに来訪の知らせがあった。
来客はちゃんと事前に連絡があったから驚きはしない。
しかし、来訪理由は納得がいかない。
ハイシア領に訪れた来客。
それは、フィラーコヴァー伯爵と前伯爵だ。
つまり、ミクラーシュの実父と実弟である。
・・・
・・
・
応接室で待っているという2人の元に駆け付けると、2人は一斉に立ち上がる。
伯爵である彼らにそんなことをさせるのは、ミクラーシュの件だけでなくハイシア家が公爵家だからだ。
それを再認識しつつも2人の話を聞けば・・・やはり謝罪だった。
聞けばがすでに王家には済ませているようだ。当然である。
シャリオンはこのことにもう時間は掛けたくなかった。
ミクラーシュから直接話がしたいということであれば、時間をさけるが家族からの謝罪など意味は持たない。
シャリオンが公爵の権威を振りかざすような人間なら彼等にとって脅威になるだろうから、この謝罪に意味はあるのだろうが、シャリオンにその気は全くない。
が、・・・形だけでも謝罪しなければならないという体裁も嫌でも解っている。
シャリオンは2人の謝罪を受けた。
そんな様子のシャリオンに2人はあからさまにホッとしたようだった。
それは特にこれからを見ているのか、保身のために饒舌になる伯爵だ。
仲が良いと聞いて居たはずだが、・・・それはシャリオンの思っているものとは違った。
「兄上は・・・いえ。ミクラーシュは昔からおかしい奴だったのです」
その言葉に前伯爵何も言わない。
それどころか頷くありさまだ。
家の醜聞を振りまく理由はただ一つ。
同情を煽ぎ、こちらの怒りを下げたいのだろう。
そういうのは嫌でもわかるシャリオンはそろそろ返そうと思ったところだった。
「『子爵の家にはいるから家督は継がない』とかそんなことを幼いころからずっと言っていました」
「・・・、」
シャリオンはその言葉に驚いた様にすると、気を引けたと思ったのか饒舌に話しだす。
「それも今にも潰れそうな家でしたな。幸いにもその家は潰れましたが」
「一時の気の迷いだったのでしょう。いつからか殿下を慕っているようで安心したのですが」
「しかし、殿下の側室も務まるか家の者達で不安に思っていたのです」
彼らはその気持ち自体が『洗脳』だと知らされていないのだと気付く。
ミクラーシュはあくまで『洗脳』されてシャリオンに不躾な態度をとっていたと言われているのだ。
王家がそのように言っていたなら、シャリオンはそれ以上は言えないし、このまま何もなく終わらせよう。
・・・そう思っていたのだが。
「あの家の息子にはその家には大金になる金額を支払って遠ざけさせたのですがな。
無駄に終わってしまったのは痛いですな」
その言葉を聞いた瞬間。
シャリオンは会話に時間をかけるのが無駄を感じた。
「用件は以上でしょうか」
シャリオンの声の硬さに自分でも驚く。
「えっ」
「ぁ、はい。おい」
「この度のお詫びをっ」
「結構です。ゾル。彼らはお帰りになる」
「かしこまりました」
そう言って急に追い出そうとするシャリオンの態度は怒らせてしまったと理解したのだろう。
「ハイシア様!」
「ミクラーs」
なおも言い訳を重ねようとするのに不快感を感じている時だった。
「申し訳けありません。
旦那様はこの後も多忙を極めております為、お帰りのご案内をさせていただきます」
側近ではなくまるで執事のような物言いで2人を止めると、ゾルは後ろの眼光が鋭く怒りをたたえた老執事に客人を預けた。
この執事はこのハイシア城のウルフ家の中で1・2を争うほどのシャリオン贔屓の人間だ。
生まれてからずっと見てきた者であり当然だ。
視線だけで殺られるのではないか?という視線を与えながら、有無を言わせない態度で2人を返した。
もう間もなく夕刻になる頃、セレスの見舞いの為に訪れた。
ヴィスタとの激戦で負傷したセレスは瘴気を帯びたドラゴンの血液を浴びてしまった。
人が立ち入ることが出来ない死山で戦闘が行われていたため、民に被害はない代わりに人の気配がないそこでは瀕死のセレスの発見が遅れてしまった。
