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第十話 明解
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目の前の小野寺朔は笑いが止まらないようだった。
隣の郁はもう待ちきれないとばかりに先ほどから口に食べ物を運んでいる手が止まらない。兄妹とはいえ、こうも反応が違うのは見ていて面白いものがあった。
ただ、一貫として流花の隣に座っているニーナは腕組みをして憮然としている。
「―――ちょっと、何なのよ、この非常に失礼な男は」
「ニーナさん、生徒会長の小野寺朔さんです。で、昼間話していたエリスを持つ一人です」
エリス、の言葉にあからさまに片眉をひそめて嫌悪を露わにした。
「だったら、さっさとあんたたちエリスの目的と弱点を教えなさいよ!」
「まぁまぁ、僕も笑ってばかりで申し訳ない。樋浦さんの苗字を忘れて、家を見つけられなかったなんて面白すぎて。でも、今夜は樋浦さんが折角たくさんの美味しい料理を作ってくれていたんです。まずはゆっくりと味わうのが、礼儀ってものじゃないですか?」
「は?人のことをげらげら笑う奴に礼儀とか説かれても不快なだけなんだけど」
「ご飯は温かい内に、ですよ。折角私たちのために色々作ってくれた樋浦先輩に対して一番失礼ってものです」
ごくり、と嚥下してからさらっと郁は爆弾を投下し、更にニーナの眉が吊り上がった。
「ええと、ですね、今回はニーナさんが好きな鶏肉を使ってよだれ鶏を作ってみました」
「よだれ鶏―――?」
流花を抜いた3人が口を合わせた。
「よだれ鶏は、叔母が大好物なんですけど、中国四川地方の料理なんです」
「あーだから結構ピリ辛なんだ」
郁の言葉にこくり、と流花は頷いた。
「謂れとしては、この料理のことを思い出すだけでよだれが出るほどおいしい、ということらしいです。花椒とラー油の辛みと香りがきいたピリ辛なんで、病みつきになると思います」
「しかもこれ、ムネ肉ですよね。でも全然ぱさぱさしてなくて凄く美味しい」
「そうなんです。ニーナさんも小野寺先輩もぜひ食べてみてください。あと、ちくわときゅうりと卵の和風マヨ和え、水菜のオニオンスープ、ご飯も炊き込みご飯にしてみました。たくさん作ったのでおかわりしてくださいね」
「学校から帰ってきてこんなごちそうみたいなものが作れるなんて、本当にすごいな」
朔の言葉に賛同するように隣の郁も大きく頷いている。
「いえ、むしろ、叔母さんが遅くて一人で夕食を済ませる時は簡単に親子丼とかチャーハンとか一品料理にしちゃうことが多いので。たくさんお客さんが来てくれるからこそ、たくさん作りたいというか。私がただやりたいだけなので、気にしないでください」
「……単なるあんたの料理自慢を聞くために、私をここに呼んだわけ?」
ニーナの呟きに、すっと血の気が引くようだった。だけど、流花は無言でニーナの横顔を見つめる。どこか辛そうで寂しそうな色が伺えた。
「いいえ、ただ、私が出来ることはこれぐらいしかないから。皆でご飯を食べるのに慣れていないのは、私も小野寺さんたちも同じだから。でも、皆で同じ食卓を囲んで、同じものを食べて、一緒に温かくなれたら心の内も話せるようになるかなって。そうですね、良心だけじゃなくて、打算も入っているかも」
流花の言葉に小野寺兄妹はびっくりしたようにこちらを見た。
ニーナは相変わらず、何の反応も示さない。
「私がニーナさんに関わろうとして、押しつけがましいことして、真意が読めなくて気持ち悪いって思っているのも分かります。だけど、少しでも心を開いてくれたらなぁなんて、思ってしまうんです」
「……無理よ、私は誰にも心を開いたりはしない」
「それは、魔法少女、だからですか?」
「そうね、誰も、巻き込みたくない。だから、あんたも私に深入りしないで。ここに来たのは、あくまで情報共有するためよ。それ以上の干渉はいらない」
「……わかりました」
どこかで分かっていた。
いや、分かっていたけれど、一縷の望みを持ち続けていた結果、それが打ち砕かれたというべきか。
