17 / 35
背徳の歌姫
No.7 再潜入
しおりを挟むテリーが暗知の事務所に戻る頃には、すっかり日は落ちていた。
「あれ?鍵が掛かってる‥‥」
合鍵で事務所に入ると、真っ暗な暗知の事務所は隠れ家のようにひっそりとしていた。
テリーが携帯電話をチェックすると暗知からメールが入っていた。
「えーっと。『今日は、三輪と一杯行ってきます?』なんだそれは!事件は!?」
テリーはメールを読み終えると、暗知に電話したが、呼び出し音は無常に繰り返された。
「助手はお呼びでないということですか‥‥」
テリーは乱暴に携帯電話をスカートのポケットにしまった。
「はぁー‥!」
シュッ、スーッ シュッシュッ!
「ティリャー!!」
テリーは空手の『型』を一節演じた。
薄暗い事務所にテリーの声がこだますると、不思議と気分が落ち着いた。
「明日は根掘り葉掘り聞かせてもらいますからね」
誰も座っていない暗知のデスクにそう言い放つと、テリーは事務所ドアに施錠をして帰宅した。
‥‥‥
‥‥‥‥
次の日、テリーは午前中に学校を早退し、暗知の事務所に向かった。
昼を過ぎても暗知は現れなかった。
「一体、何をしているんですか、暗知さん‥‥」
電話もメールも応答が無い。昨日の夕方から暗知は音信不通になっていた。
暗知を待つ間、テリーは三輪からの提供資料を丸テーブルに広げ、事件を考察した。
意を決して『中村里美』の実家に電話をすると、彼女の母親が電話に出た。
悲しみに打ちひしがれ、今でも里美の死を受け入れられず、葬儀の準備もままならないようだ。
テリーは自らを里美の友人と称して、哀悼の言葉を伝えた。
気がつくと、夕暮の明かりがブラインドをすり抜け、かすかに事務所内を照らしていた。
テリーは資料を片付け始めると、決心した。
(よし、やれるだけやってみよう!)
事務所のドアに施錠し、外の通りに出た。
表に出るとオフィス街に位置する為、人通りは多い。
すぐにタクシーを拾えた。
「『青坂pallet』まで、お願いします」
テリーは運転手に行き先を告げた。
‥‥‥
‥‥‥‥
この日は『パラレルロックFes』の開演日。
エミリの居場所がわかるのは、この日が最後だ。
タクシーはスムーズに目的地に到着した。
テリーは会場入り口で夏菜子と待ち合わせをしていたが、面識のない夏菜子の友人たちもいた。
夏菜子がテリーに気付き、手を振りながら近づいてきた。
「おーす!テリー!今日は早退するなんて‥‥暴れる気マンマンだねー!」
「まぁね、この日を待ちわびていたよ」
テリーが薄ら笑いを浮かべながら手のひらを差し出すと、夏菜子はその手目掛けて、力強くチケットを叩きつけた。
「代金はツケで良いよ!転売屋から仕入れたから二倍の金額だけどねー‥‥‥」
夏菜子は小声で伝えると、無邪気に笑った。
テリーは意地悪そうに笑うと、夏菜子たちを置いてさっさと入場受付を済ませた。
「かーっ!カッコいいなぁテリーさんわぁー!」
夏菜子は友人とケタケタ笑っていた。
転売チケットで入場したテリーはスタッフの動線を観察した。
(こっちか‥‥)
マコが選んでくれた黒Tシャツとデニムパンツはスタッフの服装と上手く溶け込み、テリーは観客誘導レーンから外れた。
慌ただしくスタッフが行き違う中、テリーは記憶を頼りにeimyの控室を見つけた。
ドアの横には『eimy様へ』と貼り紙がされたケースが置かれていた。
「さて‥‥とっ!」
テリーは差し入れと思われるケースを持ち上げると、躊躇なくケースの角でノブを捻り、足でドアを蹴り開け、控室に入っていった。
「り、理恵!?」
「理恵ちゃん!?」
部屋の中にはエミリと倉田マネージャー、三輪、暗知がいた。
「ーーえ!?」テリーは驚いて差し入れのケースを地面に落としてしまった。
フルーツサンドが一つ、床に飛び出した。