ウルフ家の者達もそこには許可が無ければ立ち入らないのだ。
セレスは自身でドラゴンの血に帯びた瘴気が起こした状態異常を回復できないが、生命に関わる損傷を自動で治癒を行いなんとか命をつないでいた。
しかし、それもあと少し遅ければ手遅れになるかもしれなかった。
自己治癒を自動で行えるのは最強のように思えるが、実際はそうではないらしい。
『らしい』とは、国直属の治療に特化した高等魔術師には詳細は解らなかったのだ。
確実に言えるのは『どんな事も無限というのはあり得ない』ということ。
自動で自己治癒を行うためには魔力を使うが、セレスはその魔力も自動回復をしているらしいのだが、それは理を無視した術式で限界を超えたのではないか。と、言うのが彼らの見解で、・・・それが原因で魔力が回復しなくなったのそうだ。
膨大の魔力が保有できない。つまりは、黒魔術師ではなくなってしまったわけだ。
断定されないそれに不安ではあったが、ガリウスも解らないという事にシャリオンにはどうしようもない。
それでも一命を取り留めたセレスにシャリオンはホッとしたのだが。
意識を取り戻した後で本調子ではないのか、それともセレスの姿ではないからなのかどこか意気消沈している。
膨大にあった魔力がなくなったのも理由だろうが、なにか言いたげにしているセレスが気になり、時間が出来たらなるべく通うようにしていた。
そんな理由で訪れているので話しやすくなるように、取り留めない話をしていたのだが。
すると、部屋の中に動く影に2人揃って空を見れば、ヴィスタがどこからか戻ってきた様だ。
黙ってみているセレスは感情もなくただ見ているように見えた。
それはあまりにも感情が無さ過ぎて息を飲んだ。
今のセレスの姿はシャリオンがまだレオンの屋敷で暮らしていた頃に行商人として出入りしていた姿だ。
壮年の男性で黒髪に黒目。
セレスは過去の因縁から過去を思い出させるすべてのものを疎んでいるが、それは名前や容姿や声に至るまで。
それを解く原因であるドラゴンが領地に棲むことは不愉快に感じるだろう。と、シャリオンは察した。
それに命をはってハイシアを守ってくれたのだ。
「ごめん・・・」
「?・・・なにがですか」
「セレスがハイシアを守ってくれたのに。
ヴィスタ・・・ドラゴンがここに棲むことになって」
過去の贖罪の為に、シャリオンに従えるような誓約をして逆らうことは出来ないセレス。
確かに過去の罪はあるが、それを贖い終えたといい程の、利益をハイシアにもたらした。
出来ればセレスの願いは叶えたい。
ヴィスタに闘いを挑む前に『休暇が欲しい』と言ったことも、この『セレドニオ』の姿から『セレス』にも。
だが困ったことをしでかすヴィスタに、あの約束がなく『力』があったとしても倒すことが出来ないのも事実だ。
感謝をしているセレスに、自分に力がないばかりにこんな結果になったことを詫びた。
しかし、そんなシャリオンに驚いたのちにセレスは『また主は少しずれたことを考えているな』と、思ったが口に出さずに困ったように苦笑をした。
「争わず血を流すことなく収められたならそれが一番。
私は排除することばかりに目が行ってて、・・・対話など想像できなかった」
「外から呼びかけても応答がなかったし、そもそもドラゴンが村を支配しているだなんて考えないから仕方がないよ。あの頃は、不穏な輩が村を乗っ取っただとか、そういうことを考えていたでしょう。
それに忘れてしまった?
指示をしたのは僕だ」
アスピルコアドレインの指輪で村民の安否が不安だったが、実験を行いその上で許可したのだ。
シャリオンが却下したなら、同行したウルフ家の者たちが止めていたはず。
黒魔術師である彼を完全に止めるのは難しかっただろうが、彼らはシャリオンの考えつかない方法で止めていただろう。
だから、セレスが気にする必要はないのだ。
「それであのドラゴンがこの地にいることをキュリアスに知られてしまった」
「何か言われたの?
・・・というか知られてしまったのは僕の所為だ。
僕が・・・、・・・ドラゴンが継続的に使っていた魔法を解いてしまったから、あのドラゴンは各地を飛び回るようになってしまった」
シャリオンがミクラーシュの洗脳を解いてしまったことにより、ヴィスタに魔法の余力が出来てしまい、それを使いセレスの魔法を破壊してしまったのだ。
「遅かれ早かれガリウスは連れ去られてた。
シオドリック様は、ハイシアに大型魔物の出現を確かめてきていたという事は、キュリアスの人間もハイシアにドラゴンの目撃情報があったはずだ。
だから、セレスの所為じゃない」
改めてセレスに失態がなかったことを伝えると視線を落とした。
余計追いつめてしまったのだろうか。
セレスの手がきつく握られ震えている。
「・・・セレス」
どんな言葉を掛けるか探していたが、セレスが続けた言葉にまだ諦めるつもりがないのだと思った。
「・・・。私を国の魔法研究所に送ってください」
「魔法研究所に?・・・でも、あまりセレスの期待には沿えないと思う」
セレスの状態を正しく把握できなかったのだ。
しかし、シャリオンがそう言うとセレスは首を振る。
「いいえ。これまで魔力が突如なくなるような人間はいなかった。
きっといい実験サンプルになるはずだ」
「・・・!」
それは思ってもみない方向への覚悟だった。
そんな風に思わせてしまったことに努力がなかったとも思ったが、抑えようとした怒りが沸き起こった。
「・・・僕が・・・」
「・・・」
「魔力がないくらいで、そんなことをすると思ったの」
「・・・、」
「セレスにはこれまで通り、子供達の魔術の師だよ。
・・・アシュリーはルークの養子になって王族に。
ガリオンは次期公爵だから、しっかり教えてね」
「!」
そういうとセレスは驚愕の眼差しを送ってくるが、シャリオンは構わずに立ち上がるとゾルを引き連れて退出するドアの手前で止まると後ろを振り返る。
「子供達がね。・・・魔法だけはセレス以外から受けたくないって」
まもなく一歳の子供に気が早いが会話が出来る子供達に皆が様々な期待を寄せている。
ルークやアンジェリーンよりも、特にシャーリーやルーティが張り切っている状態だ。
皆が子供達の魔力の高さを理解しており、教育は必要だとし教師をつけようとした。
セレスが魔力が無いことが発覚した時点で、ガリウスのことで切羽詰ったシャリオンに周りが気を使ってくれた。
シャリオンは子供たちの師を変えるつもりは無かったが、子供達の未来を考えると意固地にはなれなかった。
誰か別の人間を、少なくともセレスが目を覚ますまではつける必要があるのではないかと考えたのだが。
子供たちはそれを拒否したのだ。
「僕もセレスが良いって思ってる」
「っ・・・」
シャリオンがそう言うと、セレスは息を飲んだ。
☆☆☆
【別視点:ガリウス】
その日の夜。
王城に与えられた部屋に戻る。
シャリオンのいるところがガリウスの帰る場所である。
前室に入ると使用人達に子供達はシャリオンへの夜の挨拶を終え休んでいるという。
顔を覗き起こすこともないだろう。
それだけでなく、使用人達の視線が余計なお世話なことだが早くシャリオンの元へ行けと訴えている。
それ以上に、シャリオンが思考共有でそう言ってきたのだ。
自分に相談したがっているのが分かる。
煽るウルフ家の者達も着替える余裕はくれ、執務用の服から室内着に着替えると部屋に向かった。
主室に入るとそこには悩みにふけったシャリオンがいた。
隣に掛けるまでガリウスに気づかなかったようで、勢いよくあげられた顔は驚きで染まっていた。
他の男で憂いを帯びていることは不愉快だが、精いっぱい耐えるとシャリオンの話を聞く。
それは事前に聞いていたがセレスの話だった。
実父から救ったシャリオンにあの男は奴隷のような誓約内容でも復讐どころか恩義を感じている。
その為か今回のことをかなり悩んでいたようだ。
シャリオン以外に冷酷だと自覚があるガリウスだが、セレスが言った研究所の実験体になる発言は驚いた。
実験体となれば研究者が望むことをしなければならない。
志願者もいるがどちらかと言えば犯罪者が多い。
それは辛く厳しいものだからだ。
彼らは新たな魔法を製造するのは苦手だが究明することにはたけている。
シャリオンは期待はしていなかったようだが、彼らならセレスの症状も正しくわかるかもしれないと思っている。
国直属の高等魔術師達は魔法研究所の力を借りることがあるが、研究員の知識をすべて理解しているわけではないのだ。
それこそ、抹消されたファングス家にいた時と同じように人権などなくなるだろう。
いや、優秀であったセレスは特別扱いだった為それ以下の扱いになる事は明白。
それだけシャリオンに忠義を果たしたいと思っていることは褒めれることだが、直接いうのはいただけない。
勿論ガリウスに言われたとしても、実験体にはさせない。
シャリオンがこんな風に気に病むからだ。
セレスが本心から言っており、それが目的ではないことはもうわかっているが・・・。
ガリウスは記憶を総動員させ忘れていた情報を掘り起こす。
「ヴィンフリート様に相談をしてみましょう」
「・・・お師匠様に・・・?」
そう繰り返すシャリオンは少しだけ希望に満ちている。
ガリウスはそれに微笑みながら頷きつつも、ヴィンフリートに心の中で悪態をついた。
『件の魔術師が見つかったら寄こすがよい。面倒を見てやる』そう言った、ヴィンフリートはこうなることを予測していたのだ。
・・・本当に性格が悪い人だ。
腕は確かで最終的には頼りになるのだが。
理由を聞いても答えなかったヴィンフリートに舌打ちしたい気持ちを精いっぱい抑えていると、腕の中に飛び込んできた愛しい存在にすべてがリセットされる。
「ありがとうっ・・・ガリィ・・・!」
「元に戻せるといいのですが」
少々気が早い様子のシャリオンに苦笑をする。
シャリオンに助けを求められたら全力で応えたいが、叶えるのはヴィンフリートである為会ってみないとどうなるかはわからない。
特にヴィンフリートは前回のことがあるからだ。
しかし、シャリオンは純粋だ。
「どんな結果になったとしてもガリィのお陰。
だって僕には考えられなかったことだから」
そう言って期待で満ちた笑顔を向けるシャリオンに、ガリウスの心は癒されていく。
