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第ニ期 41話~80話
第七十六話 最強戦士レイラ
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レイラの前には次なる猛獣が放たれた。今度の相手は巨大な蛇である。緑と黒の迷彩模様をした蛇は、ゆっくりとレイラに近づく。それを見てザクが拳を震わせながら言った。
「あれは『ギシュルスネーク』だ。ジャビ帝国の南の、ギシュルの密林に住んでいる人食い蛇だ。毎年、森の近くの農場で働くトカゲ族の農民が何人も犠牲になっている。家畜も食われている」
「そんなに怖いのか」
「ああ。あれに噛みつかれたら最後、たちまち体に巻き付かれて、どんな生き物も絞め殺されて丸呑みだ。そうなったら骨も残らない」
レイラに接近した大蛇は、ゆっくり鎌首をもたげると、レイラの首に狙いを定めながら、なおもジリジリと近づいてくる。レイラは窮地にあった。武器を取り上げられてしまった今、あの大蛇を倒すには殴るか蹴るしか方法がない。だが、そんな攻撃であの大蛇を倒せるのだろうか。
以前、リフレ湖で巨大ワニと素手で戦ったときは、回り込んでワニの背中に飛び乗り、頭部を殴打し、尾を掴んで地面に叩きつけた。たが巨大蛇の背中に飛び乗れば、たちどころに巻き付かれてしまうだろうし、尾を掴んでも、やはり巻き付かれてしまう。
間合いを詰めてきたギシュルスネークが、突然レイラめがけて飛びかかる。巨体とは思えぬ速さである。すんでのところで横にかわしたが、大きく口を開いた蛇の頭部が腕をかすめた。レイラは大蛇の後ろに回り込んで蹴りを入れようと素早く動くが、大蛇もレイラの動きに付いてくる。レイラがつぶやく。
「こいつ、まるで隙がない・・・」
ギシュルスネークは攻撃的なので、レイラはカウンターを狙うことにした。レイラは、ギシュルスネークから距離を取ると、大蛇の方を向いて身構えた。ギシュルスネークの攻撃は先行動作がなく、タイミングが読めない。突然に飛びかかってくるので、一瞬の反射神経が勝負だ。さすがのレイラも極度な緊張で、口の中はカラカラである。
間合いを詰めてきたギシュルスネークがレイラに飛びかかる。レイラは左に踏み込んで攻撃を避けると同時に、右手の拳で大蛇の頭部を上から思い切り叩きつけた。レイラの拳の直撃を食らった頭部は、その反動で地面に叩きつけられる。レイラはサッと大蛇から離れると再び身構えた。蛇に一定のダメージは与えたはずだ。
格闘場は騒然とした。ブーイングの嵐である。人間の奴隷が勝つことなど、あってはならないのだ。レイラを罵る声が会場にこだまする。
再びギシュルスネークがレイラに飛びかかる。今度は右に踏み込んで攻撃を避けると、右手の手刀で大蛇の後頭部を強打した。その反動でギシュルスネークの頭が前に飛ばされ、地面に叩きつけられる。レイラはサッと大蛇から離れると再び身構えた。
観客席からは罵り声と共にレイラをめがけて石やレンガなどが次々に投げ入れられる。特等席でふんぞり返っていたジュザル総督も憤怒の表情で立ち上がると、手元にあったグラスを投げつけた。
そしてついに、誰かが投げ入れたレンガがレイラの背中を直撃した。
「ぐは・・・」
背中から血が流れ、あまりの痛みにレイラが態勢を崩した。ギシュルスネークは、その一瞬を逃さなかった。レイラの首筋めがけて飛びかかったのである。不意を突かれたレイラは左手で大蛇の首を掴んだ。首筋を噛まれることは免れたが、あっという間にギシュルスネークの全身がレイラに巻き付いてきて、そのまま地面に倒れ込んだ。
「しまった」
右手で蛇の胴体を掴んで振りほどこうとしても、すごい怪力でまったくほどけない。そして大蛇はギリギリとレイラの胴を締め付けてきた。たちまち呼吸ができなくなる。息を吐けば窒息する。レイラは必死になって右手を周囲に振り回す。
会場は大歓声に包まれた。殺せ、殺せの大合唱が響く。レイラの意識が薄れてゆく。
ザクとゾクが絶叫する。
