鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

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三章

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「お前の望みを叶えよう。」

悪魔召喚事件から1ヶ月経った頃。
学園から急ぎ戻ってきたライルは滅多に通されることのない執務室にて緊張していた。
ライルが通された席の真正面には父である国王、向かって左側の机には宰相、右側のソファには義母である王妃と義兄である王太子が腰を掛けていた。
しばらく書類に書き込みをしていたのだろう室内には国王が走らせるペンの音しかしなかった。
沈黙がライルをますます緊張させていたが、ペンを置いた国王から言われた言葉にライルは目を見開いた。
それにしては、国王の表情は硬く、見るからに機嫌が悪そうだった。
「エレオノーラ公爵令嬢との婚約は破棄とする。したがって、お前の私財から婚約破棄で発生した違約金を支払うこととする。」
「えっ?」
呆けているライル。しかし、国王は淡々と語ってみせた。
「公爵邸は悪魔召喚の影響で中の様子が分からぬ。エレオノーラ嬢の無事も現時点では不明。文すらまともに届かない状態だ。悪魔召喚から1ヶ月を要してもこの状態であり今は時を待つしか出来ぬ。首謀者のガルマは最も相応しい罰を受けた。兄であるガイナス卿も蟄居が決定し、彼の妻と娘も悪魔召喚の影響で呪いを受けた。」
ライルは父の言葉に顔を上げた。
「そうなのです!父上!ユミリィは、いや、インフェ伯爵令嬢は何の罪もないのに呪われたのです。解呪に対して国からも支援をするべきです。」
ライルの言葉に国王は大きくため息をついた。
「それだ、その態度だ、ライルよ。」
ライルは意味が分からないと首をかしげた。
「お前は婚約者のエレオノーラ嬢ではなくユミリィ嬢ばかりだな。」
一瞬マズイとの思いが過ぎったがライルは誤魔化すかのように声を荒げた。
「当たり前です!ユミリィの方が私の婚約者として相応しい令嬢だからです!」
いつか言おうと思っていた言葉だった。
「ユミリィは心根の優しい、素晴らしい令嬢です。普段からエレオノーラに虐げられて、召使いのように扱われても挫けず、学園にいる時だけが息を吐けると微笑むような令嬢です。あの性悪が学園に通えないほど頭が悪いとの評判です。前公爵が近々後継をユミリィに変更する旨を関係各所に知らせる予定だったことは父上も聞いているでしょう?それもあってエレオノーラはユミリィに辛く当たって、彼女が公爵邸で実質生活をしていたのも次期公爵夫人としての教育があったからなのに逆恨みして。」
力説する息子に向けられているのは冷たい視線だが気付いてはいない。
「お前はユミリィ嬢と度々会っていたそうだな」
「それとて実際は違います!私は、あの女との決められた交流会のために公爵邸を訪ねてたんです。けれど、いつだって彼女は来ない。だから、ユミリィが見かねて席に着いて私の相手をしてくれていたのです。なのに大幅な遅刻なくせにエレオノーラはユミリィに罵詈雑言を……。こちらにも我慢の限界があります。」
国王夫妻と王太子が驚いた顔をみせた。エレオノーラの正体を初めて耳にしたからだろうとライルはほくそ笑む。しかし、彼らの気を引いたのはライルの思っているようなものではなかった。
「エレオノーラ嬢に会ったことがあると?」
王太子が尋ねるとライルは眉間にシワを寄せた。
「当たり前でしょう、一応婚約者なのですから」
吐き捨てるように言う弟。
目配せをしている国王夫妻と兄と宰相の姿にライルは訝しげな視線を送る。
「ライルよ、エレオノーラ嬢はどのような姿だったか?」
真剣な目で見てくる父親にライルは息を飲む。
「エレオノーラは、地味な灰色の髪で、地味なのを自覚しているのか派手な化粧とゴテゴテしたドレスを好む14歳にしては大柄な娘ですよ。」
鼻を鳴らしながら言うライル。
「ライルよ、我々がエレオノーラ嬢を認識したのは7年前だ。公爵夫妻の葬式で見て以降インフェ伯爵家以外の者が彼女を見たためしがない。公爵領での災害のため彼女は王都にて暮らしているにもかかわらず、後見人のインフェ伯爵夫妻はささやかなお茶会にすらエレオノーラ嬢を出席させたことがない。」
「それは、あまりにもマナーがなっていないからです。あんな陰気そうで高圧的なヤツなんか、願い下げです。ユミリィのことを思えば、ヤツが悪魔召喚の犠牲に選ばれたのも納得ですよ、悪魔と波長が合う程に醜い心の持ち主なんですよ。」
吐き捨てるように言うライルの目の前にいつの間にか王太子が立っていた。
「あ、兄上……?」
声をかけた瞬間、ライルの体が後ろに飛び、壁にぶつかった。
「くっ!……な、何を……。」
「お前は婚約者のことをどれだけ貶めたら気が済むんだ?」
血は半分しかつながっていないが、尊敬する兄からの一撃にライルはショックを受けた。
「インフェルン公爵家からの正式な申し入れだ。向こうは解消でよいと言ってこられたが、状況的には破棄だ。」
息子の言葉を遮るように国王が告げた。
「エレオノーラ・インフェルン公爵令嬢の新たな婚約者として第四王子、イルミナートをあてがう。イルミナートはインフェルン公爵家を継ぐエレオノーラ嬢を助ける善き存在となるだろう。」
続く言葉にライルは目を見開く。
「ち、父上?」
「そなたには新たに興した伯爵位を与える。治める領地はないが文官としての才を示すが良い。なんなら、インフェ伯爵令嬢を妻とするか?」
見下ろされているライルの背筋に汗が流れる。
「は、伯爵位?」
インフェルン公爵位はエレオノーラが継ぐが、インフェルン公爵領の隣にある王家直轄領を任されるはずだった。

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