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三章
ひ
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ユミリィは鏡に映る自分の姿にため息をついた。
ここ数カ月のことを思い出していたからだ。
悪魔召喚を行った叔父ガルマが罪人として裁かれた。
実兄である父ガイナスには、弟の計画を知らなかったことは認められたものの、公爵邸の浄化、修復にかかる費用の全額負担と半年の領地での謹慎を命じられた。
宰相府でも要職についていたガイナスにとっては蟄居に等しい処罰だった。
悪魔召喚から3ヶ月、ユミリィも伯爵邸にて体と心を休めていた。彼女達家族が我が物顔で過ごしていた公爵邸は人の住める魔素濃度ではないと判断されたからだ。
屋敷内にあるユミリィ達の私物の持ち出しも許されなかった。お気に入りの小物入れやアクセサリーもそのままである。しかしユミリィは安堵していた。あそこには、とても恐ろしい何かがいるような気がしていたから近寄りたくなかった。
記憶の混乱は悪魔召喚時に発生した魔素の影響だろうと言われた。
こんな時こそ家族で危機を乗り越えなくてはならないのにインフェ伯爵家の嫡子であるユミリィの兄は公爵領にて祖父母の手助けをしている。
長い間会っていなかったため、今回の事件を聞きつけ伯爵邸には来た時には誰だとも思ったが、彼が開口一番言ったことは、父親であるガイナスに家督を譲れと言うことだった。
祖父母も了承し、立ち入り禁止地区となっている公爵邸に一定の目処が付けば、兄夫妻と代わり両親とユミリィは領地に行けということらしい。
ユミリィは田舎になんて行きたくないと兄にすがった。
王都を出ることへの恐怖が湧き上がったのだ。
王都をあの公爵邸から離れた方がよいと頭では分かっていても心が領地に行くことを拒否してくる。
「本家の姫でもあるエレオノーラの安否も分かっていないのに自分のことか!そもそも、あの悪魔召喚の日に屋敷から方々の体で逃げ出してきたお前達母娘と使用人達の姿が目撃されている、何故、主を見捨てて逃げ出した!」
悪魔召喚が行われていた時、自分は屋敷にいなかった。
けれど、母親と共に父の言い付けを破り屋敷に向かったのは事実であり記憶にある。そして、エレオノーラや死んだと思っていた使用人達を見た、会った、そして、恐怖した。
言えるわけがない。
そんな感情があるのに会ったこと会話を交わした記憶だけがハッキリとしない。
ユミリィは、ただ父の言い付け通り、美しい屋敷で公爵令嬢として過ごしていた。エレオノーラを下女のように扱い、貶め、表面上ユミリィこそが公爵令嬢だと何度も声に出して言わせた。
屋敷に招いた友人もユミリィを公爵令嬢として扱い、敬い、ライル殿下も屋敷でエレオノーラには会っていないし、ユミリィをいずれは公爵令嬢として周囲に認めさせ、婚約者としてくれると約束した。
なのに兄の顔を見て、言葉を聞いて現実に戻された。
「エレオノーラなんか知らないわよ!……なんなのよ!なんなのよ!お兄様は私がどうなっても良いというの!」
涙を流しながら訴える妹に尋常ではないものを感じた兄ダグラスは一時的でも悪魔召喚の行われた公爵邸にいたユミリィが何らかの影響を受けているのではないかと政府の機関に相談することにした。
調べによると悪魔召喚が行われた3日前からエミリアとユミリィは屋敷を離れていたらしいが当日に宿泊先のホテルから大穴結界への協力を頼まれたにもかかわらず、ホテルを後にし、領地よりましだろうという理由で屋敷に向かった。誰も入ることが出来ない公爵邸にエミリアとユミリィ、お付きのメイドや護衛が吸い込まれるように屋敷に入っていったことが周辺住民からの聞き取りで分かっている。そして、一刻ほど経ったのちにフラフラと出てきたらしい。
調査の結果、エミリアとユミリィが何らかの呪いにかかっていることが判明した。王都を出ると発動する呪いということまでは分かったがそれ以上のことは不明だった。
エミリアとユミリィを王都に置くべきか?ダグラスは考えた。
爵位を得たからには王都に住まなければならない。祖父母はこの伯爵邸を使えば良いと言ってくれたが、このわがままな母娘と王都で暮らすなど妻と子に与える影響が悪い。特に娘に被害が向けられるだろう。
賠償金のことを考えると母娘のために新たな屋敷を用意するなどとても出来ないし、したくない。
エミリアの実家はとうの昔に縁切りをしていて託す場所はない。プライドだけは高い母娘は公的施設への入所は拒否するだろうし一般市民に被害が及ぶかもしれない。
ダグラスは、エミリアとユミリィの面倒を見るつもりなど全くなかった。
昔から兄ダグラスはユミリィ達と折り合いが悪い。母娘とは血が繋がっていないからだ。祖父以上に生活を改めよとの苦情を寄せてきたのもダグラスだった。
いくら宰相府に勤めていようが、公爵家を継ぐ能力、魔力が足りないとガイナスに言ってのけ、、叔父のガルマのことは、魔術が得意だからといって横暴な態度が気に入らないと言った。自身に爵位を継ぐ証、継承印が出てからは祖父母を見本とするため、学園を卒業と同時に領地に旅立った。
「そもそもお前は、ここではなく公爵邸に居座り好き放題していたそうじゃないか。エレオノーラを大切にしていたのかも怪しい。」
