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「避難民?それで娼館に寝泊まり?」
「そうなんです。だからイーディスを、連れて帰るわけにはいかないんですよ」
「俺は同室でも構わんぞ?主サマ?」
「うーわー。いやらしい笑顔。ご遠慮願います」
「ああん?俺を剣に戻せばいいだけだろ?」
「できれば苦労しません。技能がコントロール不能なんです」
「…それでいきなり、ジャリから姿が戻ったのか」
「そうです。でも、困りましたね。治療院に泊めてもらえるよう頼んでみます?」
「冗談だろ。おちおち眠っていられねえ。あー、分かった。安宿にでも泊まる」
「お金、持ってます?ちなみに私は持ってないですよ?」
「それは、ふんぞり返って言うことか?さっき、蜂の針を売っといた。数日は問題ないだろ」
「…え?」
昨夜別れ際に交わした、イーディスとの会話。まさかこの後、彼が傭兵ギルドへ足を運び、登録したなどと誰が思う?更には依頼を一件受けているなんてーー
スパッと視界で、カブトムシが切れた。
切った男は涼しい顔で、手にした剣を軽く振る。すると途端に、剣が手から消えた。
『武器生成』って、便利だな。
少し離れた安全な木の下で、イーディスのカブトムシ狩りの様子を眺めていた。場所は町を出て南西へ数キロいったところにある森。
広場に人が更に増え、私たちは話を中断した。どこか落ち着いて話をと思っていたら、イーディスが「少し付き合え」と言って、ここに連れてこられたのだ。まさかの魔物討伐。依頼達成のために。いや、ホント世慣れた聖剣だ。
感心すると同時に、申し訳なくも思う。宿代を稼ぐ必要を強いている。甲斐性のない主でスミマセン。
「魔物って、虫ばかり…」
ぼうっとあれこれ考えながら、そのうちの一つを呟いた。
「お前、本当になにも知らないんだな」
気付くとイーディスが、隣で腰を下ろしていた。
「…巨大カブトムシは?」
イーディスの身長の、三分の一くらいはあったな。
「残らず狩った」
「そうですか」
私もそこでしゃがみ込む。盛り上がった木の根っこが、良い椅子代わりとなった。カブトムシ出没のため、人気は皆無。話をするのにうってつけだ。
「四日前に来たばかりですからね」
その前の、「なにも知らないんだな」という言葉に対して返事をする。
「あんの、クソババアが…」
ここに来る道中で、これまであったことをすべて話した。神のことも含めて。町を出たら人もまばらで、聞かれる心配はほとんどなかったので。そして白い神は、「クソ女」から「クソババア」に格上げ(?)となった。
「いいか?この世界の生物は、体内の魔素が枯渇すると魔物に転じる」
お?いきなりレクチャーが始まった。
「先生!魔素ってなんですか?」
「それな。魔素は魔素としか、言いようがない。まあ、そこら中漂って、体内にもある、魔法を使用すると消費されるモノ、と考えろ」
「魔法…虫も魔法を使うってこと?」
「いや、魔法を使う使わないは関係なく、生物の構成要素として含まれている」
「それが枯渇する?」
「虫は小さいからな。影響を受けやすい」
「影響?」
「体内の魔素は常に循環している。外から取り入れ、内から出す。そうして一定量を保つ。魔素の著しく薄い場所に長時間いると、出ていく魔素と入ってくる魔素のバランスが崩れ、やがて体内の魔素がなくなる」
「環境に影響されるってこと?」
「そういうこった」
「蜂が魔素を吸うって言ってましたね?それは魔物の特性ですか?」
「そうだ。摂取の仕方はそれぞれ異なるが、魔素は魔物の好物とされている。人の体内には凝縮された魔素が流れているから、放っておけば肉や体液ごと死ぬまで貪られる」
「こわっ。それって、必ず人を襲うってこと?では、あの状態は?」
私は視界に映る、イーディスの切ったカブトムシの残骸を指差す。蜂の時と同様、泡粒となり弾けて消えかけている状態だった。どうやら角の部分だけは残りそうだ。
「魔素還りだ。魔物は死ぬと大部分がああやって魔素の泡となり、霧散して大気に還る」
…ん?なんで?
「魔素が枯渇して魔物になるんですよね?なのに魔素に還る?」
「まあ、そう思うわな。どういう仕組みなのやら。魔物ってのは、魔素を体内で作り出す生き物なんだよ。それ故に、こうして狩られる。皮肉だが魔物の存在があって、魔素が保たれている」
「うーん?自分で作り出せるのに、わざわざ人を襲うのは何故です?」
「それも魔物の特性だ。魔物は他の生物と違って、体内の魔素が循環しない。取り込んで大きくなるばかりだ。当然、大きければ強い個体となり、大きければ大きいほど良い。生き残るための本能だな」
「…」
生物の魔素が枯渇して魔物となる。その魔物は魔素を生み出し、魔素へと還る。そうしてこの世界は廻っているってこと?
…分かったような、分からないような。
「まあ、魔物は自然災害の一つと思え。かなり物騒で、行動を制限されるがな」
イーディスが締め括った。
まいったな。改めて知ってしまうと、かなり怖い話だ。魔物が出るなんて、そんな当たり前のように言われても…。いつどこで魔物と遭遇するか分からない世界なんて、やっていけるのか私?
「そんなビビるな。基本、町に魔物は出ねえぞ?」
余程、私は嫌そうな顔をしたのだろう。イーディスが補足してきた。でもーー
「はい?昨日の今日で、それを言います?」
思いっきり、町中に出ているではないか~!うっかり死にかけたんだぞ?私は。
「昨日のアレがイレギュラーだ。…それが気になるところだが…まあとにかく、町には神樹がある。魔物は近づかねえよ」
「え?なんて?」
…しんじゅ?
また知らない単語が出てきた。
「そうなんです。だからイーディスを、連れて帰るわけにはいかないんですよ」
「俺は同室でも構わんぞ?主サマ?」
「うーわー。いやらしい笑顔。ご遠慮願います」
「ああん?俺を剣に戻せばいいだけだろ?」
「できれば苦労しません。技能がコントロール不能なんです」
「…それでいきなり、ジャリから姿が戻ったのか」
「そうです。でも、困りましたね。治療院に泊めてもらえるよう頼んでみます?」
「冗談だろ。おちおち眠っていられねえ。あー、分かった。安宿にでも泊まる」
「お金、持ってます?ちなみに私は持ってないですよ?」
「それは、ふんぞり返って言うことか?さっき、蜂の針を売っといた。数日は問題ないだろ」
「…え?」
昨夜別れ際に交わした、イーディスとの会話。まさかこの後、彼が傭兵ギルドへ足を運び、登録したなどと誰が思う?更には依頼を一件受けているなんてーー
スパッと視界で、カブトムシが切れた。
切った男は涼しい顔で、手にした剣を軽く振る。すると途端に、剣が手から消えた。
『武器生成』って、便利だな。
少し離れた安全な木の下で、イーディスのカブトムシ狩りの様子を眺めていた。場所は町を出て南西へ数キロいったところにある森。
広場に人が更に増え、私たちは話を中断した。どこか落ち着いて話をと思っていたら、イーディスが「少し付き合え」と言って、ここに連れてこられたのだ。まさかの魔物討伐。依頼達成のために。いや、ホント世慣れた聖剣だ。
感心すると同時に、申し訳なくも思う。宿代を稼ぐ必要を強いている。甲斐性のない主でスミマセン。
「魔物って、虫ばかり…」
ぼうっとあれこれ考えながら、そのうちの一つを呟いた。
「お前、本当になにも知らないんだな」
気付くとイーディスが、隣で腰を下ろしていた。
「…巨大カブトムシは?」
イーディスの身長の、三分の一くらいはあったな。
「残らず狩った」
「そうですか」
私もそこでしゃがみ込む。盛り上がった木の根っこが、良い椅子代わりとなった。カブトムシ出没のため、人気は皆無。話をするのにうってつけだ。
「四日前に来たばかりですからね」
その前の、「なにも知らないんだな」という言葉に対して返事をする。
「あんの、クソババアが…」
ここに来る道中で、これまであったことをすべて話した。神のことも含めて。町を出たら人もまばらで、聞かれる心配はほとんどなかったので。そして白い神は、「クソ女」から「クソババア」に格上げ(?)となった。
「いいか?この世界の生物は、体内の魔素が枯渇すると魔物に転じる」
お?いきなりレクチャーが始まった。
「先生!魔素ってなんですか?」
「それな。魔素は魔素としか、言いようがない。まあ、そこら中漂って、体内にもある、魔法を使用すると消費されるモノ、と考えろ」
「魔法…虫も魔法を使うってこと?」
「いや、魔法を使う使わないは関係なく、生物の構成要素として含まれている」
「それが枯渇する?」
「虫は小さいからな。影響を受けやすい」
「影響?」
「体内の魔素は常に循環している。外から取り入れ、内から出す。そうして一定量を保つ。魔素の著しく薄い場所に長時間いると、出ていく魔素と入ってくる魔素のバランスが崩れ、やがて体内の魔素がなくなる」
「環境に影響されるってこと?」
「そういうこった」
「蜂が魔素を吸うって言ってましたね?それは魔物の特性ですか?」
「そうだ。摂取の仕方はそれぞれ異なるが、魔素は魔物の好物とされている。人の体内には凝縮された魔素が流れているから、放っておけば肉や体液ごと死ぬまで貪られる」
「こわっ。それって、必ず人を襲うってこと?では、あの状態は?」
私は視界に映る、イーディスの切ったカブトムシの残骸を指差す。蜂の時と同様、泡粒となり弾けて消えかけている状態だった。どうやら角の部分だけは残りそうだ。
「魔素還りだ。魔物は死ぬと大部分がああやって魔素の泡となり、霧散して大気に還る」
…ん?なんで?
「魔素が枯渇して魔物になるんですよね?なのに魔素に還る?」
「まあ、そう思うわな。どういう仕組みなのやら。魔物ってのは、魔素を体内で作り出す生き物なんだよ。それ故に、こうして狩られる。皮肉だが魔物の存在があって、魔素が保たれている」
「うーん?自分で作り出せるのに、わざわざ人を襲うのは何故です?」
「それも魔物の特性だ。魔物は他の生物と違って、体内の魔素が循環しない。取り込んで大きくなるばかりだ。当然、大きければ強い個体となり、大きければ大きいほど良い。生き残るための本能だな」
「…」
生物の魔素が枯渇して魔物となる。その魔物は魔素を生み出し、魔素へと還る。そうしてこの世界は廻っているってこと?
…分かったような、分からないような。
「まあ、魔物は自然災害の一つと思え。かなり物騒で、行動を制限されるがな」
イーディスが締め括った。
まいったな。改めて知ってしまうと、かなり怖い話だ。魔物が出るなんて、そんな当たり前のように言われても…。いつどこで魔物と遭遇するか分からない世界なんて、やっていけるのか私?
「そんなビビるな。基本、町に魔物は出ねえぞ?」
余程、私は嫌そうな顔をしたのだろう。イーディスが補足してきた。でもーー
「はい?昨日の今日で、それを言います?」
思いっきり、町中に出ているではないか~!うっかり死にかけたんだぞ?私は。
「昨日のアレがイレギュラーだ。…それが気になるところだが…まあとにかく、町には神樹がある。魔物は近づかねえよ」
「え?なんて?」
…しんじゅ?
また知らない単語が出てきた。
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