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「傭兵に!?」
エイデンさんが素っ頓狂な声を上げた。
「はい。イーディスが勧めてくれたんです」
「いや、しかしな。君はそういった技能を持っているのか?私の目には、そうは映らないのだが」
「ええ。その通り、持ってません」
私は苦笑した。
「ならば何故…」
理解できないといった表情で、エイデンさんは腕を組み首を傾げる。その様子に安堵した。
良かった。どこも動きに支障はなさそう。
エイデンさんは六日前に起こった魔物の襲来の際、私を抱えて逃げようとしてくれた恩人その人である。こうして麻痺の後遺症もなく元気なご様子で、大変喜ばしい。そして眉根を寄せる姿が大変渋く、大変格好が良い。ロマンスグレーの、所謂イケオジさんだ。
イーディスよりエイデンさんに見惚れることの方が多い、実年齢が推し知れるなあと思う今日このごろ。私は治療院の手伝いで、僅かばかりの日銭を稼いでいた。ホルルカ島の魔物討伐補助のため出向いている職員が、戻ってくるまでという期限付きだが。
ここは治療院で、エイデンさんの病室。昼食後の薬を持って訪れていた。
フランチェスカは、元が薬師ということもあって器用だった。包帯巻きも、指示を受けながらの調剤も、お手のものとしたので非常に重宝がられている。
でも、技能には結びつかない。
切実に薬師の技能が欲しいと思う。だけど、身体が諸々の動作を覚えていても、知識がないのだ。無理というものだろう。まあ、こうして世話をして、エイデンさんに恩を少しでも返せるのなら良しとするか。実際はこうしてお悩み相談を持ちかけて、一層世話になっているだけだが。
「君もイーディス殿に助けられたと聞いている。彼はどんな考えで、傭兵などを勧めたのだろう?」
エイデンさんは、身を起こしベッドへ腰掛けた。それから私の差し出すコップの水を受け取って、疑問を投げかける。
「そうですね~。はい。最後のお薬です。明日には退院ですね」
にっこり微笑み、薬を手渡した。
ご尤もです。
蜂毒に倒れたエイデンさんを救ったのはイーディス。エイデンさんの助けようとした子供を助けたのもイーディスで、親元に送り届けたことになっている。幸いにもエイデンさんは幼児化した私の姿はよく見ていなかったらしく、そっくりな容姿の私が怪しまれることはなかった。
その私もイーディスに助けられた一人となっている。いや、全部本当のことなんだけどね。ただ、私とエイデンさんの助けようとした子供が、同一人物だということを伏せただけ。
だけどそのせいで、エイデンさんに助けられたお礼を口にできない。そこは心苦しい。かと言って、私のふざけた技能は、誰にでも話せるものではない。自分でも思うし、イーディスにも止められた。「悪用価値がありすぎる」って…傷つくわ。
イーディスは冷静だ。この世界の世間というものをよく知ってもいる。そのイーディスが言うのだ。
仕事なら傭兵にしろ、と。
「それで?彼はなんと言って、君に傭兵業を勧めたんだい?」
「えーっと…私の適性なら向いていると…」
「適性?君は彼に、自身の適性を教えたのかい?」
「え?あ、はい、まあ…」
「なんと?そうか、君たちはそんな仲だったのか」
「へ?えっ?いいえ?多分、ちが…」
「適性は己の魂の姿を示したものだ。余程信頼できる者ーーそれこそ家族や恋人くらいにしか教えるものではないだろう?」
「ええ?あーまあ、信頼はしてますかね?」
「ほう?」
微笑ましいものを見る目をして、エイデンさんは手にした薬を飲んだ。
…完全に誤解されている。
いや、あながち間違いとも言えない?なにせ出会って六日目。すでに私たちは一緒に住んでいる。…正確にはイーディスの借りた部屋に、私が転がり込んだだけだが。
いつまでもホワイト・ローズに世話になるわけにはいかない。ならばと三日前、イーディスが賃貸の部屋を借りてくれたのだ。『他力本願』の本領発揮である。白い神の狙い通り、私はなにもしなくても住む家を得ている。泣けてきた。
