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「なにを言って…?」
「いいか?」
男にガシリと腕を掴まれた。いいわけないわ!
更には肩にかかる髪を指に絡ませてくる。ゾワワワッと、一気に鳥肌が立った。不揃いになってたのを、ユーレリアさんが肩口で切り揃えてくれたばかりだというのに。触られたところから、バッサリ切ってしまいたくなるではないか。やめてくれ。
「お断りします」
かなり怖かったが、キッパリ言った。大体、何故、態度が急変してプロポーズなんだ?
「頼む!お前のためなら、なんでもする!だから!」
…いきなり「お前」呼ばわり。
初対面。しかも今、私に難癖つけようとしていたよね?軽く肩をぶつけただけなのを、大げさに「痛い」と言ったよね?それが、わずかの間に必死の形相で「結婚してくれ」と懇願している?いや、どう考えてもおかしいって。
「嫌です」
再度、断りの言葉を口にしてーー
ギョッとした。
私の拒絶の言葉を聞いた瞬間、男がこの世の終わりのような顔をしたのだ。そこで思い当たった。…まさか?
『魅了』されている?
自身の持つ技能に思い当たって愕然とした。嘘でしょ!?
冗談ではない。
「とにかくっ!お断りですからっ」
ひときわ大きく拒絶し、腕を振りほどいて駆け出した。
「ああっ!?ま、待ってくれっ!」
背後で声が上がるが、誰が待つか!
逃げるしかない。多分…恐らく…ほぼ間違いなく、『魅了』だ。けれど、コントロールの仕方が分からない!自分の技能であるにも拘らず。いきなり前触れもなく、意識したわけでもなく、望んでもいないのにーーあの男、私に惚れただと!?
ーー「彼女が君に授け力、かなりヤバいよ?」黒い神の言葉が過る。確かに!コントロール不能とか、ヤバすぎるわっ!
ひたすら駆けて、やっと人通りの多いところに出た。安堵するも、すれ違う人たちに奇異の目を向けられている。
「待ってくれっ!お前のためなら…死んでもいいっ!だからーー」
大声で叫びながら、男が追ってきていた。うーわー、重いっ勘弁してっ!
それにしても…惚れたらプロポーズとは。意外とピュアなのか?などと、どうでもいい事を考える。いや、そんな場合ではない。あの様子では、地の果てまでも追ってきそうだ。
撒かなければ。幸い、人通りが多い。速さは劣るが人を避けながら進むため、距離は開いてきている。
よし、逃げ切れると思った。だけどーー
小柄な私のほうが有利だと、勢いに任せ駆け込んだ路地を見て、失敗したことに気付いた。
「い、行き止まり?」
商店の横、大きな荷の積まれた荷車が停められた先には壁が。踏み入れた場所は、袋小路だった。そんな!?
今更引き返せない。咄嗟に荷車の蔭に隠れ、小さくなった。どうか、どうか、こっちに来ないで。
喧騒が遠い。冷や汗が頬を伝う。身じろぎもせず、ただじっと男が遠ざかるのを待った。
ジャリ…と、足音がした。
ヒッと、息を呑む。足音が次第に近づいてくる。
「どこに行った?絶対に、逃さないからな…」
声がする。そこまで来てる!うわあっ、これではホラーとかサスペンスではないか。私、求婚されてたんだよね!?
「ん?」
なにかに気づいたような声がする。え?まさか、待って!?よく見ると、蹲っている私の影が荷の影から少しはみ出している?
「ああ…見つけた!」
万事休す?ギャー、来るなー!
願い虚しく、無情にも男の影が私にかかる。見つかった!身動きできないまま、覗き込んできた男を凝視していた。恐怖で体が動かない。
「ああ?」
男の発する声の、語尾が上がる。
「ひ…」
喉がひりついて、声にならない声が漏れた。どうする?…もう半泣きだ。だけど、次に男の放った言葉は意外なものだった。
「なんだ。ガキかよ」
ーーえ?