「レイラの姉御! 姉御!」
「うわ、もうだめだ」
その時、振り回していた右手に何かが触れた。レイラの背中を直撃したレンガである。夢中でレンガを握りしめると、左手で掴んでいるギシュルスネークの頭部を死にものぐるいで殴り始めた。大蛇の頭部から血が飛び散る。最後の力でギシュルスネークの頭部を殴ると、蛇の頭蓋骨が砕けた。大蛇の全身から力が抜けた。
レイラはフラフラと立ち上がると、朦朧としながらも横たわったギシュルスネークの尾を両手で持ち、ぐるぐるとスイングしはじめた。砕けた頭部から血が四方へ飛び散る。そして血まみれの大蛇をジュザル総督の居る特等席に放り込んだ。そして疲労が極限に達したレイラは、そのまま倒れ込んだ。ジュザルが怒りに震える拳を握りしめた。
「おのれ・・・」
その時、遠くから巨大な爆発音が響いてきた。爆発音は次から次々へと起きる。時限式の焼夷爆弾が爆発し始めたのである。会場はパニックとなり、観客は大混乱である。ジュザルの元に、取り乱したトカゲ兵が飛び込んできた。
「たたた、大変です。倉庫が爆発し、あたり一面が火の海になっています。手がつけられません」
「なんだと! いったいどういうことだ」
ジュザルの隣に立っていたジャビ帝国の役人が、薄ら笑いを浮かべながら言った。
「ふん。馬鹿げた余興にうつつを抜かしているから、何者かに奇襲されたのだろう。この失態は本国に報告せねばなるまいな。お前も、もう終わりだ。観念するんだな」
怒りのためにジュザルの表情は常軌を逸している。
「うがあああ」
ジュザルは天に向かって狂ったように叫ぶと、両手を振り上げ体を激しく揺すった。そして役人に飛びかかると喉元に食らいついた。役人は悲鳴を上げて抵抗したがジュザルは頭を激しく振り、喉を食いちぎった。鮮血が飛び散り役人は崩れ落ちた。ジュザルの口元からは血が滴り落ちる。次にその狂った目が向けられたのは、レイラだった。
レイラはギシュルスネークとの戦いで受けたダメージからまだ回復しておらず、地面に座り込んでいた。ジュザルは特等席から飛び降りると、叫び声をあげながらレイラをめがけて猛然と走り寄る。そしてレイラの両肩をつかむと持ち上げた。
「すべてこいつのせいだ。こいつが元凶だ。殺してやる。食い殺してやる、うがああ」
「いやああ」
ジュザルが血まみれの口を大きく開き、鋭い歯でまさにレイラの首に嚙みつこうとした瞬間、その背中に巨大な氷の槍が突き刺さった。俺の放った<氷結飛槍(アイスジャベリン)>が命中したのだ。ジュザルの体は大きくのけぞり、その隙にレイラはトカゲの両腕を振りほどいて逃れた。ジュザルは振り返った。
俺たちは観客席から飛び降り、レイラのもとへ走った。トカゲは真っ赤な口を開き、叫びながら俺に突進してきた。後ろからルミアナが速射した五本の矢がジュザルの体に次々に突き刺さるが、なおも突進してくる。
俺はジュザルに向かって<火炎弾(ファイア・ボール)>を念じる。火炎弾が直撃し、トカゲは爆発の反動で後ろへ倒れる。そこへ間髪入れず<火炎噴射(フレイム・ジェット)>を浴びせかける。トカゲの体はたちどころに炭のようになり燃え上がった。俺は倒れているレイラのもとへ駆け寄った。
「よくやったレイラ。本当によくやった、お前は我が国最強の戦士だ」
「ア、アルフレッド様。私はもうダメかと思いました。アルフレッド様・・・」
「もう大丈夫だ。安心しろ、作戦は成功したぞ、大成功だ、さあ、脱出しよう」
俺はカザルと二人でレイラの肩を担ぎ上げると、格闘場の出口を目指した。サフィーが<魔法障壁(マジック・バリア)>を展開し、ルミアナが周囲に目を配りながら進む。ザクとゾクが息を切らせて駆け寄ってきた。
「姉御、レイラの姉御、よくぞご無事で・・・」
「アルフレッド様、こっちです」
ザクとゾクの先導で観客席から外へ続く通路を下って外へ出ると、格闘場の前の広場に馬車置き場があり、タマールまで乗ってきた荷馬車が繋いであった。レイラを乗せるとすぐに出発した。俺たちを発見した兵士たちが後ろから追ってくる。
