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いっそう目立っている。やたら綺麗な男が、妙に可愛い幼児を抱えて歩いているがため。…自分で言って恥ずかしいと思わないでもないが、そうなのだから仕方ない。
「どこへ、むかってるんですか?」
魔結晶の店を出たイーディスは、迷いなく歩を進めている。目的地が決まっているかのように。
「神殿だ」
前を向いたまま答える聖剣サマのご機嫌は上々だ。狙った通りの成果が得られたからだろう。ホント、俗物。
だけど、神殿って?
「しんでんにいくのは、じかんのムダといってませんでした?」
「クソババアに、ケチつけようってんならな。目的は別にある。いい機会だ。連れて行ってやるよ、主サマ」
ニヤリとして、こちらを見るイーディス。
…近い。
軽々と抱っこしてくれているので、いつもと違い目線が近くある。つまり。美人の顔がすぐ隣。間近で見てもお綺麗ですね。ハイ。
「…」
「…なんだ?」
「なんでも?」
「なにか言いたそうだが?」
「いいえ?きれいなのにざんねんなんて、いいません」
「…言ってるな」
そんな、よくする類のやり取りをしているうちに、目的地に着いた。
尖塔の鐘が鳴り響き、左右に振れている。小さな教会。神殿はそんな佇まいだった。リズの町でもそうだったので、どこでもこんな造りなのかもしれない。華美でないところが好印象である。
「三時か」
「けっこう、じかんがたってます」
「だな。…戻るのは明日にするか」
帰りは歩きの予定だった。さすがに夜の森は避けたいところだ。鐘の音三回は、予定より時間が押していることを示している。まあ、なんだかんだと、店主に引き止められたからなあ。
イーディスは私を抱えたまま、開け放たれていた神殿の扉をくぐった。
…あまり似てない。
正面の祭壇に鎮座する、女神像を見てそう思った。。白い神ーールルルエラーラの姿、とは言い難い。なんというか、平凡。彼女はもっと清廉な美しさがあった。中身はともかく。
「にてないです」
祭壇の間には、数名の人がいた。祈りに来たのだろう。その人たちを追い越して、イーディスは足早に奥へと進んでゆく。
「どうでもいい」
感想を述べたが、にべもない。興味ゼロだな。ところで、どこ向かってるの?突っ切る勢いだけど?と思っていたら、本当に奥の扉を開けて出て行ってしまった。そして細い廊下を進み、その先の扉を開ける。そこにあったのはーー
真っ白い大きなーー木?
「神樹だ」
「え?これが…」
目を見開く私に、イーディスが不快そうに言った。
なるほど。コチラだったか。像の方があの神の性格の割に控えめだと思ったら、こっちでしっかり自己主張している。
白い神樹は、まさに白い神の姿を思わせた。神々しいその姿は、よく見ると椎の木っぽい。白いどんぐりとか、落ちてそう。
「リズでは今、神樹の間が閉鎖されてる。だから、ここで見せてやろうと思った」
とても不本意という顔。どうりで神樹の話をした時、イーディスが険しい顔をするわけだ。白い神は天敵だもんな。それでも私に見せるため、連れてきてくれたのだからありがたい。
「へいさ?なんで?」
神樹は神殿に在る、とは聞いていた。それ故、神殿は町の中央に位置するとも。だけど、こうして公開しているとは思っていなかった。
イーディスは「今は閉鎖」と言った。つまり、一般公開している方が普通なのだ。
「リズの神樹は代替わりの時期だ」
「だいがわり?」
「神樹が特殊な素材になる話はしたな?」
「あい。さいてきかは、べんりです」
「そうだ。葉も実も枝も、全て必要に応じて利用される。そのため原生スパンが長くない。せいぜい五十年かそこらで生え変わる」
「りずがいま、そのじき?」
「そうだ。神樹の新芽は弱く、安定するまでは公開しない。リズでは見せてやれなかった」
「まものよけのこうかは、どうなってるんですか?このまえ、まものがでたのってーー」
「それは問題ない。小さな芽でも効果はあるとされている。その芽がある程度育つまでは、古い方も枯れないため、魔素の循環も変わらず行われる…はずなんだがな」
私の質問に、被せるように答えるイーディスが眉を顰める。町に魔物が出た件に関して、腑に落ちないことがあるようだ。最初からそうだった。なにやら不穏なものを感じる。
「少し、お邪魔してよろしいでしょうか?」
会話が途切れたところで、第三者の声が響いた。途中からやって来て、そこに立ったのは気付いていたので驚かないけど。
「…」
イーディスが無言で、声の聞こえた背後へ向きを変える。当然、抱えられた私も同じ方を向いた。
「こんにちは」
穏やかに微笑む、白い法衣を纏った老人だった。この場にいて当然の神官様だ。
「こんにちわ」
イーディスが黙っているので、私が挨拶を返す。聖剣サマは、いつも大体が愛想が悪い。さっきのように、お金が絡む場合を除いて。
「いかがですか?ベルクラの神樹は?」
「しろくて、とてもきれいです」
癪に障るが素直な感想を口にした。神官に喧嘩を売っても、どうしようもない。
「お嬢さんのような可愛らしいお方に、そう言っていただけるとは。ルルルエラーラ様も、さぞお喜びでしょう」
…それはどうだろう?
ニコニコする神官に、イーディスの不機嫌が増すのが伝わってくる。ちょっと、私を抱えて威圧しないで。
「神樹なんざ、どこも同じだろ」
くだらないというようにイーディスがぼやくのを、神官様は笑顔で受け流した。
「ええ。本当に。ルルルエラーラ様は、等しく皆に恵みを与えてくださいます」
そうきたか~。頼むから、逆撫でしないでほしいのですが。
「あの、えっと…」
なんとか取り繕いたいのだけれど、言葉が出てこない。私も白い神に感謝などしたくない。けれど神官様の手前、貶めす言葉も口にはできない。
しどろもどろする私に、神官様が言った。
「どうぞ、ゆっくり見ていってください。お嬢さん、折角の機会です。いろんなことをお父上に聞くといい」
ん?はい?
今、なんと言った?思考と共に目線を上げる。鐘が見えた。
ああ。尖塔部分が、神樹の間になっていたのか。中央が吹き抜けになっているから、よく分かる。
えーっと?なんだっけ?
オチチウエ?おちちうえ…お父上~~~っ!?
って、誰だよ?
「どこへ、むかってるんですか?」
魔結晶の店を出たイーディスは、迷いなく歩を進めている。目的地が決まっているかのように。
「神殿だ」
前を向いたまま答える聖剣サマのご機嫌は上々だ。狙った通りの成果が得られたからだろう。ホント、俗物。
だけど、神殿って?
「しんでんにいくのは、じかんのムダといってませんでした?」
「クソババアに、ケチつけようってんならな。目的は別にある。いい機会だ。連れて行ってやるよ、主サマ」
ニヤリとして、こちらを見るイーディス。
…近い。
軽々と抱っこしてくれているので、いつもと違い目線が近くある。つまり。美人の顔がすぐ隣。間近で見てもお綺麗ですね。ハイ。
「…」
「…なんだ?」
「なんでも?」
「なにか言いたそうだが?」
「いいえ?きれいなのにざんねんなんて、いいません」
「…言ってるな」
そんな、よくする類のやり取りをしているうちに、目的地に着いた。
尖塔の鐘が鳴り響き、左右に振れている。小さな教会。神殿はそんな佇まいだった。リズの町でもそうだったので、どこでもこんな造りなのかもしれない。華美でないところが好印象である。
「三時か」
「けっこう、じかんがたってます」
「だな。…戻るのは明日にするか」
帰りは歩きの予定だった。さすがに夜の森は避けたいところだ。鐘の音三回は、予定より時間が押していることを示している。まあ、なんだかんだと、店主に引き止められたからなあ。
イーディスは私を抱えたまま、開け放たれていた神殿の扉をくぐった。
…あまり似てない。
正面の祭壇に鎮座する、女神像を見てそう思った。。白い神ーールルルエラーラの姿、とは言い難い。なんというか、平凡。彼女はもっと清廉な美しさがあった。中身はともかく。
「にてないです」
祭壇の間には、数名の人がいた。祈りに来たのだろう。その人たちを追い越して、イーディスは足早に奥へと進んでゆく。
「どうでもいい」
感想を述べたが、にべもない。興味ゼロだな。ところで、どこ向かってるの?突っ切る勢いだけど?と思っていたら、本当に奥の扉を開けて出て行ってしまった。そして細い廊下を進み、その先の扉を開ける。そこにあったのはーー
真っ白い大きなーー木?
