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次から次へと嫌になる。やっぱり呪いか?神にケチつけようとしたのが、まずかったのか?大体、なんだあの魔物!まさかの虫!なんで町中に?魔物って外から来るんでしょ?外壁どうしちゃったの!?
呆然と立ち尽くし、一瞬の内に様々な考えが過ぎった。
「逃げるぞ」
背後で声がした。なに?と思った瞬間、誰かが私を抱えて走り出した。
「え?」
抱えられた腕の中、見上げると、必死の形相をした見知らぬ年配の男の人。私は逃げ遅れていて、それをこの人が助けくれたのだと気付いた。
魔物がそこまで迫っている。呆けている場合ではなかったのだ。こうして抱えられているのは『庇護』の効果だろうか?ありがたいけど、でもーー
「ぐはっ」
突然、嫌な声が聞こえたかと思うと男の腕から力が抜けた。そのまま私は落とされ、地面に転がる。
「あうっ」
声が漏れた。今度はなに?
なにがなんだか分からなかったが、緊急事態であることだけは間違いない。痛いのを我慢して顔を上げると、私を抱えていたはずの男がうつ伏せになり横たわっていた。
ブーン。
羽音がする。ハッと視線を上げると、上空に巨大な蜂が飛んでいた。その数、三匹。近くで見ると更に大きく感じる。針をこちらに向け、狙いを定めているかに見えた。
「ーー…っ」
もはや、声も出ない。私を助けようとした男は、あの蜂に刺されたのだ。
蜂から視線を逸らすこともできず、後ろ手をついて後退った。逸らすな。多分、一直線に狙ってくる。分かっているなら、躱せるはず…。ほとんど言い聞かせるように、思考する。
蜂たちはジリジリと後退する私の上を、ブンブン飛び回る。針を向けたまま。まるで狩りを楽しんでいるかのようだ。
恐怖すると同時に、悔しさで涙が滲んだその時ーー
背になにかが当たった。
ビクリとして、視線を移す。当たったのは、黒い金属製の柱?いや、これは…
「さや?」
そうだ。鞘だ。僅かに身を引いて見上げれば、その姿が目に映る。アメジストの嵌った、銀色の柄。収まった鞘も含めて、全体に不可思議な紋様が薄く浮かぶ、かつて勇者が手にしていたという一振りの剣ーー
聖剣『イーディス』がそこにはあった。
呆然と剣を見上げた私のすぐ側で羽音が響く。視線を移したのは僅かの間。それでも魔物が襲ってくるには、十分な間だった。
「ひっ!」
馬鹿だ、私は。剣になんか気を取られてーーそう思っても体は動かない。もう目を瞑るしかなかった。羽音が耳元でする。あー、もうっ!たった三日でまた死ぬのかーー
「……」
「……」
ーー?あれ?
思っていた衝撃が…こない?
「チッ」
舌打ちが聞こえた。
え?
閉じていた目を開けると、広い背中が見えた。
黒ずくめの、身軽そうな装束。白銀の短髪に手甲から覗く肌は褐色という、エキゾチックな色合いーーそんな男が私の前で仁王立ちしていた。え?蜂は?
視界の端に光を感じてそちらに首をひねれば、真っ二つになった蜂が溶けて、小さな光の泡粒が湧き出ているというなんとも奇妙な光景が。呆気にとられ眺めているうちに、光の泡は弾けてどんどん消えていく。
そして、最後にあの恐ろしかった針だけを残して、蜂は跡形もなく消え去ってしまった。…三匹とも。
なんだこれ?
「チッ…まさか、こんな形で担ぎ出されるとは」
低く響く声に、我に返る。
この声はーー聞こえた方角からして間違いない、後ろ姿の男のものだ。
「ありえねえ!絶対、二度と、誰にも手を貸してやる気なんざなかったってのに…」
なにやらブツブツ不平を漏らしている。話しかけてもいいのだろうか?なんとな~く、止めておいた方が良さそうなんだけど。なにがどうしてこうなったのか、まったく分からない以上、この突然現れた人に尋ねるしかないんだよねえ。
「あの…」
「……」
返事がない。でも、怒気は感じる。何故かは知らんが助かったのだし…逃げるか?
そうっと、四つん這いでそこから離れようと腰を上げる。左手を前に突きかけたところでーー
「おい、ジャリ」
声をかけられた。あ、一応、私の存在を認識していたんですね。
「…あい」
渋々、その場で居住まいを正す。背を向けていた男が振り向いた。
わー、予想通り。
いや、それ以上と言ってもいい。振り向いた男は、なんとも神秘的で端整な顔をしていた。澄んだ紫色の強い眼差しは強靭な意思を感じさせ、綺麗なのに精悍な印象を鮮烈に与える。
これは…眼福だ。
「テメエだな?抜いたのは。チッ、クソが」
…但し、口を開かなければ。
「ぬいた?なんのことですか?わたしはなにも、していません」
もう今日は、なにかしらいちゃもんをつけられる日なのか?私がなにをしたと言うんだ?そんな、不快そうな顔をされる覚えはないぞ?
「惚けんな。こっちは制約に縛られてんだ。間違えるわけがねえ。テメエが主だ。忌々しいことに」
「あるじ…え?」
男の言葉に、まさか?と思う。まさか…まさかーー
ギギギッと音がしそうなぎこちなさで、首をひねった。つい先程まで、かたわらに突き刺さっていたはずの、剣のある方へ。
…地面に穴が。聖剣が突き刺さっていた跡と思われる。
「けんが…きえてる?」
「やってくれたな?俺は誰が相手でも、そこから動く気は一切なかったてのに」
不機嫌な声が返ってくる。
「わ…わたし、ぬいてない!」
抵抗を試みた。
「あー、そうだな。でも結果的に抜けちまった」
「なん…で?」
本日三度目の乾いた笑いを漏らしながら、男を見上げる。
「知るか。お前の能力だろ?俺の姿が変わっちまったのは」
「……」
もうなにも言い返せない。やっちまった。そう!やっちまったのだ!
『擬人化』してしまったのだ。よりにもよって、伝説の聖剣を。
呆然と立ち尽くし、一瞬の内に様々な考えが過ぎった。
「逃げるぞ」
背後で声がした。なに?と思った瞬間、誰かが私を抱えて走り出した。
「え?」
抱えられた腕の中、見上げると、必死の形相をした見知らぬ年配の男の人。私は逃げ遅れていて、それをこの人が助けくれたのだと気付いた。
魔物がそこまで迫っている。呆けている場合ではなかったのだ。こうして抱えられているのは『庇護』の効果だろうか?ありがたいけど、でもーー
「ぐはっ」
突然、嫌な声が聞こえたかと思うと男の腕から力が抜けた。そのまま私は落とされ、地面に転がる。
「あうっ」
声が漏れた。今度はなに?
なにがなんだか分からなかったが、緊急事態であることだけは間違いない。痛いのを我慢して顔を上げると、私を抱えていたはずの男がうつ伏せになり横たわっていた。
ブーン。
羽音がする。ハッと視線を上げると、上空に巨大な蜂が飛んでいた。その数、三匹。近くで見ると更に大きく感じる。針をこちらに向け、狙いを定めているかに見えた。
「ーー…っ」
もはや、声も出ない。私を助けようとした男は、あの蜂に刺されたのだ。
蜂から視線を逸らすこともできず、後ろ手をついて後退った。逸らすな。多分、一直線に狙ってくる。分かっているなら、躱せるはず…。ほとんど言い聞かせるように、思考する。
蜂たちはジリジリと後退する私の上を、ブンブン飛び回る。針を向けたまま。まるで狩りを楽しんでいるかのようだ。
恐怖すると同時に、悔しさで涙が滲んだその時ーー
背になにかが当たった。
ビクリとして、視線を移す。当たったのは、黒い金属製の柱?いや、これは…
「さや?」
そうだ。鞘だ。僅かに身を引いて見上げれば、その姿が目に映る。アメジストの嵌った、銀色の柄。収まった鞘も含めて、全体に不可思議な紋様が薄く浮かぶ、かつて勇者が手にしていたという一振りの剣ーー
聖剣『イーディス』がそこにはあった。
呆然と剣を見上げた私のすぐ側で羽音が響く。視線を移したのは僅かの間。それでも魔物が襲ってくるには、十分な間だった。
「ひっ!」
馬鹿だ、私は。剣になんか気を取られてーーそう思っても体は動かない。もう目を瞑るしかなかった。羽音が耳元でする。あー、もうっ!たった三日でまた死ぬのかーー
「……」
「……」
ーー?あれ?