「待て、貴様らが倉庫を爆破した犯人だな。逃さんぞ」
「あの荷馬車へ矢を放て。撃て、撃て」
矢が次々に飛んでくるが、サフィーの<魔法障壁(マジック・バリア)>に跳ね返される。馬車は速度を上げながら大通りを中央門に向かって突っ走る。馬車前方の交差点から、槍を構えたトカゲ兵たちが飛び出してくる。俺は<火炎噴射(フレイム・ジェット)>を前方に噴き出しながら大声で叫んだ。
「おらおら、どけどけー、邪魔すれば焼き殺すぞ。どけええー」
トカゲ兵たちを火炎で蹴散らす。後ろから数体の騎兵が追ってくる。ルミアナは荷台の後方に移動すると、次々に矢を放つ。騎兵は一人、また一人と頭を射抜かれて落馬した。
前方に門が見えてきた。ザクが叫んだ。
「大変だ、門が閉ざされている。このままだと馬車が門に激突します」
門を一撃で破壊するには普通の<火炎弾(ファイア・ボール)>では火力が足りない。俺は新しい強力な魔法を試すことにした。<爆裂火球(エクスプローディング・ファイア・ボール)>である。文字通り巨大な爆発を引き起こし、周囲を吹き飛ばす上級魔法だ。失敗は許されない。
俺はサフィーに言った。
「これから門を<爆裂火球(エクスプローディング・ファイア・ボール)>で粉々に吹き飛ばす。強烈な爆風が来るので、<魔法障壁(マジック・バリア)>をしっかり頼むぞ」
「引き受けたのじゃ。いつでも来い」
俺は御者台(ぎょしゃだい)で馬車を操るザクとゾクのすぐ後ろに立つと、右手を高く掲げた。前方に迫る分厚い木製の門扉をにらみながら<爆裂火球(エクスプローディング・ファイア・ボール)>を念じると、黄色く光る球体が目にも止まらぬ速さで門扉に激突し、閃光と同時に凄まじい爆発が巻き起こった。
巨大な門扉が粉々の木片となって門の外へ飛び散り、上部にそびえていた楼閣もバラバラの柱や板切れとなって舞い上がった。門に続く壁や周辺の建物も崩壊し、門の付近に居た大勢のトカゲ兵は吹き飛ばされ、地面になぎ倒された。爆風で巻き上がった大量の土砂が木片と共に馬車の正面から激しく吹き付けた。
あたり一面に、もうもうと広がる爆煙を突き抜けて馬車が城壁の外へ飛び出すと、全速力で砂漠の中へと走り去った。
こうしてタマールにあるジャビ帝国の倉庫群はその70%が焼失し、メグマール地方への進軍は一年延期されることになったのである。
「あれは『ギシュルスネーク』だ。ジャビ帝国の南の、ギシュルの密林に住んでいる人食い蛇だ。毎年、森の近くの農場で働くトカゲ族の農民が何人も犠牲になっている。家畜も食われている」
「そんなに怖いのか」
「ああ。あれに噛みつかれたら最後、たちまち体に巻き付かれて、どんな生き物も絞め殺されて丸呑みだ。そうなったら骨も残らない」
レイラに接近した大蛇は、ゆっくり鎌首をもたげると、レイラの首に狙いを定めながら、なおもジリジリと近づいてくる。レイラは窮地にあった。武器を取り上げられてしまった今、あの大蛇を倒すには殴るか蹴るしか方法がない。だが、そんな攻撃であの大蛇を倒せるのだろうか。
以前、リフレ湖で巨大ワニと素手で戦ったときは、回り込んでワニの背中に飛び乗り、頭部を殴打し、尾を掴んで地面に叩きつけた。たが巨大蛇の背中に飛び乗れば、たちどころに巻き付かれてしまうだろうし、尾を掴んでも、やはり巻き付かれてしまう。
間合いを詰めてきたギシュルスネークが、突然レイラめがけて飛びかかる。巨体とは思えぬ速さである。すんでのところで横にかわしたが、大きく口を開いた蛇の頭部が腕をかすめた。レイラは大蛇の後ろに回り込んで蹴りを入れようと素早く動くが、大蛇もレイラの動きに付いてくる。レイラがつぶやく。
「こいつ、まるで隙がない・・・」
ギシュルスネークは攻撃的なので、レイラはカウンターを狙うことにした。レイラは、ギシュルスネークから距離を取ると、大蛇の方を向いて身構えた。ギシュルスネークの攻撃は先行動作がなく、タイミングが読めない。突然に飛びかかってくるので、一瞬の反射神経が勝負だ。さすがのレイラも極度な緊張で、口の中はカラカラである。