でも、あまり落胆していない。彼女からの言葉は、ある程度予測がついていたからか。壁が壊されることはないと分かっていたからか。
目の前で拒否されたとしても、はいわかりましたと受け入れることはないだろうと以前から分かっていたからかもしれない。
彼女が、自分の家に来てくれただけで、その事実だけでただただ嬉しかった。
流花が黙々と食べ物を運んでいるのを横目で見ているのは分かっていた。だけど、敢えて反応するのはやめた。小野寺兄妹も不可解そうに見つめているが、それ以上会話が発展しそうにないことがわかり、食べ続けている。
ニーナもおそるおそるよだれ鶏を口に運んだ。
咀嚼する時に恐々と拳を作っていたが、すぐに目を見開いた。
「ニーナさん、辛くないですか?」
「……うん、美味しい」
「良かった」
そのままいくつかパクパクと口に運んでいる。サラダもスープもご飯もたくさん食べてくれた。
彼女を見ていると、線の細さや顔色などが以前から気になっていた。ちゃんとした温かいご飯を食べているのかと。
「ニーナさんも、今日だけじゃなくて定期的に食べに来てください。皆が来てくれるなら、私ももっと料理を勉強して色々なものを提供したいので」
ニーナからの言葉はなかった。
満腹感で安心したのかどこかほけっとしている。でも、彼女の口に合ってくれたという事実だけがあるだけでとてつもなく嬉しかった。
食後に緑茶とぶどうを用意した。
「さて、エリスのことだよね。多分、エリスが擬態したのは新見さんが久我志苑とこの学校に来る前のことだと思う。学校の帰りに空を見上げていたら星とは違う輝きが勢いよく降ってきたんだ。隕石の欠片みたいなものが降ってきたのかと思った。だけど、衝撃などは一切なかったし、その時は自分の体の違和感みたいなものもなかった。だけど、その日の夜、風呂に入っている時に脳内で別の声がした。最初は何を話しているのか分からなかった。だけど、エリスは学習能力が高い生命体のようで、すぐに僕らの言語を習得し、交流を図った。エリスは、我ら地球人と共生することを目的としているらしい。だけど、地球から何億光年も離れた未知の惑星から、どうやってこの地球を知ることが出来たのか。エリスたちは、地球を知ったわけじゃなくて、すでに知っていたというんだ」
「……?それはどういうこと?」
郁は先ほどからぶとうを口に入れるスピードを緩めない。
「全面的に、エリスの言葉を信じたわけじゃないけれど、エリス、いやエリーは脳内でこう言うんだ。エリスは、僕たち地球人のなれの果てだと」
ぼと。
郁の指の先から落ちたぶとうの音がどこか大きく響いた。
「つまり、エリスは擬態したのではなく、地球人に還ってきたというんだ。だけど、人間のように善意をもつ者もいれば悪意を前面に出す者もいる。それが今時空を超えて一斉に地球に流れ込んできたというんだ。そうなると、どういうことが起きるか。元の地球人として生きるか、地球人を支配してこの地球をめちゃくちゃにして牛耳るか。そういった二極化の思想が表出してくるらしいんだ。そして、そんな好き勝手をするエリスが出てくると、この地球が滅茶苦茶になる。そして僕たちの知らない何百年も後、混沌に陥った地球に何の手入れもせずに放っておいた所為で、人間は人間としての尊厳を無くし、考えるという思考を無くし、人間としての形を失うらしい。地球そのものは荒廃し、働かなくても、食べ物を口にしなくても、ただただ生きていけるけれど、生きているのを苦にしても死ぬに死ねない。悠久の屍のごとく彷徨っているらしい。だけど、そこにかつての地球のように社会と治安を生み出そうと動き出したエリスたちがいた。だけど、自分たちでは一から構築するには無理がある。ならば、自分の先祖たちの築いたコミュニティそのものを礎として、再度自分たちに即したコミュニティを作り上げよう、という考えが出た。そして、エリスたちにはそれぞれの役目を与えられた」
「それが、小野寺先輩のエリスは〈黙示〉で、久我志苑のエリスは〈審判〉というわけなんですね」
朔はこくり、と頷いた。
「―――それって、要は共生じゃなくて侵略じゃない」