我慢していた口づけを甘えるようにもらいながら、もしもの時の為にヴィンフリートの逃げ道を塞ぐことを考えるガリウスだった。
☆☆☆
【シャリオン視点】
ガリウスは多忙極める人間で、つい先日まで宰相とその執務を担える次期宰相が同時に不在となったため怒涛のように仕事が来ている。
それはシャリオンとは比べ物にならないほど激務だろうが、ガリウスは時間を作ってくれた。
王族となるアシュリーのこともあるからだろう。
次のガリウスの休暇にヴィンフリートの元へ訪れることになり、それまでシャリオンも仕事を調整するべくより仕事を頑張った。
セレスのこともあり、なるべくハイシア領で仕事をこなしていたのだが、そんなときに来訪の知らせがあった。
来客はちゃんと事前に連絡があったから驚きはしない。
しかし、来訪理由は納得がいかない。
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・・・
・・
・
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それを再認識しつつも2人の話を聞けば・・・やはり謝罪だった。
聞けばがすでに王家には済ませているようだ。当然である。
シャリオンはこのことにもう時間は掛けたくなかった。
ミクラーシュから直接話がしたいということであれば、時間をさけるが家族からの謝罪など意味は持たない。
シャリオンが公爵の権威を振りかざすような人間なら彼等にとって脅威になるだろうから、この謝罪に意味はあるのだろうが、シャリオンにその気は全くない。
が、・・・形だけでも謝罪しなければならないという体裁も嫌でも解っている。
シャリオンは2人の謝罪を受けた。
そんな様子のシャリオンに2人はあからさまにホッとしたようだった。
それは特にこれからを見ているのか、保身のために饒舌になる伯爵だ。
仲が良いと聞いて居たはずだが、・・・それはシャリオンの思っているものとは違った。
「兄上は・・・いえ。ミクラーシュは昔からおかしい奴だったのです」
その言葉に前伯爵何も言わない。
それどころか頷くありさまだ。
家の醜聞を振りまく理由はただ一つ。
同情を煽ぎ、こちらの怒りを下げたいのだろう。
そういうのは嫌でもわかるシャリオンはそろそろ返そうと思ったところだった。
「『子爵の家にはいるから家督は継がない』とかそんなことを幼いころからずっと言っていました」
「・・・、」
シャリオンはその言葉に驚いた様にすると、気を引けたと思ったのか饒舌に話しだす。
「それも今にも潰れそうな家でしたな。幸いにもその家は潰れましたが」
「一時の気の迷いだったのでしょう。いつからか殿下を慕っているようで安心したのですが」
「しかし、殿下の側室も務まるか家の者達で不安に思っていたのです」
彼らはその気持ち自体が『洗脳』だと知らされていないのだと気付く。
ミクラーシュはあくまで『洗脳』されてシャリオンに不躾な態度をとっていたと言われているのだ。
王家がそのように言っていたなら、シャリオンはそれ以上は言えないし、このまま何もなく終わらせよう。
・・・そう思っていたのだが。
「あの家の息子にはその家には大金になる金額を支払って遠ざけさせたのですがな。
無駄に終わってしまったのは痛いですな」
その言葉を聞いた瞬間。
シャリオンは会話に時間をかけるのが無駄を感じた。
「用件は以上でしょうか」
シャリオンの声の硬さに自分でも驚く。
「えっ」
「ぁ、はい。おい」
「この度のお詫びをっ」
「結構です。ゾル。彼らはお帰りになる」
「かしこまりました」
そう言って急に追い出そうとするシャリオンの態度は怒らせてしまったと理解したのだろう。
「ハイシア様!」
「ミクラーs」
なおも言い訳を重ねようとするのに不快感を感じている時だった。
「申し訳けありません。
旦那様はこの後も多忙を極めております為、お帰りのご案内をさせていただきます」
側近ではなくまるで執事のような物言いで2人を止めると、ゾルは後ろの眼光が鋭く怒りをたたえた老執事に客人を預けた。
この執事はこのハイシア城のウルフ家の中で1・2を争うほどのシャリオン贔屓の人間だ。
生まれてからずっと見てきた者であり当然だ。
視線だけで殺られるのではないか?という視線を与えながら、有無を言わせない態度で2人を返した。
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長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
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虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
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ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
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フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
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【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
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ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
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元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
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