会えばいつも聞く、エレオノーラを大切にという言葉もユミリィは嫌いだった。父ガイナスから爵位を奪った叔父の娘など何度も頭の中で殺したものだった。
ここ数カ月のことを思い出していたからだ。
悪魔召喚を行った叔父ガルマが罪人として裁かれた。
実兄である父ガイナスには、弟の計画を知らなかったことは認められたものの、公爵邸の浄化、修復にかかる費用の全額負担と半年の領地での謹慎を命じられた。
宰相府でも要職についていたガイナスにとっては蟄居に等しい処罰だった。
悪魔召喚から3ヶ月、ユミリィも伯爵邸にて体と心を休めていた。彼女達家族が我が物顔で過ごしていた公爵邸は人の住める魔素濃度ではないと判断されたからだ。
屋敷内にあるユミリィ達の私物の持ち出しも許されなかった。お気に入りの小物入れやアクセサリーもそのままである。しかしユミリィは安堵していた。あそこには、とても恐ろしい何かがいるような気がしていたから近寄りたくなかった。
記憶の混乱は悪魔召喚時に発生した魔素の影響だろうと言われた。
こんな時こそ家族で危機を乗り越えなくてはならないのにインフェ伯爵家の嫡子であるユミリィの兄は公爵領にて祖父母の手助けをしている。
長い間会っていなかったため、今回の事件を聞きつけ伯爵邸には来た時には誰だとも思ったが、彼が開口一番言ったことは、父親であるガイナスに家督を譲れと言うことだった。
祖父母も了承し、立ち入り禁止地区となっている公爵邸に一定の目処が付けば、兄夫妻と代わり両親とユミリィは領地に行けということらしい。
ユミリィは田舎になんて行きたくないと兄にすがった。
王都を出ることへの恐怖が湧き上がったのだ。
王都をあの公爵邸から離れた方がよいと頭では分かっていても心が領地に行くことを拒否してくる。
「本家の姫でもあるエレオノーラの安否も分かっていないのに自分のことか!そもそも、あの悪魔召喚の日に屋敷から方々の体で逃げ出してきたお前達母娘と使用人達の姿が目撃されている、何故、主を見捨てて逃げ出した!」
悪魔召喚が行われていた時、自分は屋敷にいなかった。
けれど、母親と共に父の言い付けを破り屋敷に向かったのは事実であり記憶にある。そして、エレオノーラや死んだと思っていた使用人達を見た、会った、そして、恐怖した。
言えるわけがない。
そんな感情があるのに会ったこと会話を交わした記憶だけがハッキリとしない。
ユミリィは、ただ父の言い付け通り、美しい屋敷で公爵令嬢として過ごしていた。エレオノーラを下女のように扱い、貶め、表面上ユミリィこそが公爵令嬢だと何度も声に出して言わせた。
屋敷に招いた友人もユミリィを公爵令嬢として扱い、敬い、ライル殿下も屋敷でエレオノーラには会っていないし、ユミリィをいずれは公爵令嬢として周囲に認めさせ、婚約者としてくれると約束した。
なのに兄の顔を見て、言葉を聞いて現実に戻された。
「エレオノーラなんか知らないわよ!……なんなのよ!なんなのよ!お兄様は私がどうなっても良いというの!」
涙を流しながら訴える妹に尋常ではないものを感じた兄ダグラスは一時的でも悪魔召喚の行われた公爵邸にいたユミリィが何らかの影響を受けているのではないかと政府の機関に相談することにした。
調べによると悪魔召喚が行われた3日前からエミリアとユミリィは屋敷を離れていたらしいが当日に宿泊先のホテルから大穴結界への協力を頼まれたにもかかわらず、ホテルを後にし、領地よりましだろうという理由で屋敷に向かった。誰も入ることが出来ない公爵邸にエミリアとユミリィ、お付きのメイドや護衛が吸い込まれるように屋敷に入っていったことが周辺住民からの聞き取りで分かっている。そして、一刻ほど経ったのちにフラフラと出てきたらしい。
調査の結果、エミリアとユミリィが何らかの呪いにかかっていることが判明した。王都を出ると発動する呪いということまでは分かったがそれ以上のことは不明だった。
エミリアとユミリィを王都に置くべきか?ダグラスは考えた。
爵位を得たからには王都に住まなければならない。祖父母はこの伯爵邸を使えば良いと言ってくれたが、このわがままな母娘と王都で暮らすなど妻と子に与える影響が悪い。特に娘に被害が向けられるだろう。
賠償金のことを考えると母娘のために新たな屋敷を用意するなどとても出来ないし、したくない。
エミリアの実家はとうの昔に縁切りをしていて託す場所はない。プライドだけは高い母娘は公的施設への入所は拒否するだろうし一般市民に被害が及ぶかもしれない。
ダグラスは、エミリアとユミリィの面倒を見るつもりなど全くなかった。
昔から兄ダグラスはユミリィ達と折り合いが悪い。母娘とは血が繋がっていないからだ。祖父以上に生活を改めよとの苦情を寄せてきたのもダグラスだった。
いくら宰相府に勤めていようが、公爵家を継ぐ能力、魔力が足りないとガイナスに言ってのけ、、叔父のガルマのことは、魔術が得意だからといって横暴な態度が気に入らないと言った。自身に爵位を継ぐ証、継承印が出てからは祖父母を見本とするため、学園を卒業と同時に領地に旅立った。
「そもそもお前は、ここではなく公爵邸に居座り好き放題していたそうじゃないか。エレオノーラを大切にしていたのかも怪しい。」
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