そして、スキあらば迫ってくるイーディスを剣に戻して一夜を明かしたら、散々に文句を言われた。自分が「剣に戻せばいいだけだ」と言ったくせに。仕方ないので、次の夜から私が幼児化した。これなら間違いも起こらないだろうということで。やっぱりこれも文句を言われたけれど。これ以上は譲歩しません。
『庇護』と『擬人化』の技能は、分かってしまえば自分の意志で簡単に発動、解除できるようになった。進歩である。
まあ、そんなこんなで、安いワンルームの部屋で二人暮らしと、落ち着いた。
このままこのリズの町に定住するか、私は迷っている。なんとなく、それでは駄目なような気がする。
その迷いをイーディスは正確に読み取っていた。だから傭兵を勧めてきたのだ。傭兵ならばどこでも仕事が得られる、と。
そこで疑問に思うのが、私に務まるか?なのだがーー
適性『苦労次第』。これがそれを可能にすると、イーディスは言う。
適性は魂に直結している。
例えばイーディスの『武術全般』に、水魔法の技能が付随したとする。実際は持っていないが、そこはまあ例えとして。するとその魔法の効果は、あくまで攻撃に特化したーー武術に属するものとなる。水魔法は他にも癒やしや浄化などの効果があるらしいのだけど、イーディスでは得られない。適性が畑違いだからだ。
つまり、同じ技能でも適性によって得られる効果が違うということ。適性はいわば、能力の方向性、その人の在り様を示すもの、すなわち魂の一部を表したものなのだ。
それ故に、適性は秘匿を良しとする。魔術的に一部とはいえ、魂を他人に晒すのは危険なのだそう。あれかな?真名を他人に知られてはいけないという話と同じかな。まあ、私にそんな概念はないけれど。
話が逸れた。とにかく、私の『苦労次第』という適性は、そんな技能の制限が一切ないのではないかとイーディスは言った。それはつまり…なんでもありということで…
確かに黒い神は、「サービスしとくね」と言っていたけれど。
だけどそれで傭兵に向いているとは、ならないと思う。むしろ性格的に、向いてないのではと思う。でもこのまま、イーディスの脛を齧り続けるのもなあ…
「彼を信じているなら、飛び込んでみるのもいいのではないかい?」
腕組みをして悩みだした私に、エイデンさんの言葉が響いた。
エイデンさんが素っ頓狂な声を上げた。
「はい。イーディスが勧めてくれたんです」
「いや、しかしな。君はそういった技能を持っているのか?私の目には、そうは映らないのだが」
「ええ。その通り、持ってません」
私は苦笑した。
「ならば何故…」
理解できないといった表情で、エイデンさんは腕を組み首を傾げる。その様子に安堵した。
良かった。どこも動きに支障はなさそう。
エイデンさんは六日前に起こった魔物の襲来の際、私を抱えて逃げようとしてくれた恩人その人である。こうして麻痺の後遺症もなく元気なご様子で、大変喜ばしい。そして眉根を寄せる姿が大変渋く、大変格好が良い。ロマンスグレーの、所謂イケオジさんだ。
イーディスよりエイデンさんに見惚れることの方が多い、実年齢が推し知れるなあと思う今日このごろ。私は治療院の手伝いで、僅かばかりの日銭を稼いでいた。ホルルカ島の魔物討伐補助のため出向いている職員が、戻ってくるまでという期限付きだが。
ここは治療院で、エイデンさんの病室。昼食後の薬を持って訪れていた。
フランチェスカは、元が薬師ということもあって器用だった。包帯巻きも、指示を受けながらの調剤も、お手のものとしたので非常に重宝がられている。
でも、技能には結びつかない。
切実に薬師の技能が欲しいと思う。だけど、身体が諸々の動作を覚えていても、知識がないのだ。無理というものだろう。まあ、こうして世話をして、エイデンさんに恩を少しでも返せるのなら良しとするか。実際はこうしてお悩み相談を持ちかけて、一層世話になっているだけだが。
「君もイーディス殿に助けられたと聞いている。彼はどんな考えで、傭兵などを勧めたのだろう?」
エイデンさんは、身を起こしベッドへ腰掛けた。それから私の差し出すコップの水を受け取って、疑問を投げかける。
「そうですね~。はい。最後のお薬です。明日には退院ですね」
にっこり微笑み、薬を手渡した。
ご尤もです。
蜂毒に倒れたエイデンさんを救ったのはイーディス。エイデンさんの助けようとした子供を助けたのもイーディスで、親元に送り届けたことになっている。幸いにもエイデンさんは幼児化した私の姿はよく見ていなかったらしく、そっくりな容姿の私が怪しまれることはなかった。
その私もイーディスに助けられた一人となっている。いや、全部本当のことなんだけどね。ただ、私とエイデンさんの助けようとした子供が、同一人物だということを伏せただけ。
だけどそのせいで、エイデンさんに助けられたお礼を口にできない。そこは心苦しい。かと言って、私のふざけた技能は、誰にでも話せるものではない。自分でも思うし、イーディスにも止められた。「悪用価値がありすぎる」って…傷つくわ。
イーディスは冷静だ。この世界の世間というものをよく知ってもいる。そのイーディスが言うのだ。
仕事なら傭兵にしろ、と。
「それで?彼はなんと言って、君に傭兵業を勧めたんだい?」
「えーっと…私の適性なら向いていると…」
「適性?君は彼に、自身の適性を教えたのかい?」
「え?あ、はい、まあ…」
「なんと?そうか、君たちはそんな仲だったのか」
「へ?えっ?いいえ?多分、ちが…」
「適性は己の魂の姿を示したものだ。余程信頼できる者ーーそれこそ家族や恋人くらいにしか教えるものではないだろう?」
「ええ?あーまあ、信頼はしてますかね?」
「ほう?」
微笑ましいものを見る目をして、エイデンさんは手にした薬を飲んだ。
…完全に誤解されている。
いや、あながち間違いとも言えない?なにせ出会って六日目。すでに私たちは一緒に住んでいる。…正確にはイーディスの借りた部屋に、私が転がり込んだだけだが。
いつまでもホワイト・ローズに世話になるわけにはいかない。ならばと三日前、イーディスが賃貸の部屋を借りてくれたのだ。『他力本願』の本領発揮である。白い神の狙い通り、私はなにもしなくても住む家を得ている。泣けてきた。
そして、スキあらば迫ってくるイーディスを剣に戻して一夜を明かしたら、散々に文句を言われた。自分が「剣に戻せばいいだけだ」と言ったくせに。仕方ないので、次の夜から私が幼児化した。これなら間違いも起こらないだろうということで。やっぱりこれも文句を言われたけれど。これ以上は譲歩しません。
『庇護』と『擬人化』の技能は、分かってしまえば自分の意志で簡単に発動、解除できるようになった。進歩である。
まあ、そんなこんなで、安いワンルームの部屋で二人暮らしと、落ち着いた。
このままこのリズの町に定住するか、私は迷っている。なんとなく、それでは駄目なような気がする。
その迷いをイーディスは正確に読み取っていた。だから傭兵を勧めてきたのだ。傭兵ならばどこでも仕事が得られる、と。
そこで疑問に思うのが、私に務まるか?なのだがーー
適性『苦労次第』。これがそれを可能にすると、イーディスは言う。
適性は魂に直結している。
例えばイーディスの『武術全般』に、水魔法の技能が付随したとする。実際は持っていないが、そこはまあ例えとして。するとその魔法の効果は、あくまで攻撃に特化したーー武術に属するものとなる。水魔法は他にも癒やしや浄化などの効果があるらしいのだけど、イーディスでは得られない。適性が畑違いだからだ。
つまり、同じ技能でも適性によって得られる効果が違うということ。適性はいわば、能力の方向性、その人の在り様を示すもの、すなわち魂の一部を表したものなのだ。
それ故に、適性は秘匿を良しとする。魔術的に一部とはいえ、魂を他人に晒すのは危険なのだそう。あれかな?真名を他人に知られてはいけないという話と同じかな。まあ、私にそんな概念はないけれど。
話が逸れた。とにかく、私の『苦労次第』という適性は、そんな技能の制限が一切ないのではないかとイーディスは言った。それはつまり…なんでもありということで…
確かに黒い神は、「サービスしとくね」と言っていたけれど。
だけどそれで傭兵に向いているとは、ならないと思う。むしろ性格的に、向いてないのではと思う。でもこのまま、イーディスの脛を齧り続けるのもなあ…
「彼を信じているなら、飛び込んでみるのもいいのではないかい?」
腕組みをして悩みだした私に、エイデンさんの言葉が響いた。
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