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第ニ期 41話~80話
第六十話 丘の攻防戦
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ネムル国が降伏してからひと月が経過した。俺の予想通り、エニマ国軍が国境を超えてアルカナ川の水門へ向け軍を進めてきた。エニマ国軍が我々の防衛陣地の前に布陣してから、すでに一週間が過ぎていた。その間、エニマ国軍が何度か我々の陣地に攻撃を仕掛けてきたが、強固に構築した堀と土塁によってその都度我々がエニマ軍を撃退したのだった。
業を煮やしたマルコムは、戦局打開のためにエルフの魔道士ガルゾーマを呼び出した。
「お呼びでしょうか?マルコム閣下」
「お前を呼んだのは他でもない。周知のことと思うが、我が軍がアルカナの陣地の攻撃を開始してからすでに一週間が経過しているが、すでに二度も撃退されている。そこでお前の魔法の力を使って戦局を打開してもらいたい。何か方法はないか」
「なるほど。では<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法によって、兵士を一時的に魔物化してはいかがでしょう。魔物化することで、兵士に人間離れした身体能力と攻撃力を付与するのです。それらで突撃部隊を編成し、堀を飛び越え高い土塁を駆け上がって敵陣に侵入させます。アルカナの陣地に穴を開け、そこから主力部隊が突入するのです」
「<魔物化(デーモニゼーション)>か・・・かなり過激そうな魔法だな。そのような魔法を使って兵たちは大丈夫なのか?」
「いえ、精神に異常をきたし、肉体もボロボロになるでしょう。おそらく兵たちは魔物化の効力が切れると同時に絶命するでしょうな」
「う~む」
躊躇するマルコムに対して大将軍のジーンが強く言った。
「我らが大義のために、多少の犠牲はやむを得ません。やりましょう」
「わかった。ガルゾーマに任せよう」
ーーー
その日の午後、アルカナ防御陣地の本陣に伝令が慌ただしく駆け込んできた。
「報告します。第一区画に敵が侵入しました。多数の敵兵が突然土塁を超えて来たため、苦戦中です」
大将軍のウォーレンが驚いて聞き返した。
「なんだと? 敵兵が土塁を超えてきただと? 堀を埋められたのか」
「いいえ、信じられませんが掘りを飛び越えて土塁を駆け上ってきたのです。あれは普通の人間ではありません。とんでもなく凶暴で、人間とは思えない奇声を発しながら暴れまわり、手が付けられない状態です。至急、援軍を回してください」
「わかった。すぐに騎兵部隊を向かわせよう。追って歩兵や弓兵も増強するので、それまで持ちこたえよ」
ウォーレンの横で報告を聞いていたルミアナが厳しい表情になった。
「これは何かありますね。もしかすると、その敵兵は<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法で、魔物化されているのかも知れません」
魔物化と聞いて、俺は驚いた。
「<魔物化(デーモニゼーション)>魔法だと? 何だそれは」
「<魔物化(デーモニゼーション)>は人間を魔物と化して、攻撃性や身体能力を強制的に引き上げる魔法です。しかし副作用が激しいため、エルフの魔法教会では禁術とされています。もちろん陛下もご存知ないはずです」
「エニマ国にも魔法を使うエルフが居るということか?」
「可能性はありますね。私以外にも世界を放浪しているエルフは大勢います。傭兵を生業(なりわい)としている連中も少なくありません。いずれにせよ確認する必要があります。私は第一区画に向かいます」
「よし分かった、私も向かおう。レイラも来てくれ」
「はい、陛下」
