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第ニ期 41話~80話
第七十七話 ドタバタ馬車レース①
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タマールへの奇襲作戦から半年が過ぎた。野獣との戦いに傷ついたレイラの体もすっかり癒えて、以前にもまして元気である。ダルモラとの間に開かれた新たな貿易路のおかげで、海路を通じた鉄の輸入も可能となり、金属資源の不足も解消されつつあった。カザルの助力もあって順調に鉄砲の増産を続け、数万人規模の鉄砲部隊が編成された。アルカの港に出入りする船も増加し、アルカの町はますます活気に満ちていた。
そんなある日、ラベロンはついに火炎魔法の魔導具の自作に成功し、王城の広間でお披露目することになった。俺は期待で胸がワクワクしていた。しばらくすると広間の入り口からラベロンが数名の助手と共に、小山のような機械が積まれた四輪の荷台を引っ張って入ってきた。
「陛下、お喜びくだされ。ついに魔導具が完成いたしましたぞ。これですじゃ」
「おおそうか、それは素晴らしい・・・が・・・なんか、すいぶんでかいな」
「そう申されるな。初号機だから部品の小型化が難しくてのう、まあ、そのあたりはこれから改良するつもりじゃ。それより、これこそ世界で初めて古代の技術を再現した魔導具じゃ。画期的じゃぞ」
魔法の杖のような魔導具を想像していた俺は拍子抜けしたが、まあ初号機なのだからこんなものだろう。魔導具を我が国の兵士が携帯できるようになるのは、まだまだ先になりそうだ。ラベロンが自信満々で言った。
「では、これより火炎魔法を発動してみせるのじゃ」
「おお、それは楽しみだな」
「発射あああ!」
掛け声とともにラベロンがレバーを大きく倒すと、小山のような機械からバンバン、ボコボコという音がやかましく鳴り響き、先端の尖った鉄の棒の先から炎が吹き出した。棒の先には串に刺した肉の塊が置かれていて、炎は肉の塊を良い具合にローストしているようだ。ラベロンは串を回しながら言った。
「おお、いい匂いじゃ」
いい匂いじゃねえだろ。肉をのんびりローストしてどうすんだよ。敵を焼き払う攻撃兵器を作るんじゃないのかよ。俺はラベロンに尋ねた。
「に、肉を料理して、どうするんだ?」
「むろん、これを町の焼肉屋に売り込むのじゃ。さすれば王国の財政も潤うであろう」
いや落ち着け、最初はこんなもんだろ。俺は別のことを尋ねてみることにした。
「実にすばらしい研究成果だ。ところでラベロン。以前に風魔法の魔導具の製作をお願いしたが、そちらの方はどうだ。船に乗せるのだから魔導具のサイズが大きくても問題ない。敵を倒すほど強力な風を巻き起こす必要もない。それなら、今でも作れるのではないか?」
「う~む。作れないこともないのじゃが、参考になる風魔法の魔導具のサンプルがあれば確実じゃな。そうじゃ、以前にわしの住んでいた町にダークエルフの研究仲間がおってな、そいつは確か風魔法に詳しいはずじゃ。研究用に魔導具も持っておるじゃろう。そいつに頼んでみるので、一緒に来てくれんか」
「ああ、もちろんいいとも」
ーーー
俺たちは<転送(トランスポート)>の魔法を使ってラベロンの住んでいた町にやってきた。この町にはラベロンの研究室も残されている。だが、下手に中に入って、また犬か何かに変身しては困るので、そちらは無視してラベロンの研究仲間であるアナウマという老人の家へ向かった。
アナウマの研究室は、ほとんど廃棄物置き場のような、無茶苦茶な有り様だった。
「おお、ラベロンではないか。久しぶりだな、急にどうした。うーむ・・・それに友達のほとんどいないお前が、ずいぶんと大勢の人と一緒ではないか。何か悪いことでもしたのか」
「やかましいわ、人を何だと思っとるのじゃ。ふん、聞いて驚け。こちらにおわす方はな、アルカナ国の国王様じゃぞ。何を隠そう、わしのパトロンじゃ。わはは、いまや金欠病のお前とは違うのじゃ」
「アルカナ国? 聞いたことがないな。まあ、変態じじいのパトロンをやってるくらいだから、よほど心の広いお方なのだろう。ところで、その国王様が今日は何のご用で」
俺は答えた。
「実は我が国は現在、ジャビ帝国というトカゲ族の大国の侵略を受けているのですが、そのジャビ帝国の艦隊と戦うために、風魔法の魔導具をラベロンに製作してもらいたいと考えているのです。ついては魔導具を製作するための参考にするため、あなたから風魔法の魔導具を譲ってもらいたいと思い、そのお願いに来たのです」
「ジャビ帝国・・・名前は聞いたことがあるな。まあ海を隔てて地球の裏側にある国だから、我々にとって脅威ではないがな。なるほど、そういうことなら協力してやらんでもないが・・・ちと、面倒なことになっていてな」
「というと?」
「実は、年に一度開催される馬車レースの賭けに負けて、借金のカタに風魔法の魔導具を胴元に取られてしまったのだ。それを取り返すにはカネが必要なんだ」
ラベロンがあきれて言った。
「お主、まだ賭け事から足を洗っておらんのか。いい加減に賭け事はやめろと言ったろう」
「何を言っておる、賭け事はおれの人生だ」
俺はアナウマに言った。
「おカネか・・・アルカナ国のおカネではダメか」
「この辺りではアルカナという国は誰も知らんし、アルカナと取引している商人も居ないからダメじゃ。ここではアイーン金貨しか通用しない。手っ取り早くアイーン金貨を手に入れるには、馬車レースに出場して勝てば良い。ちょうど良いことに近々レースが開催される。レースに勝てば、優勝賞金で魔導具を買い戻すことができる。おまけに賭け金で俺の生活費も稼げるわけだ。ウインウインだろう」
ラベロンが言った。
「う~む、お主に賭けで儲けさせるのは癪(しゃく)じゃが、それしか方法はなさそうじゃのう。どうする、アルフレッド殿」
「そうだな。レースに出場してみるか」
「それは良かった。ただし、これは普通の馬車レースではないぞ。妨害・戦闘ありのバトルレースなのだ。出場した馬車同士が走りながら相手チームを攻撃しあううえに、道中では妨害工作も予想される」
「妨害・戦闘ありということは、私の攻撃魔法を使っても良いのか」
「いや、攻撃魔法は威力が強すぎるので禁止されている。その代わりに補助魔法は使えるし、ポーション類も自由に使える」
「なるほど。もう少し詳しく教えてくれないか」
「レースの内容はこんなところだ。スタート地点はこの町の広場だ。そこから50キロメートル先の田舎村まで走り、そこで指定された荷物を仕入れ、その荷物を持ってスタート地点に戻ってくる」
「村から運んでくる荷物というのは、どんなものなのだ?」
「折り返し地点の村でくじ引きを行う。仕入れるべき品物の名前は、くじに書いてある。そんなわけだから、ただ単に早く走れば勝てるわけではない。道中の駆け引きも、品物の仕入れも重要なんだ。もちろん、戦闘に負けても脱落だ」
「ところで、私たちのような外国のチームがレースに参加しても良いのだろうか」
「いや、あくまで地元の人間が主催するチームだけが参加できる。だから今回も俺が主催者となって馬車を用意するから、あんた達には馬車の運転と護衛をやってもらいたい」
「アナウマ殿がチームを主催するのですか・・・。失礼ですが、アナウマ殿はおカネが無いという話ですよね。馬車は準備できるのですか」
「ああ、それなら大丈夫だ。いつでもレースに参加できるように準備しておるのだ。こっちに来てくれ」
アナウマは掘っ立て小屋を出ると、裏庭へと俺たちを誘導した。
「これが馬車だ。カネがないので、近所の爺さんから使わなくなった荷馬車を譲ってもらった。敵の攻撃を防ぐために少し改造すれば、なんとか使えるだろう」
「なんだか・・・かぼちゃのような形をしてますが」
「ああ、隣の爺さんが、畑で作ったかぼちゃを売り歩くときに使っていたものらしい。遠くからでも『かぼちゃの移動販売車』だとわかるように、かぼちゃの形に特注したらしい」
馬車全体がすっぽり大きなかぼちゃの作り物に覆われている。まさに、かぼちゃが走っている格好だ。こんなかぼちゃの形をした馬車でレースに参加するとか、絶対に馬鹿にされるだろ。いっそハロウィーンの仮装をして参加したほうがいいくらいだ。
「それで、これが馬だ。これまたカネが無いので、近所の婆さんから『アルパカ』を借りている。いいぞ、アルパカはかわいくて」
「きゃああ、なにこれ、かわいいですわ。もふもふ、もふもふですわ」
キャサリンはアルパカの首に抱きついた。女性は、もふもふもに弱い。しかし俺たちは妨害・戦闘ありのバトルレースに臨むんだ。かぼちゃの馬車に、もふもふのアルパカで勝てるわけないだろ。さすがはラベロンの知り合いだけあって、アナウマという爺さんの頭もどうかしている。
不安そうな俺を見て、サフィーが言った。
「なあに、大丈夫じゃ。われが<魔法障壁(マジック・バリア)>を張って攻撃をすべて防ぐから、ゴールに向かって、ただ突っ走ればよいのじゃ、あっはっは、心配するな」
そういうと、サフィーは急に真顔に戻って続けた。
「そういうわけじゃから、われは体内にマナを貯め込まねばならん。これから毎日十人前の食事が必要じゃな・・・」
サフィーはレースにかこつけて大飯を食らう魂胆である。まあ仕方がないか、防御魔法があるのとないのでは、雲泥の差があるからな。というわけで、俺たちはレースの準備を進めた。
ーーー
レースの開催日になった。一行はレース会場に集合したが、肝心のサフィーの姿が見えない。どうしたのだろう。そこへレイラが駆け込んできた。
「陛下、たいへんです。サフィーが風邪を引いて高熱を出して寝込んでます」
カザルが憤慨して言った。
「あの野郎、毎日十人前の飯を食っていたくせに、当日に風邪を引くとはとんでもねえ。まるで食い逃げじゃねえか」
そのとき、俺たちの馬車を見に来たキャサリンが悲鳴を上げた。
「きゃああ・・・アルパカさんが、大変なことになってますわ・・・」
アナウマの爺さんが言った。
「ああ、今時期は気温が高いから、アルパカの毛をぜんぶ刈っておいたぞ。その方が涼しくて走りやすいじゃろ」
全身の毛を刈られたアルパカの姿は衝撃的だった。頭の毛だけは残されているが、胴体は地肌が見えるほど刈り込まれ、もふもふ感はまったくない。毛のないひょろひょろのはだか胴体に、もふもふの大きな頭がついているという、あの情けない姿である。
キャサリンは怒った。
「ど・・・どうしてくれるのよ。すっかり見た目が酷くなったじゃないの」
見た目の問題かよ。俺は言った。
「いや、見た目より何より、この体つきじゃあ勝てないぞ。競争相手はすごく強そうな馬ばかりだ。恐竜みたいなのも居るし」
その様子を見ていたラベロンが言った。
「それなら大丈夫じゃ。わしが筋肉強化の魔導具を使ってやろう」
ラベロンが、どこかの遺跡から掘り出してきたあやしげな筋肉強化の魔導具をアルパカに向かって二、三度振ると、見る間にアルパカの全身の筋肉がもりもりと盛り上がった。とりわけ太ももの筋肉が、なんともいやらしい感じになった。毛のない筋肉ムキムキの裸体に、もふもふのラクダ顔が付いているという姿も、かなりシュールである。
キャサリンは、ますます怒った。
