鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

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二章

眷属④

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「夜叉?!」
チェチーリナが抱きつく。
「うわっ、もう、びっくりするじゃん。まだ上手く力使えなくて、浄化中途半端なんだから、」
ふと見るとエレオノーラの姿がない。
「あれは姫様の思念像だよ、私の術より凄い。」

数時間前のことを擦り合わせていく。
インフェルン公爵家に現れたゴブリンを中心とした魔物達。その魔物の中で一番の大物はグリゼルダが浚いチェチーリナが一撃で仕留めたゴブリンキングだった。
その後ベアトリーチェにて死人処理がされたが主らに不評で消去された。
グリゼルダは、ゴブリンキングの代理を探すため、出てきた空間の穴を逆走し、一匹のゴブリンを捕まえてきた。目的はエミリアとユミリィをつがわせるためだ。
長を失ったゴブリンは自分こそがと奔走していた。
長となるために沢山の利点を欲する。1つは魔力を持った餌と、子孫を残すための孕み腹となる母体の提供だ。
ゴブリンのいた穴蔵は酷い臭いで若い娘の悲鳴も数多く聞こえていたが、グリゼルダは穴蔵に参じたアルベルティーナも母娘への制裁が優先だと考え洞窟の中で何が起こっているいても興味を持たず屋敷へと戻った。

ゴブリンの巣穴の中で響いた娘の悲鳴の一つが、ゴブリンの洞窟から一番近い集落で育ったルクレツァだった。
数ヵ月前に穴から出てきた瘴気の玉が村の近くに落ちた。
この世界の中心に開いている穴から吐き出された玉は周辺の魔素を瘴気へと変化させ魔物を生む。
集落の村長は瘴気玉が落ち、ゴブリンが生まれたことなどを領主である貴族に訴状した。領主の私設部隊やもしくは、国の討伐隊が来るまでに集落を取り囲む柵を強固なものに作り替えたり、集落外に親戚のいる者は若い娘や子供を中心に避難を始めたりと自衛に明け暮れた。ルクレツァは村長の娘の一人で村の娘達の避難を率先して誘導していたが、避難最中に現れたゴブリンに見付かり集団で拉致された。護衛として付いていた二人の青年は無惨な塊と化し、老人も悲惨な死を遂げた。
娘達が浚われたと知った村長は直ぐに領主や冒険者ギルドに訴えたが返事は来ていなかった。

ゴブリンの集団に襲われ大きな傷を腹に受けた娘ルクレツァは、ゴブリンの巣に引き摺られ、命が消えかけながら、化け物に種を植え付けられようとした。
その瞬間に“死にたい!”と“助けて”の相反する悲鳴を上げた。
力の限りの叫びにゴブリンは強烈な一撃をルクレツァの頭に与えた。その痛みは彼女の頭蓋骨を破壊し、死を確実なものにした。
村の女を狩り尽くしていたゴブリン達は、貴重な人間の娘の生命が消えることに怒りを覚え、諍いが起こった。

「全く、か弱き乙女に何てことすんのよ。」
洞窟と言っていいゴブリンの巣に年若い娘の声が凛と響いた。
ゴブリンの視線は先程頭を殴られた娘の方に向いていた。
血塗れの、何なら頭が割れて脳が見えている娘がゆらりと立ち上がった。
ゴブリンは娘から一気に距離をとった。
今までに感じたことのない恐怖を感じたからだ。
潰れた頭と顔面が修復されていく。
「痛いわぁ、あんた達、許さないから。姫様にお会いする体を相応しいものに治さなきゃならないじゃないの。」
禍々しい気配が空間を支配した。
その空間からギリギリ逃げ出した一匹がゴブリンの巣をやって来ていたグリゼルダによって公爵邸に連れて行かれた。
「夜叉の気配なんてなかったのに!洞窟の奥はさほど深くなかったわ。」
鬼女達が苦情を言う。
ルクレツァこと夜叉姫の得意分野は幻惑。
それは、仲間の目さえも誤魔化せる術である。
「邪魔されたくないじゃん。私の獲物だし。まぁ、姫様は易々と入って来たけど。」
主には敵わないなぁとルクレツァはくしゃりと笑った。