身を屈めこちらを覗き見た男は、すぐに姿勢を戻し、そのまま踵を返した。私を完全無視して。
「チッ…」
舌打ちを残しその場を去ろうとして、ピタリと一度立ち止まる。
数秒の間。そしてーー
「ーーあ?……俺はなにをしてたんだ?」
首を傾げて、今度こそ去っていった。
……え?な、なに?アレ、なに?なんなの?つまりはーー
解けた?
『魅了』が解けたーーそんな様子だった。
「は…はは…」
拍子抜けと安堵の入り混じった、乾いた笑いが漏れる。た、助かった!既のところで魅了が解除されたようだ。
しばらくその場に座り込んだ。さっきまでの恐怖で、いまだ動悸が止まらなかったから。それに…考えなければならないことが増えた。私の持っている技能…これはとんでもなく厄介だ。制御が火急の課題なのは間違いない。
かなり特殊な技能だと思われる。誰にも相談できそうにない。私は、この世界のことを知らなすぎる。
困った。
結局、そこに行き着くわけだ。私は困っている。故に、やっぱり神に一言言わねば気が済まない、と。
よし。当初の予定通り、神殿に行こう!懲りずにそう決めて立ち上がった。
「…ん?」
立ち上がって初めて気付いた。あれ?視界が、おかしい?なんでこんな低いの?
すぐ側の荷車を見る。…見上げるほどにデカかった。え、壁?というほど。いや、元々大きな荷を積んではいたけど、こんな見上げるほどでは…なかったはず。
慌てて周囲を見る。荷車だけでなく、建物もなにもかもが大きくなっていた。
「なんで?ぜんぶ、きょだいかしてる?」
思わず漏らした言葉に、更に焦る。あれ?上手く喋れない?妙に、舌足らずでーー
「え…?あれ?」
恐る恐る、我が手を見る。
ちっちゃい、紅葉の手。
「わ~、ぷよぷよしてる~」
幼児特有の柔らかさを堪能すべく、両手をにぎにぎしてはしゃいでみる…って!!なにやってんの?私っ!
周りが巨大化したのではない。私が縮んでいた!
…なんで?
「いいか?」
男にガシリと腕を掴まれた。いいわけないわ!
更には肩にかかる髪を指に絡ませてくる。ゾワワワッと、一気に鳥肌が立った。不揃いになってたのを、ユーレリアさんが肩口で切り揃えてくれたばかりだというのに。触られたところから、バッサリ切ってしまいたくなるではないか。やめてくれ。
「お断りします」
かなり怖かったが、キッパリ言った。大体、何故、態度が急変してプロポーズなんだ?
「頼む!お前のためなら、なんでもする!だから!」
…いきなり「お前」呼ばわり。
初対面。しかも今、私に難癖つけようとしていたよね?軽く肩をぶつけただけなのを、大げさに「痛い」と言ったよね?それが、わずかの間に必死の形相で「結婚してくれ」と懇願している?いや、どう考えてもおかしいって。
「嫌です」
再度、断りの言葉を口にしてーー
ギョッとした。
私の拒絶の言葉を聞いた瞬間、男がこの世の終わりのような顔をしたのだ。そこで思い当たった。…まさか?
『魅了』されている?
自身の持つ技能に思い当たって愕然とした。嘘でしょ!?
冗談ではない。
「とにかくっ!お断りですからっ」
ひときわ大きく拒絶し、腕を振りほどいて駆け出した。
「ああっ!?ま、待ってくれっ!」
背後で声が上がるが、誰が待つか!
逃げるしかない。多分…恐らく…ほぼ間違いなく、『魅了』だ。けれど、コントロールの仕方が分からない!自分の技能であるにも拘らず。いきなり前触れもなく、意識したわけでもなく、望んでもいないのにーーあの男、私に惚れただと!?
ーー「彼女が君に授け力、かなりヤバいよ?」黒い神の言葉が過る。確かに!コントロール不能とか、ヤバすぎるわっ!
ひたすら駆けて、やっと人通りの多いところに出た。安堵するも、すれ違う人たちに奇異の目を向けられている。
「待ってくれっ!お前のためなら…死んでもいいっ!だからーー」
大声で叫びながら、男が追ってきていた。うーわー、重いっ勘弁してっ!