間合いを詰めてきたギシュルスネークがレイラに飛びかかる。レイラは左に踏み込んで攻撃を避けると同時に、右手の拳で大蛇の頭部を上から思い切り叩きつけた。レイラの拳の直撃を食らった頭部は、その反動で地面に叩きつけられる。レイラはサッと大蛇から離れると再び身構えた。蛇に一定のダメージは与えたはずだ。
格闘場は騒然とした。ブーイングの嵐である。人間の奴隷が勝つことなど、あってはならないのだ。レイラを罵る声が会場にこだまする。
再びギシュルスネークがレイラに飛びかかる。今度は右に踏み込んで攻撃を避けると、右手の手刀で大蛇の後頭部を強打した。その反動でギシュルスネークの頭が前に飛ばされ、地面に叩きつけられる。レイラはサッと大蛇から離れると再び身構えた。
観客席からは罵り声と共にレイラをめがけて石やレンガなどが次々に投げ入れられる。特等席でふんぞり返っていたジュザル総督も憤怒の表情で立ち上がると、手元にあったグラスを投げつけた。
そしてついに、誰かが投げ入れたレンガがレイラの背中を直撃した。
「ぐは・・・」
背中から血が流れ、あまりの痛みにレイラが態勢を崩した。ギシュルスネークは、その一瞬を逃さなかった。レイラの首筋めがけて飛びかかったのである。不意を突かれたレイラは左手で大蛇の首を掴んだ。首筋を噛まれることは免れたが、あっという間にギシュルスネークの全身がレイラに巻き付いてきて、そのまま地面に倒れ込んだ。
「しまった」
右手で蛇の胴体を掴んで振りほどこうとしても、すごい怪力でまったくほどけない。そして大蛇はギリギリとレイラの胴を締め付けてきた。たちまち呼吸ができなくなる。息を吐けば窒息する。レイラは必死になって右手を周囲に振り回す。
会場は大歓声に包まれた。殺せ、殺せの大合唱が響く。レイラの意識が薄れてゆく。
ザクとゾクが絶叫する。
「レイラの姉御! 姉御!」
「うわ、もうだめだ」
その時、振り回していた右手に何かが触れた。レイラの背中を直撃したレンガである。夢中でレンガを握りしめると、左手で掴んでいるギシュルスネークの頭部を死にものぐるいで殴り始めた。大蛇の頭部から血が飛び散る。最後の力でギシュルスネークの頭部を殴ると、蛇の頭蓋骨が砕けた。大蛇の全身から力が抜けた。
レイラはフラフラと立ち上がると、朦朧としながらも横たわったギシュルスネークの尾を両手で持ち、ぐるぐるとスイングしはじめた。砕けた頭部から血が四方へ飛び散る。そして血まみれの大蛇をジュザル総督の居る特等席に放り込んだ。そして疲労が極限に達したレイラは、そのまま倒れ込んだ。ジュザルが怒りに震える拳を握りしめた。
「おのれ・・・」
その時、遠くから巨大な爆発音が響いてきた。爆発音は次から次々へと起きる。時限式の焼夷爆弾が爆発し始めたのである。会場はパニックとなり、観客は大混乱である。ジュザルの元に、取り乱したトカゲ兵が飛び込んできた。
「たたた、大変です。倉庫が爆発し、あたり一面が火の海になっています。手がつけられません」
「なんだと! いったいどういうことだ」
ジュザルの隣に立っていたジャビ帝国の役人が、薄ら笑いを浮かべながら言った。
「ふん。馬鹿げた余興にうつつを抜かしているから、何者かに奇襲されたのだろう。この失態は本国に報告せねばなるまいな。お前も、もう終わりだ。観念するんだな」
怒りのためにジュザルの表情は常軌を逸している。
「うがあああ」
ジュザルは天に向かって狂ったように叫ぶと、両手を振り上げ体を激しく揺すった。そして役人に飛びかかると喉元に食らいついた。役人は悲鳴を上げて抵抗したがジュザルは頭を激しく振り、喉を食いちぎった。鮮血が飛び散り役人は崩れ落ちた。ジュザルの口元からは血が滴り落ちる。次にその狂った目が向けられたのは、レイラだった。
レイラはギシュルスネークとの戦いで受けたダメージからまだ回復しておらず、地面に座り込んでいた。ジュザルは特等席から飛び降りると、叫び声をあげながらレイラをめがけて猛然と走り寄る。そしてレイラの両肩をつかむと持ち上げた。