「はぁ~‥‥連絡せずに、すまなかった理恵‥‥」
三輪は溜息をつくとテリーの肩に手を置き、暗知に目配せした。
「供述の途中だけと、エミリさんは『中村里美』の死に関与していた」
暗知はパイプイスに座り、パソコンを開いていた。
「最近暴れてる窃盗犯だが、そいつとエミリは繋がっていたと見ている」
三輪はパイプ椅子に置かれた資料を手に取った。
「え?解決済みですか‥‥‥?」
テリーは三輪からエミリへと視線をスライドした。
三輪は手に持った資料を読み上げ始めた。
「中村里美は9月22日未明。自宅にて鎮静剤を過剰摂取し、昏睡状態になった。その場を共にしていた藤城エミリは翌日朝9時、里美宅を出た」
「同日10時、あらかじめ開けておいた玄関ドアから共犯者Aが侵入」
「共犯者Aは昏睡状態の中村里美に塩化カリウム製剤を注射し、心停止におとしいれた」
「塩化カリウム?‥‥‥塩ですか?」
テリーは携帯電話で検索を始めた。
「身近なもので言うと、そうかもしれないね。使い方を誤ると心機能に異常をきたす薬品さ、安楽死を目的に使われる事もあるみたいだ」
暗知はテリーの携帯電話よりも早く回答した。
「これが里美の家に侵入した共犯者A『ミハエル・シュベンコフ』35歳だ」
三輪が共犯者Aの写真をテリーに見せた。
「外国人‥‥‥?」
テリーは目を見開き、写真を確認した。
ミハエルの曲がった鷲鼻と目の下のクマが印象的だった。
「藤城エミリはミハエルとは別の共犯者Bに自分を奇襲させ、アリバイ作りをした」
「ミハエルは9月22日13時頃、警官に職質されたところ、逃亡を図り捕縛された。その場で所持品を確認すると、違法薬物を持っていた」
「麻薬所持の容疑により、その場でミハエルを現行犯逮捕した。ミハエルの家からは様々な違法薬物と、窃盗品と思われる代物が数点見つかった」
「さらに取調べを進めると、履いていた靴が『中村里美』の家で発見された足跡と一致した」
「ミハエルを問い詰めると、エミリから里美宅に侵入し、彼女を殺害するよう依頼されたと供述した。ミハエルの携帯にはエミリとの通話履歴も残っている。エミリがひったくり事件に遭う時間帯の履歴だ」
「21日未明、もしくは22日の朝から、エミリは里美と一緒にいたという事実を認めている。共犯者Bが里美の自転車を使用したのが裏目に出たと言う事だな」
三輪は暗知と目を合わせた。
「なぜエミリさんは共犯者Bに里美さんの自転車を使わせたのでしょうか、事件の早期発見に繋がる事ですよね?」
テリーは三輪を見た。
「それを今、本人に聞いていた所だ‥‥」
三輪はエミリを見た。
「刑事さん、私は里美に殺意があった訳ではありません。自殺は里美の意思でした。私はなるべく彼女が苦しまないよう、ミハエルに介錯を依頼をしましたが、自分の首を締めるようなアリバイ作りはしていません」
エミリはステージ衣装であるワンピースの裾を強く握った。
「となると‥‥‥‥殺人とは一言では言えないし、窃盗事件と今回の里美さんの件は、無関係になるね」
暗知は小さく声に出して事件を考察した。
「窃盗事件に遭い、病院で目を覚ました時、私は『裁かれるべき人間』なんだと‥‥自覚しました‥‥」
エミリは口を震わせながら、控室の天井を見上げた。
「‥‥詳しくは署で聞きましょう。藤城エミリさん、ご同行願います」
三輪が手を差し出した。
「待って下さい、そんな‥‥これからLiveが‥‥たくさんの人が『eimy』の歌声を待っているのに‥」
倉田マネージャーが三輪の前に立ちはだかった。
「そうは問屋が卸さないんだ!」
三輪が倉田を一喝した。
「‥‥エミリさん!!!」
テリーが声を張り上げた。
腹の底から振り絞られたような呼び声に、控室にいる全員がテリーに注目した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる