鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

文字の大きさ
17 / 36
二章

邂逅⑤

しおりを挟む
鬼達によってあちこちに転移させられたエミリアとユミリィは訳が分からなかった。無理矢理転移させられた肉体は彼女達の魔力を枯渇に近い状態になり逃げることも出来なかった。
何故自分達がこんな目に合わなければならないのか。
ガイナスの言葉の通り田舎にさっさと向かわなかったからなのか。ガルマの悪魔召喚のせいなのか。
慣れ親しんだ公爵邸から地中に飲まれるように吸い込まれた時に見えたのは見下していたはずの使用人達の愉悦を含んだ瞳だった。
何度考えても“どうして!”と言う疑問しか浮かばなかった。母娘にとって彼等はとっくに死んでいたはずだったのに、以前よりも強い瞳で姿で能力で圧倒してきた。
絶望し何の光も宿さなくなっていた従姉妹の姿と言動は別人レベルだった。
やはり母娘の頭には疑問しか浮かばなかった。

アルベルティーナらによってゴブリンの棲家に転移させられた母娘は生き残っていたらしいゴブリンに囲まれ服を引き裂かれ体を押さえつけられた。
ゴブリン達にとって王はグリゼルダが連れていったゴブリンキングに他ならないが、王は殺された上にベアトリーチェによって死霊処置がなされ、その体とて既に滅され彼等の掲げる王はいない。
グリゼルダの気配を辿ってゴブリンの集落を知ったアルベルティーナはグリゼルダと共に奥から逃げてきたゴブリンの一体を捕獲し公爵邸に戻りエミリアとユミリィに唾を付けさせた。
あの強者達は我等に生きる糧を与えてくれたのだとゴブリンは理解した。
孕み腹の確保が出来たゴブリンは意気揚々と棲家にもどり、唾を付けられた母娘は孕み腹として落とされた。

自分達の王が何の抵抗も出来ず連れ去られ命を落としたと察したゴブリン達は混乱しながらも、圧倒的な強者の存在に種の保存を第一に考えるようになっていたため、与えられた母娘をギリギリ殺さない暴力で組み敷いていた。
生き残るための彼の思考は仲間内で統一された。
拉致されてきた娘達への暴力も最小限にしなくては、致命傷を与えてしまうと、あの強者のように復活してくるのではないか、殺されてしまうと言う思考でも統一された。そのおかげでエミリアもユミリィも傷を負ってはいるものの原型は留めていた。
種を植え付ける順番でゴブリン同士に争いが起きていることすら母娘には信じられない光景だった。