俺たちは近くに停めてあった馬にまたがると、急いで第一区画に向かった。第一区画は防衛陣地の北側に位置し、エニマ川に近いエリアである。しばらく走ると戦場が見えてきた。
侵入した敵兵は、獣の吠えるような叫び声を発しながら狂ったように走り回り、槍を突き回している。動きが異常に早い。その顔は口が裂け、鼻が潰れ、すでに人間の顔ではない。我が軍の歩兵も応戦するが、素早い動きで攻撃を回避する敵を捉えられず苦戦を強いられている。
レイラは眼の前で繰り広げられている異様な光景に驚いて、食い入るように見入っている。
「なんだあの敵は・・・あれでも人間なのか?」
見張り台から大声で報告が飛ぶ。
「敵の工兵が掘りに橋を工作しているぞ、排除しろ」
だが味方の兵士たちは陣内に侵入した敵と交戦しているため、堀の防御に手が回らない状況だ。ルミアナは黙って敵兵の動きを見ていたが、やがて確信したように言った。
「陛下、これは間違いなく<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法です。今から<鎮圧(サプレッション)>の魔法で、魔物化の解除を試みます」
ルミアナはポーションを取り出すと開栓し、右手に持って<鎮圧(サプレッション)>を念じた。紫色の霧が敵兵の間に広がってゆく。だが敵兵の動きは止まらない。俺たちの動きに気づいた数名の敵兵が、槍を手にして物凄いスピードでこちらに向かってきた。
俺は敵兵に向けて咄嗟に<火炎弾(ファイア・ボール)>を念じた。ところが敵兵は尋常ならざる反応で火炎弾をかわすと、左右にステップを踏みながら俺に飛びかかってきた。
「陛下、危ない」
隣にいたレイラが俺の前に飛び出し、槍の矛先を盾でブロックする。敵兵はサルのように身軽に後ろへ飛び退くと、歯をむき出してこちらを威嚇し、さらに攻撃の構えを見せた。
「これならどうだ」
そう言うと、俺は<電撃(ライトニング・ボルト)>を念じた。速度の遅い火炎弾とは異なり、電撃は瞬時に目標へ到達する。反射的に飛び退いた敵兵だったが、手にした槍に命中した電撃が一瞬で体を駆け抜け、バチバチと音を立てて火花を散らすと黒焦げになった。さらに飛びかかってきた敵兵にも<電撃(ライトニング・ボルト)>を浴びせて倒した。だが魔物化された敵兵の数はまだまだ多く、目の前で我軍の兵との戦いが続いている。
俺はルミアナに言った。
「敵の数が多い。一体ずつ倒していては間に合わないぞ。お前の<鎮圧(サプレッション)>の魔法は効かないのか?」
「私の魔力のレベルでは効き目がありませんでした。予想以上に強力な魔力を持った者の仕業のようです」
「エニマ国は、そんなに強力な魔術師を雇い入れたのか。どうする?」
「陛下の魔力を私に分けてください。私には他の魔術師から魔力を受け取る『特殊スキル』があるのです。二人の魔力を合わせれば、かなり強力な魔法が使えるはずです」
「それはすごいスキルだな。どうやってルミアナに魔力を分けるんだ?」
「私の左手を両手で握ってください。そして私が<鎮圧(サプレッション)>と叫びますから、同じタイミングで<鎮圧(サプレッション)>を念じてください」
俺は両手でルミアナの左手を握った。ルミアナは叫んだ。
「<鎮圧(サプレッション)>」
俺は魔法を念じた。ポーションを握ったルミアナの右手から、輝く紫色の霧が前方へ激しく吹き出すと、荒れ狂っていた敵兵の動きがウソのように静まった。そして、まるで魂でも抜かれたように、その場に立ち尽くしている。<鎮圧(サプレッション)>が成功したのだ。
俺はアルカナの兵士たちに叫んだ。
「よし敵の動きが止まったぞ。今だ、かかれ!」
「おりゃあああ」
レイラが敵兵の群れに突っ込むと、たちどころに二人を切り捨てた。それを皮切りに我が軍の兵士たちが雄叫びをあげて次々と敵兵に襲いかかり、見る間に倒していく。そして兵たちは侵入した敵兵を排除すると堀へ向かい、足場を作りつつあった敵の工兵を撃退した。
