26 / 36
三章
わ
しおりを挟む
「お前の望みを叶えよう。」
悪魔召喚事件から1ヶ月経った頃。
学園から急ぎ戻ってきたライルは滅多に通されることのない執務室にて緊張していた。
ライルが通された席の真正面には父である国王、向かって左側の机には宰相、右側のソファには義母である王妃と義兄である王太子が腰を掛けていた。
しばらく書類に書き込みをしていたのだろう室内には国王が走らせるペンの音しかしなかった。
沈黙がライルをますます緊張させていたが、ペンを置いた国王から言われた言葉にライルは目を見開いた。
それにしては、国王の表情は硬く、見るからに機嫌が悪そうだった。
「エレオノーラ公爵令嬢との婚約は破棄とする。したがって、お前の私財から婚約破棄で発生した違約金を支払うこととする。」
「えっ?」
呆けているライル。しかし、国王は淡々と語ってみせた。
「公爵邸は悪魔召喚の影響で中の様子が分からぬ。エレオノーラ嬢の無事も現時点では不明。文すらまともに届かない状態だ。悪魔召喚から1ヶ月を要してもこの状態であり今は時を待つしか出来ぬ。首謀者のガルマは最も相応しい罰を受けた。兄であるガイナス卿も蟄居が決定し、彼の妻と娘も悪魔召喚の影響で呪いを受けた。」
ライルは父の言葉に顔を上げた。
「そうなのです!父上!ユミリィは、いや、インフェ伯爵令嬢は何の罪もないのに呪われたのです。解呪に対して国からも支援をするべきです。」
ライルの言葉に国王は大きくため息をついた。
「それだ、その態度だ、ライルよ。」
ライルは意味が分からないと首をかしげた。
「お前は婚約者のエレオノーラ嬢ではなくユミリィ嬢ばかりだな。」
一瞬マズイとの思いが過ぎったがライルは誤魔化すかのように声を荒げた。
「当たり前です!ユミリィの方が私の婚約者として相応しい令嬢だからです!」
いつか言おうと思っていた言葉だった。
「ユミリィは心根の優しい、素晴らしい令嬢です。普段からエレオノーラに虐げられて、召使いのように扱われても挫けず、学園にいる時だけが息を吐けると微笑むような令嬢です。あの性悪が学園に通えないほど頭が悪いとの評判です。前公爵が近々後継をユミリィに変更する旨を関係各所に知らせる予定だったことは父上も聞いているでしょう?それもあってエレオノーラはユミリィに辛く当たって、彼女が公爵邸で実質生活をしていたのも次期公爵夫人としての教育があったからなのに逆恨みして。」
力説する息子に向けられているのは冷たい視線だが気付いてはいない。
「お前はユミリィ嬢と度々会っていたそうだな」
「それとて実際は違います!私は、あの女との決められた交流会のために公爵邸を訪ねてたんです。けれど、いつだって彼女は来ない。だから、ユミリィが見かねて席に着いて私の相手をしてくれていたのです。なのに大幅な遅刻なくせにエレオノーラはユミリィに罵詈雑言を……。こちらにも我慢の限界があります。」
国王夫妻と王太子が驚いた顔をみせた。エレオノーラの正体を初めて耳にしたからだろうとライルはほくそ笑む。しかし、彼らの気を引いたのはライルの思っているようなものではなかった。
「エレオノーラ嬢に会ったことがあると?」
王太子が尋ねるとライルは眉間にシワを寄せた。
「当たり前でしょう、一応婚約者なのですから」
吐き捨てるように言う弟。
目配せをしている国王夫妻と兄と宰相の姿にライルは訝しげな視線を送る。
「ライルよ、エレオノーラ嬢はどのような姿だったか?」
真剣な目で見てくる父親にライルは息を飲む。
「エレオノーラは、地味な灰色の髪で、地味なのを自覚しているのか派手な化粧とゴテゴテしたドレスを好む14歳にしては大柄な娘ですよ。」
鼻を鳴らしながら言うライル。
「ライルよ、我々がエレオノーラ嬢を認識したのは7年前だ。公爵夫妻の葬式で見て以降インフェ伯爵家以外の者が彼女を見たためしがない。公爵領での災害のため彼女は王都にて暮らしているにもかかわらず、後見人のインフェ伯爵夫妻はささやかなお茶会にすらエレオノーラ嬢を出席させたことがない。」
「それは、あまりにもマナーがなっていないからです。あんな陰気そうで高圧的なヤツなんか、願い下げです。ユミリィのことを思えば、ヤツが悪魔召喚の犠牲に選ばれたのも納得ですよ、悪魔と波長が合う程に醜い心の持ち主なんですよ。」
