君の声は蜜の味

いちご

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倭京雨音SIDE

1.

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暖かく柔らかなぽかぽかした日差しと心地好い風に教師の声が加わると眠くなるのは必然。
教卓の目の前の席で堂々と居眠りをする。

「ーーーはΩにのみ現れる現象です」
耳に入る声。
どうやら今日の保健の授業はオメガバースの勉強らしい。
確かαは優秀でβは平凡。Ωは劣等だっけ?
αとΩの人数は極端に少ない。
人口の殆どはβだ。
Ωは大変らしいが、どうせ俺はβだろう。

自分には関係ない事だ。
授業に耳を貸さず、眠りの世界に旅立った。

ふわぁ~。欠伸をしながら下校してると
倭京わきょう
荒々しく呼ばれる名前。
嗚呼、面倒臭い。

特にしたい事もヤル気も沸かない俺は日々怠惰な生活を送っている。
気に入らない奴が居たり絡まれたら、拳で追い払っていた。
そしたら何故か毎日の様にどうでもいい奴等に絡まれる事が増えた。

「ウゼェんだよ、死ねや」
バキィ、軽く蹴るだけで倒れる奴等。
弱っちぃクセに絡んでくんな、暇人共め。
あっという間に屍累々になった地面をチラリ視界に入れると
(かったるいな)
家路に向かった。



小1の春、初めて人を好きになった。
日野操ひの みさお
いつも1人で静かに教室で本を読んでいる大人しい女の子だった。

同じ委員会で、当時好きだった本や観ているTVが一緒だった事もありスグに打ち解けた。
日野の笑顔は綺麗で、見ていると自分迄嬉しくなった。

そんなある日俺は廊下で知らない奴とぶつかった。
衝撃で尻もちをついたその子は涙目になっていた。
目が合った瞬間、ドクンッ胸が高鳴った。
(何だ?コレ。スッゲェ可愛い)
涙で潤んだ瞳は物凄く綺麗で
(日野の涙はどんな色なんだろう?)
興味が沸いた。

それからの俺の行動は早かった。
今迄していた友好的な態度を全て変え、ツンツンと振舞った。
が、日野はどうしたの?何かあった?って心配するばかりでちっとも怒らないし泣かない。
(なんだよ、つまんねぇの)
ムスゥって膨れたら、変なのって笑われた。
変なのは日野だ。
こんなに嫌な態度取ってんのに、何で不快な顔1つしないんだよ。ワケ分かんねぇ。

どうやって泣かそうか、色々試したが日野には全く通じない。
そんな日々が続いていたある日
「肘どうした?」
日野が怪我をした。
軽い擦り傷なのだが、白くて綺麗な肌に赤く腫れ上がった傷跡は似合わない。
転んだだけと誤魔化されたが、その日を境に日野の傷は増えだした。
私ドジだからと笑いながら言われるが、そんなに日野は抜けてただろうか?
転ぶにしても増え過ぎだ。
それは目立たない程度だったが、全然消えなかった。

女子はトイレに友達と行く事が多い。
俺から見ればそれ位1人で行けよなんだが、女子には女子なりの何かがあるのだろう。
時折その集団の中に日野の姿も見た。
(なんだ、俺以外にも話せる奴居たんだ)
少しホッとした。

休み時間教室に居る時間が減った。
いつも読んでいた本は飽きたのだろうか。
まぁ、友達と居るのならソッチのが良いか。
最初はそう思っていた。
だが、それは間違いだったんだ。

楽しそうに笑いあっている中で、日野だけが寂しそうにしていた。
一緒に居るのに誰も日野を見ない。話し掛けない。
(なんだ?何かがおかしい)
気になって、日野達が教室を離れた時隠れて尾行した。

……何を…してるんだ?

日野は沢山の女子から叩かれていた。
中には蹴る奴も居て。
でもそれは全て目立たない様に顔以外だった。

どういう事だ?
友達じゃなかったのか?

どうして気付かなかったのだろう。
日野はアイツ等に苛められていたんだ。

「大丈夫か?」
心配になり日野が1人になった時肩を貸した。
「優しいね、雨音くん。ありがとう」
微笑んだ瞬間零れた涙。
(嗚呼、思った通り日野の涙は綺麗だ)
初めて見たそれは儚く綺麗で、そして凄く哀しかった。

俺が苛めたせいで俺が原因で、日野の苛めは始まったのか?
自己嫌悪に襲われる。
もう一緒には居られない。

全部俺のせいだ。
全部、俺が悪い。

「ごめんな、日野」
久しぶりに笑顔を向けると
「雨音くん?」
俺は日野との接触を一切絶った。
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