俺は額の汗を右腕で拭いながら言った。
「いや驚いたな、エニマ国が魔術師を雇ったとは。しかもかなりの使い手らしい。今回はなんとか食い止めたが、そいつが出てくるとなれば戦いは厳しくなるな」
「そうですね、油断はできません」
一息付いたのもつかの間、またもや伝令の兵士が駆け込んできた。
「陛下、報告します。本陣にある倉庫周辺の林で火災が発生、風に煽られて周辺一帯を焼き尽くす勢いです。倉庫の中から補給物資を運び出す作業を行っておりますが、このままでは間に合いません」
「なんだと? あのあたりは前線から少なくとも三キロメートルは離れている。敵の火矢が届くはずはない」
「はい、火矢ではありません。目撃者の情報によりますと、巨大な火の玉が敵陣地から多数飛来したとのことです。おそらく魔法ではないかと」
「魔法攻撃か。まずいな、すぐに火を消さないと」
俺たちはすぐに馬にまたがり倉庫へ向かった。
ーーー
ここは防衛陣地の本陣付近。林は一面が火の海になっており、食料倉庫に火の手が刻々と迫っている。倉庫の前ではサフィーがわめきながら走り回っている。
「大変じゃ~、大変じゃ~。倉庫の食料が燃えてしまったら、われの食事が減らされてしまうではないか。そうなったら腹が減って、われはおしまいじゃ~」
キャサリンが駆け寄ってきて言った。
「ちょっと、サフィーったら、なにをしてるの。バカみたいに走り回ってないで、防御魔法を張って火を防げばいいのですわ」
「おおそうじゃ、防御魔法でしばらくは火を防げるのじゃ」
サフィーが<魔法障壁(マジック・バリア)>を唱えると、倉庫は半透明の球体に包まれた。一時的ではあるが、燃え上がる林から飛んでくる火の粉や炎から倉庫を守っている。
そこへ第一区画から俺たちが引き返してきた。俺は馬から飛び降りると、すぐに食料倉庫へ駆け寄った。<凍結(フリーズ)>の魔法を念じると、白い霧が右手から勢いよく噴射される。霧に包まれた炎は急速に萎んで消える。兵たちも川から水を運んで消火をはじめ、まもなく倉庫周辺の火災は鎮火した。
「陛下、あれをご覧ください。火の玉が飛んできます」
レイラが上空を指さして叫んだ。四つの巨大な火の玉がこちらへ向かって飛んでくる。魔術師の仕業だな。俺は火の玉に向かって右手を伸ばすと<火炎弾(ファイア・ボール)>を念じ、次々に火の玉を上空へ弾き飛ばした。火の玉はそのまましばらく上昇した後、爆裂して飛散した。
ルミアナが言った。
「すごいですね陛下。あれほど強力な魔術師の火炎弾を弾き飛ばすとは、また魔法の腕を上げられたのではないですか」
「いやいや、調子に乗ってはいけない。敵の魔術師がどれほどの相手なのかわからないからな、気を引き締めないと」
ーーー
ここはエニマ国の野戦陣地である。すでに日は沈み、本陣の焚き火の前でエルフの魔法使いガルゾーマが、マルコムとジーンに昼間の戦いについて報告していた。
ジーンが言った。
「残念ながらガルゾーマ殿の作戦は、いずれも失敗したようですな」
「申し訳ございません。アルカナ国の魔術師たちは予想外に高い能力を持っていたようです。まさか<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法が解除されてしまうとは、少々甘く見すぎていたようです」
腕を組んだマルコムが、厳しい表情で言った。
「なんということだ。アルフレッドらの魔法能力がそれほどまでに高いとは。おまえでは、あいつらの魔法に対抗できないのか?」
「そんなことはございません。かくなる上は、私が自らその生意気な国王の息の根を止めてやりましょう。密かにアルカナの陣内に潜入し、奴を暗殺するのです。そうすればアルカナ軍は大混乱に陥るでしょう」