「きゃああ、アルパカさんが、ますます変態じみてきたじゃないの。太ももの筋肉が気持ち悪いですわ」
俺たちはスタート地点に並んだ。周りを見回してみると、俺たちの競争相手はすごい連中ばかりだった。
そんなある日、ラベロンはついに火炎魔法の魔導具の自作に成功し、王城の広間でお披露目することになった。俺は期待で胸がワクワクしていた。しばらくすると広間の入り口からラベロンが数名の助手と共に、小山のような機械が積まれた四輪の荷台を引っ張って入ってきた。
「陛下、お喜びくだされ。ついに魔導具が完成いたしましたぞ。これですじゃ」
「おおそうか、それは素晴らしい・・・が・・・なんか、すいぶんでかいな」
「そう申されるな。初号機だから部品の小型化が難しくてのう、まあ、そのあたりはこれから改良するつもりじゃ。それより、これこそ世界で初めて古代の技術を再現した魔導具じゃ。画期的じゃぞ」
魔法の杖のような魔導具を想像していた俺は拍子抜けしたが、まあ初号機なのだからこんなものだろう。魔導具を我が国の兵士が携帯できるようになるのは、まだまだ先になりそうだ。ラベロンが自信満々で言った。
「では、これより火炎魔法を発動してみせるのじゃ」
「おお、それは楽しみだな」
「発射あああ!」
掛け声とともにラベロンがレバーを大きく倒すと、小山のような機械からバンバン、ボコボコという音がやかましく鳴り響き、先端の尖った鉄の棒の先から炎が吹き出した。棒の先には串に刺した肉の塊が置かれていて、炎は肉の塊を良い具合にローストしているようだ。ラベロンは串を回しながら言った。
「おお、いい匂いじゃ」
いい匂いじゃねえだろ。肉をのんびりローストしてどうすんだよ。敵を焼き払う攻撃兵器を作るんじゃないのかよ。俺はラベロンに尋ねた。
「に、肉を料理して、どうするんだ?」
「むろん、これを町の焼肉屋に売り込むのじゃ。さすれば王国の財政も潤うであろう」
いや落ち着け、最初はこんなもんだろ。俺は別のことを尋ねてみることにした。
「実にすばらしい研究成果だ。ところでラベロン。以前に風魔法の魔導具の製作をお願いしたが、そちらの方はどうだ。船に乗せるのだから魔導具のサイズが大きくても問題ない。敵を倒すほど強力な風を巻き起こす必要もない。それなら、今でも作れるのではないか?」
「う~む。作れないこともないのじゃが、参考になる風魔法の魔導具のサンプルがあれば確実じゃな。そうじゃ、以前にわしの住んでいた町にダークエルフの研究仲間がおってな、そいつは確か風魔法に詳しいはずじゃ。研究用に魔導具も持っておるじゃろう。そいつに頼んでみるので、一緒に来てくれんか」
「ああ、もちろんいいとも」
ーーー
俺たちは<転送(トランスポート)>の魔法を使ってラベロンの住んでいた町にやってきた。この町にはラベロンの研究室も残されている。だが、下手に中に入って、また犬か何かに変身しては困るので、そちらは無視してラベロンの研究仲間であるアナウマという老人の家へ向かった。
アナウマの研究室は、ほとんど廃棄物置き場のような、無茶苦茶な有り様だった。
「おお、ラベロンではないか。久しぶりだな、急にどうした。うーむ・・・それに友達のほとんどいないお前が、ずいぶんと大勢の人と一緒ではないか。何か悪いことでもしたのか」
「やかましいわ、人を何だと思っとるのじゃ。ふん、聞いて驚け。こちらにおわす方はな、アルカナ国の国王様じゃぞ。何を隠そう、わしのパトロンじゃ。わはは、いまや金欠病のお前とは違うのじゃ」
「アルカナ国? 聞いたことがないな。まあ、変態じじいのパトロンをやってるくらいだから、よほど心の広いお方なのだろう。ところで、その国王様が今日は何のご用で」
俺は答えた。