思っていた衝撃が…こない?
「チッ」
舌打ちが聞こえた。
え?
閉じていた目を開けると、広い背中が見えた。
黒ずくめの、身軽そうな装束。白銀の短髪に手甲から覗く肌は褐色という、エキゾチックな色合いーーそんな男が私の前で仁王立ちしていた。え?蜂は?
視界の端に光を感じてそちらに首をひねれば、真っ二つになった蜂が溶けて、小さな光の泡粒が湧き出ているというなんとも奇妙な光景が。呆気にとられ眺めているうちに、光の泡は弾けてどんどん消えていく。
そして、最後にあの恐ろしかった針だけを残して、蜂は跡形もなく消え去ってしまった。…三匹とも。
なんだこれ?
「チッ…まさか、こんな形で担ぎ出されるとは」
低く響く声に、我に返る。
この声はーー聞こえた方角からして間違いない、後ろ姿の男のものだ。
「ありえねえ!絶対、二度と、誰にも手を貸してやる気なんざなかったってのに…」
なにやらブツブツ不平を漏らしている。話しかけてもいいのだろうか?なんとな~く、止めておいた方が良さそうなんだけど。なにがどうしてこうなったのか、まったく分からない以上、この突然現れた人に尋ねるしかないんだよねえ。
「あの…」
「……」
返事がない。でも、怒気は感じる。何故かは知らんが助かったのだし…逃げるか?
そうっと、四つん這いでそこから離れようと腰を上げる。左手を前に突きかけたところでーー
「おい、ジャリ」
声をかけられた。あ、一応、私の存在を認識していたんですね。
「…あい」
渋々、その場で居住まいを正す。背を向けていた男が振り向いた。
わー、予想通り。
いや、それ以上と言ってもいい。振り向いた男は、なんとも神秘的で端整な顔をしていた。澄んだ紫色の強い眼差しは強靭な意思を感じさせ、綺麗なのに精悍な印象を鮮烈に与える。
これは…眼福だ。
「テメエだな?抜いたのは。チッ、クソが」
…但し、口を開かなければ。
「ぬいた?なんのことですか?わたしはなにも、していません」
もう今日は、なにかしらいちゃもんをつけられる日なのか?私がなにをしたと言うんだ?そんな、不快そうな顔をされる覚えはないぞ?
「惚けんな。こっちは制約に縛られてんだ。間違えるわけがねえ。テメエが主だ。忌々しいことに」
「あるじ…え?」
男の言葉に、まさか?と思う。まさか…まさかーー
ギギギッと音がしそうなぎこちなさで、首をひねった。つい先程まで、かたわらに突き刺さっていたはずの、剣のある方へ。
…地面に穴が。聖剣が突き刺さっていた跡と思われる。
「けんが…きえてる?」
「やってくれたな?俺は誰が相手でも、そこから動く気は一切なかったてのに」
不機嫌な声が返ってくる。
「わ…わたし、ぬいてない!」
抵抗を試みた。
「あー、そうだな。でも結果的に抜けちまった」
「なん…で?」
本日三度目の乾いた笑いを漏らしながら、男を見上げる。
「知るか。お前の能力だろ?俺の姿が変わっちまったのは」
「……」
もうなにも言い返せない。やっちまった。そう!やっちまったのだ!
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