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「さっきの伏せ字だがーー」
妙な敗北感に両手を握りしめ俯く私に、イーディスの声がかかる。
「はい?」
伏せ字?ああ、身分証の話か。顔を上げ、隣に座る男を見た。…美人だな。しみじみ思う。
「なんだ?」
「…いえ。続きをどうぞ」
「適性ってのは、魂の色のようなものだ。体の元の持ち主が死んでいると言うなら、残っているとは思えん」
「え?では、あの非表示の適性と技能は私のものだと?あれが私自身の能力ならば、伏せられていのは何故です?」
「そこなんだがお前、ユユギの駒でもあるんだろ?」
「ユユギ?」
「クソババアのゲームの相手。魔族の崇める破壊と安息の神ユユギ。お前の言っていた黒い神のことだ」
…あ、ソレ完全に失念してた。白い神が強烈すぎて。
「破壊と安息の神…」
「俺は会っていない。だから、どんな奴なのかは知らんが」
「イーディスは会ってないんですか?」
「お前と違って俺は、クソババアの方が出向いて来たからな。それも輪廻の流れに乗る前に。そのせいで記憶が残っちまってる」
「輪廻の流れ…?」
「クソババアが、ぶつくさ言ってやがった。輪廻の流れを進み、自我の薄れたところで釣るつもりだったーー予定外だと」
それは…並んでいたあの行列が輪廻の流れ、ということか?そして、それを進むにつれ、自分を失くしていくと?確かに。そうだった気がする。イーディスと私の記憶に関する違いに、そんな理由があったなんて。つくづく鈍臭い己が情けないわ。
「でも、それって…」
「記憶がない方が御しやすい、と考えたんだろうよ。クソが」
うわあ。最悪。ホント、あの白い神は迷惑以外の何者でもない。
「つーわけで、早いとこ開示しちまえ」
「はい?」
頭を抱えていると、イーディスの声が上から降ってくる。ハイ?なんだって?
眉根を寄せて隣を見上げた。
「お前の話では、ユユギからも能力を押しつけられたんだろ?伏せ字はその表れだと思うぜ?だから開示しろっつってんだ」
「え?でも、開示って…あ」
アレ、か?
「身分証を発行した時のアレでは、すべてを表示するには不足だった。俺はそう予想する」
「…」
身分証を取り出した。そうなのか?そういう単純なことなのか?まあ、試してみる価値は十二分にある。となると、応用すればいいだけだけど…
「こむずかしく考えんな。あんなもん、正確さは問わねえ」
有り難いイーディスのアドバイス。だったら気楽に唱えるとしますか。えーっと、なんだっけ確かーー
「破壊と安息の神、ユユギに願う。汝が子としての証を示し給え」
仰々しさを省いて口にした。それでも手にした身分証は、今回は金色の炎を纏って燃えた。ほんの一瞬、熱くもなく。ビンゴだ。
身分証を確認する。
フランチェスカ 十九歳
人族
ホルルカ島
ここまでは変化なし。でもその次はーー名前の文字をなぞる。
適性 他力本願
苦労次第
「……」
「……ブフッ」
覗き見ていたイーディスが吹き出した。
「イ~ディス~?」
「おまっ…まともな適性はねえのかよ?」
腹を抱えて笑っている。…まあ、そうだな。確かに、これは酷い。笑うしかないほどに。これが適性というのは、あまりにも…その、なんだ?もはや、どこを突っ込めばいいのかも分からない。黒い神よ。コレ、白い神のくれた能力の真逆なの?
「うう…」
「技能の方、見せてみろ」
呻く私に、笑いながらイーディスが言う。覚えてろ~!この屈辱、忘れんぞ!ひと睨みして『苦労次第』の文字をなぞった。
技能 技能拒絶
…なにこれ?適性が適性なら、技能も技能だ。意味不明。頼むから職を得るのに有利な技能をくれ。
「こいつはまた…どう見るべきか」
イーディスが真顔に戻って、そんなことを呟いた。私も腕を組んで考える。
初めはなかった技能。ならば、これまでに起こった事柄が元で身に付いた技能だ。
「新しく得たものなら、一度は発動しているはずだ」
「一度は…」
ーーそうか。
さり気なく、考えの手助けをしてくれる。本当にこの聖剣は、今の私に必要な存在のようだ。お陰で答えを得られた。
「分かりました。『魅了』です」
「あん?分かるように言え」
「あの時ーー『魅了』にかかった男に付きまとわれた時、『庇護』で危機回避はできていた。にもかかわらず、『魅了』は解除された。多分、それは解除ではなく、拒絶だったんです」
「…そんな話もしていたか。クソババアのくだりで、頭に血が上って抜けてたな。つまり、お前は『魅了』の技能を拒絶したってわけだ」
「多分、そうです」
「ふーん?」
まじまじとイーディスがこちらを見てくる。
「なんです?」
「いや、なんでも?」
意味深に口の端を上げて、そう答えられてもなあ。気になるんですけど?そう思っていたら…
「まあ、お前が主なら悪くはねえな」
「え?」
不意打ちだった。
それはもう、綺麗な、綺麗な、笑みに表情を変えてーーそんな台詞を、言ってくれたものだから。
「ーーっ!」
思わず仰け反り、イーディスから距離を取ろうとした。だけど、すかさずその離れようとした相手に手を掴まれる。
「なんでっ!?」
「いや、そっちこそ、このタイミングで離れようとするか?」
「え?でも…だって、顔面凶器?これは危険だと思って」
「はあ?失礼な主だな」
いつもの仏頂面に戻りながら、ぐいぐい腕を引いてくるイーディス。
「わーっ、ちよっとー」
私は焦ってーー
カシャンッ。
なにかが落ちた音が響いた。
「…あ」
目の前のイーディスが消えている。その代わりに、そこには一振りの剣が落ちていた。
3 聖剣サマの語るには
妙な敗北感に両手を握りしめ俯く私に、イーディスの声がかかる。
「はい?」
伏せ字?ああ、身分証の話か。顔を上げ、隣に座る男を見た。…美人だな。しみじみ思う。
「なんだ?」
「…いえ。続きをどうぞ」
「適性ってのは、魂の色のようなものだ。体の元の持ち主が死んでいると言うなら、残っているとは思えん」
「え?では、あの非表示の適性と技能は私のものだと?あれが私自身の能力ならば、伏せられていのは何故です?」
「そこなんだがお前、ユユギの駒でもあるんだろ?」
「ユユギ?」
「クソババアのゲームの相手。魔族の崇める破壊と安息の神ユユギ。お前の言っていた黒い神のことだ」
…あ、ソレ完全に失念してた。白い神が強烈すぎて。
「破壊と安息の神…」
「俺は会っていない。だから、どんな奴なのかは知らんが」
「イーディスは会ってないんですか?」
「お前と違って俺は、クソババアの方が出向いて来たからな。それも輪廻の流れに乗る前に。そのせいで記憶が残っちまってる」
「輪廻の流れ…?」
「クソババアが、ぶつくさ言ってやがった。輪廻の流れを進み、自我の薄れたところで釣るつもりだったーー予定外だと」
それは…並んでいたあの行列が輪廻の流れ、ということか?そして、それを進むにつれ、自分を失くしていくと?確かに。そうだった気がする。イーディスと私の記憶に関する違いに、そんな理由があったなんて。つくづく鈍臭い己が情けないわ。
「でも、それって…」
「記憶がない方が御しやすい、と考えたんだろうよ。クソが」
うわあ。最悪。ホント、あの白い神は迷惑以外の何者でもない。
「つーわけで、早いとこ開示しちまえ」
「はい?」
頭を抱えていると、イーディスの声が上から降ってくる。ハイ?なんだって?
眉根を寄せて隣を見上げた。
「お前の話では、ユユギからも能力を押しつけられたんだろ?伏せ字はその表れだと思うぜ?だから開示しろっつってんだ」
「え?でも、開示って…あ」
アレ、か?
「身分証を発行した時のアレでは、すべてを表示するには不足だった。俺はそう予想する」
「…」
身分証を取り出した。そうなのか?そういう単純なことなのか?まあ、試してみる価値は十二分にある。となると、応用すればいいだけだけど…
「こむずかしく考えんな。あんなもん、正確さは問わねえ」
有り難いイーディスのアドバイス。だったら気楽に唱えるとしますか。えーっと、なんだっけ確かーー
「破壊と安息の神、ユユギに願う。汝が子としての証を示し給え」
仰々しさを省いて口にした。それでも手にした身分証は、今回は金色の炎を纏って燃えた。ほんの一瞬、熱くもなく。ビンゴだ。
身分証を確認する。
フランチェスカ 十九歳
人族
ホルルカ島
ここまでは変化なし。でもその次はーー名前の文字をなぞる。
適性 他力本願
苦労次第
「……」
「……ブフッ」
覗き見ていたイーディスが吹き出した。
「イ~ディス~?」
「おまっ…まともな適性はねえのかよ?」
腹を抱えて笑っている。…まあ、そうだな。確かに、これは酷い。笑うしかないほどに。これが適性というのは、あまりにも…その、なんだ?もはや、どこを突っ込めばいいのかも分からない。黒い神よ。コレ、白い神のくれた能力の真逆なの?
「うう…」
「技能の方、見せてみろ」
呻く私に、笑いながらイーディスが言う。覚えてろ~!この屈辱、忘れんぞ!ひと睨みして『苦労次第』の文字をなぞった。
技能 技能拒絶
…なにこれ?適性が適性なら、技能も技能だ。意味不明。頼むから職を得るのに有利な技能をくれ。
「こいつはまた…どう見るべきか」
イーディスが真顔に戻って、そんなことを呟いた。私も腕を組んで考える。
初めはなかった技能。ならば、これまでに起こった事柄が元で身に付いた技能だ。
「新しく得たものなら、一度は発動しているはずだ」
「一度は…」
ーーそうか。
さり気なく、考えの手助けをしてくれる。本当にこの聖剣は、今の私に必要な存在のようだ。お陰で答えを得られた。
「分かりました。『魅了』です」
「あん?分かるように言え」
「あの時ーー『魅了』にかかった男に付きまとわれた時、『庇護』で危機回避はできていた。にもかかわらず、『魅了』は解除された。多分、それは解除ではなく、拒絶だったんです」
「…そんな話もしていたか。クソババアのくだりで、頭に血が上って抜けてたな。つまり、お前は『魅了』の技能を拒絶したってわけだ」
「多分、そうです」
「ふーん?」
まじまじとイーディスがこちらを見てくる。
「なんです?」
「いや、なんでも?」
意味深に口の端を上げて、そう答えられてもなあ。気になるんですけど?そう思っていたら…
「まあ、お前が主なら悪くはねえな」
「え?」
不意打ちだった。
それはもう、綺麗な、綺麗な、笑みに表情を変えてーーそんな台詞を、言ってくれたものだから。
「ーーっ!」
思わず仰け反り、イーディスから距離を取ろうとした。だけど、すかさずその離れようとした相手に手を掴まれる。
「なんでっ!?」
「いや、そっちこそ、このタイミングで離れようとするか?」
「え?でも…だって、顔面凶器?これは危険だと思って」
「はあ?失礼な主だな」
いつもの仏頂面に戻りながら、ぐいぐい腕を引いてくるイーディス。
「わーっ、ちよっとー」
私は焦ってーー
カシャンッ。
なにかが落ちた音が響いた。
「…あ」
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