「実は我が国は現在、ジャビ帝国というトカゲ族の大国の侵略を受けているのですが、そのジャビ帝国の艦隊と戦うために、風魔法の魔導具をラベロンに製作してもらいたいと考えているのです。ついては魔導具を製作するための参考にするため、あなたから風魔法の魔導具を譲ってもらいたいと思い、そのお願いに来たのです」
「ジャビ帝国・・・名前は聞いたことがあるな。まあ海を隔てて地球の裏側にある国だから、我々にとって脅威ではないがな。なるほど、そういうことなら協力してやらんでもないが・・・ちと、面倒なことになっていてな」
「というと?」
「実は、年に一度開催される馬車レースの賭けに負けて、借金のカタに風魔法の魔導具を胴元に取られてしまったのだ。それを取り返すにはカネが必要なんだ」
ラベロンがあきれて言った。
「お主、まだ賭け事から足を洗っておらんのか。いい加減に賭け事はやめろと言ったろう」
「何を言っておる、賭け事はおれの人生だ」
俺はアナウマに言った。
「おカネか・・・アルカナ国のおカネではダメか」
「この辺りではアルカナという国は誰も知らんし、アルカナと取引している商人も居ないからダメじゃ。ここではアイーン金貨しか通用しない。手っ取り早くアイーン金貨を手に入れるには、馬車レースに出場して勝てば良い。ちょうど良いことに近々レースが開催される。レースに勝てば、優勝賞金で魔導具を買い戻すことができる。おまけに賭け金で俺の生活費も稼げるわけだ。ウインウインだろう」
ラベロンが言った。
「う~む、お主に賭けで儲けさせるのは癪(しゃく)じゃが、それしか方法はなさそうじゃのう。どうする、アルフレッド殿」
「そうだな。レースに出場してみるか」
「それは良かった。ただし、これは普通の馬車レースではないぞ。妨害・戦闘ありのバトルレースなのだ。出場した馬車同士が走りながら相手チームを攻撃しあううえに、道中では妨害工作も予想される」
「妨害・戦闘ありということは、私の攻撃魔法を使っても良いのか」
「いや、攻撃魔法は威力が強すぎるので禁止されている。その代わりに補助魔法は使えるし、ポーション類も自由に使える」
「なるほど。もう少し詳しく教えてくれないか」
「レースの内容はこんなところだ。スタート地点はこの町の広場だ。そこから50キロメートル先の田舎村まで走り、そこで指定された荷物を仕入れ、その荷物を持ってスタート地点に戻ってくる」
「村から運んでくる荷物というのは、どんなものなのだ?」
「折り返し地点の村でくじ引きを行う。仕入れるべき品物の名前は、くじに書いてある。そんなわけだから、ただ単に早く走れば勝てるわけではない。道中の駆け引きも、品物の仕入れも重要なんだ。もちろん、戦闘に負けても脱落だ」
「ところで、私たちのような外国のチームがレースに参加しても良いのだろうか」
「いや、あくまで地元の人間が主催するチームだけが参加できる。だから今回も俺が主催者となって馬車を用意するから、あんた達には馬車の運転と護衛をやってもらいたい」
「アナウマ殿がチームを主催するのですか・・・。失礼ですが、アナウマ殿はおカネが無いという話ですよね。馬車は準備できるのですか」
「ああ、それなら大丈夫だ。いつでもレースに参加できるように準備しておるのだ。こっちに来てくれ」
アナウマは掘っ立て小屋を出ると、裏庭へと俺たちを誘導した。
「これが馬車だ。カネがないので、近所の爺さんから使わなくなった荷馬車を譲ってもらった。敵の攻撃を防ぐために少し改造すれば、なんとか使えるだろう」
「なんだか・・・かぼちゃのような形をしてますが」
「ああ、隣の爺さんが、畑で作ったかぼちゃを売り歩くときに使っていたものらしい。遠くからでも『かぼちゃの移動販売車』だとわかるように、かぼちゃの形に特注したらしい」
