灰色の旅人

ふたあい

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3ー4

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「神樹ってなんですか?」
「まんま、神の木だな」

 …神。

 またか。私の質問に答えるイーディスの顔が、不快そうになっている。もう諦めろ。どこ切り取っても、神に辿り着くって。いい加減、分かってきたよ。ここはそういう世界だ。
「木に罪はありませんよ。説明お願いします」
「チッ。なにが神だ。クソが」
「私、一度神殿の祭壇前で文句を言ってやろうと思っているんですが、どうです?一緒に行きますか?」
「ハハッ、やめとけ、やめとけ。あのクソババアが、んなことに耳を傾けるわけねえだろ。目の前でケチつけたって、聞いてなかったんだ」
「……言われてみれば」
 私もイーディスも、ここへ来ることは断ったんだよね。はっきりと。で、完全スルーされた結果が今であって…

「時間の無駄だ」

 ズバッとイーディスに言われ、頭を垂れた。
「そうですね…では、神樹の説明を」
「俺もそれほど詳しいってわけではないんだが、仕方ねえな。神樹は神の奇跡とも言われる、二つの性質がある」
「神の奇跡…」
「その一つが『魔物除け』で、生い立つ場所から一定範囲、魔物を寄せつけない。加え、広い範囲で魔素を循環させる。そのため範囲内は魔素がほぼ均一だ。町や村は神樹ありきで造られているから、魔物が侵入することはまずないし、中で魔物が生まれることもない、はずなんだがーー」
「えーっと?出ちゃいましたね?魔物」
「……だな。そもそも、ホルルカがーー…」
 言いさしてイーディスは、黙り込んでしまった。腑に落ちないといった表情で。さっきもそれが気になると言っていたな。
 町に魔物が出るということは、かなりの異例なのだろうと思われる。何故そんな滅多に起こらない事象に当たるかね。ひょっとして私、かなり不運なのでは?
「考えているところを悪いのですが、話の続きをいいですか?」
「ん?あ、ああ。わりいな、中断しちまった。あー?どこまで話した?」
「神樹の一つ目の性質を聞いたところです。二つ目はどんなものなんですか?」
 私も気にはなるが、後にしよう。とにかく知るべきことを知らなくては。
「二つ目は『最適化』だが…さて、どう説明したもんかね」
「最適化?」
「ああ。なんつーかな、神樹は切り出すと特殊な素材になるんだよ。その時点で一つ目の性質は消えちまうんだが…と、そうだ。お前も持ってるな」
「持ってる?私が、神樹を?」
「持ってるだろ?身分証」
「え?あ、コレ?」
 内ポケットから身分証を取り出す。
「そうだ。そいつは神樹でできている」
「そういえば、元は木だったような…」
「身分証になった瞬間、金属製に変わっただろ?刻まれた情報込みで、それが『最適化』だ。用途によって形状が相応しいものに変わる。どれどれ…」
 イーディスが私の身分証を、ひょいと取り上げた。
「あ、ちょっとーー」
「別にいいだろ?俺も見せたんだ。それに、守る上で主がどんな能力を持っているのか、よく知っておきたい」
 尤もらしいことを言って口の端を上げる。まあ、いいけどね。内容はほとんど話しているし。イーディスの手にした私の身分証に手を伸ばし、『フランチェスカ』の文字をなぞった。


 適性   他力本願
      ※※※※


「…なんだ、この伏せ字は?」
「ああ、そっちは言ってませんでしたね。そうなんですよ、何故か非表示でーー」
「非表示?適性や技能は得た時点で、初めて表示される。伏せ字でも表示があるってことは、こいつはすでにお前が持っている適性のはずだが…」
「多分、名前同様この体の元の持ち主が、持っていた適性かと思ってるんですが」
「元の?ああ、言ってたな。死体に入れられたようだと…ちょっとこの適性、なぞってみろ」
「え?うわ、ちよっとーー」
 いきなり手を掴んて引っ張らないで。そっちの適性には、なにも技能はなかったんですよ。表示が変わらなかったんだかーー

 え?


 技能   ※※※※


「こっちも伏せ字かよ」
「え?待って?なんで?前に見た時は、表示は変わらなかった。なにも技能なんてなかったの…に…?」
「へえ?そうなのか?まあ、いい。もう一つの技能も見せてみろ」
「あ、はい」
 そう言われて表示を変えたけれど、『他力本願』の方の技能に変化はなかった。

「しっかし、笑えねえ適性に妙な技能ばかりだな。まあ、あのクソババアのやりそうなことではあるが」
 身分証を返してくれながら、イーディスが苦笑する。やっぱり誰の目から見ても、普通ではない技能のようだ。…仕事に繋がる技能が欲しい。
「そうなんですよ。しかも思うように扱えなくて」
「それはどうだろうな?」
「え?」
「話を聞く限り、使いこなしてるんじゃねえか?必要時に、必要な技能が使われている」
「そ、そうですか?でも、だったらどうして、イーディスを剣に戻せないんだろう?」
「そんなの簡単だ。必要なんだろ?俺がーーって、イテえっ」
 調子良く肩にまわしてきた手を、思いっきり抓ってやった。
「まあ、確かに必要ではあるか…あ、そうだ。イーディスは身分証を、どこで手に入れたんですか?」
「テメエ、いい性格してやがんな。はあ。身分証は端から持っていた。まったく、うってつけの質問をしやがる」
「うってつけ?」
「俺の身分証も当然、神樹製なわけだが…本来は別の形をとっている」
「別の?」
「鞘だ」
「さや?」
「鞘が神樹でできてんだよ」
「…つまり?」
「お前の『擬人化』を受けて、刀身は俺、鞘は身分証になった。まさに『最適化』だ。ついでに言うと、『武器生成』の正体がコイツだ」
 自分の身分証を、ひらひらさせるイーディス。ん?んんっ?え?と、いうことはーー
「え、えーっと?その身分証は、実は剣の鞘であって…それからーー」
「武器にも変わる」
 ひらめかせていた身分証が、突然ナイフに変化した。
「えーっ?おかしい!あきらかにおかしいっ!質量が合わないっ!」
「そこはお前の技能と合わさった結果だな。質量云々を気にするなら、今の俺と剣の俺はあきらかに合わねえだろ?大体、テメエも伸び縮みしてんじゃねえか」
「ぐっ」
 ううっ。なんだろう。この敗北感。
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