吐き捨てるように言うライルの目の前にいつの間にか王太子が立っていた。
「あ、兄上……?」
声をかけた瞬間、ライルの体が後ろに飛び、壁にぶつかった。
「くっ!……な、何を……。」
「お前は婚約者のことをどれだけ貶めたら気が済むんだ?」
血は半分しかつながっていないが、尊敬する兄からの一撃にライルはショックを受けた。
「インフェルン公爵家からの正式な申し入れだ。向こうは解消でよいと言ってこられたが、状況的には破棄だ。」
息子の言葉を遮るように国王が告げた。
「エレオノーラ・インフェルン公爵令嬢の新たな婚約者として第四王子、イルミナートをあてがう。イルミナートはインフェルン公爵家を継ぐエレオノーラ嬢を助ける善き存在となるだろう。」
続く言葉にライルは目を見開く。
「ち、父上?」
「そなたには新たに興した伯爵位を与える。治める領地はないが文官としての才を示すが良い。なんなら、インフェ伯爵令嬢を妻とするか?」
見下ろされているライルの背筋に汗が流れる。
「は、伯爵位?」
インフェルン公爵位はエレオノーラが継ぐが、インフェルン公爵領の隣にある王家直轄領を任されるはずだった。
悪魔召喚事件から1ヶ月経った頃。
学園から急ぎ戻ってきたライルは滅多に通されることのない執務室にて緊張していた。
ライルが通された席の真正面には父である国王、向かって左側の机には宰相、右側のソファには義母である王妃と義兄である王太子が腰を掛けていた。
しばらく書類に書き込みをしていたのだろう室内には国王が走らせるペンの音しかしなかった。
沈黙がライルをますます緊張させていたが、ペンを置いた国王から言われた言葉にライルは目を見開いた。
それにしては、国王の表情は硬く、見るからに機嫌が悪そうだった。
「エレオノーラ公爵令嬢との婚約は破棄とする。したがって、お前の私財から婚約破棄で発生した違約金を支払うこととする。」
「えっ?」
呆けているライル。しかし、国王は淡々と語ってみせた。
「公爵邸は悪魔召喚の影響で中の様子が分からぬ。エレオノーラ嬢の無事も現時点では不明。文すらまともに届かない状態だ。悪魔召喚から1ヶ月を要してもこの状態であり今は時を待つしか出来ぬ。首謀者のガルマは最も相応しい罰を受けた。兄であるガイナス卿も蟄居が決定し、彼の妻と娘も悪魔召喚の影響で呪いを受けた。」
ライルは父の言葉に顔を上げた。
「そうなのです!父上!ユミリィは、いや、インフェ伯爵令嬢は何の罪もないのに呪われたのです。解呪に対して国からも支援をするべきです。」
ライルの言葉に国王は大きくため息をついた。
「それだ、その態度だ、ライルよ。」
ライルは意味が分からないと首をかしげた。
「お前は婚約者のエレオノーラ嬢ではなくユミリィ嬢ばかりだな。」
一瞬マズイとの思いが過ぎったがライルは誤魔化すかのように声を荒げた。
「当たり前です!ユミリィの方が私の婚約者として相応しい令嬢だからです!」
いつか言おうと思っていた言葉だった。
「ユミリィは心根の優しい、素晴らしい令嬢です。普段からエレオノーラに虐げられて、召使いのように扱われても挫けず、学園にいる時だけが息を吐けると微笑むような令嬢です。あの性悪が学園に通えないほど頭が悪いとの評判です。前公爵が近々後継をユミリィに変更する旨を関係各所に知らせる予定だったことは父上も聞いているでしょう?それもあってエレオノーラはユミリィに辛く当たって、彼女が公爵邸で実質生活をしていたのも次期公爵夫人としての教育があったからなのに逆恨みして。」
力説する息子に向けられているのは冷たい視線だが気付いてはいない。
「お前はユミリィ嬢と度々会っていたそうだな」
「それとて実際は違います!私は、あの女との決められた交流会のために公爵邸を訪ねてたんです。けれど、いつだって彼女は来ない。だから、ユミリィが見かねて席に着いて私の相手をしてくれていたのです。なのに大幅な遅刻なくせにエレオノーラはユミリィに罵詈雑言を……。こちらにも我慢の限界があります。」
国王夫妻と王太子が驚いた顔をみせた。エレオノーラの正体を初めて耳にしたからだろうとライルはほくそ笑む。しかし、彼らの気を引いたのはライルの思っているようなものではなかった。