「アルフレッドがいなくなれば、我が軍が負けるはずはない。今度こそ頼んだぞ」
「かしこまりました」
ガルゾーマは不気味な笑みを浮かべながら暗闇に消えていった。
業を煮やしたマルコムは、戦局打開のためにエルフの魔道士ガルゾーマを呼び出した。
「お呼びでしょうか?マルコム閣下」
「お前を呼んだのは他でもない。周知のことと思うが、我が軍がアルカナの陣地の攻撃を開始してからすでに一週間が経過しているが、すでに二度も撃退されている。そこでお前の魔法の力を使って戦局を打開してもらいたい。何か方法はないか」
「なるほど。では<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法によって、兵士を一時的に魔物化してはいかがでしょう。魔物化することで、兵士に人間離れした身体能力と攻撃力を付与するのです。それらで突撃部隊を編成し、堀を飛び越え高い土塁を駆け上がって敵陣に侵入させます。アルカナの陣地に穴を開け、そこから主力部隊が突入するのです」
「<魔物化(デーモニゼーション)>か・・・かなり過激そうな魔法だな。そのような魔法を使って兵たちは大丈夫なのか?」
「いえ、精神に異常をきたし、肉体もボロボロになるでしょう。おそらく兵たちは魔物化の効力が切れると同時に絶命するでしょうな」
「う~む」
躊躇するマルコムに対して大将軍のジーンが強く言った。
「我らが大義のために、多少の犠牲はやむを得ません。やりましょう」
「わかった。ガルゾーマに任せよう」
ーーー
その日の午後、アルカナ防御陣地の本陣に伝令が慌ただしく駆け込んできた。
「報告します。第一区画に敵が侵入しました。多数の敵兵が突然土塁を超えて来たため、苦戦中です」
大将軍のウォーレンが驚いて聞き返した。
「なんだと? 敵兵が土塁を超えてきただと? 堀を埋められたのか」
「いいえ、信じられませんが掘りを飛び越えて土塁を駆け上ってきたのです。あれは普通の人間ではありません。とんでもなく凶暴で、人間とは思えない奇声を発しながら暴れまわり、手が付けられない状態です。至急、援軍を回してください」
「わかった。すぐに騎兵部隊を向かわせよう。追って歩兵や弓兵も増強するので、それまで持ちこたえよ」
ウォーレンの横で報告を聞いていたルミアナが厳しい表情になった。
「これは何かありますね。もしかすると、その敵兵は<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法で、魔物化されているのかも知れません」
魔物化と聞いて、俺は驚いた。
「<魔物化(デーモニゼーション)>魔法だと? 何だそれは」
「<魔物化(デーモニゼーション)>は人間を魔物と化して、攻撃性や身体能力を強制的に引き上げる魔法です。しかし副作用が激しいため、エルフの魔法教会では禁術とされています。もちろん陛下もご存知ないはずです」
「エニマ国にも魔法を使うエルフが居るということか?」
「可能性はありますね。私以外にも世界を放浪しているエルフは大勢います。傭兵を生業(なりわい)としている連中も少なくありません。いずれにせよ確認する必要があります。私は第一区画に向かいます」
「よし分かった、私も向かおう。レイラも来てくれ」
「はい、陛下」
俺たちは近くに停めてあった馬にまたがると、急いで第一区画に向かった。第一区画は防衛陣地の北側に位置し、エニマ川に近いエリアである。しばらく走ると戦場が見えてきた。
侵入した敵兵は、獣の吠えるような叫び声を発しながら狂ったように走り回り、槍を突き回している。動きが異常に早い。その顔は口が裂け、鼻が潰れ、すでに人間の顔ではない。我が軍の歩兵も応戦するが、素早い動きで攻撃を回避する敵を捉えられず苦戦を強いられている。
レイラは眼の前で繰り広げられている異様な光景に驚いて、食い入るように見入っている。
「なんだあの敵は・・・あれでも人間なのか?」
見張り台から大声で報告が飛ぶ。
「敵の工兵が掘りに橋を工作しているぞ、排除しろ」
だが味方の兵士たちは陣内に侵入した敵と交戦しているため、堀の防御に手が回らない状況だ。ルミアナは黙って敵兵の動きを見ていたが、やがて確信したように言った。
「陛下、これは間違いなく<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法です。今から<鎮圧(サプレッション)>の魔法で、魔物化の解除を試みます」
ルミアナはポーションを取り出すと開栓し、右手に持って<鎮圧(サプレッション)>を念じた。紫色の霧が敵兵の間に広がってゆく。だが敵兵の動きは止まらない。俺たちの動きに気づいた数名の敵兵が、槍を手にして物凄いスピードでこちらに向かってきた。
俺は敵兵に向けて咄嗟に<火炎弾(ファイア・ボール)>を念じた。ところが敵兵は尋常ならざる反応で火炎弾をかわすと、左右にステップを踏みながら俺に飛びかかってきた。
「陛下、危ない」
隣にいたレイラが俺の前に飛び出し、槍の矛先を盾でブロックする。敵兵はサルのように身軽に後ろへ飛び退くと、歯をむき出してこちらを威嚇し、さらに攻撃の構えを見せた。
「これならどうだ」
そう言うと、俺は<電撃(ライトニング・ボルト)>を念じた。速度の遅い火炎弾とは異なり、電撃は瞬時に目標へ到達する。反射的に飛び退いた敵兵だったが、手にした槍に命中した電撃が一瞬で体を駆け抜け、バチバチと音を立てて火花を散らすと黒焦げになった。さらに飛びかかってきた敵兵にも<電撃(ライトニング・ボルト)>を浴びせて倒した。だが魔物化された敵兵の数はまだまだ多く、目の前で我軍の兵との戦いが続いている。
俺はルミアナに言った。
「敵の数が多い。一体ずつ倒していては間に合わないぞ。お前の<鎮圧(サプレッション)>の魔法は効かないのか?」
「私の魔力のレベルでは効き目がありませんでした。予想以上に強力な魔力を持った者の仕業のようです」
「エニマ国は、そんなに強力な魔術師を雇い入れたのか。どうする?」
「陛下の魔力を私に分けてください。私には他の魔術師から魔力を受け取る『特殊スキル』があるのです。二人の魔力を合わせれば、かなり強力な魔法が使えるはずです」
「それはすごいスキルだな。どうやってルミアナに魔力を分けるんだ?」
「私の左手を両手で握ってください。そして私が<鎮圧(サプレッション)>と叫びますから、同じタイミングで<鎮圧(サプレッション)>を念じてください」
俺は両手でルミアナの左手を握った。ルミアナは叫んだ。
「<鎮圧(サプレッション)>」
俺は魔法を念じた。ポーションを握ったルミアナの右手から、輝く紫色の霧が前方へ激しく吹き出すと、荒れ狂っていた敵兵の動きがウソのように静まった。そして、まるで魂でも抜かれたように、その場に立ち尽くしている。<鎮圧(サプレッション)>が成功したのだ。
俺はアルカナの兵士たちに叫んだ。
「よし敵の動きが止まったぞ。今だ、かかれ!」
「おりゃあああ」
レイラが敵兵の群れに突っ込むと、たちどころに二人を切り捨てた。それを皮切りに我が軍の兵士たちが雄叫びをあげて次々と敵兵に襲いかかり、見る間に倒していく。そして兵たちは侵入した敵兵を排除すると堀へ向かい、足場を作りつつあった敵の工兵を撃退した。
俺は額の汗を右腕で拭いながら言った。
「いや驚いたな、エニマ国が魔術師を雇ったとは。しかもかなりの使い手らしい。今回はなんとか食い止めたが、そいつが出てくるとなれば戦いは厳しくなるな」
「そうですね、油断はできません」
一息付いたのもつかの間、またもや伝令の兵士が駆け込んできた。