「神樹だ」
「え?これが…」
目を見開く私に、イーディスが不快そうに言った。
なるほど。コチラだったか。像の方があの神の性格の割に控えめだと思ったら、こっちでしっかり自己主張している。
白い神樹は、まさに白い神の姿を思わせた。神々しいその姿は、よく見ると椎の木っぽい。白いどんぐりとか、落ちてそう。
「リズでは今、神樹の間が閉鎖されてる。だから、ここで見せてやろうと思った」
とても不本意という顔。どうりで神樹の話をした時、イーディスが険しい顔をするわけだ。白い神は天敵だもんな。それでも私に見せるため、連れてきてくれたのだからありがたい。
「へいさ?なんで?」
神樹は神殿に在る、とは聞いていた。それ故、神殿は町の中央に位置するとも。だけど、こうして公開しているとは思っていなかった。
イーディスは「今は閉鎖」と言った。つまり、一般公開している方が普通なのだ。
「リズの神樹は代替わりの時期だ」
「だいがわり?」
「神樹が特殊な素材になる話はしたな?」
「あい。さいてきかは、べんりです」
「そうだ。葉も実も枝も、全て必要に応じて利用される。そのため原生スパンが長くない。せいぜい五十年かそこらで生え変わる」
「りずがいま、そのじき?」
「そうだ。神樹の新芽は弱く、安定するまでは公開しない。リズでは見せてやれなかった」
「まものよけのこうかは、どうなってるんですか?このまえ、まものがでたのってーー」
「それは問題ない。小さな芽でも効果はあるとされている。その芽がある程度育つまでは、古い方も枯れないため、魔素の循環も変わらず行われる…はずなんだがな」
私の質問に、被せるように答えるイーディスが眉を顰める。町に魔物が出た件に関して、腑に落ちないことがあるようだ。最初からそうだった。なにやら不穏なものを感じる。
「少し、お邪魔してよろしいでしょうか?」
会話が途切れたところで、第三者の声が響いた。途中からやって来て、そこに立ったのは気付いていたので驚かないけど。
「…」
イーディスが無言で、声の聞こえた背後へ向きを変える。当然、抱えられた私も同じ方を向いた。
「こんにちは」
穏やかに微笑む、白い法衣を纏った老人だった。この場にいて当然の神官様だ。
「こんにちわ」
イーディスが黙っているので、私が挨拶を返す。聖剣サマは、いつも大体が愛想が悪い。さっきのように、お金が絡む場合を除いて。
「いかがですか?ベルクラの神樹は?」
「しろくて、とてもきれいです」
癪に障るが素直な感想を口にした。神官に喧嘩を売っても、どうしようもない。
「お嬢さんのような可愛らしいお方に、そう言っていただけるとは。ルルルエラーラ様も、さぞお喜びでしょう」
…それはどうだろう?
ニコニコする神官に、イーディスの不機嫌が増すのが伝わってくる。ちょっと、私を抱えて威圧しないで。
「神樹なんざ、どこも同じだろ」
くだらないというようにイーディスがぼやくのを、神官様は笑顔で受け流した。
「ええ。本当に。ルルルエラーラ様は、等しく皆に恵みを与えてくださいます」
そうきたか~。頼むから、逆撫でしないでほしいのですが。
「あの、えっと…」
なんとか取り繕いたいのだけれど、言葉が出てこない。私も白い神に感謝などしたくない。けれど神官様の手前、貶めす言葉も口にはできない。
しどろもどろする私に、神官様が言った。
「どうぞ、ゆっくり見ていってください。お嬢さん、折角の機会です。いろんなことをお父上に聞くといい」
ん?はい?
今、なんと言った?思考と共に目線を上げる。鐘が見えた。
ああ。尖塔部分が、神樹の間になっていたのか。中央が吹き抜けになっているから、よく分かる。
えーっと?なんだっけ?
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