「すべてこいつのせいだ。こいつが元凶だ。殺してやる。食い殺してやる、うがああ」
「いやああ」
ジュザルが血まみれの口を大きく開き、鋭い歯でまさにレイラの首に嚙みつこうとした瞬間、その背中に巨大な氷の槍が突き刺さった。俺の放った<氷結飛槍(アイスジャベリン)>が命中したのだ。ジュザルの体は大きくのけぞり、その隙にレイラはトカゲの両腕を振りほどいて逃れた。ジュザルは振り返った。
俺たちは観客席から飛び降り、レイラのもとへ走った。トカゲは真っ赤な口を開き、叫びながら俺に突進してきた。後ろからルミアナが速射した五本の矢がジュザルの体に次々に突き刺さるが、なおも突進してくる。
俺はジュザルに向かって<火炎弾(ファイア・ボール)>を念じる。火炎弾が直撃し、トカゲは爆発の反動で後ろへ倒れる。そこへ間髪入れず<火炎噴射(フレイム・ジェット)>を浴びせかける。トカゲの体はたちどころに炭のようになり燃え上がった。俺は倒れているレイラのもとへ駆け寄った。
「よくやったレイラ。本当によくやった、お前は我が国最強の戦士だ」
「ア、アルフレッド様。私はもうダメかと思いました。アルフレッド様・・・」
「もう大丈夫だ。安心しろ、作戦は成功したぞ、大成功だ、さあ、脱出しよう」
俺はカザルと二人でレイラの肩を担ぎ上げると、格闘場の出口を目指した。サフィーが<魔法障壁(マジック・バリア)>を展開し、ルミアナが周囲に目を配りながら進む。ザクとゾクが息を切らせて駆け寄ってきた。
「姉御、レイラの姉御、よくぞご無事で・・・」
「アルフレッド様、こっちです」
ザクとゾクの先導で観客席から外へ続く通路を下って外へ出ると、格闘場の前の広場に馬車置き場があり、タマールまで乗ってきた荷馬車が繋いであった。レイラを乗せるとすぐに出発した。俺たちを発見した兵士たちが後ろから追ってくる。
「待て、貴様らが倉庫を爆破した犯人だな。逃さんぞ」
「あの荷馬車へ矢を放て。撃て、撃て」
矢が次々に飛んでくるが、サフィーの<魔法障壁(マジック・バリア)>に跳ね返される。馬車は速度を上げながら大通りを中央門に向かって突っ走る。馬車前方の交差点から、槍を構えたトカゲ兵たちが飛び出してくる。俺は<火炎噴射(フレイム・ジェット)>を前方に噴き出しながら大声で叫んだ。
「おらおら、どけどけー、邪魔すれば焼き殺すぞ。どけええー」
トカゲ兵たちを火炎で蹴散らす。後ろから数体の騎兵が追ってくる。ルミアナは荷台の後方に移動すると、次々に矢を放つ。騎兵は一人、また一人と頭を射抜かれて落馬した。
前方に門が見えてきた。ザクが叫んだ。
「大変だ、門が閉ざされている。このままだと馬車が門に激突します」
門を一撃で破壊するには普通の<火炎弾(ファイア・ボール)>では火力が足りない。俺は新しい強力な魔法を試すことにした。<爆裂火球(エクスプローディング・ファイア・ボール)>である。文字通り巨大な爆発を引き起こし、周囲を吹き飛ばす上級魔法だ。失敗は許されない。
俺はサフィーに言った。
「これから門を<爆裂火球(エクスプローディング・ファイア・ボール)>で粉々に吹き飛ばす。強烈な爆風が来るので、<魔法障壁(マジック・バリア)>をしっかり頼むぞ」
「引き受けたのじゃ。いつでも来い」
俺は御者台(ぎょしゃだい)で馬車を操るザクとゾクのすぐ後ろに立つと、右手を高く掲げた。前方に迫る分厚い木製の門扉をにらみながら<爆裂火球(エクスプローディング・ファイア・ボール)>を念じると、黄色く光る球体が目にも止まらぬ速さで門扉に激突し、閃光と同時に凄まじい爆発が巻き起こった。
巨大な門扉が粉々の木片となって門の外へ飛び散り、上部にそびえていた楼閣もバラバラの柱や板切れとなって舞い上がった。門に続く壁や周辺の建物も崩壊し、門の付近に居た大勢のトカゲ兵は吹き飛ばされ、地面になぎ倒された。爆風で巻き上がった大量の土砂が木片と共に馬車の正面から激しく吹き付けた。
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