馬車全体がすっぽり大きなかぼちゃの作り物に覆われている。まさに、かぼちゃが走っている格好だ。こんなかぼちゃの形をした馬車でレースに参加するとか、絶対に馬鹿にされるだろ。いっそハロウィーンの仮装をして参加したほうがいいくらいだ。
「それで、これが馬だ。これまたカネが無いので、近所の婆さんから『アルパカ』を借りている。いいぞ、アルパカはかわいくて」
「きゃああ、なにこれ、かわいいですわ。もふもふ、もふもふですわ」
キャサリンはアルパカの首に抱きついた。女性は、もふもふもに弱い。しかし俺たちは妨害・戦闘ありのバトルレースに臨むんだ。かぼちゃの馬車に、もふもふのアルパカで勝てるわけないだろ。さすがはラベロンの知り合いだけあって、アナウマという爺さんの頭もどうかしている。
不安そうな俺を見て、サフィーが言った。
「なあに、大丈夫じゃ。われが<魔法障壁(マジック・バリア)>を張って攻撃をすべて防ぐから、ゴールに向かって、ただ突っ走ればよいのじゃ、あっはっは、心配するな」
そういうと、サフィーは急に真顔に戻って続けた。
「そういうわけじゃから、われは体内にマナを貯め込まねばならん。これから毎日十人前の食事が必要じゃな・・・」
サフィーはレースにかこつけて大飯を食らう魂胆である。まあ仕方がないか、防御魔法があるのとないのでは、雲泥の差があるからな。というわけで、俺たちはレースの準備を進めた。
ーーー
レースの開催日になった。一行はレース会場に集合したが、肝心のサフィーの姿が見えない。どうしたのだろう。そこへレイラが駆け込んできた。
「陛下、たいへんです。サフィーが風邪を引いて高熱を出して寝込んでます」
カザルが憤慨して言った。
「あの野郎、毎日十人前の飯を食っていたくせに、当日に風邪を引くとはとんでもねえ。まるで食い逃げじゃねえか」
そのとき、俺たちの馬車を見に来たキャサリンが悲鳴を上げた。
「きゃああ・・・アルパカさんが、大変なことになってますわ・・・」
アナウマの爺さんが言った。
「ああ、今時期は気温が高いから、アルパカの毛をぜんぶ刈っておいたぞ。その方が涼しくて走りやすいじゃろ」
全身の毛を刈られたアルパカの姿は衝撃的だった。頭の毛だけは残されているが、胴体は地肌が見えるほど刈り込まれ、もふもふ感はまったくない。毛のないひょろひょろのはだか胴体に、もふもふの大きな頭がついているという、あの情けない姿である。
キャサリンは怒った。
「ど・・・どうしてくれるのよ。すっかり見た目が酷くなったじゃないの」
見た目の問題かよ。俺は言った。
「いや、見た目より何より、この体つきじゃあ勝てないぞ。競争相手はすごく強そうな馬ばかりだ。恐竜みたいなのも居るし」
その様子を見ていたラベロンが言った。
「それなら大丈夫じゃ。わしが筋肉強化の魔導具を使ってやろう」
ラベロンが、どこかの遺跡から掘り出してきたあやしげな筋肉強化の魔導具をアルパカに向かって二、三度振ると、見る間にアルパカの全身の筋肉がもりもりと盛り上がった。とりわけ太ももの筋肉が、なんともいやらしい感じになった。毛のない筋肉ムキムキの裸体に、もふもふのラクダ顔が付いているという姿も、かなりシュールである。
キャサリンは、ますます怒った。
「きゃああ、アルパカさんが、ますます変態じみてきたじゃないの。太ももの筋肉が気持ち悪いですわ」
俺たちはスタート地点に並んだ。周りを見回してみると、俺たちの競争相手はすごい連中ばかりだった。
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※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
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