奥で何個かに別れた空間を持つゴブリン達の棲家は思っていたよりも広く別の穴に仲間が何かを落としたが、この空間、最奥にいたルクレツァは気付かないフリをしていた。別棟で幻惑の中でのたうち回るゴブリンの生命、魂を自身の糧として壊れた肉体の修復に勤しんでいた。エレオノーラに声を掛けられて直ぐ様眷属としての顔に戻ったが内心は恥ずかしがっていた。
姫が現れると同時に自分の結界内にいたゴブリンを消去し、姫の望むようゴブリン狩りをしていった。
主を守るように歩くルクレツァは自分だけが主を守っていると言うことに興奮していたが、
「あらあら、何やってるの?」
静かに声をかけたエレオノーラに我に返った。このままでは、失態を犯し姫に呆れられてしまうと思い興奮していた気持ちを一旦落ち着かせた。
そして、視線の先に、奥の方にいたゴブリンも動きを止めた。
「あらあら、ひどい姿。」
口角から流れていた涎がボトリとユミリィの顔に落ちた。
圧倒的な気配にゴブリンは震え母娘から離れていく。
エレオノーラは周囲を見渡すと静かに命じた。
「夜叉姫、殲滅を。」
欠伸をするほどに退屈なことだと言うように主は命じた。先程異様な空間を作りゴブリンを至っていた元凶に。
「御意。」
逃げ出したゴブリンを長く鋭い爪で切り刻んでいくルクレツァ。
「ごきげんよう、ユミリィ、エミリア伯母様。」
優雅な微笑みで見下ろすエレオノーラは母娘の知っている姿ではやはりなかった。それは、亡くなった公爵夫人によく似た少女。
「な、あ、あ、」
とても冷たい空気が二人を震えさせていく。
「これから、あなた達に植え付ける記憶について話しするわね。と言っても記憶は作り替えるから覚えてないと思うけど、夜叉……もといルクレツァ。」
「はい、姫様!」
「これから、私が語ること、よく覚えて皆に伝えてね。」
うっとりするほど美しい微笑みにルクレツァは頬を染めたが上手く伝えられるかと言われたら直ぐ冷や汗を掻いた。ルクレツァもとい夜叉姫は少々オツムが弱かった。エレオノーラは再び視線を母娘に向け微笑んだがそれは冷たいものだった。語られる内容はともかく、エミリアとユミリィに起こった悲劇など無かったかのように穏やかな口調だった。
「あなた達は、叔父であるガルマが悪魔召喚を行うことを知り、父ガイナスの命で領地に避難するために向かう道中でゴブリンの襲撃を受けて連れ去られた。けれどギリギリのところで通りすがりの冒険者に助け出された。これから、無事に王都にある自宅に戻り、親子で叔父ガルマのしでかしに対する沙汰を待つの。インフェルン公爵家は被害者として伯父様家族とは縁絶ちをする予定だから、伯父様の、稼ぎだけで頑張って好きに過ごせばいいわ。無縁の伯爵家として、細々といきるの、今まで通りとはいかないだろうけど、ユミリィは学園に通えるし、殿下との結婚もやぶさかではない。けれど、ゴブリンに唾を付けられたことは一生あなた達の心の傷となる。浄化も間に合わなってないから、まともな結婚が出来るとは思わないけれど……。ゴブリンの唾が付けられたことは内緒にしてあげる。隠蔽ね、ちょっとやそこらの鑑定では分からないように私とルクレツァが術を施してあげる。ついでにあなたの言う可憐な顔に付いた傷も抉れた胸も見た目的には元に戻してあげる。けれど受けた時の痛みと辛い気持ちは残してあげる。ゴブリンの棲家に浚われながら擦り傷で済んだことで周囲から持て囃されても常に頭の隅に化物の気配を感じながら生きるの。ある程度の結界が張られた王都でしか生きられない、一歩都を出たなら襲われる運命。あなた方は田舎嫌いだから、私ってば優しいわぁ。将来誰と結婚しても領地持ちとは暮らせないわね、死んじゃうもの。あなたの好きな王子とも結ばせてあげる。上手くいけば伯爵家の位があがるかもね。」
とても冷ややかながら魅了する微笑みにルクレツァは鼻血を出してしまっている。
「な、何を言っているの!そんなこと出来るわけないじゃないの!」
震えながらも強気な言葉を発するのは相手がエレオノーラだからだろう。
最後に見たエレオノーラは、無惨な姿だった。
しかし、今目の前にいるのは圧倒的な強者。
異質なエレオノーラに気付いているのに同じだと思い込みたいのが明らかだった。
「そう、悪魔召喚の餌にされそうだったけど、私の敵ではなかった。ただそれだけの話。」
しかし、エレオノーラだと言う事実が母娘を強気にさせる。
「そ、そんな叔父様の力は本物よ!あんたなんかが敵うはずない…。」
尻すぼみな声にエレオノーラは笑う。
「悪魔召喚のことは知らぬ存ぜぬで通さないと大変よ?お前達の浅はかな考えで、我等の転生が間に合わず、命を落とした憐れな魂がどれほどいたことか。彼らには慈悲を与えて、安らかな死を与える。けれどもお前達には、一生を掛けて償ってもらう。鬼姫エレオノーラの名に懸けて。自死は許さぬ、狂うことも許さぬ、お前達の苦しみや悲しみ、痛みは我の糧として有効活用してやろう、」
エレオノーラはルクレツァに視線をやる。
「ルクレツァは先にお帰り。ちょっとばっちいから。」
主の言葉に泣く一歩手前でルクレツァはエミリアとユミリィを連れて姿を消した。


2025/10/03加筆訂正
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜

伽羅
ファンタジー
 事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。  しかも王子だって!?  けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。  助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。  以前、投稿していた作品を加筆修正しています。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした・完結

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜

みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは前世で読んだラノベの世界で、自分が悪役令嬢だったとか、それこそラノベの中だけだと思っていた。 だけど、どう見ても私の容姿は乙女ゲーム『愛の歌を聴かせて』のラノベ版に出てくる悪役令嬢・・・もとい王太子の婚約者のアナスタシア・アデラインだ。 ええーっ。テンション下がるぅ。 私の推しって王太子じゃないんだよね。 同じ悪役令嬢なら、推しの婚約者になりたいんだけど。 これは、推しを愛でるためなら、家族も王族も攻略対象もヒロインも全部巻き込んで、好き勝手に生きる自称悪役令嬢のお話。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

転生メイドは貞操の危機!

早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。 最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。 ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。 「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」 ロルフとそう約束してから三年後。 魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた! だが、クララの前に現れたのは、 かつての天使ではなく、超イケメンの男だった! 「クララ、愛している」 え!? あの天使はどこへ行ったの!? そして推し!! いま何て言った!? 混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!? ----- Kindle配信のTL小説 『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』 こちらは番外編です! 本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。 本編を知らなくても読めます。

処理中です...