鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

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三章

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「ああっ!」
静まり返る生徒会室にシャルロッテの声が上がる。
「失礼しましたわ、インフェ伯爵令嬢様には殿下からの深い真実の愛がありましたわね!」
どこからか取り出した扇子で口元を隠すシャルロッテ。
「まことに羨ましいことですわね。」
何となく馬鹿にされたような気がしたライルや生徒会メンバーはぐっと堪えた。
生徒会メンバーとは言っても女生徒は澄ましている。
「わたくしの家族は、長年、辺境に影を落としていた邪竜に屈せず、労わってくださったのです。例えば、」
いかに自身の家族が素晴らしいか語るシャルロッテ。
辺境伯家の絆の深さは有名だ。
一通り家族自慢を聞かされ言葉をなくしたライル達にシャルロッテが口を開いた。
「ところで、マデライン様はつつがなく過ごしていますか?マデライン様ったら筆まめでなさすぎて……、マデライン姉様からの便りがないと血族が王都に乗り込んで来そうなのでお教えいただけません?」
シャルロッテの親戚の娘マデラインは王太子の婚約者として成人を迎えてから辺境を離れ王城にて花嫁修行中の身だ。
シャルロッテの母方の従姉に当たる彼女はシャルロッテを慈しみ、呪いの解呪にも一役買っていると言われている。
辺境の令嬢らしく武術が得意であまり座学は得意ではないが王太子が惚れ込み婚約に至った。
「…す、すまない。マデライン嬢とはあまり交流がないのだ。」
「王太子殿下の独占欲がお強いですものね。まぁ、面会申請をしてみますわ。それと、大穴からの魔物討伐で未だに第二王子殿下の消息が分からないとも聞きました。王家の皆様には心を砕く事案が多くあり大変であることも重々承知いたしております。」
愛すると言ってもたかが伯爵令嬢。一方、血のつながりは薄いとは言え兄が消息不明であり、弟の第四王子も悪魔召喚の影響を受け眠り続けているという状況だ。
いくら真実の愛だとしても、家族のことよりもユミリィのことを考えている第三王子にシャルロッテは少しあきれた視線を送った。
「あ、兄上のことは、気にかけている!だが、兄上はお強い。きっと大丈夫だと信じて」
「それにしても、」
ライルの言葉を遠慮なくぶった切るシャルロッテ。
「インフェ伯爵令嬢にかけられた呪いは、本当に王都から出なければ大丈夫だというのはどのくらいの信憑性がおありなのでしょうか。」
「どういうことだ?」
「聞いたこともない呪いだからですわ。かなり、特殊なものでございましょう?呪いをかけた悪魔はこの世界から既に退散しているというのに持続しているなんて、かなり強い呪いだと思いませんこと?」
シャルロッテの言葉にうなずいている女生徒達。
「万が一、王都から出てしまったら、インフェ伯爵令嬢はどうなるのでしょう。それに、今は大丈夫でもいずれ王都内にいても呪いが発動する可能性は出てくるのではないかと、まぁ、出たとしても真実の愛で結ばれた殿下がおられるなら心配事はありませんわね。」
噂とは違い、儚さなど感じないシャルロッテに面食らっているライルら面々。
「わ、私はシャルロッテ嬢、君に何かしてしまったのだろうか、当たりがきつく感じるのだが。」
シャルロッテは鼻で笑う。
「学園では王族に対しての不敬もある程度許されると聞いておりますが、申し上げてもよろしくて?」
あまりの視線の厳しさにライルを初めとした生徒会メンバーは静かに肯定するしかなかった。

「わたくし、呪いのせいで長らく引きこもり生活を余儀なくされていました。」
最初に述べられた言葉にうなずく面々。
「そんなわたくしのもとに、インフェルン前公爵様からお手紙が届きましたの。」
インフェルン前公爵と言えばユミリィの祖父である。
「王都にて暮らす孫の友人になってくれないかと。」
驚くライル。彼の中では前公爵の孫と言えばユミリィである。しかし、
「エレオノーラ様からの文がおかしい、息子のガイナスは変わりないと言うが到底信じられない、あの子がどのように過ごしているのか側役の方に尋ねる文を出しても明らかにその者とは違う魔力を帯びた文がやってくる。シャルロッテ殿は人の夢見の中に入れる能力を持っていると聞いた。是非ともあの子の夢の中に入って現状を知らせてくれないかという内容でしたわ。」
孫はエレオノーラの子のようだった。
「夢渡りだと!」
シャルロッテの言葉にいち早く反応したのは魔術成績のよい副会長の伯爵令息だ。
“夢渡り”の能力は貴重なもので国からも重宝させ、国の管理下に置かれる場合が多い。
ただ、シャルロッテは年若いこと、呪われていることから国の管理からは離れていたと令息は推察してライルに説明した。
「エレオノーラ様がどのような方かは存じませんでしたが、少なくともわたくしとは、馬が合うと思い、遠く離れた地ではありましたが、夢を通してわたくし達は交流しておりました。人の夢の中に入り、覗き見することは邪竜も楽しいらしく、嬉々として協力してくださりましたわ。」
シャルロッテは一口紅茶を飲んだ。
「ライル殿下の不誠実さもユミリィ様の悪意も全て見させて頂きましたの。邪竜はユミリィ様にこそ取り憑けばもっと楽しかっただろうと宣ってましたわ。」
「ユミリィは、エレオノーラに苛められてたんだ!」
「本物のエレオノーラ様に面と向かって会ったこともないくせに、愚かなこと。」
ライルはシャルロッテの気に呑まれたかのように動けない。
「もう一月もすれば、本当のエレオノーラ様が公の場に現れる。そうなった時、あなたは何処まで平常心でいられるかしら。」
シャルロッテは立ち上がり優雅に礼をして生徒会室から去っていった。

2025/12/7加筆訂正。
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