幻惑の中でゴブリン達を殺し合わせ、ルクレツァは高みの見物をしていた。
粗方のゴブリンはルクレツァにより幻惑の中で殺し合いをさせられていた。
「夜叉?何をしているの?」
耳元で聞こえた声に跳び跳ねる。
そこに面影はないが主の気配を纏った少女が立っていた。
「姫様!」
抱き付く夜叉姫。
「あ、いけない、私ったら汚かった。」
慌てて離れる娘。
構わず主は問う。
「どうしてその娘を選んだの?壊れかけた体を修復するのに結構な力を使ったでしょう?」
まずは肉体の修復、そして、幻惑遊びに力を使っていることを鬼姫は見抜いていた。
「人間の若い娘の絶望の声が聞こえてきて、その中でこの娘だけが狂ってなかったんです。絶望はしていたけど。早く姫様の所に行きたかったから、完全に狂うか事切れる前にって思ったら入ってました。直後に殴られて驚きましたけど。」
鬼姫は生命維持に必要な修復作業をルクレツァに触れることで瞬時に完成させた。
もちろんルクレツァは大喜びだ。
「間に合ってよかったわね、」
後一歩、夜叉姫の魂が入るのが遅ければルクレツァの体は再生など出来ていなかっただろう。
「夜叉、この洞窟内の化け物を殲滅したいの。手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
鬼姫と眷属はゴブリンを意図も簡単に切り裂いていく。
「囚われた娘達はこっちですね、」
奥の方にある小穴の前には門番らしきゴブリンがいたが夜叉が長く尖った爪で切り裂いていく。
「あら、」
中を覗いた鬼姫は呆れた声を出す。
緑色の肉体の赤子が数十匹此方を威嚇している。
母親らしき娘の多くが腹を裂かれピクリとも動かない。
子種を産み付けられた後の娘の体は餌となるのだろう干からびていたり欠損していた。
ルクレツァはゴブリンの赤子の頭を次々と爪で貫くと壁に向かって投げた。
ぐしゃりと音がして落ちていく。
鬼姫は壁に縫い付けられた娘の大きくなった腹を切り裂き落ちたゴブリンの赤子を仕留めていく。
途中、我が子を守ろうと娘が吠えたのには驚いたが昏倒させた。心も体も壊れた娘を村に運んだところで長くはないだろう。彼女達が絶望し、生きることより死を望んでいることが分かると静かに娘の肉体から魂を抜き、壊れていない箇所だけを昇華させ淀んだ魂の欠片を取り込んだ。
「綺麗な魂の欠片の方が美味しくないですか?」
鬼姫はふふふと笑う。
「御仏に帰依したとて、所詮私は鬼姫でしょ?淀みの方が美味しくて、清らかな魂はお腹を壊しちゃうの。」
清らかな魂を昇華させるのも本当は苦手なのだと笑う。しかし、夜叉は主にとって魂の浄化など赤子の手をひねるほどの些事だと知っていた。
多くの眷属を産み出した鬼姫は自分の手を汚すことを厭わない。そんな彼女を少しでも助けたくて眷属達は先回りをしようとする。
インフェルン公爵家の令嬢として主が生きるなら、エレオノーラ・インフェルン公爵令嬢の憂いである代理家族は排除しなくてはならないと眷属達は考えるのだ。
「あら?何処かで聞いた声がするわね。」
姫の言葉にルクレツァは我に返った。
先程来ていたグリゼルダとアルベルティーナが落としたのだと察した。
「エミリアとユミリィだわ、」
「僅かに紅葉と霊姫の気配を感じます。あ、去りましたね。たぶん姫様が味わった苦痛を何倍にもして返そうとしてるのでしょうね。」
主に肉体を譲ったエレオノーラの仇を打つつもりなのだろう。
「困った子ね、私は生まれ変わって無垢の状態に戻ったのに。」
「た、すけるのですか?!」
「あら、反対?」
「だって!奴らは生きていても仕方ない!」
鬼姫はまたふふふと笑う。
「彼女達の記憶の改竄を行います。ついでに汚い魂はちょっとだけ、吸いとってあげて、初めての感情を植え付けてあげたいの。罪悪感って言うのを。」
主の姿が消えて夜叉姫も慌てて後を追った。


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2025.5.26加筆訂正
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