「そうじゃない、エリーはそんなことを望んでいない。あくまでエリスをまとめ上げてきちんとしたコミュニティを作り上げることが彼らの目的なんだ」
「はん、どうだか。つまりは、あいつがやりたいことっていうのは今までの話の流れで言うとエリスの選別よね。今後、残すべきエリスと今後必要のないエリスの。擬態して人間の感情に毒されて暴走するエリスは〈魔法少女〉という名の駆逐者を使って殲滅させるってわけか。人を脅して、人の寿命を使って〈魔法少女〉を仕立て上げて、自分たちの星を再構築させるために、〈魔法少女〉を生み出したってこと?自分勝手にもほどがあるわ」
だんっとニーナは拳をテーブルに叩きつけた。
「え、ニーナ先輩、脅してって、久我志苑に何か脅されているんですか?」
口に入れるぶどうがなくなってしまい、郁はずずっと緑茶を啜りながら聞いた。
しまった、とばかりに不機嫌そうに表情を歪め、ニーナは流花に視線を向けた。
彼女の意図が分からず、流花はただただ何度か瞬きを繰り返す。
「……私には、リオナっていう弟がいるの。小さい頃から体が弱くて、ずっと入院してる。あまり長く生きられないと思う。だけど、あいつが現れたの」
「それが、〈審判〉のエリスですか?」
「―――そうよ。あいつは何の感情もない顔で言った。『彼を生き長らえさせたいのなら、君が戦って欲しい』と」
「……どういうことですか?」
「あいつは、わざとリオナにエリスを擬態させた。弟は意識を取り戻して、彼の声でしゃべって、動けるようになった。だけど、私が〈魔法少女〉として戦わなかったら、彼の中のエリスを取り除くって言ったのよ。私は、エリスという存在を憎みながらも、エリスの存在で今まで見たことのないほど元気なリオナの存在に救われている。エリスを弱体化させたい気持ちは本当。だけど、それは、弟の命を縮める行為だって、分かってる。だけど、私はあいつの命通りに〈魔法少女〉をやっていくしかないのよ。でも、私の寿命が縮むのが先か、弟の命を縮めるのが先か、それは誰も分からない。でも、こんなこと、他の子にやらせたくない。〈魔法少女〉としての責務は私の代で終わらせて、あいつをさっさと志苑の中から追い出したいの」
どこか自嘲気味にニーナは呟いた。
隣の郁はもう待ちきれないとばかりに先ほどから口に食べ物を運んでいる手が止まらない。兄妹とはいえ、こうも反応が違うのは見ていて面白いものがあった。
ただ、一貫として流花の隣に座っているニーナは腕組みをして憮然としている。
「―――ちょっと、何なのよ、この非常に失礼な男は」
「ニーナさん、生徒会長の小野寺朔さんです。で、昼間話していたエリスを持つ一人です」
エリス、の言葉にあからさまに片眉をひそめて嫌悪を露わにした。
「だったら、さっさとあんたたちエリスの目的と弱点を教えなさいよ!」
「まぁまぁ、僕も笑ってばかりで申し訳ない。樋浦さんの苗字を忘れて、家を見つけられなかったなんて面白すぎて。でも、今夜は樋浦さんが折角たくさんの美味しい料理を作ってくれていたんです。まずはゆっくりと味わうのが、礼儀ってものじゃないですか?」
「は?人のことをげらげら笑う奴に礼儀とか説かれても不快なだけなんだけど」
「ご飯は温かい内に、ですよ。折角私たちのために色々作ってくれた樋浦先輩に対して一番失礼ってものです」
ごくり、と嚥下してからさらっと郁は爆弾を投下し、更にニーナの眉が吊り上がった。
「ええと、ですね、今回はニーナさんが好きな鶏肉を使ってよだれ鶏を作ってみました」
「よだれ鶏―――?」
流花を抜いた3人が口を合わせた。
「よだれ鶏は、叔母が大好物なんですけど、中国四川地方の料理なんです」
「あーだから結構ピリ辛なんだ」
郁の言葉にこくり、と流花は頷いた。
「謂れとしては、この料理のことを思い出すだけでよだれが出るほどおいしい、ということらしいです。花椒とラー油の辛みと香りがきいたピリ辛なんで、病みつきになると思います」
「しかもこれ、ムネ肉ですよね。でも全然ぱさぱさしてなくて凄く美味しい」
「そうなんです。ニーナさんも小野寺先輩もぜひ食べてみてください。あと、ちくわときゅうりと卵の和風マヨ和え、水菜のオニオンスープ、ご飯も炊き込みご飯にしてみました。たくさん作ったのでおかわりしてくださいね」