それにしても…惚れたらプロポーズとは。意外とピュアなのか?などと、どうでもいい事を考える。いや、そんな場合ではない。あの様子では、地の果てまでも追ってきそうだ。
撒かなければ。幸い、人通りが多い。速さは劣るが人を避けながら進むため、距離は開いてきている。
よし、逃げ切れると思った。だけどーー
小柄な私のほうが有利だと、勢いに任せ駆け込んだ路地を見て、失敗したことに気付いた。
「い、行き止まり?」
商店の横、大きな荷の積まれた荷車が停められた先には壁が。踏み入れた場所は、袋小路だった。そんな!?
今更引き返せない。咄嗟に荷車の蔭に隠れ、小さくなった。どうか、どうか、こっちに来ないで。
喧騒が遠い。冷や汗が頬を伝う。身じろぎもせず、ただじっと男が遠ざかるのを待った。
ジャリ…と、足音がした。
ヒッと、息を呑む。足音が次第に近づいてくる。
「どこに行った?絶対に、逃さないからな…」
声がする。そこまで来てる!うわあっ、これではホラーとかサスペンスではないか。私、求婚されてたんだよね!?
「ん?」
なにかに気づいたような声がする。え?まさか、待って!?よく見ると、蹲っている私の影が荷の影から少しはみ出している?
「ああ…見つけた!」
万事休す?ギャー、来るなー!
願い虚しく、無情にも男の影が私にかかる。見つかった!身動きできないまま、覗き込んできた男を凝視していた。恐怖で体が動かない。
「ああ?」
男の発する声の、語尾が上がる。
「ひ…」
喉がひりついて、声にならない声が漏れた。どうする?…もう半泣きだ。だけど、次に男の放った言葉は意外なものだった。
「なんだ。ガキかよ」
ーーえ?
身を屈めこちらを覗き見た男は、すぐに姿勢を戻し、そのまま踵を返した。私を完全無視して。
「チッ…」
舌打ちを残しその場を去ろうとして、ピタリと一度立ち止まる。
数秒の間。そしてーー
「ーーあ?……俺はなにをしてたんだ?」
首を傾げて、今度こそ去っていった。
……え?な、なに?アレ、なに?なんなの?つまりはーー
解けた?
『魅了』が解けたーーそんな様子だった。
「は…はは…」
拍子抜けと安堵の入り混じった、乾いた笑いが漏れる。た、助かった!既のところで魅了が解除されたようだ。
しばらくその場に座り込んだ。さっきまでの恐怖で、いまだ動悸が止まらなかったから。それに…考えなければならないことが増えた。私の持っている技能…これはとんでもなく厄介だ。制御が火急の課題なのは間違いない。
かなり特殊な技能だと思われる。誰にも相談できそうにない。私は、この世界のことを知らなすぎる。
困った。
結局、そこに行き着くわけだ。私は困っている。故に、やっぱり神に一言言わねば気が済まない、と。
よし。当初の予定通り、神殿に行こう!懲りずにそう決めて立ち上がった。
「…ん?」
立ち上がって初めて気付いた。あれ?視界が、おかしい?なんでこんな低いの?
すぐ側の荷車を見る。…見上げるほどにデカかった。え、壁?というほど。いや、元々大きな荷を積んではいたけど、こんな見上げるほどでは…なかったはず。
慌てて周囲を見る。荷車だけでなく、建物もなにもかもが大きくなっていた。
「なんで?ぜんぶ、きょだいかしてる?」
思わず漏らした言葉に、更に焦る。あれ?上手く喋れない?妙に、舌足らずでーー
「え…?あれ?」
恐る恐る、我が手を見る。
ちっちゃい、紅葉の手。
「わ~、ぷよぷよしてる~」
幼児特有の柔らかさを堪能すべく、両手をにぎにぎしてはしゃいでみる…って!!なにやってんの?私っ!
周りが巨大化したのではない。私が縮んでいた!
…なんで?
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