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剣として地面に突き刺さっていたものが人型に変われば、それはもう抜けざるを得なく…
こうして誰にも抜くことのできなかった伝説の剣は…抜けた。
剣が人になった。
それは『擬人化』が発動したってことで…またしても意図せず、コントロール不能とは。うわああっ、やっちまった!
不測の事態に、地に伏して手足をバタバタさせた。端から見れば、「やだ、やだーっ」と駄々をこねるお子ちゃまだ。
「どうでもいいが、このまま放っておくと、あのオッサン死ぬぞ」
不貞腐れたような声音。発したのは聖剣だ。ピタリ、と私は手足の動きを止める。アノオッサン…?おっさんーー
「あーーっ!」
慌てて起き上がり、駆け寄った。私を助けてくれた男の人の元へ。
真っ青。血の気が引いて意識がない。でも、脈はある。呼吸もそこまで乱れてない。良かった、生きている。ほっと、息を吐く。
ひと通り恩人の様子を確認したところで、再び声がかかった。
「まあ、その様子なら、半日くらいは保つだろ。毒性の弱い種だったしな」
頭上からの、声の主を見上げる。幾分不機嫌の治まった様子の聖剣が、腕を組んで私を見下ろしていた。
「…」
「神殿より治療院に連れて行った方が早い。蜂毒の解毒剤なら、常備してるだろうから」
「…」
「見たところ背中を刺されているな。患部は抑えない方がいい。麻痺の広がりが速まる。心臓にまで達したらあの世行きだ」
「…まひのどくなんですか?」
「ああ。蜂種はそれで獲物の動きを封じてから、魔素を吸う」
魔素?吸う?いや、それよりもまず訊かなければならないのはーー
「せいけんさんは、いがいとものしりですね?けんなのに、じががあって、ずっとせかいをみききしていたのですか?」
「まあ、俺は特別仕様だからな。…しっかし、こましゃくれたジャリだな、お前」
聖剣は私の物言いに、呆れたような顔をする。その様をじーっと目を逸らさず、しばし見つめた。
「……」
「…なんだ?」
眉根を寄せ、やや困惑気味に問うてくる。
この聖剣、意外と常識人なのでは?少なくとも、今の私よりは。
そんなことを思った。そして、私はこの剣の主となった。まったくの偶然だが。ひょっとしたら、いろいろ補ってもらえるかもしれない。
「しょじじょうあってこのすがたですが、わたしはほんとうは、じゅーきゅーさいです。おおきくなります」
「なにっ?」
こうなったらままよと、思い切って実年齢を口する。
私の言葉を聞いて驚きの声を上げた聖剣は、すぐにしゃがんで顔を覗き込んできた。目を合わせ、黙り込む。
「…ほんとうですよ?」
些か不安になって念を押すと、
「ふーん?」
顎に手を添え、ニヤリと口の端を少し上げた。
「なんです?」
「いや、悪くねえなと思って。同じ主なら、ガキンチョより、若い女の方が断然お得ってもんだ」
「けんなのに、ぞくぶつ!?」
「うるせえな。俺は人間として生きていた時の記憶があんだよ」
「にんげんとして、いきていたきおく?」
「ああ、そうだ。人として生き、一度死んだ」
「しんだ!?」
「それで、だ。やれやれ、やっとおっ死ねたと思っていたところに…あのクソ女が…チッ」
ん?なんだこの話?デジャヴなんですけど…
「くそおんな…?」
「そんなことより、オッサンどうするよ?見捨てるのか?」
「それはダメです!ちりょーいんに、つれていきます」
聖剣は立ち上がり、チラリと倒れている私の恩人を見る。
「連れて行けと言ったが、動かさない方がいい。人を呼べ。できたら医者を」
「…そう、ですか」
そこでようやく、周辺を見た。人っ子一人いない。あれだけ賑わっていたというのに。いや、点々と倒れている人はいる。私同様、逃げ遅れた人たちだろう。これも放ってはおけない。だけど…
「…せいけんさん」
私は意識して困ったという顔をして、隣に立つ男を見上げた。
「……イーディスだ」
忌々しいと言う顔をして、呼び方を訂正してきた。そういえば名のある剣だった。ならば私も礼を尽くそう。ちょっと今は、難ありなのだけれど。