「学校から帰ってきてこんなごちそうみたいなものが作れるなんて、本当にすごいな」
朔の言葉に賛同するように隣の郁も大きく頷いている。
「いえ、むしろ、叔母さんが遅くて一人で夕食を済ませる時は簡単に親子丼とかチャーハンとか一品料理にしちゃうことが多いので。たくさんお客さんが来てくれるからこそ、たくさん作りたいというか。私がただやりたいだけなので、気にしないでください」
「……単なるあんたの料理自慢を聞くために、私をここに呼んだわけ?」
ニーナの呟きに、すっと血の気が引くようだった。だけど、流花は無言でニーナの横顔を見つめる。どこか辛そうで寂しそうな色が伺えた。
「いいえ、ただ、私が出来ることはこれぐらいしかないから。皆でご飯を食べるのに慣れていないのは、私も小野寺さんたちも同じだから。でも、皆で同じ食卓を囲んで、同じものを食べて、一緒に温かくなれたら心の内も話せるようになるかなって。そうですね、良心だけじゃなくて、打算も入っているかも」
流花の言葉に小野寺兄妹はびっくりしたようにこちらを見た。
ニーナは相変わらず、何の反応も示さない。
「私がニーナさんに関わろうとして、押しつけがましいことして、真意が読めなくて気持ち悪いって思っているのも分かります。だけど、少しでも心を開いてくれたらなぁなんて、思ってしまうんです」
「……無理よ、私は誰にも心を開いたりはしない」
「それは、魔法少女、だからですか?」
「そうね、誰も、巻き込みたくない。だから、あんたも私に深入りしないで。ここに来たのは、あくまで情報共有するためよ。それ以上の干渉はいらない」
「……わかりました」
どこかで分かっていた。
いや、分かっていたけれど、一縷の望みを持ち続けていた結果、それが打ち砕かれたというべきか。
でも、あまり落胆していない。彼女からの言葉は、ある程度予測がついていたからか。壁が壊されることはないと分かっていたからか。
目の前で拒否されたとしても、はいわかりましたと受け入れることはないだろうと以前から分かっていたからかもしれない。
彼女が、自分の家に来てくれただけで、その事実だけでただただ嬉しかった。
流花が黙々と食べ物を運んでいるのを横目で見ているのは分かっていた。だけど、敢えて反応するのはやめた。小野寺兄妹も不可解そうに見つめているが、それ以上会話が発展しそうにないことがわかり、食べ続けている。
ニーナもおそるおそるよだれ鶏を口に運んだ。
咀嚼する時に恐々と拳を作っていたが、すぐに目を見開いた。
「ニーナさん、辛くないですか?」
「……うん、美味しい」
「良かった」
そのままいくつかパクパクと口に運んでいる。サラダもスープもご飯もたくさん食べてくれた。
彼女を見ていると、線の細さや顔色などが以前から気になっていた。ちゃんとした温かいご飯を食べているのかと。
「ニーナさんも、今日だけじゃなくて定期的に食べに来てください。皆が来てくれるなら、私ももっと料理を勉強して色々なものを提供したいので」
ニーナからの言葉はなかった。
満腹感で安心したのかどこかほけっとしている。でも、彼女の口に合ってくれたという事実だけがあるだけでとてつもなく嬉しかった。
食後に緑茶とぶどうを用意した。
「さて、エリスのことだよね。多分、エリスが擬態したのは新見さんが久我志苑とこの学校に来る前のことだと思う。学校の帰りに空を見上げていたら星とは違う輝きが勢いよく降ってきたんだ。隕石の欠片みたいなものが降ってきたのかと思った。だけど、衝撃などは一切なかったし、その時は自分の体の違和感みたいなものもなかった。だけど、その日の夜、風呂に入っている時に脳内で別の声がした。最初は何を話しているのか分からなかった。だけど、エリスは学習能力が高い生命体のようで、すぐに僕らの言語を習得し、交流を図った。エリスは、我ら地球人と共生することを目的としているらしい。だけど、地球から何億光年も離れた未知の惑星から、どうやってこの地球を知ることが出来たのか。エリスたちは、地球を知ったわけじゃなくて、すでに知っていたというんだ」
「……?それはどういうこと?」