「陛下、報告します。本陣にある倉庫周辺の林で火災が発生、風に煽られて周辺一帯を焼き尽くす勢いです。倉庫の中から補給物資を運び出す作業を行っておりますが、このままでは間に合いません」
「なんだと? あのあたりは前線から少なくとも三キロメートルは離れている。敵の火矢が届くはずはない」
「はい、火矢ではありません。目撃者の情報によりますと、巨大な火の玉が敵陣地から多数飛来したとのことです。おそらく魔法ではないかと」
「魔法攻撃か。まずいな、すぐに火を消さないと」
俺たちはすぐに馬にまたがり倉庫へ向かった。
ーーー
ここは防衛陣地の本陣付近。林は一面が火の海になっており、食料倉庫に火の手が刻々と迫っている。倉庫の前ではサフィーがわめきながら走り回っている。
「大変じゃ~、大変じゃ~。倉庫の食料が燃えてしまったら、われの食事が減らされてしまうではないか。そうなったら腹が減って、われはおしまいじゃ~」
キャサリンが駆け寄ってきて言った。
「ちょっと、サフィーったら、なにをしてるの。バカみたいに走り回ってないで、防御魔法を張って火を防げばいいのですわ」
「おおそうじゃ、防御魔法でしばらくは火を防げるのじゃ」
サフィーが<魔法障壁(マジック・バリア)>を唱えると、倉庫は半透明の球体に包まれた。一時的ではあるが、燃え上がる林から飛んでくる火の粉や炎から倉庫を守っている。
そこへ第一区画から俺たちが引き返してきた。俺は馬から飛び降りると、すぐに食料倉庫へ駆け寄った。<凍結(フリーズ)>の魔法を念じると、白い霧が右手から勢いよく噴射される。霧に包まれた炎は急速に萎んで消える。兵たちも川から水を運んで消火をはじめ、まもなく倉庫周辺の火災は鎮火した。
「陛下、あれをご覧ください。火の玉が飛んできます」
レイラが上空を指さして叫んだ。四つの巨大な火の玉がこちらへ向かって飛んでくる。魔術師の仕業だな。俺は火の玉に向かって右手を伸ばすと<火炎弾(ファイア・ボール)>を念じ、次々に火の玉を上空へ弾き飛ばした。火の玉はそのまましばらく上昇した後、爆裂して飛散した。
ルミアナが言った。
「すごいですね陛下。あれほど強力な魔術師の火炎弾を弾き飛ばすとは、また魔法の腕を上げられたのではないですか」
「いやいや、調子に乗ってはいけない。敵の魔術師がどれほどの相手なのかわからないからな、気を引き締めないと」
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ここはエニマ国の野戦陣地である。すでに日は沈み、本陣の焚き火の前でエルフの魔法使いガルゾーマが、マルコムとジーンに昼間の戦いについて報告していた。
ジーンが言った。
「残念ながらガルゾーマ殿の作戦は、いずれも失敗したようですな」
「申し訳ございません。アルカナ国の魔術師たちは予想外に高い能力を持っていたようです。まさか<魔物化(デーモニゼーション)>の魔法が解除されてしまうとは、少々甘く見すぎていたようです」
腕を組んだマルコムが、厳しい表情で言った。
「なんということだ。アルフレッドらの魔法能力がそれほどまでに高いとは。おまえでは、あいつらの魔法に対抗できないのか?」
「そんなことはございません。かくなる上は、私が自らその生意気な国王の息の根を止めてやりましょう。密かにアルカナの陣内に潜入し、奴を暗殺するのです。そうすればアルカナ軍は大混乱に陥るでしょう」
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……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
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