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序章
急転直下
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「先日の土砂崩れで、祠の封印が解けた?」
彼女の前に広げられたこの地一体の地図。
地図を指差し土砂崩れと祠の位置を示す。
「我らが山は都の鬼門にあります。祠には魑魅魍魎、政争に敗れた者達の無念などを祠に封じていたと古文書に記してありました。」
眷属の一人が告げる。
「なら、封印し直そうぜ!」
別の一人が言う。
その言葉に皆が彼の者を見た。
「何?」
「ああああ相も変わらず、気配察知が鈍い。」
ボソリと呟いた仲間の一人。
「あ"ぁ?!」
「はいはい、喧嘩しない。」
いつものことではあるため、これ以上の言い合いにはならない。
「祠に封じられていたはずの、集合体とも言える怨念の塊が消えてるのよ。だから、封印しても意味ないわけ。」
「あれは、姫様級の力がなくては封じるのは無理だぜ。」
「姫様と旦那が組めば殺せると思うけど?」
一つ高くなった御簾の向こうにいる彼女と彼女の膝枕で寝ている夫に眷属達の視線が集まった。
「旦那様は、力を得て、妾と同じ生命体に魂を作り替えている最中…余計な力は使わせたくはない。」
彼女の夫は、人ならざる者に進化をしている最中だ。
明日にも目覚めるだろうが、力が安定するには時間がかかる。
「姫様、わたし、何か嫌な予感がします。全ての悪意が此方に集まっているような……。」
眷属の中で予見の才が一番強い者が言う。
「おめぇの予知は、悪いことばっか拾うからなぁ。」
「うるさいですわよ!」
やいのやいの騒ぎだした眷属達を彼女が一喝した。
「予知に沿って、警戒を怠らぬよう、領の民の安全を守るよう心掛けよ。必要とあれば民をお祖父様の領にのがしましょう。」
彼女の一言で会議は解散となった。
彼女の治める領の人代表の長は会議にも参加しており、眷属達の助言を受けて、夜間外出禁止令を出し、雑多な念の溜まりやすい“澱み”には近寄らないように注意喚起を行った。また、元の領に避難を希望する者も確認した。山里を取り巻く不穏な気配は収まらず民の不安は増長していった。
「行方不明者が後を絶たない?」
「はい、隣やその周辺の集落で集団失踪事件が多発しており、宮廷も捜査に乗り出したとか。」
「我が民達に被害はありませんが不安の声が上がっており、農作などに支障が出ております。」
「異能を使える兵を配置し、澱みからの魔物にも対応しておりますが……。」
「村長他、力の無い者の避難を最優先で、狙いは、どう考えても妾であろう。妾の守り玉を持たせよ。お祖父様には話を付けておく。」
山を取り巻く気配がおかしいことを感じていた彼女は指示を出す。
「村人の警護には、異能を持つ者を全て当てよ。山の麓までは、結界を解くな、村人の避難を確認後、結界を解き奴等の意識を此方に向ける。あの執念が都に向いては世が乱れよう。」
鬼姫の言葉に皆が力強く頷いた。
山里を見下ろす場所に一人の僧がいた。
彼は、彼女の母により領地を追放され出家するしかなかった母の実弟である。
また、彼女の父親を唆し内側から領地を崩そうとした者であった。
姉に対する嫉妬心や憎しみを隠しながら生きている男で、父方の祖父が父親の鎮魂を依頼した高僧と言うのも彼である。
彼は姪である鬼姫が人ではないと言うことを理解した時、自分の身の上に起こった不幸は全て彼女のせいだと確信した。
ならば彼女の力以上の力を得て対処しなければ自分に安寧な将来は訪れないと禁書にまで手を出し、彼女とその眷属を一網打尽にしようと企んだ。
大願のために多少の犠牲は必要とばかりに人間の負の感情を煽り集めた。それだけでは収まらず多くの祠を壊し封じられている念を自分の力とした。
自分こそがこの世で一番力のある存在、いずれは帝に代わり国の頂点となる男なのだと。帝の地位に着くには彼女の存在は必ず邪魔になる。男はそう考え、彼女とその眷属を滅するために義兄の妄執を利用することにした。
「大きな力が天上にあるな。」
目が覚めたばかりの夫の言葉。
「姫様!あれは落ちれば山どころの被害ではありませんぞ!」
眷属の一人の言葉。
「せっかく避難をさせたのに、此のままでは!」
彼女は立ち上がる。
母ならどうしただろう。
自分と夫、そして眷属だけならあの程度の力、消し去ることは簡単だろう。しかし、消し去る時に生まれた衝撃波がどれ程の被害をもたらすかは不明だ。
「あの力は真っ直ぐ此方に落ちてくるだろう。」
「では、道を間違えぬよう結界でアレが他所に反れぬようにしましょう。」
「姫様と我等の結界の中で相殺された力がどのような結果をもたらすか分かりませぬが、」
「お前達も旦那様も妾が守る。」
決意を込めた目で皆を見渡す彼女に夫も眷属達も笑顔を交わす。
「姫様!来ます!」
「総員、結界壁を展開!」
彼女を中心に車座に座る眷属達が目を閉じ力を解放していく。
彼女の夫は彼女の腰を抱き彼女に頭を寄せる。
「姫、これを乗り切ったら、のんびりしよう。」
「旦那様に妾もそう言いたかったのに、先に言われた。」
少しムッとした顔を見せる。
「さ、一緒に、」
「一緒に。」
その日、膨大な光の柱が山里を包むように天に伸びた。
光の柱が消えたのは数分後であった。
彼女の祖父は直ちに山里へ人をやり調査を行ったがその場には大きな湖が出来ており、孫の屋敷も姿も何もかもが消え去っていた。
彼女の前に広げられたこの地一体の地図。
地図を指差し土砂崩れと祠の位置を示す。
「我らが山は都の鬼門にあります。祠には魑魅魍魎、政争に敗れた者達の無念などを祠に封じていたと古文書に記してありました。」
眷属の一人が告げる。
「なら、封印し直そうぜ!」
別の一人が言う。
その言葉に皆が彼の者を見た。
「何?」
「ああああ相も変わらず、気配察知が鈍い。」
ボソリと呟いた仲間の一人。
「あ"ぁ?!」
「はいはい、喧嘩しない。」
いつものことではあるため、これ以上の言い合いにはならない。
「祠に封じられていたはずの、集合体とも言える怨念の塊が消えてるのよ。だから、封印しても意味ないわけ。」
「あれは、姫様級の力がなくては封じるのは無理だぜ。」
「姫様と旦那が組めば殺せると思うけど?」
一つ高くなった御簾の向こうにいる彼女と彼女の膝枕で寝ている夫に眷属達の視線が集まった。
「旦那様は、力を得て、妾と同じ生命体に魂を作り替えている最中…余計な力は使わせたくはない。」
彼女の夫は、人ならざる者に進化をしている最中だ。
明日にも目覚めるだろうが、力が安定するには時間がかかる。
「姫様、わたし、何か嫌な予感がします。全ての悪意が此方に集まっているような……。」
眷属の中で予見の才が一番強い者が言う。
「おめぇの予知は、悪いことばっか拾うからなぁ。」
「うるさいですわよ!」
やいのやいの騒ぎだした眷属達を彼女が一喝した。
「予知に沿って、警戒を怠らぬよう、領の民の安全を守るよう心掛けよ。必要とあれば民をお祖父様の領にのがしましょう。」
彼女の一言で会議は解散となった。
彼女の治める領の人代表の長は会議にも参加しており、眷属達の助言を受けて、夜間外出禁止令を出し、雑多な念の溜まりやすい“澱み”には近寄らないように注意喚起を行った。また、元の領に避難を希望する者も確認した。山里を取り巻く不穏な気配は収まらず民の不安は増長していった。
「行方不明者が後を絶たない?」
「はい、隣やその周辺の集落で集団失踪事件が多発しており、宮廷も捜査に乗り出したとか。」
「我が民達に被害はありませんが不安の声が上がっており、農作などに支障が出ております。」
「異能を使える兵を配置し、澱みからの魔物にも対応しておりますが……。」
「村長他、力の無い者の避難を最優先で、狙いは、どう考えても妾であろう。妾の守り玉を持たせよ。お祖父様には話を付けておく。」
山を取り巻く気配がおかしいことを感じていた彼女は指示を出す。
「村人の警護には、異能を持つ者を全て当てよ。山の麓までは、結界を解くな、村人の避難を確認後、結界を解き奴等の意識を此方に向ける。あの執念が都に向いては世が乱れよう。」
鬼姫の言葉に皆が力強く頷いた。
山里を見下ろす場所に一人の僧がいた。
彼は、彼女の母により領地を追放され出家するしかなかった母の実弟である。
また、彼女の父親を唆し内側から領地を崩そうとした者であった。
姉に対する嫉妬心や憎しみを隠しながら生きている男で、父方の祖父が父親の鎮魂を依頼した高僧と言うのも彼である。
彼は姪である鬼姫が人ではないと言うことを理解した時、自分の身の上に起こった不幸は全て彼女のせいだと確信した。
ならば彼女の力以上の力を得て対処しなければ自分に安寧な将来は訪れないと禁書にまで手を出し、彼女とその眷属を一網打尽にしようと企んだ。
大願のために多少の犠牲は必要とばかりに人間の負の感情を煽り集めた。それだけでは収まらず多くの祠を壊し封じられている念を自分の力とした。
自分こそがこの世で一番力のある存在、いずれは帝に代わり国の頂点となる男なのだと。帝の地位に着くには彼女の存在は必ず邪魔になる。男はそう考え、彼女とその眷属を滅するために義兄の妄執を利用することにした。
「大きな力が天上にあるな。」
目が覚めたばかりの夫の言葉。
「姫様!あれは落ちれば山どころの被害ではありませんぞ!」
眷属の一人の言葉。
「せっかく避難をさせたのに、此のままでは!」
彼女は立ち上がる。
母ならどうしただろう。
自分と夫、そして眷属だけならあの程度の力、消し去ることは簡単だろう。しかし、消し去る時に生まれた衝撃波がどれ程の被害をもたらすかは不明だ。
「あの力は真っ直ぐ此方に落ちてくるだろう。」
「では、道を間違えぬよう結界でアレが他所に反れぬようにしましょう。」
「姫様と我等の結界の中で相殺された力がどのような結果をもたらすか分かりませぬが、」
「お前達も旦那様も妾が守る。」
決意を込めた目で皆を見渡す彼女に夫も眷属達も笑顔を交わす。
「姫様!来ます!」
「総員、結界壁を展開!」
彼女を中心に車座に座る眷属達が目を閉じ力を解放していく。
彼女の夫は彼女の腰を抱き彼女に頭を寄せる。
「姫、これを乗り切ったら、のんびりしよう。」
「旦那様に妾もそう言いたかったのに、先に言われた。」
少しムッとした顔を見せる。
「さ、一緒に、」
「一緒に。」
その日、膨大な光の柱が山里を包むように天に伸びた。
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