「ふーらーん、ちぇーすーかー、です」
「ふざけてんのか?」
睨まれた。いえ、大真面目です。
「ふつうにいうと、かんでいえなかった、わたしのなまえです」
そうなのだ。フランチェスカとお姉さんに名乗る時に、苦労したのだ。切って、伸ばして、ようやく言えた。
「…とんだ主だな。まあ、仕方ねえ。あー、フランチェスカ?」
「あい」
聖剣さん改めイーディスが、ぼやきながら後ろを向き屈んでくれたので、その背に掴まる。おんぶだな。今の私の歩幅では、無駄な時間を食ってしまう。それを避けたかったのだ。猶予ありとはいえ、多分急いだ方がいい。
「悪くない判断だ。解毒が早いほど後遺症のリスクが下がる」
言いながらイーディスは、落ちていた蜂の針を拾ったかと思うとすぐに駆け出した。やっぱり常識人だ。剣で、俗物だけども。
少し走ったところで羽音が聞こえた。ビクリとする。
「ビビるな。問題ねえよ」
イーディスは気にすることもなく治療院へ向かってゆく。私がナビだ。昨日、お世話になっったばかりの場所なのでたやすい。まあ、診てもらったところで、この記憶喪失は治りはしないのだが。
「いーです!」
蜂が向かって飛んでくるのが目に入り、思わず叫ぶ。
「イーディスな」
発音できないものは仕様がないというのに、訂正してくる。そんな、どこか呑気な様子でイーディスは片手を払った。まるで蝿でも払うかのように。
何故か払った手に剣が握られていて、蜂が真っ二つに切れた。
「ーー!?」
「おわっ!?」
私が驚くのと同時、イーディスも慌てた声を上げる。
「お前なあ!戻るなら戻ると言え」
「え?…ええっ!?」
驚いた拍子、なんと私は元の十九歳の姿に戻った。
「だが、まあ…悪くないな、感触は」
「え?うわっ!どこ触ってんですかっ?」
「背負ってやってるだけだろ?」
「イヒヒッ」と、品のない笑い声が聞こえる。私のお尻を抱える手の動きが、非常に不埒だ。このエロ聖剣め。
思いっきり、頬を抓ってやった。
2 技能というより、呪いなのでは?
こうして誰にも抜くことのできなかった伝説の剣は…抜けた。
剣が人になった。
それは『擬人化』が発動したってことで…またしても意図せず、コントロール不能とは。うわああっ、やっちまった!
不測の事態に、地に伏して手足をバタバタさせた。端から見れば、「やだ、やだーっ」と駄々をこねるお子ちゃまだ。
「どうでもいいが、このまま放っておくと、あのオッサン死ぬぞ」
不貞腐れたような声音。発したのは聖剣だ。ピタリ、と私は手足の動きを止める。アノオッサン…?おっさんーー
「あーーっ!」
慌てて起き上がり、駆け寄った。私を助けてくれた男の人の元へ。
真っ青。血の気が引いて意識がない。でも、脈はある。呼吸もそこまで乱れてない。良かった、生きている。ほっと、息を吐く。
ひと通り恩人の様子を確認したところで、再び声がかかった。
「まあ、その様子なら、半日くらいは保つだろ。毒性の弱い種だったしな」
頭上からの、声の主を見上げる。幾分不機嫌の治まった様子の聖剣が、腕を組んで私を見下ろしていた。
「…」
「神殿より治療院に連れて行った方が早い。蜂毒の解毒剤なら、常備してるだろうから」
「…」
「見たところ背中を刺されているな。患部は抑えない方がいい。麻痺の広がりが速まる。心臓にまで達したらあの世行きだ」
「…まひのどくなんですか?」
「ああ。蜂種はそれで獲物の動きを封じてから、魔素を吸う」
魔素?吸う?いや、それよりもまず訊かなければならないのはーー
「せいけんさんは、いがいとものしりですね?けんなのに、じががあって、ずっとせかいをみききしていたのですか?」
「まあ、俺は特別仕様だからな。…しっかし、こましゃくれたジャリだな、お前」
聖剣は私の物言いに、呆れたような顔をする。その様をじーっと目を逸らさず、しばし見つめた。
「……」
「…なんだ?」
眉根を寄せ、やや困惑気味に問うてくる。
この聖剣、意外と常識人なのでは?少なくとも、今の私よりは。
そんなことを思った。そして、私はこの剣の主となった。まったくの偶然だが。ひょっとしたら、いろいろ補ってもらえるかもしれない。
「しょじじょうあってこのすがたですが、わたしはほんとうは、じゅーきゅーさいです。おおきくなります」
「なにっ?」
こうなったらままよと、思い切って実年齢を口する。
私の言葉を聞いて驚きの声を上げた聖剣は、すぐにしゃがんで顔を覗き込んできた。目を合わせ、黙り込む。
「…ほんとうですよ?」
些か不安になって念を押すと、
「ふーん?」
顎に手を添え、ニヤリと口の端を少し上げた。
「なんです?」
「いや、悪くねえなと思って。同じ主なら、ガキンチョより、若い女の方が断然お得ってもんだ」
「けんなのに、ぞくぶつ!?」
「うるせえな。俺は人間として生きていた時の記憶があんだよ」
「にんげんとして、いきていたきおく?」
「ああ、そうだ。人として生き、一度死んだ」
「しんだ!?」
「それで、だ。やれやれ、やっとおっ死ねたと思っていたところに…あのクソ女が…チッ」
ん?なんだこの話?デジャヴなんですけど…
「くそおんな…?」
「そんなことより、オッサンどうするよ?見捨てるのか?」
「それはダメです!ちりょーいんに、つれていきます」
聖剣は立ち上がり、チラリと倒れている私の恩人を見る。
「連れて行けと言ったが、動かさない方がいい。人を呼べ。できたら医者を」
「…そう、ですか」
そこでようやく、周辺を見た。人っ子一人いない。あれだけ賑わっていたというのに。いや、点々と倒れている人はいる。私同様、逃げ遅れた人たちだろう。これも放ってはおけない。だけど…
「…せいけんさん」
私は意識して困ったという顔をして、隣に立つ男を見上げた。
「……イーディスだ」
忌々しいと言う顔をして、呼び方を訂正してきた。そういえば名のある剣だった。ならば私も礼を尽くそう。ちょっと今は、難ありなのだけれど。
「ふーらーん、ちぇーすーかー、です」
「ふざけてんのか?」
睨まれた。いえ、大真面目です。
「ふつうにいうと、かんでいえなかった、わたしのなまえです」
そうなのだ。フランチェスカとお姉さんに名乗る時に、苦労したのだ。切って、伸ばして、ようやく言えた。
「…とんだ主だな。まあ、仕方ねえ。あー、フランチェスカ?」
「あい」
聖剣さん改めイーディスが、ぼやきながら後ろを向き屈んでくれたので、その背に掴まる。おんぶだな。今の私の歩幅では、無駄な時間を食ってしまう。それを避けたかったのだ。猶予ありとはいえ、多分急いだ方がいい。
「悪くない判断だ。解毒が早いほど後遺症のリスクが下がる」
言いながらイーディスは、落ちていた蜂の針を拾ったかと思うとすぐに駆け出した。やっぱり常識人だ。剣で、俗物だけども。
少し走ったところで羽音が聞こえた。ビクリとする。
「ビビるな。問題ねえよ」
イーディスは気にすることもなく治療院へ向かってゆく。私がナビだ。昨日、お世話になっったばかりの場所なのでたやすい。まあ、診てもらったところで、この記憶喪失は治りはしないのだが。
「いーです!」
蜂が向かって飛んでくるのが目に入り、思わず叫ぶ。
「イーディスな」
発音できないものは仕様がないというのに、訂正してくる。そんな、どこか呑気な様子でイーディスは片手を払った。まるで蝿でも払うかのように。
何故か払った手に剣が握られていて、蜂が真っ二つに切れた。
「ーー!?」
「おわっ!?」
私が驚くのと同時、イーディスも慌てた声を上げる。
「お前なあ!戻るなら戻ると言え」
「え?…ええっ!?」
驚いた拍子、なんと私は元の十九歳の姿に戻った。
「だが、まあ…悪くないな、感触は」
「え?うわっ!どこ触ってんですかっ?」
「背負ってやってるだけだろ?」
「イヒヒッ」と、品のない笑い声が聞こえる。私のお尻を抱える手の動きが、非常に不埒だ。このエロ聖剣め。
思いっきり、頬を抓ってやった。
2 技能というより、呪いなのでは?
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