鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

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二章

眷属③

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“姫様、姫様、”
自身の影からの小さな声に視線をおろす。
可愛らしい子供のような高い声だ。
「出てらっしゃい。」
ホッとしたような気配があった。
飛び出してきたのは5体の大きな猫科の動物。しかも皆尾が割れている。思っていたよりも大きな獣が出てきてエレオノーラは驚いた。
「姫様!お会いしとうございました!」
大きな5匹に飛び掛かられては危険と察したアウローラが間に入る。
「自身の体の大きさを考えよ!」
一喝。空中で器用に止まった5匹は絨毯に落ちた。
「ううっ、申し訳ありません、姫様。」
エレオノーラは、しょんぼりしている5匹が可愛いと思った。
「この世界の猫又は大きいのね。」
エレオノーラくらいなら背に乗せられそうな大きさの獅子。金色の鬣が美しい。
「貴方は金熊ちゃんね?」
自分を理解してくれたと先の方にふさっとした毛が密集した二つの尾がゆれた。
金色の獅子の前に一歩歩みを進めたのは、しなやかな細身の身体に特有の斑点模様、プラチナ色の短い鬣に黒のラインが顔にある猫又。
「貴方は、星熊ちゃん。」
同じように長い尾を振る。鬼姫はその後ろに控える真っ黒の艶やかな毛並みに光の加減で斑点模様が浮かび上がる頭身は少し小さめの猫又に視線をやった。
「貴方は、熊ちゃん。」
そして、美しい虎縞模様の白虎と言っていい猫又。
「貴方は、石熊ちゃんで、……貴方は、虎熊ちゃんね。皆、(ちょっと汚れてるけれど)可愛らしいこと、」
もう一体の猫又は、美しい山吹色に黒のラインが入った虎型の猫又も鬼姫の言葉に元気良く尾を振る。。
「5人とも元気そうでよかったわ。」
5匹の猫又は、アウローラからの助言で体を小さくしてみた。あのままだと部屋が狭いからだと言われたからだ。
普段彼らは直属の主である酒天と言う鬼に仕えていて、穴に落ちる時に彼の中に避難したのをエレオノーラは覚えていた。
彼女は、その酒天の魂を保護したが、この世界に出た時に中に入れていた魂は方々に散ったはずだ。
「酒天は、どうしたの?」
猫又達は各々語りだした。
大主である姫の元に駆け付けるために必要な肉体を早急に手に入れなくてはと酒天を始めとした鬼達は方々に散った。
姫の近くにある体格の良い男の肉体は羅刹に取られたと酒天、阿久良、温羅、箍丸の面々は悔しがっていた。
酒天は羅刹に負けてなるなるものかと自分に相応しい肉体を探すため気配を探っていると自分達を吐き出した穴から出てきた大きな牛鬼のような魔物と戦っている一団を発見した。
その一団の長らしき男が魔物の放つ攻撃を剣で弾きつつ反撃の機会を狙っている。その美しくも荒々しい剣技に、酒天は感心した。
“ただの人でありながら、あっぱれな戦いぶりだ。”
魔物との戦いを嬉しそうに見学し始めた酒天。
戦いの決着がつくまでその場から離れなさそうな酒天をおいて5匹の鬼は自分に相応しい魔物か、動物はいないか探すことにした。
5匹は、元々人型の鬼ではなく、獣から鬼になり、酒天の眷属となったため動くのも四足歩行の方が得意だった。
“酒天様!我等は自分の体を探してきますよ?”
行ってよいと手を振る主は視線は戦闘に向けられているのだろうと眷属達は思った。
“四つ足のカッコいい肉体を探そう!”
“姫様はもふもふしたのがお好きだから、もふもふを探そう。”
“あの穴から出てきた魔物はやめよう、魂の汚染が酷い。”
“我等も穴から出されたのに汚れてないぞ?”
“清らかな姫様の御心が成した技であろう!”
“さすが、我等の姫様!”
“酒天様は、図太いから放っておこう!”
“姫様!待っててくだされー!”
そうして五鬼達はその場を飛び立った。
穴から出てきた牛鬼のような魔物、奴らの目には何の感情もない、きっと、魂も肉体も壊れている。
「それで、酒天を置いてきぼりにしたのね、ふふふっ、我に返ったら泣いてるかも。」
姫の言葉に五鬼は嬉しくなった。
「一先ず、酒天のことは、置いといて、お前達も屋敷の修繕と清掃に取りかかって頂戴。」
アウローラは皆の母親的存在。四鬼達は戸惑うことなく駆け出していった。

鬼達は、
屋敷で亡くなった人間を丁重に扱い、荒らされた広い庭に安置する。
屋敷を襲撃したであろう魔物は魂を刈り取り浄化後、食べてもよいし、壊してもよい。
魔物の肉体は、人間の安置場所と違う場所に一纏めに積み上げておくこと。
ベルナルド、アウローラの命に忠実に動いていた。
姫様のお願いなら!と言うのが前提である。

エレオノーラは、清潔な服に着替えた。
部屋を実際に使用していた令嬢とは服の趣味が合わなかった。長年仕えているアウローラも同意見で彼女は素早く服を手直ししていった。
無駄な装飾が多い服を上品な主に似合うように。
「さすが、アウローラね。でも、どうせなら、」
裾に施された刺繍、ビスチェが黒に変わる。
実年齢からすると少し大人っぽいが銀髪、灰青色の瞳のエレオノーラには似合っていた。
「取り外した石、宝石です。」

“姫様、”
頭の中に声が届いた。
“どうしたの?”
“30名程の甲冑らしき物を着た集団が屋敷に近付いております。”
アウローラが素早く窓際に移動し外を見る。
“姫様、よろしいでしょうか。”
次にアルフォンソから声が届いた。
“何かしら?……そう、成り行きを見守りましょうか、”
優雅に微笑む鬼姫の気配に皆が肯定した。
“御意!”

ベルナルドは、一室に閉じ込められていた使用人を発見した。
彼らは庭師や料理人、下男下女と言った下働きを行っていた者達でここには上級使用人と呼ばれる従者や侍女の姿はない。
一向に開かない扉と外から聞こえる阿鼻叫喚に皆が震えていた。外を見ることの出来る小窓から何人かの使用人や護衛が魔物に襲われている現場を目撃した。
ここで悲鳴を上げれば魔物は此方にやってくるかもしれない。
「どうして、何故こんなことに!」
「急に静かになったぞ、どうなってる?」
閉じ込められた者達は身を寄せ合い震えることしか出来なかった。


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