鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

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二章

邂逅③

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「霊ちゃん!無事だったのね!」
姿形は変わっていても魂は変わらない。仲間の帰還である。
「当たり前でしょ、えーと、グリゼルダ。」
駆け寄る双子とチェチ-リナ。
「姫様にも挨拶してきたよ。で、お仕置きの手段を聞いたから、良いのを見つけたの。」
何もない空間から女は身の丈半分程のものを取り出しエミリアに投げ付けた。
塊を体で受け止めたエミリアは後ろに倒れた。そこにユミリィの悲鳴が上がる。
先程燃やされたゴブリンキングの四分の一の大きさだったが、紛れもなく青みがかった体のゴブリンだった。
投げられたゴブリンはエミリア、ユミリィの体をまさぐり臭いを嗅ぎ首筋に唾液を付けた。
「気に入ったようね。ちゃんと送り届けるから先に戻ってなさい。」
ゴブリンは女の命令に素直に頷き空間を潜っていった。
「今から、お前とお前をゴブリンの集落に送ります。集落のボスは、グリゼルダにやられちゃったから、出来るだけ多くの人間との間に子供が欲しいんですって。良かったわね、どんなひねくれた性格でも女と言うことで喜んで受け入れてくれるそうよ。」
後退りする二人。
しかし、見えない手で掴まれたように足を掴まれた。
「母親の方にもまだ懐妊の希望はあるわ、魔物の子なら尚更、人の腹には馴染みやすいもの。」
ふるふると頭を振る。
「い、いやよ!お願いっ!助けてっ!」
母親と同じくズルズルとゴブリンが消えた場所へと引き擦られていく。
「あら、声の呪縛をとっちゃったの?グリゼルダ。」
「だってお嬢様も助けを求めていたわ。あの時、私達は駆け付けることが出来なかったから、同じように助けを求めても、誰も助けてくれない状況を味わって貰わないと。」
無表情で述べたグリゼルダは、母娘の護衛二人と馭者、メイドの呪縛も解いた。
馭者は直ぐ様逃げ出したがアルフォンソが気絶させた。
「お前達はもちろん、主を助けるのだろう?さぁ、来るがいい!」
ドシンと音を立てて護衛二人の前に立つチェチーリナ。目がギラギラしている。
護衛二人は剣を構えることもなく地面にしゃがみ込み頭を下げた。
命乞いである。
「この二人は先日雇われたばかりの新参者だ。公爵家の裏事情など知らぬぞ。」
ベルナルドの、登場だった。
彼の言葉に護衛二人は必死に命乞いをした。自分達は雇われただけで、今回のことは何も見てない、聞いていない。魔法契約を交わしてもいい、約束する。見逃してくれと。

悪魔召喚をするには、沢山の贄が必要だった。
ガイナスの命令で私設隊隊長のジェイドは、主の守りを優先するために、お眼鏡に敵った腹心の部下以外は贄にすることにした。ガルマも贄が多ければ多いほどよいと賛成。逃げられないようにされて悪魔の瘴気に寄せられてやってくる魔物のエサくらいにはなるだろう。その場で殺されれば空間を支配する悪魔の贄として魂は吸収されるだろう。
邸内の雰囲気が醜悪なものに変わったと察したラファエロが直属の部下と共にジェイドとガルマに問いただした。
その中にはジェイドが腕前に信頼を寄せる者もいたため、彼の自尊心は傷つけられた。ラファエロの方が人徳があった証拠である。
ジェイドは、自分に従わない部下など不要と公爵家の私設部隊の七割を粛清することにした。
生意気なラファエロなどは、ガルマにも協力を仰ぎ、動きを魔術で止めた上、手足を切り落とし磔にした。ラファエロが何の傷もなくジェイドの前に現れた時、彼はさぞかし恐怖しただろう。
妻子を逃がすに当たって、信頼出来る手駒が居らず、ガイナスは事情を知らない二人を雇った。
二人は雇い主のガイナス、ジェイド、エミリア、ユミリィ以外の公爵家の者を知らなかった。
事情を聞かない代わりに二人は下女の中にいた好みの娘を要求した。
娘は17歳である程度のお金が貯まったら故郷に帰り、幼馴染みと結婚する予定だった。そんな彼女に二人は語り尽くせぬ暴力を行っていた。
彼らは学生時代から、貴族であった驕りもあり、見下した平民の娘を狩りと称し虐ってきた。前科があった。それを実家の力で捩じ伏せてきた。ひょうばんの悪い男達だった。
「あんた達、生きててもロクなことしないでしょ?それにね、記憶を消すのってめんどいのよねぇ。」
皆の視線がベアトリーチェに向かった。
「おお女の敵、ミルフィーの仇。ありがと、霊鬼。」
ミルフィーとは、護衛二人に嬲り物にされた下女の一人である。彼女は自ら命を経った。ベアトリーチェには止めることが出来なかった。メイドと下女ではあったが、彼女は内気なベアトリーチェの友人だった。
「霊気じゃなくて、霊姫……、アルベルテイーナよ。ベアトリーチェ。」

護衛二人は先程までの態度から一転、剣を構えた。
「リーチェ、手を貸すぜ!」
「チーリナが来たら壊れちゃうからダメ。」
ベアトリーチェが腕を広げて言った。
「出ておいで、私の可愛い眷属達。」
ベアトリーチェの影から大小様々な姿をした異形の者達が現れた。
「この世界の実験体よ、脳味噌と心臓には傷を付けないでね。腕とか足とかは潰れてもいいよ、復元出来るから、ほらお行き……。」
悲鳴が上がった。
「なんだよ、変わらんやん。」
「リーリナは、急所狙うからダメ。大穴あける。腐敗が早くなるならダメ。姫様に嫌われる。」
ベアトリーチェこと橋姫は、マッドサイエンティスト、兼、死人使いだ。趣味は魔物や化け物を魔改造(ゾンビ化)して眷属とすること。新鮮であれば臭いもなく、思考さえ持つゾンビを作り上げることが出来る天才。臭いを抑えたのは、主が嫌っているのを知ってから身に付けた技術だった。
「元の世界の人間と構造は一緒なのか興味があります。」
護衛二人は拘束されてベアトリーチェの影へと体を沈ませていった。そして彼女も消えた。
「実験を阿蘇がいない間にしちゃうと嫌味言われるわ…よ…って、聞いちゃいないし。」
ため息を吐くグリゼルダ。
「さて、マリアンナさん、半日ぶりね。」
グリゼルダはかつての同僚に向き合った。


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20250418加筆訂正
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