郁は先ほどからぶとうを口に入れるスピードを緩めない。
「全面的に、エリスの言葉を信じたわけじゃないけれど、エリス、いやエリーは脳内でこう言うんだ。エリスは、僕たち地球人のなれの果てだと」
ぼと。
郁の指の先から落ちたぶとうの音がどこか大きく響いた。
「つまり、エリスは擬態したのではなく、地球人に還ってきたというんだ。だけど、人間のように善意をもつ者もいれば悪意を前面に出す者もいる。それが今時空を超えて一斉に地球に流れ込んできたというんだ。そうなると、どういうことが起きるか。元の地球人として生きるか、地球人を支配してこの地球をめちゃくちゃにして牛耳るか。そういった二極化の思想が表出してくるらしいんだ。そして、そんな好き勝手をするエリスが出てくると、この地球が滅茶苦茶になる。そして僕たちの知らない何百年も後、混沌に陥った地球に何の手入れもせずに放っておいた所為で、人間は人間としての尊厳を無くし、考えるという思考を無くし、人間としての形を失うらしい。地球そのものは荒廃し、働かなくても、食べ物を口にしなくても、ただただ生きていけるけれど、生きているのを苦にしても死ぬに死ねない。悠久の屍のごとく彷徨っているらしい。だけど、そこにかつての地球のように社会と治安を生み出そうと動き出したエリスたちがいた。だけど、自分たちでは一から構築するには無理がある。ならば、自分の先祖たちの築いたコミュニティそのものを礎として、再度自分たちに即したコミュニティを作り上げよう、という考えが出た。そして、エリスたちにはそれぞれの役目を与えられた」
「それが、小野寺先輩のエリスは〈黙示〉で、久我志苑のエリスは〈審判〉というわけなんですね」
朔はこくり、と頷いた。
「―――それって、要は共生じゃなくて侵略じゃない」
「そうじゃない、エリーはそんなことを望んでいない。あくまでエリスをまとめ上げてきちんとしたコミュニティを作り上げることが彼らの目的なんだ」
「はん、どうだか。つまりは、あいつがやりたいことっていうのは今までの話の流れで言うとエリスの選別よね。今後、残すべきエリスと今後必要のないエリスの。擬態して人間の感情に毒されて暴走するエリスは〈魔法少女〉という名の駆逐者を使って殲滅させるってわけか。人を脅して、人の寿命を使って〈魔法少女〉を仕立て上げて、自分たちの星を再構築させるために、〈魔法少女〉を生み出したってこと?自分勝手にもほどがあるわ」
だんっとニーナは拳をテーブルに叩きつけた。
「え、ニーナ先輩、脅してって、久我志苑に何か脅されているんですか?」
口に入れるぶどうがなくなってしまい、郁はずずっと緑茶を啜りながら聞いた。
しまった、とばかりに不機嫌そうに表情を歪め、ニーナは流花に視線を向けた。
彼女の意図が分からず、流花はただただ何度か瞬きを繰り返す。
「……私には、リオナっていう弟がいるの。小さい頃から体が弱くて、ずっと入院してる。あまり長く生きられないと思う。だけど、あいつが現れたの」
「それが、〈審判〉のエリスですか?」
「―――そうよ。あいつは何の感情もない顔で言った。『彼を生き長らえさせたいのなら、君が戦って欲しい』と」
「……どういうことですか?」
「あいつは、わざとリオナにエリスを擬態させた。弟は意識を取り戻して、彼の声でしゃべって、動けるようになった。だけど、私が〈魔法少女〉として戦わなかったら、彼の中のエリスを取り除くって言ったのよ。私は、エリスという存在を憎みながらも、エリスの存在で今まで見たことのないほど元気なリオナの存在に救われている。エリスを弱体化させたい気持ちは本当。だけど、それは、弟の命を縮める行為だって、分かってる。だけど、私はあいつの命通りに〈魔法少女〉をやっていくしかないのよ。でも、私の寿命が縮むのが先か、弟の命を縮めるのが先か、それは誰も分からない。でも、こんなこと、他の子にやらせたくない。〈魔法少女〉としての責務は私の代で終わらせて、あいつをさっさと志苑の中から追い出したいの」
どこか自嘲気味にニーナは呟いた。
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