「エレオノーラ嬢に会ったことがあると?」
王太子が尋ねるとライルは眉間にシワを寄せた。
「当たり前でしょう、一応婚約者なのですから」
吐き捨てるように言う弟。
目配せをしている国王夫妻と兄と宰相の姿にライルは訝しげな視線を送る。
「ライルよ、エレオノーラ嬢はどのような姿だったか?」
真剣な目で見てくる父親にライルは息を飲む。
「エレオノーラは、地味な灰色の髪で、地味なのを自覚しているのか派手な化粧とゴテゴテしたドレスを好む14歳にしては大柄な娘ですよ。」
鼻を鳴らしながら言うライル。
「ライルよ、我々がエレオノーラ嬢を認識したのは7年前だ。公爵夫妻の葬式で見て以降インフェ伯爵家以外の者が彼女を見たためしがない。公爵領での災害のため彼女は王都にて暮らしているにもかかわらず、後見人のインフェ伯爵夫妻はささやかなお茶会にすらエレオノーラ嬢を出席させたことがない。」
「それは、あまりにもマナーがなっていないからです。あんな陰気そうで高圧的なヤツなんか、願い下げです。ユミリィのことを思えば、ヤツが悪魔召喚の犠牲に選ばれたのも納得ですよ、悪魔と波長が合う程に醜い心の持ち主なんですよ。」
吐き捨てるように言うライルの目の前にいつの間にか王太子が立っていた。
「あ、兄上……?」
声をかけた瞬間、ライルの体が後ろに飛び、壁にぶつかった。
「くっ!……な、何を……。」
「お前は婚約者のことをどれだけ貶めたら気が済むんだ?」
血は半分しかつながっていないが、尊敬する兄からの一撃にライルはショックを受けた。
「インフェルン公爵家からの正式な申し入れだ。向こうは解消でよいと言ってこられたが、状況的には破棄だ。」
息子の言葉を遮るように国王が告げた。
「エレオノーラ・インフェルン公爵令嬢の新たな婚約者として第四王子、イルミナートをあてがう。イルミナートはインフェルン公爵家を継ぐエレオノーラ嬢を助ける善き存在となるだろう。」
続く言葉にライルは目を見開く。
「ち、父上?」
「そなたには新たに興した伯爵位を与える。治める領地はないが文官としての才を示すが良い。なんなら、インフェ伯爵令嬢を妻とするか?」
見下ろされているライルの背筋に汗が流れる。
「は、伯爵位?」
インフェルン公爵位はエレオノーラが継ぐが、インフェルン公爵領の隣にある王家直轄領を任されるはずだった。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした・完結
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
転生メイドは貞操の危機!
早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。
最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。
ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。
「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」
ロルフとそう約束してから三年後。
魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた!
だが、クララの前に現れたのは、
かつての天使ではなく、超イケメンの男だった!
「クララ、愛している」
え!? あの天使はどこへ行ったの!?
そして推し!! いま何て言った!?
混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!?
-----
Kindle配信のTL小説
『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』
こちらは番外編です!
本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。
本編を知らなくても読めます。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる